戦闘:逡巡
ジェットコースターに戦慄したうえに酔ってしまったファナを開放するために遊園地内のカフェへ移動、ファナはトイレへと駆け込んでいった。
「いやぁファナちゃんには悪いことしちゃったな~」
「ほんとにな」
「あはは……いまごろゲロゲロかなーちょっと様子みてくるよ」
「いや、いかなくていいだろ……ってもういねえ!? ったく」
一人になりどこか手持ち無沙汰になったので頼んでいたコーヒーを一口飲む戒理、その時だった。高次層のざわめきが肌の痛みによって戒理へと知らされる。
「ッ! これは、外界落ち……いや違う、これは降戦者か!」
ファナと薄野はまだ戻っては来ない、もしこの降戦者がセカンドノアの者だったとしたら放っておくとこちら側に出てきて直接、戦闘することになるか、外界落ちをけしかけてくる可能性もある。ならばこちらから出向くべきだ。意を決しカフェから離れ人の目につかない死角に入りそこで高次層へ移る言葉を唱える。
『二重世界交信』
反転する世界、表に飛び出し辺りを見回す戒理、しかし特に何も見当たらない。
『こちらですよ』
その声は上から聞こえてきた。機械によって拡大されたような音、戒理は上を見上げ再び相手の姿を探し、そして見つけた、その者は高次層の中で止まっている観覧車の一番上のゴンドラその上にいた。
その身体は、まるで鉄球で出来た雪だるまのようなフォルムをしていた。手足もまた数珠繋ぎの鉄球だった。はたから見ても芸術作品かなにかとしか思えないだろう。
「……降戦者、なのか?」
『ええ、いかにも降戦者、
「で、その機徒さんが何の用だ?」
『あなたの抹殺ですよ、私もセカンドノアの一員ですからね、ワタシもともとはこの遊園地を外界落ちから守る役目についていたのですが、セカンドノアの思想に感銘を受けまして入ることになったのですが最近、獣徒が手間取っているターゲットがここに来るというので地の理があるワタシが、選ばれ派遣されたという訳です』
「ご丁寧な説明、ご苦労さま……だけど残念だが返り討ちだ、さっさと終わらせる」
『出来るものなら』
戒理は竜徒へと変わり跳躍して観覧車へと突っ込む、すると機徒は自分の手足をいくつも分離させ飛ばしたではないか、そしてそこから光線が放たれ戒理へと向かう。
光線は戒理を囲うように放たれていた。仕方なく光の羽根で自ら覆い防御しようとする戒理。
『確かにあなたの羽根は無敵のような力を持ってきますが……過信するのはどうかとおもいますよ?』
光線は羽根を貫き戒理へと届き竜の鱗を焼く、戒理は思わず苦悶の声を漏らす。
「ぐっ……なんだ、どうして……」
『あなたのその輝く羽根は、高次層のエネルギーによって構成されたモノに対して絶大な効果がある……しかし、ソレが関わって無いものには無力!』
「まさか……その鉄球は高次層の外から持ちこんできた物ってことかよ……」
『ええ、まあでも羽根以外にも鱗や爪も脅威ですので、それらを超える兵器を造るのには苦労しましたが……』
「そんなものわざわざ作るくらいなら、こっちじゃなくて表の方で直接、俺を殺せばいいだろうが、ファナの奴もそうだが、なぜそうしない?」
『それがノア様の望みだからですよ、高次層の中であなたを殺す。それがあの方の命令です』
「はっ! 厄介な上司を持つと苦労するな!」
『いえいえ、なかなか楽しい作業でしたよ?』
(クソッ、しかしどうする? 羽根も効かない、奴の言う事を信じるなら爪も効かない……いやだったら!)
