第4話 勇者は勇ましかった
私は頑張った。それはもう必死に頑張った。
1日目は、まず水を確保する為に川を探し回り、その際に立ちはだかる獣は拳ひとつで対処した。
手元に残った水と食料は節約していたが、もともと微々たるものだったので保って1日程度だ。
あの怪力を使うのには案外体力を使い、何か食べなくてはやっていられない。食料が不足している事での心配は、餓死よりも獣に食われる危険性だった。餓死する前に殺される。
川を探している道中で仕留めた獣は、苦い思いをしながら剣で捌いた。赤い血が噴き出して正直見るに堪えない光景だったが、ここには捌いてくれる人などいないので仕方が無い。
時間をかけて火起こしをしていると、獣が臭いに釣られてやって来る。小動物は威嚇で追い払い、バケモノ級は拳で沈めた。
かろうじて出来上がった焼肉は焼き過ぎていて、獣臭くて、硬くて、味がしなくて、形が歪で、食べられない部分が混じっていて、散々な出来だったが食べられなくも無い。
とにかく川で洗濯がしたかった。
結局この日は川を見つけられずに日が暮れてきたので、手近なところで寝床を作って休む事にした。
夜の森は危ないと誰かにどこかで聞いた、朧げな知識を思い出した。それに夜間の探索は敵が強くなるから危険だと、ソラがゲームをしながら言っていた気がする。
雨風を凌げる小さな洞穴の入り口に、木の枝や葉で作ったバリケードを置いた。それでも神経を尖らせて油断できない状況は変わらず、睡眠は疎らであまり寝られなかった。
2日目は川の捜索を再開した。
今日見つけられなくては、食料は尽きて獣に食われる未来が待っているだろう。切羽詰まり焦りを感じる中、昼頃に運良く川を発見した。
早速、無くなりかけていた水を補給して、汚れた服の洗濯をする。ついでに水浴びもして、森から抜け出せた訳でも無いのに充足した気分だった。
水浴びを終えて一張羅を木に引っ掛けて乾かしていると、水を飲みに来た獣と遭遇した。全裸で戦う羽目になった。仕留めた獣は今晩のご飯にしよう。
川の付近に拠点を作る為、川を見失わないように歩き始めた。
木に登って辺りを見渡そうかと思い至り試してみたが、早々に先住民の総攻撃を食らう。縦横無尽に木から木へと飛び移る小動物たちの姿は、山猿を彷彿とさせた。
数匹程度であれば何とかなったのだが、流石に数十匹を相手に木の上で戦えない。威嚇してくる山猿から逃げるように、私は地面の上に逆戻りしていた。
あそこに私の居場所は無い。
岩場に良さそうな洞穴を見つけたのでそこに決めた。昨日の急ごしらえの寝床よりも広くて、虫も少なく居心地は良さそうだ。
洞穴の中にある岩を動かしてレイアウトを整えたり、草を持ってきて寝床を作ったり、食料などを持ち込んだりして拠点作りに励んだ。
川を見つけて一先ず安心したし、最近ろくに眠れていなかったので今日は早めに休む事にした。
余裕のできた1日だった。
3日目は拠点を中心に探索をしてみる事にした。
食料さえあれば、森に蔓延る獣など恐るるに足らず。ちぎっては投げちぎっては投げ、お弁当の肉の塊を頬張りながら次々に襲い来る獣を地面に沈めた。
今までに無い戦闘回数を経験して、何だか場慣れしてきた感じがする。百戦錬磨の覇者にでもなった気分だ。
木に目印を付けながら周辺を一通り回ったが、森の出口は無いようだった。だろうなと思う。だって獣との遭遇頻度が異様に高い。明らかに獣が幅を利かせていた。
私ならこんな場所に家を建てようとは思わない。他にもっと安全な場所はあるだろうから。こんな場所に住む奴は相当な事情があるか、余程の馬鹿だけだろう。
そう思っていたのだが、不可抗力にもこの森に拠点を作って、住み始めている私は何なのだろうと気づき、考えるのを止めた。
4日目は昨日よりも少し遠くに行ってみた。
3日目ほどケンカを売られない。周囲で慌てて逃げ出すような気配があるのは気のせいだろうか。今日もばんばん倒していくつもりだったので拍子抜けした。
スムーズに先へ進めたので、調子に乗って遠くに行き過ぎた為にまた迷子になりかけた。迷子の迷子など洒落にならない。
