第6話 神様、サンタになる 2
「こんなにスムーズに終わったのは、サンタデビューして以来、初めてです。菊理さんのお陰ですね! ありがとうございます」
日の出まで、まだ一時間ほど残して予定していたすべての子供たちへプレゼントを届け終えたサンタは、寂れたレジャー施設の跡地に戻るなり、菊理の両手を握りしめて礼を言った。
「これなら、ゆっくり菊理さんのプレゼントをご用意できそうです」
「そ、そう……」
菊理は、期待と興奮を表に出さぬよう、ゴクリと唾を飲み込んだ。
サンタは、爽やかな笑みと共に、ご要望をお伺いしましょうと言う。
「用意して欲しいものとかは、ありますか? 何でもご用意できますよ? 例えば、セクシーな下着とか、ヌルヌルスベスベのローションとか、手錠とか?」
セクシーな下着はともかくとして、ローションとか手錠って、何だ?
「オプションで、いろんなプレイをお楽しみいただけますよ?」
「そ、それって、つ、使わなきゃだめなの?」
「いえ。あくまでオプションですので。でも、なかなか興奮するのでおススメです」
嬉々としてサンタ袋に手を突っ込むサンタは、聖なる存在というよりは、邪なる存在にしか見えない。
「……」
オプションは、大抵の場合が別料金である。
代償が大きくなりそうな気がして、菊理は取り敢えずスタンダードでいいと首を横に振った。
「お、オプションは……け、結構です」
「そうですか。残念です。では、またの機会にいたしましょう」
また?
「ああ、早く食べたいです……菊理さん」
むにゅむにゅと菊理の二の腕を揉みながら、サンタが付け髭を外して屈みこむ。
慎ましいはずのキスは、二の腕を触っていた手が毛糸のパンツに触れたところから、イヤラシイものへと変わる。
押し広げるように唇を開かされて、侵入して来た舌で上顎をなぞられただけで、膝がカクンとなる。
優しく引き出された舌を噛まれ、やわやわと毛糸のパンツの上からお尻に触れられて、自分からぎゅっと胸を押しつけてしまう。
これまでしてきたのは、キスとも言えないキスだったと思うほど、気持ちがいい。
サンタは、ちゃんと菊理の欲しいものを知っているようだ。
でも。
密着した腹部に当たる固いものと、どんどん激しくなるキスに、このまま止まらなくなったらどうなるのだろうと思う。
まさかのアオカン?
真冬の雪の上で?
凍死しなくとも、凍傷になる。
ソリの中という手もあるが、スポーツカーでコトに及ぶのは難しそうだ。
特に、腰を痛めている場合は。
あれこれと、気持ちよくなりながらも考えていると、気の抜けそうなクリスマスソングが聞こえて来た。
「……チッ」
サンタが舌打ちし、渋々といった様子で唇を離した。
片手でスマホを取り出し、応答する。
もう片方の手は、菊理のお尻に触れたままだ。
サンタの濡れた唇からは、宇宙語かと思われる聞き慣れない言葉が飛び出した。
何やら、向こう側から切羽詰まった声が聞こえ、サンタの表情が険しくなる。
一通り遣り取りを終えると、サンタは名残惜しげに菊理のお尻から手を離し、その代わりがしっと肩を掴んだ。
「菊理さん。大変申し訳ないのですが、残業をお願いできますでしょうか」
「は?」
「実は、近隣の国で仕事をしていたサンタクロースから、応援要請が入りました。営業スタッフとの連携ミスにより、当初見積もった案件数が誤っていたようなんです。このままだと夜明けに間に合わないので、手伝って欲しいと……」
「……それって、海外?」
「はい。でも、サンタクロースは外国人という設定ですので、大丈夫です。あ。パスポートも、大丈夫ですよ。念のため、予め偽造しておきました」
サンタは、懐から精巧な造りのパスポートを取り出した。
いつ写真を撮ったのだとは思ったが、不法入国者にはなりたくない。
「残業ですので、報酬は百二十五パーセント増です」
それを聞いた瞬間、菊理は大きく頷いた。
