第14話 夕食の支度

 昼食を二人で採ったあと、冒険者ギルドでクエストを見て、市場に夕食の食材を買いに行くことになった。

 ミュは、ご主人さまに料理をさせるのは、申し訳ないというような事を言っていたが、ミュに任せてもパンとチーズとスープしか出てこないので、ミュに料理を教えるということで、俺が調理をすることになった。

 夕食の献立は市場に行って、食材を見てから決めることにした。


 冒険者ギルドに来ると、掲示板の一番上に色が変色したクスエトがある。

 クエストは、陸亀ホエールというものらしい。

 なんだ鯨か、ミュに聞いてみる。

「ミュ、あの陸亀ホエールって?」

「性格もおとなしく動きも遅いのですが、何分大きくて、討伐してもカイモノブクロに入らないのです。

 しかも、細切れにすると価値が下がるので、どうしてもそのまま持ってくる必要があります。

 ですが、へたなお城ぐらいあるので、とてもそのまま持って来れません。ですから、クエスト未達成のままとなっています」

 へー、小さなお城ぐらいあるのか、それは討伐してもどうにもならないなー。

「そうか、それで他にいいクエストはあるか?」

「うーん今回、猪牛のクエストはないみたいです。あるのは薬草採取とかシーハの葉採取ですね」

 俺的には、シーハの葉採取でいいけど。

 でも、持って帰れないかもしれない。


「それじゃ、市場の方に行ってみるか」

「そうですね。市場はここから坂を下ったところになります」

 ギルド前の緩い坂を下って、行きついたところを左に曲がった所に、屋台の上にいろいろな野菜やフルーツ、肉類、魚介類を載せた店が現れた。

 すごい数だ。なんでも揃っている。

 とりあえず、何を売っているか見て回る。

 おお、お米も売ってる。

 そういえば、ここらでは田んぼがあったんだった。

 野菜類も現代日本と変わらない。

 玉ねぎ、じゃがいも、人参、キャベツいろいろある。

 きのこだってある。まさかとは思うが、毒きのこじゃないよね。

 フルーツもさまざまだ。今は、春なので、種類も多くないということだが、それでもみかんにりんごに苺まである。


 乳製品もチーズがあったのだからあるだろうとは思っていたがやはり、バターも牛乳もあった。でも、ヨーグルトはなかった。発酵ができないのだろう。

 驚くのは調味料だ。

 塩、胡椒、唐辛子、ソースはもちろん醤油があった。どうゆうこと?しょうゆこと。

 ああ、思わず自分を引っ叩きたい。


 醤油とご飯と卵を買って、明日の朝は卵かけごはんは決定。

 で、今日の夕食の献立を決めねば。

 やっぱ、ご飯を食べたいよね。どうせ米は買うし。

 肉と卵と小麦粉を買って家にあったパンを大根おろしのようなもので降ろしてパン粉にすれば、とんかつができるんじゃなかろうか。

 よし、そうしよう。とんかつの材料とお米を買って帰ることになった。

 市場でカイモノブクロを出すと、カイモノブクロを盗まれる可能性があるので、ここは普通のバックに入れて帰る。

 カイモノブクロは貴重品だ。


 まずは、お米からだ。当然電子炊飯器なんてものはないので、土鍋で炊く。

 お米を炊いている間に、キャベツを千切りにして水にさらしておく。

 次は肉だ。

 肉を適当な大きさに切り、小麦粉と卵をつけて更にパン粉をつける。

 あいにくサラダ油がなかったので、オリーブオイルで代用する。

 うん、きつね色になっていい臭いだ。

 俺が、次々に料理をしているのを見て、ミュがその手際よさに驚いている。

 何ができるか、分からないのだろう。

「ご主人さま、私に何かすることがあれば、お申しつけください」

「そうだな、お湯を沸かしてスープを作ってくれ」

「え、ええ、分かりました」

 ミュはちょっと残念そうに答えた。


 ところが肝心なことに気付く。

「ミュ、箸としゃもじがない」

「箸としゃもじって何ですか?」

 急きょ、箸としゃもじの絵を描いて、大きさとか説明してミュに作って貰うことになった。

 ミュは家の裏に行くと、積んであった薪から魔法であっという間に箸としゃもじを作ってしまった。


 ちょうど、箸としゃもじが出来たところで、ご飯が炊けたので、コンロから土鍋を降ろす。

 キャベツは水切りをして皿に並べていく、そこにきつね色に揚がったとんかつをのせ、買ってきたウスターソースをつけて食べる。


「「いただきます」」

 二人で、早速夕食だ。

 お茶碗がないので、皿にご飯を載せて食べる。

 この時、箸としゃもじの使い方を教えたが、箸はミュにとって、なかなかハードルが高そうだ。

「ほら、ミュ、こう持って、こうやって使うんだ」

「そんなこと言っても……、ご主人さま」

 やや涙目で言う。

 仕方ないので、右手に握らせて食べるように勧める。

 それでも、なかなか苦労しているようだ。

 味はまあ、なかなかいけるんでないかい。

「はあはあ、ご主人さま、暖かくて美味しいです」

 ミュも満足のようだ。

「はい、ミュ、あーん」

 とんかつを一切れ取ってミュの口に運んであげる。

 とんかつを口に入れ、咀嚼して飲み込んだ。

「ご主人さま、とっても美味しいです。ご主人さまが食べさせてくるのは、特に美味しいです」

 そう言って、満面の笑みを浮かべる。

 いやいや、味は変わらんと思うぞ。

「肉を食べると精力がつくというから、今晩はがんばらないとな」

「まっ、ご主人さまったら」

 そう言って、コロコロ笑う姿は小さな犬のようだ。

「でも不思議です、ご主人さまと居ると何故か体の魔石の辺りが暖かくなって、ご主人さまのためなら、なんでもできるような感じになりますし、ご主人さまの喜ぶ事がしたいと思ってしまいます。

 こんな感じ、200年間一度も味わったことがなかったです。ご主人さま何でもお言いつけ下さい」

「ミュ、それが幸せというもんだよ、そして、それがミュが俺を思う愛なんだ」

「えっ、そうなんですか?でも幸せと愛を知ると、私は悪魔じゃなくなります」

「だって、ミュはもう悪魔じゃないだろう」

「いえ、今でも悪魔、サキュバスですが……」

「いや、違うね、ミュは幸せと愛を知って、俺の妻となった」

「ご、ご主人、さ、ま」

 ミュはまた涙を流し始めた。

「ほら、泣かないで、ご飯食べよう」

「悪魔にも幸せと愛はあったのですね、私は今幸せです」

「ほら、泣かないで、食べよう、とんかつが塩辛くなるぞ」

 そう言って、俺はシーハの葉でミュの涙を拭いた。


 夕食が終わって片付けが済んだら、ミュがお風呂を入れてくれた。

 いつものように二人で入る。

 今日は手で洗ってくれる。胸では洗ってくれない。

「ミュ、今日は胸で洗ってくれないのか?」

「ご主人さまがご要望ならそうしますが、でも今日はこれからあるので、ちょっと抑え目にしておこうかと」

 ミュも何だか、はにかんでいるようだ。

「そうか、後で可愛がってやるな」

「は、はい、いっぱい可愛がってください」

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