パンツ一丁のかるた名人にどうすれば勝てるのよ!?

ちびまるフォイ

服を脱いでからが本番

お正月ということで外に出てみるとイベントがやっていた。


「さぁさぁ、お立会い! ここにおわすはかるたの名人!

 この名人に勝てばここにある商品から好きなものを持って行っていいよ!!」


商品の棚には前から欲しかった「彼女」が陳列されていた。

これは挑むしかない。


「やります!」


「ようし、ではかるたを広げよう」


名人はかるたを畳の上に手際よく並べていく。

絵札はよくあるかるたのものではなく、写真になっていた。

しかも見覚えがあるものばかり。


「見たことないかるたですね」


「これは過去かるた。お兄ぃさんの過去で作られているかるただよ。

 普通にやっても圧勝しちゃうからハンデというわけさ」


「なるほど」


俺の過去をベースに作られている過去かるた。

これなら絵札が対戦相手が変わるたびに変化するから、確かに有利だ。


「では読みます。

 卒業式~~体育館裏で~~カツアゲされる~~」


「はい!!」


名人のすさまじい手の早さに目が追い付かなかった。

はじき出されたカルタは見物人の眉間に突き刺さる。


「体育館裏でカツアゲって……どんだけ切ない卒業式だよ」


「告白されるかなぁと思って張り込んでたんですけど、

 同じように考えていた不良に絡まれちゃって……ははは」


覚えのある過去だった。

絵札の写真や風景に懐かしさを感じる。


「部活動~~坊主が嫌で~~文化系~~」


「は、はい!」

「はい!!!」


ほぼ同時に動いたが腕の早さでまた名人が取った。


「文化系の部活だったの?」


「アニメ研究部入ったんです。坊主が嫌だったので。

 でも、あそこって筋トレ必須でムキムキマッチョ育成の

 ばりばり肉体派体育会系だったんですね」


「そうなの!?」


そういえば、そんなこともあったな。

絵札は取られたものの懐かしさがこみあげて、だんだん楽しくなる。


「高校生~~カッコつけて制服の下にフードを着るも~~校則違反~~」


「はい!!」


また名人。


「職場にて~~上司に欠席メールで~~マジギレされる~~」


「はい!!」


また名人。


「オフ会で~~コミュ障すぎて~~孤立する~~」


「あぁい!!」


また名人。

だんだん怪鳥のような声になっている。


このままでは勝てる気がしない。


「宝くじ~~4等当たって~~2台目の炊飯器~~」


「え?」


まるで記憶にない。

忘れている過去だろうか。

絵札を必死に目で追うも見つけた瞬間には名人の手が見えた。


「ははは、遅い遅い。そんなんじゃいつまで立っても勝てないぞ」


「でもこの絵札、全然記憶になくって……」


「ふふふ、実はこれは過去かるただけじゃないんだよ。

 お兄ぃさんの人生のかるたでもあるんだ」


「どういうことですか?」


「未来のかるたも混じっているというわけさ」


「なんですと!?」


「未来かるたは札を取った瞬間に実現するからな。

 自分の未来をかけて戦うなんて、燃えるだろう?」


もう一度、広げられたかるたをくまなく見ていく。

絵札に覚えがないかるたがいくつかある。


これは忘れている過去なのか。

それとも未来のかるたなのか。


「どうだい? 面白くなってきただろう。せめて一矢報いてくれよ」


「ぐっ……」


名人は取りまくった絵札を札束のように広げて勝ち誇る。


「犬の散歩で~~犬が逃走し~~警察沙汰に~~」


「はい!!」

「はい!」


これは過去かるた。名人が取る。

俺は名人よりも先に別のかるたをたたいた。


「はっはっは。力みすぎてお手付きじゃないか。

 それに、その絵札は「か」だよ。ぜんぜん違う」


お手付きは相手に1枚札を渡すルールなものの、

いまだに1枚も取れていないということで免除された。


「おしゃれカフェ~~ノートPC広げて~~コーヒーかける~~」


「はい!!!」

「はい!」


今度は未来かるた。

名人はどうせ知らない相手の過去や未来なので変わらないスピードで札を取る。


「おいおい、またお手付きじゃないか。

 何度も言っているがその札は「か」だよ。よく聞くんだ」


名人はあきれて下のズボンすら脱ぎ始めた。


「早起きで~~ジョギング初めて~~山に遭難~~」


「はい!!」

「はい!!」


今度は名人よりも早く札を取った。

が、取った札は「か」なのでまたお手付き。


「お前、いい加減にしろよ! 勝てないとわかったからやけになったのか!

 そんなんで勝てるわけないだろ! あてずっぽうもいい加減にしろ!」


もう半分以上の札は名人が握っている。

名人がお手付きさえしなければ逆転も起きえない。


わずかに可能性が残されているということでかるたは最後まで継続される。


「勝ちたくないならそうやってふざけてろ。

 一生その「か」の札でお手付きしてな」


名人は吐き捨てるとまた前かがみの集中スタイルへとスイッチする。

読み手の息を吸う音が聞こえた。


「はい!!」


読み札が読まれた瞬間とほぼ同時に「か」の札をたたいた。



「かるた取り~~お手付き連打でも~~大逆転~~」



わかっていた通り、未来札のかるだった。

俺の手に未来札が渡ったことで実現される。


「あははは!! この状況でどうやって逆転するというんだ!

 札の半分以上は私が持っているんだぞ!

 このまま札を取らなければお手付きもないし、完全勝利だ!!」


名人は未来札を取られてもなお勝利を確信している。

俺はおもむろに上着を脱いだ。


「みせてやる。これが真のかるた力だ!!」



アニメ研究部で鍛え上げられた鋼の肉体から渾身の右ストレートが放たれた。



「正月に~~名人を気絶させ~~絵札を強奪~~」



最後に過去かるたが読まれた。

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