第5話 新しい生活

 ミュは出掛けるということで、着替えをしている。

 庶民の部屋は現代風で言えば1DKのような感じである。

 キッチンとリビングで1部屋、あとはベッドルーム、それにトイレと風呂が一緒になった部屋だ。

 ベッドルームでミュの着替えを見ていると先程の服の下にペチコートのようなものを穿いて、上はベストのようなものを羽織っただけのようだ。

 そして、顔には黒いスカーフのようなものを巻いて目だけ出している。

 なんだか、イスラムの女性を見ているようだ。

「ミュ、女性が外出するときはそんな恰好をするのか?」

「いえ、私は悪魔なので、髪が黒いです。ですので、なるべく、全身を覆って外出します」

「そんなだと、悪魔ってばれるんじゃない?」

「いえ、お肌に気を付けている女性もいて、この恰好をしている人はかなりいますよ」

 うーん、大阪のおばちゃんかよ。


 全身真っ黒のミュに連れられて家を出て、都市の中心部に向かうと、店もいろいろ見かけるようになってきた。

「あっ、ここの家具屋に入りましょう」

 店の中をいろいろ見ているとタンスやテーブル、イス、ベッド、様々なものが売っている。

 ここらは現代とあまり違わない。

 今日はベッドを買うということだったので、ベッドを中心に見てみる。

「これなんか、どうでしょうか?」

「うん、いいんじゃないか」

 シンプルな造りのベッドだ。

 当然ベッドマットみたいなものはなく、布団のようなマットをマット屋で買うということなので、次はそっちに行ってみることになり、配達の時間と場所を連絡して、家具屋を後にした。


 マットと服は同じ店で売っている。こちらに転生したときはジーンズとTシャツだったので、替えがあるのはありがたい。

 ところで、服屋に下着がなかったけど、下着はどこで買うのだろう。

「ミュ、下着はどこで買うんだ?」

「えっ、下着って何ですか?」

 えっ、下着がない。

 そういえば、ミュはスカートの下に、ペチコートみたいなのを穿いているだけだった。

 昔でいう、長襦袢みたいなものか。

 そういえば、日本でも大正時代までは、パンツがなかったっていうし。

 と、いうことは、こっちの女性はパンツも穿いてなければ、ブラもしてないということか。

 なので、女性のスカートは皆、足首まである長いドレスのようなものばかりなんだな。

 お店で荷物を預かって貰い、冒険者ギルドに登録に行ってみる。

 午後の閑散とした時だったので、時間もそんなにかからずに登録できた。

 登録料は、銀貨1枚だった。

「ご主人さま、パーティ登録もしましょう」

「そうだな、ミュと二人だけのパーティか」

「うふふ、そうですね。すいません、パーティ登録もお願いします」

 受付嬢は専用の羊皮紙を出してくれたので、俺とミュの名前を書き入れた。

「なんだか、ミュと婚姻届けを出しているみたいだ」と、小声で囁くとミュは嬉しいのか、頬をほんのりと赤らめた。


 家に帰ってまったりしていると、家具屋がベッドを持ってきたので、ミュが対応している。

「こちらの部屋に運んでください。そのベットの隣に揃えて置いてください」

 ベッドが整うと、ミュがマットと掛布団を用意してくれた。

「ご主人さま、これで大丈夫です。で、どうします」

 いやいや、ミュさんまだ日が高いから。

「外に食事に行かないか。もう少し町を見てみたい」

「はい、では夕食は外食ということにしましょう」

 二人で町に繰り出してみる。夜の帳が落ちてきて、街路に店の明かりが漏れ出してきた。

 ミュの案内で、シックなレストランに入ってみる。ミュはなんだか嬉しそうだ。

「そじゃ、ステーキセットを二人前で」

 ミュが、注文するのを傍らで聞いている。

「ここのステーキは魔物肉を使っているんですよ。とても美味しいんです」

 確かに美味い、しかし何の肉だろう。

 ゲテモノ肉だと嫌だな。知らない方がいいかもしれない。


「ふう、食った、食った、美味かった。さて、帰るか」

「は、はい」

 ミュの顔がほんりと赤い。

「うん、どうした。なんか顔が赤いぞ」

「い、いえ、なんでもありません」

 家に帰って、昨日と同じように風呂に入っていると、ミュがそわそわした態度で入ってきた。

「お背中流しますね」

「ああ、頼む」


 頃合いを見計らってミュに手を出してみる。

「ああっ、あっあっ」

「なんだ、ミュ。何を感じているんだ」

「い、いや、そんな感じていません」

 頃合いを見て止めてみる。

「ええっー、どうして?」

「新しいベッドの使い心地を試してみなくちゃな」

「は、はい」

 もう、目をキラキラさせている。

 ところで、ミュの瞳は紅い。

 サキュバスの瞳は紅いらしいが、サキュバスが人間族にあまり知られていないことと、人間族にも紅いひとみを持つ者がいるらしく、瞳が紅いというだけでは捕まらないらしい。

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