カラクリマリア
戯画團 戯曲工房
第一話 見世物小屋のマリア
「もーヤダ!!ガマンできなーーーい!!!」
その娘、
肌も
飛び出してきた娘は、小屋に入ろうとしていた
(イメージ)
左官職人。花の香りに包まれ、目はハート。鼻の下が伸びて、顔がみるみる真赤に…
「ハナシてー!くるしーってばあ!」
左官職人は心がどこかへ行ってしまい遠い目&にやけ顔で娘を抱きしめたまま
そこへ娘を追って
「やや、すまんな! 助かりもうした」
男の声で
「マリ…いや <お
もう
早く
あと少しだけ
ガ・マ・ン!」
「
センセ、
くすぐったいの、イヤーーーーーッ!!」
口をポカンと開けてその様子を見ていた左官職人に、番台から降りてきた
「さささ、どんぞどんぞ、こちらへ。」
左官職人は小屋番に手を引かれ、なかば無理やり小屋へ連れ込まれてしまった。
* * *
今からだいたい240年ほど前
当時の平均的な
日本は
オランダ・中国・朝鮮以外の外国と貿易すること、日本人が海外へ
西洋文明を受け入れ
* * *
時は西暦1779年(
スマホやテレビがないこの時代
しかし、
この見世物小屋で行われる出し物はじつにさまざま、バラエティに
◆『ねぶた』のような大きな像、カラクリじかけの
<
◆中国の古代・
<
◆
<
◆神の
<
◆個性豊かに
<
◆手品師のごとく大きな釜から自分の妻を脱出させる
<
◆
<
◆
<
などなど
当時の
* * *
そして、見世物小屋の多くは
人が集まりやすい
いわゆるゲリラ的な営業を行なっていた。
(
そのため
小屋の作りは、簡単に作れて簡単に
ちゃんとした建物の作り方と違って
地面に丸い穴を掘ってそのまま柱を埋めるだけ
壁は
という
超シンプルなつくりの建物のことをいう。
その作りのためか、見世物小屋は別名
薄暗い
夏は蒸し暑く冬は寒く
むしろその居心地の悪い暗がりのほうが客の想像力が高まったのかもしれない。
* * *
ところでこの地、
両国とは<二つの国>という意味で
当時の両国は、現在の場所(=両国橋の東側)と少し違って、両国橋の『東西にまたがった
この
その西両国は現在の中央区東日本橋あたり。
この場所は、北には人気スポット
<
南には
<
と、人が集まるのにバッチリな立地で
地方から江戸に出てきた旅人は
宿のある
というのが
さらにこの地には
大火事から橋を守るための
火除地は火事対策のために
空き地があればゲリラ的に店を開き、お
そんな
* * *
東両国にある
見世物小屋を訪れた客の数が、六十日間で延べ千六百万人という空前の
江戸の人口はこの当時100万人くらいと推定されているが、1800年頃の世界の主要な都市は
北京 90 万人
ロンドン 86 万人
パリ 54 万人
ニューヨーク6万人
上海5万人
と言われているので
江戸は世界的に見ても飛び抜けた大都市であったといえる。
ちなみに現在の東京都の人口は江戸時代の9倍にあたる約930万人。
* * *
今年はこのときから比べればさすがに客足が減ったとはいうものの相変わらずの
* * *
そんな
小屋の入り口の上には、この時代ではかなり珍しい<油絵の具>で描かれた
『ゑ《え》れき娘』
の飾り文字と、西洋画とも
<
の看板が掲げられており、入口の両脇には『ゑれきてる』の
その絵の娘は
目は大きくキラキラ
髪も着物も
まるで現代のアニメキャラ。
現代人がタイムスリップしてこの芝居小屋を見たら、アキバに来たと勘違いするかもしれない。
* * *
話はやっと冒頭に戻る。
小太りの
「もーヤダ!!ガマンできなーーーい!!!」
「マリ・・・いや<お
「
* * *
見世物小屋から娘を追って出てきた
苦労が顔に出いているせいか、
この年の冬、あと半年の
「お
ささっと終わらせるから・・・」
源内は、じたばたと暴れるお
肩越しに娘の様子を見ている左官職人の手を引きつつ、小屋番が
「
* * *
源内の目前に白い絹のようなすらりとした背中が現れた。
お
嫌がる様子も恥ずかしがる様子もなく、小さく膨らんだ前を隠そうともせずじっと座ったまま。
源内は、その背に急ぎ絵筆を走らせた。
「いいか、<マリア>
お前はカラクリ人形なのにどう見ても人間にしか見えん
だからこうやって
お
源内が長崎・
絵筆は背から首筋、そして
源内の筆が脇の下を通って二の腕へ移動すると、マリアは泣き笑いの表情。
「あ・・・あひゃひゃ!」などと変な声を発し、からだをくねくねとさせるので絵筆が描く
「マリア!」
「ひぃぃ~・・・だってだってだって、・・・く、くすぐったいんだもん」
「人形のくせに、くすぐったいとはな。
この肌、まるで人間のようなからだといい、感情を持っていることといい、こんなカラクリ、まったくもってどうなっているのかわからん・・・」
とうに開始の
「ぷくく・・(≧▽≦)。!
うひゃひゃ・・・くすぐったいってば!源内センセ!!」
(※
普通の小娘にこんな力があるはずもないが、源内は
「・・・やれやれ・・・」
絵筆が顔にあたったのか、源内の頬には油絵の具が付いている。
「きゃはは、
ため息を付き、座り直しながら脇にあった
「あ、センセ・・・ごごごゴメンなさい・・・」
「
源内は腰に下げた
源内の吐き出す
その様子を見ていた源内は、ふうと息を付き、
「ほんと、お
さて、急がねば」
源内は
* * *
「いったいいつまで待たせる気だー!!」
「早く始めろい!!」
予定の
客の人数はたった10人。
だが、
熱気に
先ほど無理やり入れられた
これまで見たことのないマニアックな盛り上がりを見せる常連たちに圧倒され、これから始まる見世物がどんな出し物なのか、左右に聞くこともできずにいた。
<つづく>
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