第8話 勇者は迷走する
午後になっても姿を現さない私に痺れを切らし、エイマーズさんが私を探しに来た。
床が抉れていたり亀裂が入っているのを一瞥して、何かを察したのか「運が良かったですね」とひと言声をかけられた。
運……?私が無事なのは、運の問題なのか?
心ここに在らずのまま、エイマーズさんに連れられて来た執務室のような場所で、魔王さんとふたりきりになっていた。
私はソファに座って腕を組み、深刻な表情で一点を見つめる。室内では時計に似た物がカチコチと針を動かし、魔王さんがペンを走らせたり紙をめくる音が聞こえた。
そんな中、私はおもむろに口を開く。
「魔王さん。ちょっと聞いて欲しい話があるのですが」
「……何だ」
魔王さんは目線を下に落としたままだったが、私の話を聞いてくれるらしい。
私は目の前のテーブルに肘をつき、右手で両目を覆いながら話し始める。
「今さっきの出来事なんですけど、私……単純な力勝負で負けたんです。態度の悪いトカゲに」
「ラドヴァンか」
「多分、そいつです」
暗く狭まった視界の奥に、あの不敵な笑みが浮かんでイラッとした。
私は『ラドヴァン』という単語を記憶に刻む。
「そのラドば……ラドぶぁ……そいつなんですけど、勝負がついた後、私にとどめを刺すでも無く、ただゲラゲラと笑いながら去って行ったんですよ」
こうして負けたというのに私が無傷でいるのは、
私にはその価値も無いと判断されたのだろうか。だとしたら、腹立たしい。
それにしてもあいつの名前……言いにくくないか?頭では分かっていても、舌が追いつかない。普段しない発音だからだろうか。
まあ、それは置いといて……
「……悔しいですけど、あいつに勝ってる自分が想像できないんです。何が駄目だったのか、何が間違っていたのか分からなくて。力には自信があったのに、通用しなかったんです」
「あいつも肉弾戦は得意な部類だからな」
「ですよね……」
あれで不得意だと言われたら、きっともう立ち直れない。
私は重々しくため息を吐いてから、顔を上げて魔王さんに問いかける。
「あと、ひとつ聞きたいんですけど、獣人って『劣等種』なんですか?」
「そう呼ぶやつらもいるだけだ」
「実際は?」
「獣人は身体能力に優れているが、魔法の才覚を持たない者が大半だ。魔法を扱う相手に、身体能力だけで勝てるやつはそう多くない」
「……」
劣等種。そう言うあいつの血は、どれだけ上等なのだろう。金色なのか?
……しかし、確かに獣人は種族的に不利な部分があるらしい。あの時は何も知らずに不平を訴えていたが、あいつはあいつなりにハンデまでつけて同じ土俵に立っていたようだ。悔しい。
私が黙り込んでいると、今度は魔王さんから口を開く。
「それで、お前はどうしたいんだ?」
結論を求められ、自分の考えをまとめる為に一拍置く。しかし、結局は情けない返答をするしかなかった。
「どうしたら、いいですかね……」
「自分で考えろ」
魔王さんは投げやりに答えた。やはり自分でなんとかしないと駄目なようだ。
ソファに深く腰かけて息を吐く。
教えてくれたら苦労は無いけれど、魔王さんはその苦労を私にさせたいのだと思う。必要な事はしっかり教えてくれているからこそ、そう判断できた。
———コンコン
扉を叩く軽い音に私は素早く顔を上げて、頭を切り替えた。すぐにセレスちゃんの声が扉の向こうで聞こえてくる。
「お食事をお持ちいたしました!今は大丈夫でしょうか?」
「大歓迎です!!」
私は扉の方へと飛びついていた。と言うのも、あいつとの喧嘩で『神の加護』の力を無理に使ってしまい、お腹が空いていたのだ。
それに、落ち込んでばかりいても仕方がないだろう。空腹を満たして、前向きに考えなければ。
扉を開けると分厚い丸眼鏡をふたつ、頭と顔に身につけたセレスちゃんが、驚いたように目を丸くさせた。そして私を見ると、ふふふと柔らかく笑う。
「そんなに急がなくても逃げたりしませんよ、アキラさん」
「あっ、お腹が空いていて、すいません」
「それじゃあ、早く運んじゃいますね」
「手伝います」
ワゴンいっぱいに乗った料理たちを、セレスちゃんと一緒に運び込む。あっという間に長方形の大きなテーブルは、美味しそうな食べ物で埋め尽くされた。
見ているだけでよだれが……。
「それでは、失礼いたしました!」
セレスちゃんは元気にそう言って、不器用な動作でワゴンを引きながら退出した。
室内が少し静かになる。そんな中、魔王さんが動かしていた手を止めて口を開いた。
「眼鏡をふたつしていたが、教えてやらなくていいのか?」
「え?教えるって……魔界のファッションじゃないんですか?」
「いや、聞いた事も無いが」
「エイマーズさんとかしてませんか?」
「してないな」
だとすると、あれはセレスちゃんなりのオシャレ……?