そろそろ肉にも飽きてくる頃なので、川で泳いでいた魚でも捕まえてみようかなと考える。明日は魚にしよう。肉は肉でも、獣の肉じゃ無い。
肉以外の物も食べたいが、その辺にある木の実を食べるのは危険だろうか。ついでに食べられそうな物を集めてみよう。
5日目は食の幅を広げてみた。
川の浅瀬で魚の鷲掴みに挑むが、大きい癖にすばしっこくてなかなか追いつけない。捕まえられたとしても魚の表面はヌルヌルとしていて、簡単に手から離れていった。
ムキになった私は既に包丁としての役割しか担っていない剣を持ち出し、川の中を泳ぐ魚に向かって突き刺した。それでも捕まえられずにいると、次は怪力を足に付与して脚力を上げる。
剣を逆手に構え、川の底を力強く蹴りつけた。川の上空へ飛び上ってその滞空時間に魚の陰を捉えると、剣先を川へ向けて落下を始めた。
水飛沫をあげて水面に着地する。川に沈んだ剣先に魚の姿は無かった。私は更にムキになって、魚に剣を突き刺しに走った。
昼過ぎにようやく念願だった魚を捕えた。朝から川に浸かっていたので、正気に戻った時には体温が下がっていてガチガチだった。
魚を火で焼きながら温まり、遅いお昼ごはんにする。苦労して捕まえた魚は普通に美味しかった。しかし、貴重な体力と時間を割いて捕まえた割には普通過ぎた。量も味付けも物足りない。
帰りに木の実を摘んで拠点に持ち込んだ。見た目は美味しそうだが油断はできない。
木の実をすり潰して肌に少し塗ってみたり、舌に乗っけてみたり異常が無いかを確かめる。取り敢えず大丈夫だったが、堅固の加護が発動しているだけかも知れない。
私を見て逃げ出した陰。瞬時に追いかけて、全長2メートルはある犬のような獣を捕獲した。
捕えた犬の頭をがっしりとホールドし、手に持っていた木の実を、鋭い牙が並んでいる口内に突っ込む。
ごくりと喉が動いた。そして、途端に目を輝かせてバタバタと尻尾を振る。その反応を見て、試しにもう一度木の実を与えてみると、今度は自分から率先して食べに行った。
そんなに美味しかったのか。ていうか、図体の大きい犬っぽい生き物も木の実とか食べるんだ。明らかに肉食なのに。
私は恐る恐る木の実を口の中に入れて食べてみた。甘酸っぱくて美味しい。肉ばかりの食生活に潤いを与えてくれる味だ。今度たくさん摘んで来よう。
6日目は自分が森に馴染んでいるのに気づいて、危機感を持った。このまま住み着いちゃいそう。
私にはサヤカちゃんとヒロキさんに協力をする役目があるというのに、何で森でサバイバルをしているのだ。帰還の方法など、こんな獣しかいない排他的な場所で分かる訳が無い。
私は何をしているのだ。あれからもう6日間、森から抜け出せずにいる。
私は自棄になって拠点から大きく離れた。目印は付けずに、後戻りができないように。
走って、走って、殴って、走って、夕暮れになっても森からは出られなかった。私は再び迷子になった。いや、既に迷子なので変わらないだろうか。
肉はそこかしこにあるし、水も水筒いっぱいに入っている。しかし戦うとなれば2日と保たない。休む場所にしても、寝床はどこにも無かった。
私はここに来てようやく自分の仕出かした事に気付く。
お腹を鳴らしながら途方に暮れていると、昨日毒味をさせた犬が私を迎えに来た。泣きそうだよ、わんちゃん。昨日はよく分からない木の実を無理やり食べさせてごめんよ。
感動していたら餌の催促をされたので、生肉を口に無理やり突っ込んでやった。嬉しそうで何よりですよ。ええ。
拠点までは方向感覚の優れたわんちゃんのお陰で、無事に帰る事ができた。
7日目はもうここに住んでやろうかという心構えで休息した。余裕を持つ事は大切であると学んだのだ。
あれから後をついて来るようになったわんちゃんに、ポチという名前を与えた。
他に色々な候補を挙げていたのだが全て納得せず、結局わんちゃんはポチというありきたりな名前を選んだ。
それでいいのか、ポチよ。ニクマンとか、オヒタシとか、マルチーズじゃなくて良かった?