◇◆
「思ったよりも……大変でしたね。でも、間に合ってよかった」
夜が明けて間もない日本に戻り、ソリから解放されたレンタルトナカイが空の彼方へ消えて行くのを見送って、しみじみと呟くサンタに、菊理は全然よくない、と思った。
クリスマスイブが、終わってしまった。
海外では色々と風習が異なるようだが、日本ではサンタが現れる日は過ぎてしまった。
すなわち、プレゼントが貰えない。
それもこれも、奴らのせいだと、菊理は豆粒となって消えたトナカイを呪った。
海を越え、国境を越えて訪れた隣国での仕事は、時間延長に機嫌を悪くしたトナカイのせいで、難航した。
あまりにも精巧に作られたサイボーグトナカイは、動物特有の気分のムラというものがランダムに発生するとのことで、何度もトナカイ休憩を挟む必要に迫られたのだ。
住宅事情も日本とは異なっているため、侵入するのにも手間取ったし、海外仕様への変更がスムーズにいかなかったというサンタ袋から、正しいプレゼントが出て来ないという問題も発生した。
どうにかこうにか仕事を終えたとき、達成感というよりも、とてつもない安堵感と疲労感に見舞われた。
「帰りましょうか」
スポーツカーへ姿を変えたソリに乗り込んだ菊理は、後で結果について報告会があり、サンタの現れるスケジュールが異なっている別の国へ出張する予定もあると説明するサンタの声と、包み込むような本革シートの心地良さに負けた。
緊張から解放された安堵と疲労により寝落ちして、気が付けばマンションの自室にかつぎ込まれ、ベッドの上にちょうど横たえられるところだった。
「菊理さん、お疲れでしょう? ゆっくりお休みください」
そう言って微笑んだサンタは、スカートの中に手を差し入れて、毛糸のパンツやスパッツを脱がせていた。
「本当は、起きていて欲しいですけれど、サンタですので、サンタらしく、寝ている間に欲しいものをプレゼントしますね。今まで、寝ている女性を相手にヤったことないので、ちょっと興奮します……」
「……」
「どうぞ、気を楽にしていてください」
にっこり笑ったサンタは、菊理の右足を持ち上げると「生足だ……」と小さく呟き、膝に口づけた。
ぴくん、と菊理の足が反応すると、青い瞳を輝かせる。
「美味しそうです」
パクリ、と太股の内側に噛みつかれ、思わず声が出た。
「んっ」
「このままでも大丈夫だとは思いますが、清めて欲しいですか? 菊理さん?」
サンタの言う通り、多分大丈夫だとは思うが、真っ最中に気持ち悪くなるのは嫌だ。
菊理が頷けば、サンタは何故か嬉々として菊理を抱き上げ、浴室へと直行した。
「菊理さん。相手に清めて欲しいなら、一緒に清めればいいんですよ」
そうか、そういう手があったか、と菊理は目からうろこが落ちる思いだった。
「キスの時はちょっと困るかもしれませんが、相手にお清めの水を口移しで飲ませるとか、方法はあるでしょう?」
色々と、考えつかなかったと目を瞬く菊理に、サンタは苦笑した。
「でも……他の男で試したりしては駄目ですからね?」
チュッと音を立てて菊理のおでこに口づけると、テキパキと、上着を脱がせてスカートを引き下ろし、あっという間に菊理を下着姿にした。
「着ている姿もいいですが、脱がせるのもまた、いいですね……」
サンタは、うっとりとした表情で菊理を眺めながら、自らも上着を脱ぐ。
肌着を脱ぎ捨てた筋肉質の体の素晴らしさに、菊理は「ほう……」と溜息を吐いた。
「お気に召していただけました?」
「とっても!」
くすり、と笑うサンタに、即答する。
「触らせてくれたら、触ってもいいですよ?」
サンタは、長い指を伸ばして菊理の胸を覆うブラジャーの上の縁を思わせぶりになぞる。
菊理が堪らず目を瞑ると、ブラジャーの中に指先を滑り込ませた。
「菊理さん……?」
耳元で囁かれてビクリと身体を震わせれば、ブラジャーのホックが外れ、大きな手の平が乳房を包み込んだ。