魔王さんと軽く言葉を交わした後、ソファに座って「いただきます」と言ってフォークを手に取る。今回も美味しそうだ。
夢中で料理を口に運び、どんどん空のお皿が量産される。フードファイターにでもなった気分だ。
料理の半分以上を平らげ、メインの骨つき肉を手にしてかぶりつこうとした時。ふと、ここに来た目的を思い出す。
「そう言えば、魔王さんは私に何の用があったんですか?」
「無い」
「無……え?」
「お前に頼む事は無い」
「えぇ……」
私のことは監視対象として側に置いているんだろうけど、少しくらい何か無いのか。雑用でも何でも喜んでやるというのに。
しかし、どうやら『頼む事は無い』とは、そのままの意味ではないようだ。
「お前が力不足である事はラドヴァンが証明した。簡単な使いでさえも、城内を彷徨うだけ彷徨って満足に
正しくは頼む事が無い……じゃなくて、頼める事が無いってことか。
「……精進します」
自分の無力さを噛みしめるように、私は骨つき肉にかぶりついた。
***
強くなるにはどうしたら良いのか。
咄嗟に思い浮かんだのは筋トレ。すぐに違うなと悟った。魔法が無い世界ならそれで良いのだろうが、生憎とこの世界は魔法が存在する。
次に思い浮かんだのは体術。私は戦い方を誰かに学んだ経験が無い。だから私の繰り出す技は単純な打撃だった。しかし、やっぱりそれも違う。
私の攻撃は当たっている。それでも効かないのは、拳の威力が足りていないから。結局は筋力の問題なのだ。
これ以上、どうしろと……?
自分だけの知識では足りず、城内の構造を知るついでに情報収集を始めた。
エイマーズさん
「魔力を扱う為の基礎がなっていないんですよ。使用された魔力量と、その効果が見合っていません。その過剰な無駄遣いをやめたらどうです?」
セレスちゃん曰く。
「身体強化は、無闇矢鱈に魔力を注ぎ込めば良いものではないんですよ。問題は魔力の密度ですからね。こう……ギュってするんです。頑張ってください!」
魔王さん曰く。
「そろそろ進展させて来い」
その辺で捕まえた小人曰く。
「あんたの方向音痴は一生直らんよ。ふおーっ、ふおっ、ふおっ!それと、床は構わんが、高い天井は壊さんでおくれよ。直すのが大変じゃからなぁ」
「あ、気をつけます」
魔力って一体、何なんだ!?
完全に行き詰まっていた。行き詰まったまま、あれから5日が過ぎようとしている。魔王城を追い出される日も近い気がする。
取り敢えず、気休めのように筋トレを始めてみたが、果たして効果は現れるのか。期待はしていない。
圧倒的に情報量が足りていなかった。そもそも、情報を聞き出せる相手が見つからず、詳しく教えてくれる人物にも出会えない。
そう言えば、私ってここより下の階に降りた事が無いな。5日間も歩き回ったのに。階段って存在すんのか?出口ちゃんとある?
