第18話 従業員
店舗が大体出来上がった。
後は細かいところを直していくことになる。
正面の扉は全て開くようにして、中に入り易くした。
そして通りから、店の中が良く見える。
店員には店で売ってるドレスを着て販売することとしている。
いわゆるマヌカンというやつだ。
そのためにも、プロポーションの良い女性の方が都合がいい。
店員を募集したところ、かなりの応募があったが、最終的に6人が残った。
採用予定は5人だったので、一人落とさなければならない。
誰にするか悩んでいたら、
「6人、全員雇いましょう」
と、ミュが言ってきた。
「いや、店の規模からして5人でも多いくらいだ、6人だと給料のことも考えると、さすがに多すぎる」
「一人店長として雇って下さい」
「店長はミュにやって貰う予定だったけど」
俺はお針子さんと店の調整や運搬などをやるつもりだったので、店長はミュにお願いする予定だった。
「もし、将来お店を拡張するとなると、全体を指揮できる人は必要になります。今から経験を積ませることは、大事だと思います」
将来、大きくなればいいが。
「それに私は、ご主人さまのお側を離れたくありません」
どっちかというと、そっちの方が理由なんじゃないのか?ミュさんよ。実に嬉しい事を言ってくれる。
それを聞いて、全ての履歴書にもう一度目を通してみる。
ほとんどが21歳から25歳だが、一人だけ30歳という女性がいた。
経歴を見てみると、ここエルバンテでは有名な大きな店で販売、仕入れ、経理を担当してきたらしい。
名前はシュバンカさん、独身一人暮らしとのことだった。
面接の日になった。店の奥の事務所で面接を行う。
まずはシュバンカさんからだ。
シュバンカさんはショートボブの眼鏡美人でプロポーションもいい、その時点で売り子さん合格だが、その他にも受け答えや動き、全て完璧だった。
店長としてやれるかと聞いたところ、「経験はないがやってみたい」との前向きな言葉だったので店長としてやって貰うことになった。
次は25歳の女の子で、名前はカルフさん。
お母さんと二人暮らしで、家は俺たちの家の近くだった。
お母さんはやはり、お針子さんらしい。
次は23歳の子で、名前はテーゲルさん。
こちらは家族と同居ということで、5人暮らしだそうだ。
下に妹と弟がいるらしい。
次は一番若く21歳の子で、名前はベルクさん。
ベルクさんは近くの村から大きな店に丁稚奉公に来ていたが、この度その店を辞めて他の勤め先を探しているところだったらしい。
今は一人暮らしだが、近々妹が商人となるため、この町に来るらしく、そうしたら二人暮らしになると言っていた。
次は22歳の子で、名前はミッヒさん。
この子は他の店で働いているが、近々辞めるそうだ。
なんでもお局女子店員が居て、嫌がらせをしてくるらしい。
こういう時、男子店員はなかなか手を出せないので、年下の方が耐えるしかない。
我慢していたが、結局辞めることにしたそうだ。
最後はテーゲルさんと同じ23歳の子で、名前をノイッシュさんと言った。
ここ2,3年の間にご両親が亡くなり、今は妹さんと二人暮らしとのことだった。
妹さんは商人ギルドの教育課程を修了し、今は大きな店舗の店員の住み込みをするらしく、ノイッシュさん自身は、もう直ぐ一人暮らしになるという事だ。
全員を事務所に集め説明をする。
「まず、採用についてですが、全員合格です」
全員、「えっ」とした顔をしている。
それはそうだろう、この店舗では店員の数が多すぎる。
それには構わず、まずは説明を続けていく。
「給料は週に銀貨2枚、月だと銀貨10枚になります」
基本、給料は週払いだ。
「月の販売目標数にもよりますが、目標を達成するとボーナスとして更に最高銀貨2枚が出ます。ですから、月では最高銀貨12枚なります。
休暇についてもお話しします。1週間に1日、休暇が採れます。一度に休むという訳にはいかないので、5人で都合の良い日を決めて下さい。店長については、別途私と決めさせて貰います。
あとそれとは別に1年の間に10日、好きな時に休暇を採ることができます。ただし、この場合は、事前に連絡をして他の従業員とブッキングしないように調整して下さい」
ここまで一気に話し、更に続けて言う。
「ただし、いきなりの事故や病気、ご家族の方に不幸があったなどの時は誰かに言伝をして下さい、よろしいでしょうか、何か質問はありますか?ああ、シュバンカさんには後で詳細を説明するので、質問はその時に」
皆、ポカーンとしていたが、カルフさんがおずおず聞いてきた。
「給料は分かりましたが、そのボーナスというのは?」
給料は普通の店舗の平均だ、高くもないし、安くもない。
しかし、ボーナスというのが出るという。
「現在、月の売り上げ目標を40着としています。これを45着売り上げた場合、皆さんに銅貨5枚を支払います。つまり、5着余分に売った分、皆さんに還元する訳です。以下5着ごとに銅貨5枚支払いますので、56着以上売ると銀貨2枚余分に支払います。これがボーナスです。
ただし、56着以上売っても銀貨は2枚より増えることはありません」
みんなの顔が「おおっ!」という顔をしている。
「反対に40着以下が2か月連続となった場合、給料の減額もあります。減額も同様に5着ごとに銅貨5枚です」
顔が緊張している者、にやけている者様々だ。
ポジティブな性格とネガティブな性格の違いかもしれない。
「あ、あのー、休暇というのは」
「1週間は6日ですが、このうち1日を休みにすることができます。当然休んでも、給料の減額はありません」
この瞬間「ええっ」と言う驚きの声が上がる。
この世界、休日という概念がない。
「もちろん、お店は毎日やっているので、交代で休んで貰うことになります。ですから、後で誰がいつ休むというのを決めておいて下さい。そこは店長が指揮をお願いします」
「あと、自由に休んでいいとありましたが」
「はい、今述べた1週間に1日の休暇とは別に、年に10日、自由に休んでもいい休暇を設けます。これは遊びに行ってもいいし、ベルクさんなどは村に帰ってもいいです。自由に過ごして下さい」
皆、休暇の概念が分からないようだ。隣とひそひそ話し合っている。
「良ければ、雇用契約を結びますので、こちらの用紙にサインをお願いします」
この世界、紙は無いが、羊皮紙は普通にある。
ただし、羊皮紙は高い、おいそれと買えるものではないので、皆緊張してサインをする。
「では、早速、明日から出勤して下さい」
「でも、お店はまだ開店していないですよね」
「はい、開店に向けた接客指導を行います、もちろんその期間の賃金はお支払いします。これで、店の規模に比べて、店員さんの数が多いことも理解して頂けたと思います。
さて、当店は服屋ではありますが、品数はどんどん増やす予定です。みなさん、どんどん売って、どんどん稼ぎましょう。それと店長候補のシュバンカさんは雇用内容を詰めるので、残ってください」
「あ、あのー、最後に一つ質問いいですか?」
「はい、何でしょう?」
「後ろの方はどなたでしょうか?」
全員の視線がミュに集まる。
「ああ、俺の家内です」
「ええっー、社長はおいくつなんですか?」
「俺は21歳です、妻のミュは17歳です」
「「「「ええっー」」」」
うん、見事にハモったね。
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