洞穴に閉じ籠って悠々自適に暮らしていると、ポチは昼頃にふらりと森へ消えて行った。別にいなくなってもそれはそれで構わなかったので、私は近場で調達した肉を頬張りながら見送った。
肉を食べ終えてうたた寝に入っていた頃、獣の気配を感じ取って外へ出るとポチが戻って来ていた。
返り血を浴びた真っ赤なポチを見て『ああ、狩りをして来たのか』と悟る。自然の摂理であるし驚きは無かったが、取り敢えずポチは川に蹴落とした。私のマイホームを汚すんじゃねぇ。
ポチは犬掻きができないらしく、図体がでかい所為で救出に苦労した。何でこの世界の生き物はこんなにデカイんだ。
8日目以降は森からの脱出を目標に暮らしていた。
毎日ポチと一緒に狩りに出掛け、お肉と木の実を仕入れる。たまに魚に挑んだりもした。勿論、食への探求も惜しまない。
居心地の良かった拠点から離れ、新しい拠点を作りながらあちこちに移動して出口を探す。生活は今のところ確保されているので、気長にやっていくしか無い。
しかし考える。森から出られなくても特に支障が無いのは、女子としてどうなのか。
そして、私は森で暮らしている内に自分の神の加護についての理解を深めていた。
危険に晒された分だけ『強くならないと死ぬ』と本気で思ったし、実戦には事欠かなかった。
まず、加護の発動について。
私の能力にはONとOFFがある。切り替えの方法は勘としか言えないが、自由に扱えるようにはなった。
堅固は奇襲に備えて常に発動して置くのが得策だが、怪力は常に発動していると不便だ。
例えるならば、絶対に持ち上がる筈がない重い岩を想定して持ち上げた物が、発泡スチロールかとツッコミたくなる程の驚きの軽さと、精巧なガラス細工を思わせる程の繊細な岩だった、という瞬間が日常的に幾度となく訪れる感じである。
器物破損は免れないし、私の感覚は盛大に狂う。世捨て人のような生活をする中、普通の人の感覚は失いたくない。その上、体力が奪われるとなると使っている意味が分からない。
最初は無闇矢鱈に振り回していた怪力だが、最近では力加減を覚え、部分強化もできるようになった。
ただ注意しなければいけない点は、腕だけを強化して拳を振るうと、無強化の足腰が耐え切れずに体があり得ない方向へ捻じ曲がる。堅固が無ければ私の肩は確実にもげていた。更に言えば拳が対象に当たった瞬間、その衝撃で全身の骨が粉砕して死んでいた。
これらの事を理由に、2つセットの能力として同時に使っている。扱いを誤れば死ぬ。
そんなある日。森での生活に慣れ、いつものようにポチと狩りに出掛けていると、上空を何かが横切った。木の影とは違う、一瞬で通り過ぎた気配に上を見る。
逆光により真っ黒なシルエットとなった、細長い形には見覚えがあった。黒い影は雲ひとつ無い青空を緩やかに飛翔し、間を置いてそよ風が木の葉を揺らす。
「あっ、アイツ……!」
