第26話 警備員

 セルゲイさんがドアをノックして現れたが、なるほどいかつい顔をしている。

「お呼びにより参じました、ガハハ」

 何がおかしいのか、いきなり笑い出した。

 いかつい顔だが、笑うと憎めない。

 ミュもちょっとびっくりしたようだ。


「セルゲイ君、今度この店のオーナーをやって貰うシンヤさんだ」

「おお、新オーナーですかい。よろしくお願いします。でこちらの別嬪さんは?ガハハ」

「私の家内です」

「おおっ、別嬪の嫁さんで男冥利につきますなー、ガハハ」

「ありがとうございます、ところでセルゲイさんの警備の内容を教えて頂きたいんですが?」

 セルゲイさんの言うには、昼間は店の前に二人で立哨し、夜間は一人で交代で店に泊まり込むのだそうだ。

 さすがに夜間警備の後は休みなしと言う訳にはいかないので、夜勤の後はその日は休みになるが、翌日は立哨の仕事とかになるとのことだった。

 その他の警備員は店の奥に待機して、なにかあれば臨機応変に対応するとのことだった。


 用心棒的な役割のようだ。

 俺は大店になると盗難はもちろん、他の店からの嫌がらせもあるだろうと考え警備の強化は必要だと考えていた。

 そのために、セルゲイさんを警備部長としたい旨を伝える。

 ちなみに店長も部長待遇だ。

 警備担当として数人雇用したい旨をセルゲイさんに言うと、

「今の状態での警備なら十分ですが、いろいろと手を広げるのであれば、2,3人の増強は必要です。ガハハ」

 ということだった。

 増強する警備員の補充はセルゲイさんに一任することになったが、休日制度を採用するため、増員は5,6人とした。


 セルゲイさんの経歴を聞いてみるとその経歴はすごい。

 最初は冒険者としてギルドに登録し、魔物の森で狩りをはじめたそうで、そこで力をつけて、軍隊に入り、他国との紛争とかで活躍したとのことだった。

 ただ、騎士には貴族でなければなれないことから、騎士一歩手前の騎士補という階級まで登りつめたが、貴族出身の騎士連中との折り合いが悪く、結局軍隊生活に嫌気が差し、軍隊を辞めたとのことだった。


 騎士補というのは一般平民が到達できる最高位ではあるが、貴族と一般平民との中間管理職みたいなものなので、どちらからも突き上げられ、心労はかなりのものらしい。

 軍隊を辞め、しばらくぶらぶらして、また冒険者にでもなろうかとしていたところをアールさんに声を掛けられて警備を担当しているとのことだ。

 なお、ギルドは冒険者のままだったので、商人ギルドにも登録するようお願いした。

「俺が商人ギルドですかい?字も満足に読めねぇすよ、ガハハ」

「当然そこについては勉強して貰います、これからは腕っぷしだけでなく、販売も担って貰う予定です。もちろん他の警備員も同様です」

「俺みたいなのが販売ねぇ、新しいご主人さまは人使いが荒いや、おー怖い、怖い、ところで、何と呼べばいいんですか?会長でいいんですかね、それともご主人さまとか、ガハハ」

 ふざけた感じで冗談を言ってきた。

 しかしミュが真剣に返した。

「ご主人さまと呼んでいいのは私だけです。なので、会長と呼んでください」

 セルゲイさんがキョトンとした顔をしていたが、

「そうですかい、なるほどね、シンヤさんがこの別嬪さんのご主人さまなんですかい、うん、今日はいつにもまして暑い訳だ」

「セルゲイ君、若い人をそうからかうもんでないだろう」

「いやいや、すいません、つい調子に乗ってしまって、悪気はなかったんですよ、これからもよろしくお願いします。会長」

 今度は笑っていない。真剣だということなのだろう。

 ちなみにこちらの世界ではシェイクハンドの習慣はない。


「ご主人さま、今日は占い館を開ける日ですので、早めにお暇しなければ……」

 アールさんとの詳細な詰めがまだ残っている。

「うん、まだアールさんとの打ち合わせが残っていて、かなりかかりそうだが……」

「どうしましょうか?」

「それではミュは占い館に行ってくれるか。お客を待たすことは良くない。私は一人で帰れるから」

 ミュは悩んでいたが、

「分かりました。では私は占い館の方へ行きます。ご主人さまお気をつけて」

 ミュは部屋を出て行った。

 ミュが出て行って詳細の打合せをしていたが、思ったよりは早く終わって日はまだ完全には沈み切っていない。夕焼けの状態だ。

 お暇しようとすると、

「では馬車で送らせましょう」と言うアールさんを「健康のため、歩いて帰ります」と断って店を出た。


 店を出て噴水広場を通り掛かると教会が貧民相手に炊き出しを行っているのが目に入った。

 その炊き出しの横を何と言う事もなく通り過ぎようとしたところ、一人の美人のシスターが目についた。

 長いプラチナブロンドの髪が美しい。

 どこかで会った事がある。どこだろう。

 向うもこちらに気付いたのか、同じような思いで見ていて、首を傾げていた。

「「あっ、あの時の!!」」

 二人同時に思い出した。

 そうだ、女神さまだ。

 俺をこちらの世界に送り込んだ女神さまだ。


 女神さまは同僚のシスターに話をしてから、こちらに駆けてきた。

「あ、あの、あなたは、日本から転生してきた、えっと、あのー、男の方ですよね」

 って、名前知らないのかい。俺も知らないから同類だけど。

「そ、そう、たしかあなたは女神さまですよね」

「ああ、良かった。私探していたんです。あの時はちょっと急いでいたので、急遽こっちの世界に転生させたんですけど、何も説明なくて、後で指導教官に凄い怒られて。でも良かった、見つかって」

 ホッとしたように説明してくる。

 しかし俺は、意味が全然分からない。

「え、えっ、どういうことですか?」

「えっと、話が長くなるので、どこか二人で静かに、お話しできるところで説明しましょう」

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