目の下にクマがあるドラえもん

まさぼん

これでも、不眠症のふうたん。

 連結部分はきしみ始める。

 「パキ」


 「折れた。割れた。」


 “よや指“が1本。

 ”いもむし“が4本ついた、

 体のその部分が、ぱっきり2つに割れた・


 「足の骨が、半分に割れた。

 歩いたら、

 ぱきっぽきっぱきっぽきっ

 って音鳴ると思う。」


 「試しに、歩いてみたら?」


 ふうたんはトイレに向かって歩いた。


 「ぱきっぽきっぐにゅぎきっガシャコン」

 「なんだ?今のは。」

「歩いたら、足が半分にパっきり割れたところから複雑骨折していった音だと思う。」


 「ふ、ふ、ふくざつこっせつ。」


 「うん、もう手遅れだと思う。バキバキに骨が分解した。」


 「大変だ。どうすれば治るの?」


 「みかんのアイスクリーム食べたい。」


 「ふうたん、いつもそれ言うけど、みかんのアイスクリームはどこで売ってるの?食べたことあるの?」


 「わからん。ない。」


 「じゃあ、どうすれば治るの」


 「耳かき。」


 「わかったよ、はいここに寝転がりなせえ。」

 ふうたんは、トイレからベッドまで戻ってくる時、

 「とうっ」

 と言って、ジャンプしてベッドに乗り、高反発マットレスの上に敷かれたトゥルースリーパーの低反発マットレスに身体がめり込んで起き上がるのに一苦労した。

 「ふんがっ!ほんがっ!おーきーあーがーれーないー。引っ張って、起こして引っ張って、早く早く。」

 てっちゃんは、

「はいはい。」

 と言いながら、ふうたんの両手首を掴み引っ張り上げた。

「今、上半身起こそうとしたら大腸から口の中に、うんちが逆流して流れてきた。これ以上動くと、口からうんちが出る。」


 「く、く、口からうんちでそうなの?耳かきはベッドの上でしてあげるよ。耳からはウンチ出ない?」


 「出ない。寝る」


 てっちゃんの膝枕の上に横向きに顔を乗せて、耳かきをしてもらいながら、レム睡眠からノンレム睡眠へと入眠しかけている、ふうたん。


 「こっちの耳終わったよ。反対向いて。」

 てっちゃんに無情にも起こされる。.

 片面焼きキッチングリル機能の様に、同じ体勢では、片方ずつしか耳かきは出来ない。なんて愚かな作りをしているのだ。人間の身体というものは。


 「明日、耳の穴を右耳と左耳、同じ場所につけてもらう手術してもらいに行く。」

 ふうたんは今、てっちゃんに耳かきを両耳してもらうのが、民族大移動の如く一大事だ。右耳から左耳へと移動する。

 くるりん ゴロンっ ガツン

 「うわうわ、うわ!頭を鈍器で殴られた。てっちゃんがふうたんの頭を鈍器で殴った。死ぬ、外傷性クモ膜下出血で死ぬ。余命15分。」


 「ふうたん、僕はふうたんの事を鈍器で殴ったりはしてませんよ。ふうたんの宝物の“カトチャン目覚まし時計”にふうたんの頭がぶつかっただけですよ。」


 「カトチャン目覚まし時計!壊れた?割れた?複雑骨折した?まだ動いてる?」

 ふうたんは、パッチリと目を開き、頭部近辺を腕を伸ばしてまさぐった。カトチャン目覚ましを掴んで、ハゲ頭の真ん中にチョロンと生えた髪の毛の部分を押した。

 かシャン

「いち、にっ、さん、しぃ、やったぜカトチャン。」

 時計は壊れていなかった。


 パッチリと開いたばかりの瞼は、徐々に下に下がっていく。眠いのだ。ふうたんは寝ぼけながらも、というか寝ながら、カトチャン目覚まし時計の髪の毛を押し続けた。

 かシャン

「くるっと回ってうんこちんちん」


 かシャン

「だ~めだよ知らなくっちゃ」


「てっちゃーん、どうしよう壊れたよ、カトチャン目覚まし。『カトチャンぺ』ってちっとも言わない。」

「カトチャンぺ。」

「てっちゃんが言うと、全然面白くない。」

「ゴメンね、今本物のカトチャン連れてくるから許してくれる?」


「うん。」


「カトチャンぺ」

「偽物だ、偽ブランド品だ。空港行ったら捕まるよ。現地の警察に牢屋に入れられて、もうふうたんとは会えなくなるよ。今までありがとう、てっちゃん。」


「ふうたん、寝ぼけてござるよ。そろそろ起きんさい。ふうたん、起きて。」


「んもぉ~。何?今何時?」

 やっと起きたふうたん。時計は結構遅めの朝の時間を指していた。


 「おはよ。」

 「おはよう、ふうたん。」

 「また寝ぼけとったぞ。覚えとるかね?」

 「ふうたんは、産まれてから今まで1度も『寝ぼける』というのをした事がないんですよ。」

 「また始まった。ふうたん、ふうたんは毎日寝ぼけてますよ。」


 「何て寝ぼけたの?」

 ふうたんは、首を傾げててっちゃんに聞いた。


 「全身、骨折しとった。」

 「うひゃひゃひゃ。寝てる間に骨折するって凄いね。どうやったら出来るんだろう?」


 「覚えてないなら、まあいいよ。何にも寝ぼけてなかったよ、ミカンのアイスクリーム買ってきてってまた言ってただけだよ。」

 「ミカンのアイスクリームは売ってないよ?」

 「それが分かってるならいい。」

 てっちゃんは、

 「へへっ。」

 と笑った。


 「てっちゃんが、朝から変な事言って1人で笑ってる。変なの。」

 「え?僕?僕が変なの?」


 「うん。まあいいや、朝ごはん作る。」


 ふうたんは、今日も全身の骨が折れてもう手遅れで死ぬ寸前までいった後、普通に健康体で起きた。


 夜中に、

 「いちごのアイスクリームが食べたい。うわーん、えーん。」

 と騒いだいつぞやの深夜のふうたん。

 てっちゃんは、夜中の2時に車でコンビニに行き、買ってきた。いちごのアイスクリームを。

 コンビニに行く途中、

 まっすぐ走っていたてっちゃんの車に、T字路の横から走ってきた車がぶつかった。

 夜も更けに更けた2時過ぎ、

 警察に来てもらい事故処理をした後、コンビニに行って、いちごのアイスクリーム、というのが無かったので、他のコンビニまで周って、ハーゲンダッツのイチゴ味を見つけて帰って来た。


 「ふうたん、いちごのアイスクリーム買ってきたよ。」

 「ぐぅーがあーぐああ…へ?何?」


 「何でもない、寝とりんさい。」

 「おやすみなさい。」


 夜中に事故ってまで買ってきたイチゴのアイスクリームを食べる事無く眠り続け、朝、勝手に起きて勝手に寝ぼけて、そして起きた。


今宵もまた、同じ事が繰り返される。





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