大きな翼を広げて悠々と空を羽ばたくあの姿を見た瞬間、私はポチに飛び乗った。
「あの鳥野郎っ、よくも私の荷物を奪いやがったな!地に落とす!ポチ、絶対に見失うなよ!今晩は焼き鳥だッ!!」
「ガウッ!」
例えシルエットでしかなくとも、見紛うなんてあり得ない。脳裏に焼きついた、あの孔雀のような派手な形と、翼竜としか思えない程の翼開長の長さ。あの大きさはもう鳥というよりも、滅んだ筈の恐竜の域である。
正直、あれプテラノドンじゃないの?と見間違うくらいだと思っている。
ポチは私を背に乗せながら、木々の入り乱れる森を物ともせずに疾走していた。私は振り落とされないようにしっかりとポチに掴まりながら進行方向の指示を出す。
上空をうろうろと飛んでいた巨鳥は、やがて何かに狙いを定めたかのように同じ場所で旋回する。チャンスだ。アイツが地上に下りて来る。
あの大きさであれば、そこそこ開けた場所でないと森の中へは入れないだろう。となると、アイツの出没しそうな場所は絞られる。
巨鳥がやって来るであろう場所に当たりをつけ、ポチから降りて空を見上げながら自分の足で追う。成功率を上げる為、ポチには別方向から追ってもらっていた。
近くにアイツの獲物が居るはずだ。気配をできる限り殺して、そいつの近くへ行かなくてはならない。
空を見上げたり、周囲を見渡したり、忙しなく目線を動かしながら森を駆ける。
私の神経は研ぎ澄まされていた。調子は悪くない。寧ろ最高だ。きっといける。
そして遂に、その時はやって来た。
上空を飛んでいた巨鳥が徐々に高度を落としていく。私はそれを見て全速力で走り出した。間に合うかどうかは分からない。ポチは追いつけているだろうか。
森が近づくにつれて巨鳥のスピードは加速する。この時にはアイツの獲物であろう鹿のような生き物の姿を捉え、なりふり構わず一直線に走っていた。
鹿のような獲物はその尋常じゃない危機を察知し、逃げ出そうと動くが既に遅い。巨鳥は獲物に狙いを定め、私は巨鳥に向かってフルパワーで跳躍していた。
蹴り上げた地面が抉れ、私は弾丸の如く獲物の鹿、もとい巨鳥を目掛けて風を切る速さで接近する。
「覚悟オオォオォオオッ!!」
掛け声と共に構えていた拳を巨鳥に向かって放つ。手応えはあった。拳が巨鳥の腹にのめり込み、私は腕を力一杯前方へ押し出す。
私の拳を胴体で受けた巨鳥は勢いよく吹っ飛ばされて、間も無く木に衝突すると、バキバキと音を鳴らしながら木の幹がゆっくりと根元から倒れていく。
私は軽い音を立てて地面に着地し、改めてだらしなく倒れ伏す巨鳥の姿を目に入れた。そこで感じたのは恨みではなく、違和感だった。
私の斜め前方から駆けてきたポチに、静止するよう手のひらを出して「待て!」と叫んだ。巨鳥に追撃をしようとしていたであろうポチは、利口に動きを止めてお座りをする。
私は内心、動揺していた。
この鳥、ちょっとデカすぎない?
