RISORGIMENTO
スライダーの会
第一話
流転
諸人民の理
かつてこの日本列島に、数百万人の犠牲者を出した悪夢の独裁国家があった。「日本人民共和国」と呼ばれたその国は、地球への小惑星衝突を引き金として滅んだ。だが、共産主義者に取って代わった者達が建国した、「日本帝国」は、関東や九州など一部の地域しか掌握する事ができず、国内には数多の軍閥が割拠していた。
日本帝国政府は、列島内に権益を持つ諸外国の顔色を伺いながらも、着々と軍拡を進め、遂に祖国統一戦争の戦端を開いた。今この瞬間も、東西の鎮台師団が各地で「賊軍」の平定を進めている。
第一話「流転」
・脚本:
東京渋谷にある
「…次回の講義ではいよいよ、生命の誕生から我々人類に至る、進化論の内容に入ります。生物学の中で最も神秘的で面白い分野です。宗教的な問題も絡むテーマだからこそ、まずはそれがどういう説なのかを、しっかり理解する必要があります。それでは」
「あの、先生」
「ん、星河さんか」
地学部長の
「以前仰っていた、私に見せたい本というのは?」
「ああ、そうだったな。持って来たぞ、これだ」
「『宇宙から見た日本』、ですか」
「東京に住んでいると実感がないが、日本は意外と自然に恵まれた国なんだ。衛星写真で見ると、それが良く分かる」
「なるほど」
「それから、日本列島の形成史も調べて見ると楽しいぞ。日本の歴史じゃなくて、日本列島その物の歴史だ。『イザナギプレート』なんて用語もあって、なかなか壮大な話だ。興味があるなら、『日本列島の自然史』を読んで見ると良い」
「あ、はい。アドバイスありがとうございます」
「『地球科学』だから地球全体の事を学ぶのも良いが、日本だけでも研究テーマの宝庫だ。少ないが化石人骨も発見されているしな」
著名な人類学者の
「…亜紀、本日のお昼御飯はどうする…?」
「いつも通り、文化館で良いでしょう」
「そうだな」
彼女は友人の
「…あの白衣が、姉さん達の言っていた樹下教授か。大牧先生の恩師らしいけど…ん?結からメールだ。あいつ今、どこに居るんだっけ?岩月さんは確か、偵察って言っていたけれど…」
渡良瀬川下流域に広がる遊水地。そこに一人の少女が率いる、小規模な陸軍部隊の姿があった。
「おう、良い景色だな!ここがなんとか湖か」
「
彼女らの正体は、北武蔵を支配する星川軍の分隊。大宮に拠点を置くこの軍閥は、関東のど真ん中にありながらも東京政府に従わず、更にその勢力を北へと拡大しようとしていた。その尖兵として送り込まれたのが彼女達であり、若過ぎる連隊長の
日共政権最後の拠点であった宇都宮は、激戦によって荒廃し、歴史の表舞台から姿を消していた。共産主義体制を懐かしむ者も少なからず居り、政府への忠誠も、そして政府による統治も安泰とは言い難かった。
「で、ここを乗っ取って俺達の基地でも建てれば良いのか?」
「今日の任務は偵察だから、もっと北まで行かないと駄目だよw」
「
「お嬢、しっかりなさって下さい」
好きでこんな仕事をしているわけじゃない、と言わんばかりに
青天白日。天気は快晴、降り注ぐ日光。
「海は広いし、空は綺麗だし、気持ち良いなあw」
輝きを増す白。
「でも、太陽が眩しいよ~w」
色彩を失う青。
「なんか、空の色が変じゃないか?」
落下する天空。
「…!」
今ここで起きている事、見えている物が正常でないというのは、誰の眼にも明らかだった。そして、この情況を日本語で表現するならば、それは…。
「なんだあれ?空が…」
「空が?」
「そ…空が、降って来ます…!」
その瞬間、世界は光に包まれた。闇ではなく、光に…。
「各機、状況を報告して」
「2番機、異常なしです」
「3番機、特に問題ありません」
「4番機以下も同様」
「メーテルリンクよりサザンクロスへ。先の発光による機器への異常はなし。指示を求む」
