遥かなる円卓の理想郷

蜂鳥りり

プロローグ 夢の魔術師




――アレフルーム王国 キャメロット城 円卓の間(20年前)





「――どうも、ずいぶんと困っているみたいだね」


白衣をまとった銀髪の少年が声をかける。



「あぁ、いつもお前は的外れなことを言う。困ってなどいない。私の物語はここでおしまいで良いのだよ」


白髪の老人は玉座に腰掛けながら少年に微笑む。


「魔法使いも人間もほかのどんな生き物にも、その一人一人の物語があり、それはいつだって祝福に満ちている。きっと楽園で暮らす君にだって、そうだろう?」




少年は目を細め首を傾げる。



「僕にはちょっと理解できないけど、まぁ、そういうことなら傷を癒すのはやめておくよ」



少年は天井を見上げた。




「……今回は本当に、お別れのようだね」




老人はまた優しく微笑み、問いかける。



「マーリンよ、この国の未来はまだ覗いていくのか?」


「んー、まだ迷ってるなぁ。まぁ気が向いたらまた寄ってみるよ」


「そうかそうか、夢の世界の住人は気楽で良いのぅ 」


「いやいや退屈すぎて死にそうだよ、まったく。……おっとすまない、王様は今から死ぬんだったね」




老人は微笑んだまま動かない。







「――なんだ。もう逝っちゃったか」




少年は玉座に近づき、腰掛けている老人の頭にそっと手を置く。






「――お疲れさま、アーサー王」





少年は手を置いたまま目をつぶり、語り始める。



「僕はこれでも君には敬意を払っていたんだよ。君のおかげでこの国の人間がどれだけ救われたことか。君は本当に本当に素晴らしい魔法使いだった。もちろん、100点満点の理想通りにはいかなかったかもしれないけれど、それでも僕は、王様には合格点を与えよう。なんならその報酬として、とびきりのプレゼントも用意しておくよ。この王国にハッピーな未来をもたらすようなね。




 ――じゃあ、今まで楽しい時間をどうもありがとう」








少年はそう言い残し、姿を消した。



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