別に常識から外れていると言いたい訳ではない。今更な事なので、気にしたって仕方がない。
だからと言って、その規格外の大きさに恐れおののいている訳でもない。それこそ今更であるし、今の私を恐れさせたいというのなら10メートルは軽く超えたドラゴンでも連れて来いと言いたい。
ならば何故、私は動揺しているのか。それは簡単な事だ。人違いならぬ、鳥違いだった。
私の鞄を奪ったあの鳥野郎と比較すると、いま目の前に倒れ伏している鳥の方が明らかにひと回りほど大きかった。遠目でしか大きさを確認していなかったのと、少しだけ私の過大評価が入っていた所為もあるだろう。
色についても鳥野郎は真っ白だったのに対して、この鳥はクリーム色だ。これは逆光が災いした。
何にせよとばっちりを受けた難儀な鳥に、私は申し訳なさと同情の念を感じた。鳥違いだろうと今日の晩ご飯はまだ確保できていないので、焼き鳥にしても良かった。しかし、今回ばかりは良心が痛い。
私は難儀な鳥の安否を確認する為に、刺激しないようゆっくりと近づいて行く。頑丈なのか骨を砕く感覚はしなかったので、多分だが命に別条はないと思う。
怒ってるだろうか。怒ってるだろうな。急に喉笛搔っ切られたらどうしよう。それとも別の急所を狙われるだろうか。でも放って置くのも悪い気がする。
相手の攻撃範囲内であろう場所まで近づくが、難儀な鳥はピクリとも動かない。息はしているので、死んではいないだろう。
それにしても、近くで見ると益々デカい。翼を広げた大きさは私の3、4人分くらいはある。
やっぱりプテラノドンじゃないだろうか。爬虫類でもないのに、こんなのがよく空を飛べるなと感心する。『跳ぶ』ではなく『飛ぶ』なのだから大したものである。
まじまじと観察していると、地面でぐったりとしていた大きな翼が微かに動いた。それに気を取られていると、心臓が跳ね上がるような奇声が森に響き渡った。
「キエエェエェェエエーーー!!」
耳をつんざく大音量の鳴き声に、私は止まるかと思った心臓を押さえてその音源に目を向けた。あの、難儀な鳥である。
尖ったクチバシをこれでもかと開き、分かり易すぎる程にその鳥の表情には恐怖がありありと浮かんでいた。それはもう鳥ってこんなに表情豊かだったのか、と場違いに思うくらい。
私は途方に暮れて硬直し、ポチは耳を押さえながら伏せをする。私たちは何もできなかった。
鳥は一向に鳴き止む気配は無く、このまま立ち去った方がこの鳥の為だろうかと考え始めていると、一瞬だけ時間が止まったかのように錯覚する間があった。
鳴き叫んでいた鳥はいつの間にか静かになっていて、恐怖した表情は変わらぬままじっと動かなくなる。伏せをしていたポチは耳を立て、神妙に顔を上げて私の後ろを見た。そして私も、普段とは違う空気を肌で感じ取って、ポチの向いている方向に目をやった。
風景はいつもと変わらない。しかし森はやけに静かで、得体の知れない嫌な予感に自然と冷や汗が流れた。寒気がする。
「……ポチ」
小声でポチを呼び、不穏な空気から逃げるように反対方向へ駆け足で向かう。逸る気持ちを抑えて、足音を立てないよう慎重にこの場から離れる。動こうとしない鳥は気になったが、そこまで気を回している余裕は無いような気がした。
駆け足では離れられる距離に限界があり、私はポチと一緒に木の陰に身を隠す。それに、怖いもの見たさもあったかも知れない。
嫌な気配が近づいて来る。それと同時に、隠そうともしない足音が近づいた。相手は足音のリズムから予測するに、恐らく二足歩行。軽やかな足取りから、体重もそんなに重くはない事が分かる。
明らかに危険そうな大型の猛獣ではなさそうだ。というより、これは聞き慣れた人間の足音に似ている。
まさか、こんな森に?
それにもし人間だったとして、この禍々しい感じは何?
ざっと地面を踏みしめる音がして、それほど遠くない位置で足音が止まる。
鳥のいる場所ではないかと不安が過ぎった。しかし、その心配は杞憂に終わる。暫くすると鳥の羽ばたきが聞こえて、空を見上げるとあの鳥がこの場から離れて行く姿が見えた。
私は木の幹に背を預けながら、恐る恐る目線を嫌な気配のする方向へと持っていく。一定ラインを超えないように慎重に。
そして私は目を見開いた。危険を冒して見たのは、そのまさかと否定した人間の姿だったのだ。
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