第19話 新装開店
翌日、集まった全員をミュの店へ連れて行った。
ここは扉を閉めると外から中が見えないので、都合がいい。
全員に売り物のドレスを渡し、待合室の個室で着替えて貰う。
着替え終わって、皆が出てきた。とても綺麗だ。
全員で自分以外の人を見て驚いている。
集合して、立ち姿から指導していく。次は挨拶だ。
「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」
大声での発生練習を行う。最初はなかなか、声が出ていなかったが、最後は皆声が出るようになった。
「少々、お待ちください」「こちらのサイズでよろしいでしょうか」
様々なシーンを想定した客対応を行う。
そうこうしているうちに1か月が過ぎ、明日はとうとうオープンという日、全員が店舗に集まって装飾をしていた。
「はい、ご苦労さんです。明日はとうとうオープンです、今までやってきたことを思い出し、お客様第一でしっかりやりましょう」
「「「はい!!」」」
昼過ぎに店を開けた。売っているのがイヴニングドレス風の服なので、午後から夜までが開店時間とした。
食品関係でなければ大体午後開店が普通だから、違和感はない。
店の扉を全て開けて新装開店だ。
珍し気に遠くから店の中を覗いている人はいるが、誰も入ってこない。
だんだん失敗かと不安になる。
男性はドレスを着た店員をチラッチラッと横見しながら店の前を行ったり来たりしている人もいるが、さすがに婦人服なので、男性は入りにくいだろう。
そうこうしているうちに、店の前に1台の馬車が止まった。
家紋も入っていないし普通の乗車型馬車だったので、恐らく大商人クラスの持ち物のようだ。
中から若い女性が出てきた。
いかにもお嬢様と言った感じで、店の中に入ってくる。
「いらっしゃいませ」
練習どおりに声が出る。
侍女だろうか、聞いてきた。
「こちらの商品は、おいくらでしょうか」
「こちらの既製品は、銀貨4枚でございます」
侍女とお嬢様は、顔を見合わせている。
それはそうだ、普通の服と大して変わらない。
「既製品以外ってあるのかしら」
「デザインは同じものになりますが、生地を絹にしたり、採寸してオーダーメイドで製作することも可能です。この場合仕立てに1週間ほどいただきます。お値段はちょっと高くなり銀貨20枚になります」
侍女とお嬢様がこそこそと話しあっていたが、侍女が答えた。
「それでは、生地を絹にしてオーダーメードでお願いします」
「では、こちらのお部屋へ、採寸をいたします」
採寸のためシムカさんも来てくれていて、個室の方へ案内する。
採寸が終わったお嬢様が個室から出てきた。
侍女とお嬢さまを近くのテーブルに案内し、紅茶を出す。このあたり、他の店やっていないサービスだ。
侍女とお嬢様も、まさか紅茶が出ると思っていなかったのか、ちょっとびっくりしている。
紅茶を飲みながら、出来上がりまでの説明をしていく。
ちょうど紅茶を飲み終わったところで、説明が終わったので、侍女とお嬢様は代金の銀貨20枚を支払い、店を後にした。
とりあえず。第一号の客は無難にこなした。
売り子の皆もほっとした顔をしている。
しかし、この後想定外の事が起こった。
店の前に馬車が連なったのだ。
大商人の馬車、貴族の馬車まである。
もっとも、貴族の馬車は令嬢が直々にくるのではなく、執事と思われる人が、直接家に来るようにとの連絡であったが。
貴族は店に来たりしない。
欲しいものがあれば商人を呼ぶのだが、まさか初日にしてそのような事になるとは思っていなかった。
きっと、占いに来ている女性の中に貴族もいたのだろう。
おかげで店の前は大渋滞である。
俺は止まった馬車を誘導して混雑を解消していた。
ガードマンのバイトをやった経験がまさかこの時代で役立つとは。
初日は50着のドレスを用意していたが、完売であった。
仕立ても20着ほど入っている。しかも仕立ては全て絹生地だ。
シムカさんも今日は作業場の方に居ずに店を覗きにきていたが、シムカさんまで売り子になって貰うほどだった。
こうなると作業場が、今のままでは生産が追い付かない。
シムカさんに相談すると近所のお針子さん総出で取り掛かって貰えるようお願いするとのことだった。
店の開店に合わせたように、アイラちゃんの新デザインによる5種類のドレスが出来上がった。
貴族の家には今までの黒いドレスと新作の5種類を持って行ってみよう。
2,3着売れるかもしれない。
それと色は白も取り入れることにした。
貴族とか大店のお嬢様なら汚れることはしないから、白でもいけるんじゃないだろうか。
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