私は窓の外に目をやり、ここよりも下の階の存在を改めて認識する。多分、ここは最上階なのではないだろうか。
頭の中がぐるぐると行ったり来たりして平行線を辿る。キャパオーバーだ。
私って頑張ってるよね?右も左も分からない世界に来て、精一杯頑張ってるよね?何がいけないんだ?
外の景色を眺めながら、自分の現在地について考える。ここはさっき見たような……?
こうして迷子になっていると、森に置いて来てしまったポチを思い出す。今はどうしているのか。
ポチなら元気にやっていそうではあるけど、私の方が元気じゃなかった。あのゴワゴワの毛に包まれたい。
薄暗い窓の外を眺めながらぼうっとする。
このまま時間だけが過ぎればどうなるのだろう。魔王さんに見限られて追い出されるか、最悪厄介払いとばかりに殺されるか。
どうしたら、私はここで価値のある存在になれるのか。私は何を求められていて、何をしたらいいのか。
ポチと一緒にいた時は、迷ったりなんかしなかったのに。迷う事なんて無かったのに。ポチと森で暮らしていた時は……
そして、唐突に妙案が思い浮かんだ。
「会いに行けばいい」
私は窓を開け放ち、冷たく淀んだ空気が漂う外へと身を乗り出した。窓枠に足をかけ、数十メートル先にある地面を見下ろす。
目眩がしてしまいそうな高さだったが、今の私なら飛べない高さじゃない。芝生が埋め尽くす地面から着地点を見極め、窓枠を蹴って一気に跳んだ。
バタバタと下から吹き抜ける風が衣服をはためかせ、打ち付ける風に目を細める。確実に落下しているのに、不思議と空を飛んでいるかのような浮遊感があった。
———ズダンッ
地に足をつく瞬間、地面が岩でも落石したかのように派手に凹む。
顔を上げると、久々に外に出た気がした。草木が風に揺れ、外でしか感じ取れない独特の空気がある。
ああ、私って外に出たかったんだな。今更ながらにストレスが溜まっていた事を自覚し、晴れ晴れとした気持ちで背伸びをした。
やはりこれで間違っていない。私は森に戻ればいい。ここは私の居場所では無かったのだ。
「うわっ、オマエ階段使えよ。引くわァ」
後方から聞こえて来た水を差す声に、私の体はピシリと固まった。その所為で少し間が空いたが、ゆっくりと振り返ってその姿を確認する。
白い角と薄緑の鱗、そしてトカゲの尻尾を持つ態度の悪い少年が、すぐ側の渡り廊下に立っている。
お前が常識語るのかよ。無意識にそんな言葉が脳裏をよぎる。初対面でいきなり拳を振るったやつが言う事か。
だからだと思う。私が口を開いてしまったのは。
「……階段なんてもんは存在しなかった」
「どこにでもあるわ、ボケ」
「5日探しても無かったわ、アホ」
「テメェ呪われてんな」
「窓さえあれば十分だ」
「窓はテメェの出入り口じゃねェ」
「なに当たり前のこと言ってんの?常識なんて糞食らえの種族じゃなかったの?」
「テメェら蛮族と一緒にすんな」
「誰が蛮族だ、爬虫類」
互いにガンを飛ばし合う。いや、ていうか私は何でこいつと、こんな馬鹿馬鹿しい遣り取りをしているの?
言葉の応酬をしているうちに冷静になる。
内容はただの罵倒だが、なぜこいつは私に構う?勝負はついた筈なのに。
……?
なんだかよく分からなくなって、私はあいつから顔を逸らす。無駄な時間を過ごしてしまった。
私は森へ向かう為に、あいつに背を向けた。ところが、その背に卑下た笑いと共に言葉が投げかけられる。
「逃げンの?」
逃げる?私が?
鼻で笑い飛ばせる筈だった。けれど、実際に私が対面したのは、それとは真逆の『言い当てられた』という情けない自分。
あれ?
気づき始めると同時に、足が止まる。私の頭の中を埋め尽くすのは困惑だ。
これは逃げているのか?
いつの間に、逃げようとしていた?
何で私は逃げようとしたんだ?
だって、できないなら殺される前に逃げないと私は……私はこんなに弱かっただろうか?