すると戒理はエネルギーを物質に変換し銃を造りだす。
『なんのつもりですか? そんなもの通用しませんよ』
「それは……どうかな!」
引き金を引き、放たれた弾は鉄球の一つに当たる、しかし傷一つついてはいない。
『ほら見て御覧なさい。なんの効果もありません』
「なんの効果も……ね」
『!?』
戒理の言葉が引っ掛かり弾が当たった鉄球を観察する機徒。よく見ると鉄球になにやら小さな白いなにかの破片が張り付いているではないか。
それは突如、膨張しどんどんと膨れ上がっていく、重さに耐えられなくなった鉄球が地面へ落ち動かなくなってしまった。
『なにを……したんです!?』
「……高次層の中はエネルギーで満ちているんだ。どういう原理で浮いてるのか知らないけど、周りのエネルギーを一気に物質に変換されたら重くって動けないだろ?」
「理屈は分かりました……ですがそれをどうやって!」
「この銃に俺の鱗を込めて飛ばしたんだ。俺の力を帯びた鱗を通して周りのエネルギーを物質に変換した。降戦者へ変わればこのくらいの操作は当たり前に出来る。そうだろ?」
『そういうことですかッ! ですがそれなら光線で周りのそれを破壊してしまば……』
「発射口は一つだろう?周り全てについた鱗は取り除けない、それじゃ重くてまともに照準も会わせられないだろ、他の鉄球やお前自身がそれを剥がそうとすれば、その間に残りも同じ様にするさ、全部落としてやるから覚悟しろ」
『流石、世界最初の降戦者、だけはありますね、ですがこの高速で動きまわる鉄球に当てられますか?』
機徒は鉄球を、加速させる。
戒理の周りをぐるぐると囲いながら縦横無尽に動かしていく。
(くそっ、たしかにちょっと厄介だな、それにアイツはまだ本体になにか隠してるはず、だがそもそもこの鉄球をどうにかしないと大本に辿り着けねえ、やるしか……ないか)
『さあ喰らいなさい! 光の乱舞を!』
周りを回っていた鉄球から一斉に光線が放たれる。戒理はそれを、避けずに全てをその身で受ける。光線が止んだ後、そのには全身が焦げた竜徒の姿があった。
「がああああ!」
『ははっ! あきらめて死を選びましたか? まあそれも一種の選択ですかね、それでは、とどめを……』
「いいや、俺の勝ちだ!」
戒理の慟哭と共に、その身体から焼き焦げた鱗が一斉に弾け飛ぶ、全方位へと放たれた無数の鱗いくつかはの鉄球に張り付き、そして一気に膨張して行動を不能にする。
『鱗の全てを、自らの手で剥がして飛ばした!?」
「どんなに高速で動いていても、光線を発射する瞬間だけは停止する、一か八かだったが上手くいったみたいだな」
全ての鉄球は地面に落ち、残るは観覧車の上から下を覗いている。機徒の本体のみ。
「さあ鉄ダルマ、次はなにを出してくるんだ?」
『………』
機徒は何も言わず観覧車から飛び降り、大きな衝撃と轟音と共に着地し大きな土煙を豪快に起こした。
光線のダメージにより片膝を付く戒理、じっと土煙を睨みつける。
そして、煙が晴れた時、中にいたのは鉄球の雪だるま、ではなかった。
「それがお前のホントの姿か……」
「ええいかにも、カッコいいでしょう?」
それは丸だけで構成された先ほどの姿とは全く違うものだった。
中世の騎士を連想させる装甲、しかし、そこには様々な機構が仕込まれている事がわかる。
そして各所に高速で動くためのブースターが備えられている。
「随分、貧層になったな鉄ダルマ、前のが良かったんじゃないか?」
「なんとでもどうぞ、あなたは、これで終わりだ」
機徒の全身から大量の光線やミサイルが放たれる。
戒理は片膝を付いたまま動く事が出来ない。
(あの武器は高次層式のはず、羽根さえ出せれば……)
戒理の光の羽根は少なからず彼の体力を消耗する。ダメージを負った今の状態では満足にだすことは叶わないだろう。
機徒の攻撃が全て着弾する。爆炎が巻き起こり、地面の欠片が飛び散った。
しかし機徒はその爆炎を見てはいなかった。爆炎より少し離れた場所を顔を向けていた。
