第12話 占い店
「では、そろそろお店を開きます。ご主人さまは隣の部屋に居て、良かったら聞いて下さい」
「それはプライバシーに関わることだから、まずいんじゃないか?」
「ほとんどが人生相談みたいなものなので、後からどういう返事をしたらいいか聞かせて貰えたら、次の回答の参考にします。
それにご主人さまだったら、そうペラペラと誰かに話すこともないと思います」
なんつー、信頼感。ううっ、そうまで言われたら、裏切れない。
「分かったよ、そうさせて貰おう。でも、人がいると感知されないかな」
「魔法で感知を消しますし、相談者の声が大きく聞こえるようにもしますので、大丈夫です」
俺が、隣の部屋に入ったら、ミュが魔法をかけるのが分かった。
しばらくしたら、若い女の子が来たみたいだ。
占いの内容は、好きな男にどうやったら振り向いて貰えるか、というような内容だった。
ミュが占って、明日どこそこでこうゆうことがあるだろうから、そこで偶然を装って近づけばいいとか回答している。
大体、早い時間の占いの内容はこんなもので、後は付き合っている彼氏と結婚したらうまくいくだろうかとか、親が相手との結婚を許してくれないからどうすれば許してもらえるようになるだろうか、といった話だった。
時間が遅くなると、話の内容もディープになってくる。
商人を夫に持つ夫人の場合は、夫が売り子と関係しているが、売り子を第二夫人にした方がいいか、それとも知らない振りをしている方がいいか、もしくはその関係を止めさせるにはどうしたらいいか、などの話だった。
農業の夫を持つ夫人の場合は、子供が生まれてから夫がかまってくれない。夜の生活もご無沙汰している。
どうやったら、新婚時代のようなラブラブに戻れるか、というものであった。
反対に冒険者を夫に持つ夫人は、夫が狩りから帰ってくると高ぶっている血のせいで、夜の生活が苦痛だというものであった。
なかなか、世の中うまくいかないなと思いつつ、聞いていた。
さらに深夜に及ぶと、ぶっそうな話も聞こえてくる。
ほとんど熟年夫婦なのだろうか、どうやったら夫が早く死ぬかとか、遺産をどうすれば沢山貰えるかというものになる。
ほんとに若い子の話が、可愛いく思えてくる。
若い時に気を揉んで結婚しても、歳を取るとこんなもんだということを聴かせてあげたい。
最後の客が出ていくと、店を閉めて帰り支度を始めた。
もう外は深夜だ、物音一つもしない。
扉に鍵をかけて、ミュと二人で歩く。
大通りをしばらく歩いて、路地の方へ曲がって直ぐだった。
男二人が前に飛び出してきた。手にナイフが光っているのが見える。強盗だ。
体中に緊張が走る。
「おい、金と女は置いていけ」
低い、恐怖を煽る声だ。
ミュは、強盗二人組の前に出ると、じっと二人組を見つめた。
すると男二人の目が、だんだん焦点が合わなくなってきている。
ミュは男二人の額に人差し指を付けると、その瞬間、男たちの額から白いエクトプラズムのようなものが、ミュの指を通って手に吸い込まれるのが分かった。
こうやって生を吸い取るのか。感覚的に理解する。
男たちは骨と皮のような状態になって、その場に崩れ落ちた。
既にもう息はしていないだろう。
ミュは例のベールを被っているので表情は分からないが、きっと怖い顔をしているんだろうな。
今は話しかけない方がいいかもしれない。
「ご主人さま、参りましょう」
ミュは俺の手を引いて歩きだした。
家に帰ると、いつものミュに戻っていた。
「ご主人さま、お風呂沸かしますね」
さっきの事はもうなかったような感じだ。
美人だから言い寄られた事もあるのだろうが、こんな風に生を吸い取っていたのだろうか。
悪魔の一面を垣間見た瞬間でもあり、悪魔に恐怖を覚えた瞬間でもあった。
それを思うと、ミュが今俺の側に居てくれることは、ほんとに奇跡に近いのかもしれない。
いつものように風呂に入って、ミュが洗ってくれる。
ミュの手が首に触れた瞬間、身体がビクッとなった。
ミュは、その瞬間を見過ごさなかったようで、
「ご主人さま、どうされましたか?」
「えっ、ああ、い、いやなんでもない」
「嘘です、さっきの事ですか、本当の事をおっしゃってください」
「ああ、すまない。ミュの手が首に触れたときに、『俺も生を吸われたらあんな姿になるのかな』って思ったんだ。もちろん、ミュにいつ生を吸われてもいいと思ってはいるんだが…」
「ごめんなさい、ご主人さま、ほんとはご主人さまに生を吸い取るところはお見せしたくなかったんですけど、あの二人は強そうで、このままだとご主人さまに危害が加わると思って、咄嗟に生を吸い取る行動に出てしまいました。
怖い思いをさせて本当に申し訳ありません。それに私が、ご主人さまの生を吸い取る事は絶対ありません。
私の事が怖いなら、ここで殺してくれてもかまいません」
そう一気に言ったミュは、目から涙を出してボロボロ泣いている。
「うん、ごめんな、ミュは大事な家族だ。疑ってごめんよ。ミュの罪は俺の罪でもある。俺も半分罪を負うよ」
風呂の中でミュを抱きしめ、優しくキスをした。
「ご主人さま……」
泣き顔の中に、笑い顔のミュがいた。
「さっ、風呂を出て寝るか」
「はい、ご主人さま」
その日はベットで抱き合ったが、特に何もせず寝りについた。
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