いつの間に、こんなに弱くなったのだろうか?
いつから?
ぐちゃぐちゃな思考の中、思い起こされたのはまだ小学生だった頃の自分。ソラがまだ生きていた頃。
ソラは私を『強い』と言ってくれた。ヒーローみたいだって。
私が、そうあろうとしていたのだから当然だ。あの頃は自分を強く見せたくて、知られたくない都合の悪い部分を隠していた。
本当の私はソラが思っているほど強くはない。
弱音を吐かないのは言葉を呑み込んでいるだけだし、いつも前向きでいるのは自分を誤魔化しているだけだし、友達が多いのはひとりが寂しいだけで、力が強いのは子供の内だけだった。
それでもいいと思っていた。今の自分に納得はしていた。誰だってそんな部分はあるだろうと。寧ろ、ここまで強がれるのは凄いんじゃないか、なんて。
でも、どこかでソラの在り方が羨ましかった。
ソラは明らかに弱くて周りからは劣っていたけれど、それをちゃんと認めて、だから落ち込むけれど逃げたりはせず、楽しい時は心から笑っていた。
私はその自分とは真逆の強さに憧れたのだ。偽りや誤魔化しの無い、素直な姿に。
いつからだっけ?
憧れを放棄してしまったのは。
今まで気づかないふりをしていた事実を突きつけられ、私は唖然とした。そんな私を無視して、足元には魔法陣が浮かぶ。
あっ、と思った時にはもう遅く、私は地面に崩れ落ちていた。上から圧力が加えられ、立ち上がる事が出来ずに這い蹲る。
「っなに、これ……?」
現実に引き戻されてすぐ、経験の無い感覚に頭が混乱する。こんなにも自分の体を重いと感じたのは初めてだ。
後ろからゆったりとした足音が聞こえて、私との距離を詰めると、近くで立ち止まる気配がした。
「ヤル気ねェなら、足潰すぞ」
「つっ、潰す!?」
おぞましい言葉を耳にして、咄嗟に声を上げる。足首を踏みつけられ、本当に潰れてしまいそうな力を加えられて顔を歪める。私はグシャリと潰れた真っ赤な足を想像してしまい血の気が引く。
あいつの声は今までの
そして気づく。こいつがあの時、私にとどめを刺さなかったのは、私にその価値が無かったからではなく、何かを期待していたからだ。今のこいつからは、私への失望が見え隠れしている。
見下してばかりいるくせに、こいつは私に何を期待しているのかって話だけれど。
「で、どうする?」
「どう……?」
既視感のある言葉だ。魔王さんは大事な時に私に『どうしたいのか』を聞いてくる。私に選択肢を与える。
でも、こいつの出す選択肢は理不尽以外の何ものでもない。やる気を出さないと足を潰すって?やる気ってどうやって出すの?足を潰される恐怖心から?
ああ、私は魔王さんの魔王らしからぬ優しさに甘えていたんだな。
逃げて足を潰されるか、恐怖心に負けて留まるか。どちらも御免だった。
それにもう、逃げる気なんて失せている。情けない自分に気づいた時、ソラに憧れていた自分を思い出した時。
何で忘れていたのだろう。ソラが死んだから?私はなんて薄情なんだ。
苦々しい思いで口を開き、喉から声を絞り出す。
「潰したきゃ潰せ。逃げたりなんかしない」
「へェ、どーゆう心境の変化?」
「変化なんかしてねぇから!元からちょっと散歩するかなーっていう心持ちだったから!勘違いすんな!」
私は小さな頃から強がりなやつだった。でも、今はそれだけにするつもりは無い。
思い出してしまったからには、私は威勢だけで終わりたくはない。このままだと、私はただ文句を言っただけの負け犬だ。
こんなんでは私を『強い』と言ってくれたソラに顔向けできない。何より、自分自身が嫌いになりそうだ。
強気な事を言いながらも、内心は不安でいっぱいだった。
本当に足を潰されたらどうしようだとか、これだけ言っておいて結局変わらなかったらどうしようだとか、弱気な自分が露見したらどうしようだとか。
そんな不安を一気に消し飛ばすように、私は全身に力を込めた。何としてでも立ち上がろうと小刻みに震える手足を地面に着いて、身体を押し上げるように関節を伸ばす。すると———あ、魔法って力ずくでも破壊できるんだ。
地面に浮かんだ魔法陣が、ガラスのように割れるのを見て拍子抜けした。
急激に軽くなった体を起こして、背後にいるあいつの方に振り返る。そして、私に信じられないような物を見る目が向けられている事に気づいた。
「……テメェ、常識ねーなァ」
「は?」
呆れたように背を向けて、あいつは元居た渡り廊下の方へ立ち去ろうとする。
どこが常識無いって?力技で魔法陣を壊すのは普通じゃないの?あんたって常識人なの?