「どういうつもりです? ……獣徒、ファナ・シメール」
機徒の視線の先にいたのは戒理と、降戦者に変わり彼を抱えているファナの姿だった。
「……頂戒理の抹殺は、私の使命、です」
「ハッ! ならばあなたがトドメを刺しなさい! その満身創痍の竜徒に!」
機徒は戒理を指差し言い放つ、しかしファナは動かず状態を維持したままだ。
「ほら、出来ないのでしょう? 下手な言い訳は自分の首を絞めるだけですよ? 全く自分から頂戒理抹殺任務に志願しておきながらどうしてあなた彼を庇っているのです?」
「……私は、確かめたかっただけ」
ファナは絞り出すような声で言う。
「なにを?」
機徒はもはや話半分といった状態で、冗談めかして腕の武器の照準をファナと戒理に合わせようとしている。
「セカンドノアの、いやノア様が選べたかもしれない、もうひとつの、可能性を」
機徒はその言葉を聞くと、照準を合わせるのを止め、ファナへ正面から向き合う。
「なるほど……まあ、言わんとしてることは分かりますがね、理解ができるだけで納得はしませんが、でもやはり不誠実ではありませんか? ノア様はあなたの恩人ですよ? レイヤードを差別するテロリストによって両親を殺されあなた自身も殺される寸前だった。それを救ってくださったのは他でもないノア様ですよ?それをいまさらもう一つの可能性を問う? 失礼なんてレベルでは済まされませんよ」
「それでも! 結局セカンドノアやっていることは、あのテロリスト達と同じ……私はそれが正しいと完全に信じることは出来なかった……」
「だから裏切ると? ふん、なら、その死に損ないと一緒に消えなさい」
機徒は再び、内蔵された兵器をファナと戒理めがけ乱射する。しかし先ほどの一点にむくての集中砲火と違い弾幕を張り、ファナを逃がさないようにしていた。
そうにか弾幕の隙間を探し抜けれないかと戒理を抱え走り出そうとするファナ、しかしその動きを戒理の手が制した。
「センパイ!?」
「助けてくれてありがとな、後は、任せろ……!」
戒理は残された力を全て振り絞る、光の羽根を大きく長い間、広げることは不可能だろう。
ならば、と彼は光の羽根を凝縮させ自分の身に鎧にように纏わせる。
高次力を正しい形に戻す事の出来るその力で、ミサイルやレーザーを無効化し、ファナを守り突破口を造り出した戒理は一気に機徒へと掛け抜ける。
「お前の攻撃はもう通らない!」
しかし機徒は立ち上がり向かってきた戒理に最初こそ驚きはしたものの、すぐさま冷静になり、腰の機構から銃を取り出した。
「この銃はあの鉄球と同じく外から持ち込んだモノ、さて誰の攻撃が通らないんでしょう? さらにその羽根の力の効果はあなた自身にさえ効果があるのではないですか?まあ自らの力です他に対するよりはマシなのかもしれませんが、どちらにせよ今のあなたは自らさえも焼く炎の鎧を纏っているようなもの、しかもその意味はない!」
だが戒理はその銃を見ても脚を止めずむしろ速めた。
(奴が打つ前に、この羽根が竜徒の力を消し去る前に、必ず辿り着いてみせる)
機徒は高速で近付く戒理に冷静に狙いを定め、引き金を引く、その瞬間だった。
機徒の手がなにかに引っ張られ、その一撃は戒理には当たらなかった。
「なん……だと!?」
機徒の腕にはファナの尻尾が巻きついていた。これで彼は攻撃を当てることも逃げる事も出来ない。
「やっぱり私は……」
「それが、あなたの選択ですか……!」
なんとか振りほどこうと、切断しようと暴れる機徒だったがしかしその目前に竜徒はいた。
振りかぶった拳は機徒へと吸い込まれるようにぶち当たる。そのまま吹き飛びながら彼の降戦者状態は解かれ、そのまま地面に転がる。
現れたのは白眼をむいて気絶している初老の男性だった。
戒理も殴った勢いのまま、前に倒れ地面に手を付く。
機徒と竜徒の決戦は、獣徒の助力により竜徒の勝利となった。
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