「柔らかいですね」
「ふ、うっ……」
むにゅむにゅと捏ねられて、柔らかい胸が張りつめて行く。
「ああ、でも……ここは違うみたいです」
「あっ」
ぴんと尖った胸の先に触れられて、菊理は思わず目の前のサンタに縋り着いた。
「しかも、ここだけ……気持ちいい?」
「やっ」
くるりと固くなった場所の周囲をなぞられる。
「ピンク色で、可愛いです」
不意に、冷たいものが敏感になったそこに触れ、驚いて目を開けた菊理は赤みを帯びた髪を見下ろした。
舌で転がされた途端、堪え切れなかった声が漏れた。
「あんっ!」
じゅっときつく吸い上げられ、再び目を瞑ってぎゅっと広い肩を掴む。
「気持ち良すぎる?」
意地の悪い声が聞こえ、目を開ければ、引き下ろされた下着が濡れて光っているのを見下ろしていたサンタが目を上げ、にやりと笑う。
恥ずかしさでカッと頬が熱くなる。
「は、はや……く、おふろ、入る」
「はい」
素直に頷いたサンタがズボンを脱ぐと、見事な腹筋が続くその先に、黒いボクサーショーツに覆われ、盛り上がった場所があった。
「見たいですか?」
ごくり、と唾を飲み込み、菊理は視線を彷徨わせた。
見たい。
見たいけれど、今見ても大丈夫か、わからない。
色んなもので知識は蓄えているけれど、ナマで実物を見たことがない。
「後にしましょうか」
そうしてもらいたい、と頷けば、くすくす笑いながらサンタは菊理の身体をくるりと反転させ、そのまま浴室へ入るよう促した。
「振り返らなくていいですよ。このままで」
背後から寄り添うようにして、菊理を熱いシャワーの下に立たせたサンタは、ごくまじめに菊理の髪を洗った。
身体はどうする、と聞かれて自分で洗うと言えば、あっさり引き下がった。
拍子抜けするほど、お行儀がよく、菊理は自分ばかり挙動不審なことが恥ずかしくなった。
しかし、すぐに、それは単にその方がサンタは楽しめるからだったのだと思い知ることになった。
「あ、菊理さん、そのままで。まだ流さないでください」
ごしごしと身体を洗い終えた菊理が、止めていたシャワーを再開させようとしたとき、自分も身体を洗っていたサンタに止められた。
「でも……?」
「菊理さん、目を瞑っていていいですから、こちらを向いてください」
「……?」
振り返って、衝撃的な光景を目にしなくていいのなら、と菊理が大人しく目を瞑って振り返れば、サンタがぴたりと身体を重ねた。
固く熱いものが、ちょうどお腹のあたりに当たった。
「清めながらでも、楽しめる方法があります」
「……んっ!」
石鹸に塗れて滑りの良くなった背を撫で下ろされ、思わずビクリと身体を揺らした菊理は、重ねた胸がぬるりと滑る感覚に、身悶えた。
サンタは、背中を撫で下ろした手で菊理のお尻を捕まえると、石鹸の滑りを楽しむように撫で摩る。
身じろぎするたび重ねた肌が滑り、そこからまた新たな感覚が生まれる。
「ふっ……あっ……あんっ」
「気持ちいいですか?」
その通りだと、身体が既に答えてしまっている。
しばらく、菊理が悶える様を楽しんでいたサンタは、のぼせそうな雰囲気を悟り、切り上げた。
ふらふらになった菊理をバスタオルで包み、別のオプションを提案する。
「ちなみに、ジャグジーに一緒に入るのもおススメです」
「……」
試す気はない、と目で訴えれば「残念ですね。またの機会にしましょう」と言う。
「髪を乾かしてあげたいのですが、待てそうにないので……」
菊理の髪を丁寧にタオルで拭った後、サンタは申し訳なさそうに告げた。
「後でもいいですか?」
菊理が頷けば、ほっとした顔で再び菊理を抱え上げて寝室へと突進すると、ベッドの上に諸共倒れ込むなり、バスタオルを剥ぎ取った。
「ああ、もう、待ちきれませんっ!」
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