聞きたい事が溢れてハッとする。情報収集って、こいつからでも出来るんじゃない?敵ではあるけど一時休戦という言葉もあるし、アリなのでは?
嫌いな相手だとかは関係無い。今、それ以上に大切なのは自分が強くなる事。
私は少し好意的に接してみる事にした。早速、笑顔を作って優しげな声色で話しかける。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」
一瞬、不審げな目が向けられたかと思うと、すぐに逸らされて素っ気ない対応を受ける。
「知らねェ」
「まだ聞いてないから。あのさ、強くなるにはどうしたらいいと……」
「失せろ」
「魔力ってどういうもの……」
「あー羽虫がうるせェなァ」
「お前の耳は飾りか」
ピタリ、と足が止まる。
しつこく聞きすぎただろうか。そう思っていると、あいつが不快感をあらわにした表情で振り返り、鋭い牙を剥き出しにして声を張り上げた。
「女とつるむ気ねェから!!」
「今さら男女差別してんじゃねぇよ!!」
理不尽な発言に負けじと声を張り上げ、『好意的』を忘れ去って睨み合う。
何言ってんだ。お前が最初に喧嘩売ったんだろ、私に。硬派気取りか!思春期なのか!
私がせっかく好意的に話しかけたのに、『女とつるむ気ねェから』!?悪口言わないで、普通に話しかけただけじゃん。それなのに、『女とつるむ気ねェから』!?最後は我慢できなかったたけども。
「オレに馴れ馴れしくすんな!気色悪ィ!!」
「カッコつけてんじゃねぇよ!言われなくても、こっちから願い下げだわ!!」
「これだから女は!」
「女に何されたんだよ!」
「うるせェエエ!!」
癇癪を起こしたように叫ぶ。その叫びからは、相当な何かを感じた。
何なんだこいつは!
***
「魔王さん、聞いてください」
「何だ」
数日ぶりに魔王さんの元へ訪れて、以前と同じようにソファに座って話しかける。魔王さんは目線を下に落としたまま返事をする。
ただひとつ違うのは、私の気持ちが非常に晴れやかな事か。
「私がトカゲと喧嘩して負けた時、どうしたいのかと聞きましたよね。答えが出たんですよ」
「そうか」
私はようやく迷い無く自分の意見を言えると得意げに笑い、力強く拳を握る。
そう、私がしたかったのはこれだ。
「あいつの顔面に一発入れて、『ばああぁか!!』……と吐き捨てるように言ってやりたいです」
意気揚々とそう語ると、魔王さんは珍しく笑ってこう答える。
「いいんじゃないか」
魔王さん、割とノリ気ですね。自分の配下の顔面が狙われているというのに。いいと思います。
現状はまだ変わっていないけれど、今の私にはハッキリと目標が見えている。
ソラに誇れる自分でいたい。
今思い返すと、ソラは私が思っているほど強くは無かったのかも知れない。それでも、理想として私の記憶には残っていた。
「ところで魔王さん。あのトカゲなんですけど、女に対してトラウマでもあります?」
「……」
「弱点として使えますかね?」
「……そういう勝ち方は推奨しないな」
「違いますよ。ただちょっと……そう、有利になったらいいなぁって思っただけです」
魔王さんは黙秘した。
悪の親玉という立場なのに、意外と真面目だな。
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