第27話 エリス

 やっぱ何かの勧誘なのか。しかし、この世界に来たのは確かだし、取り敢えず話は聞いてみないと分からない。

「それでは、私の家でよろしいでしょうか?」

「えっ、もう家をお持ちなんですか。随分、こちらの生活に馴染んでいますね」

 こんなところで、誰かに聞かれたらまずい。とりあえず家に来て貰うことにした。

 でも、ミュの家なんだけどね。


 家に着き、テーブルを挟み向かい合う。

「それで、どういう事なんでしょうか?」

「実はあの時、女神試験の最終試験だったんです。

 地上で落ち込んでいる人を見つけて、元気を出して貰うというのが、試験課題だったんです。

 でも、なかなか落ち込んでいる人がいなくて、そうこうしてうちに夕方になってきて、試験時間がなくなってきたのです」

 なんともひどい話だ。その結果がこれか。

「それで焦っていた私は、えっと、お名前まだ伺っていませんでしたよね?」

「木林森彩です。こちらでは、シンヤ・キバヤシと名乗っています。それで女神さまの名前は?」

「あっ、そうでした。私も名乗ってませんでしたよね。すいません。

 私はエリス・ルージュといいます」


「それで試験時間が、なくなってきたエリスさまはどうしたのですか?」

「夕暮れ間近に、公園のベンチで佇むシンヤさんを見つけたのです。

 一目見て落ち込みまくりのオーラ全開でしたので、これは間違いないと思い、元気づけようと思いました」

 ううっ、たしかに落ち込んでいましたとも。

 この女神め、一言多い。

「でも、あの場所で元気づけようとしても時間がないと判断したので、もしかしたら、別世界に転生したら元気になるんじゃないかって。それで、思いつくままに『転生しませんか?』ってお話しを出してみました。

 そしたら以外とノリノリで、転生してくれました」

 いや、待て、その話だいぶ違うぞ。

「で、指導教官のところに報告に行ったら、『なんで、勝手に転生させるんですか!!』ってすごい怒られて。

『責任を取って転生者をサポートして来なさい』ということになって、私もこちらの世界に送られてきたんです」

 なんだそれ、もう訳わからん。俺の人生いったい何?

「でも転生先とか分からなったし、どこをどうやって探せばいいかと思案していました。とりあえず、教会に居れば、食事もタダだし寝るところもあるし、どうにかなるかなと」

 おい、俺を先に探せよ。

「でも、正解でした。神は私を見捨てなかった」

 俺は女神に見捨てられたよ。


 もう、言葉が出ない。俺の人生いったい何?

 呆れていると、肯定と思ったのか

「それでは、明日から私がサポートしますね。今日はこれで帰ります」

 と言って、立ち上がったところだった。


「ただいま、ご主人さま、今日はお客さまも少なかったので早めにあがってきました」

 ミュの声だ。

 この状況は浮気している感じではないが、誤解が生じそうだ。

 扉が開いて、ミュが入ってきた。


 エリスが、そちらに首を振る。

 その瞬間、二人の間に殺気が飛び交った。

「シンヤさん、この女、サキュバスです。悪魔です」

「ご主人さま、その人は女神ですか?何故ここに居るんです」

「悪魔、私が退治くれる。そこに直りなさい」

「ひっ、ご主人さま」

 俺は慌てて、ミュの前に出た。

「女神エリスさま、この女は悪魔ではありません」

「嘘です、私には分かります、さあ、そこをお退きなさい」

「いえ、この女性は私の妻です。妻を見殺しにする訳にはいきません」

「何を言っているのです。悪魔を妻に持った人族なんて、聞いたことがありません。

 あなたは騙されているのです。いつかは生を吸い取られて死んでしまいます。

 あなたをサポートするべき私が、あなたを見殺しにすることは、私の責任においてもできません。第一、転生させた責任があるのです」

「私は今、このミュと幸せに暮らしています。女神さまのサポートは必要ありません。天界にお帰りください」

「天界に帰るにしてもまずは悪魔を倒してからです」

 ミュは私の後ろで小さく震えている。


 エリスの差し出した右手に白い光が集まっているのが分かる。

 俺はミュに、

「ミュ、これから起きることは、ミュにとって辛い事かもしれないが、対応としてはこれしかない。がまんしてくれないか」

 と小声で言った。

 ミュは、

「分かりました。ご主人さまを信じます」とだけ答えた。


 俺はエリスの掲げる右手に、近づいていった。

「そこを退きなさい。さもなくばあなたまで、退治されます」

「ミュを退治するなら、俺も退治してくれ」

「何を言ってるのです。あなたは人間です」

 どんどん近づいていき、エリスを壁に押し付けた。

 壁ドンの状態である。


 そこで、エリスの目を見て、エリスに貰った力を行使した。

「俺の事を好きになれ。俺の事を好きになれ。俺の事を好きになれ」

 エリスの目がトロンとしてきた。

 女神相手にも効いているのか。更に念ずる。

「俺の事を好きになれ。俺の事を好きになれ。俺の事を好きになれ」

 そのまま、エリスを抱きしめ、いきなりキスをした。

 エリスはその時点で軽く気を失ったようで、力が入らないみたいだ。

 そのままお姫様抱っこで、ベッドに運ぶ。

 そして意識が朦朧としてうちに、エリスを抱いた。

 俺に抱かれたエリスは、背中から白鳥のような羽毛の翼を出し、放心状態になった。

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