「こちらでも同様の事象を確認した。核爆発かと思ったが、肝心の熱源が見当たらない。現時点では撤退を許可できない」
「了解。警戒しつつ任務を続行します。各機、作戦継続よ。星川による宇都宮への越境攻撃は、何としてでも阻止しないと!」
「もちろん分かってま…あれ?混線ですね」
「おい勇姉ちゃん!あたいらは侵略なんかしてねえよ!武器持って湖に遊びに行ってただけだ!そんな事より助けてくれ!」
「あなた、誰かと思えば結じゃない!で、何が起きてるの?」
「所属不明の勢力より攻撃!政府軍ではありません!」
「所属不明?赤軍残党のセクトじゃなくて?」
「いえ、『敷島坂東軍』などと称しております。また、兵装には『幕府』といった文字も…」
「ふざけた名前のテロリストね。航空支援してあげるから、さっさと逃げなさい!岩月さんは敵中突破マニアでしょ?」
「はい、お任せ下さい!お嬢・皆様、どうぞこちらに!」
「援軍に呼ばれて、合流した結果がこれかよ…総員撤退だ!退却せよ!」
「隊長、地対空ミサイルです!」
「何馬鹿な事言ってるのよ?田舎の賊軍風情がそんな物持ってるわけ…」
「…!」
「ああっ!7番機が撃墜された!」
「そんな、速過ぎる!それに、あんな命中精度あり得ないわ!」
「…
「ええ、帰れるならさっさと帰りますよ!地上の子達を
この所属不明軍との邂逅が、後に呼ばれるところの「谷中湖畔の戦い」である。
延々と続く「雨降る砂漠」。恐らく、そう多くは変わる事のない景観。ここは日共崩壊の契機になった、小惑星の破片である隕石が落下したクレーター、
そんなこの地を、どうにか再建する事に成功したクレーター復興庁、現在の禍津日原総督府は、治安の回復を誇示したいためか、学校まで誘致してしまった。
「先生って、西洋史も得意ですか?教えて欲しい問題があるんです」
「どこが分からないの?」
禍津日原第四学校の教員室では、いつもの如く
「このページで、中世のヨーロッパなんですが、メシア暦751年に滅亡した王朝って何ですか?」
「ああ、それは『メロビング朝』が答えよ」
「『メロビング』って国が滅んだんですか?」
「いえ、国の名前は『
「そうなんですかー」
「ところで、私は地理の先生だから訊くけど、フランク王国って今のどの辺りにあったか分かる?」
「フランクフルトが食べれる所ですか?」
「…えっとね、
「はーい」
「大牧先生ー!」
自然科非常勤講師の
「どうしたの、間宮さん?」
「通学路から外れた危険区域に、女性が倒れているとの連絡がありました!」
「今行くわ。とりあえず、保健室で保護しましょう」
東京・星川軍が撤退した後の谷中一帯には、短時間ながらも激戦の痕跡が確かに刻まれていた。だが…その地形は、街並みは、もはや日本国民が知るそれではなかった。
「見慣れぬ奴
「見慣れぬも何も、かの女武将の格好は何ぞ?
突如現れた新天地、その戦場に佇むのは、「幕府」陸軍将官の
「まずは朝倉殿に情況を確認する。北陸探題が健在ならば、幕府本隊との連携を回復する時間も稼げよう。中央に就いての情報は、兄上や大関頭取が無事であれば送って
資高の子にして、後に「幕府軍騎兵
「例え世が歪まんとも、我等の生き様は微塵も揺るがぬ事、天下に示して魅せよう!己に対しては過信せず、敵に対しては妥協せず、如何なる理由があろうとも勝ち残る。それが軍人であり、武士と
「はあ…どうにか谷中湖から脱出できた。結達は一応大丈夫そうだから、次は仁さんを捜さなくては!恐らくは聖姉さんと一緒に、伊豆半島に避難している可能性が高いか?ここは禍津日原、伊豆までは少し遠いな…情勢も不明だし、とりあえず大牧先生に相談しよう」
四校保健室には、一見すると若そうな、どこか不思議な雰囲気の女性が搬送された。大牧らのほか、教え子の
「…」
「あら、意識が戻ったみたいね。初めまして、お名前は?」
「…相賀、誉…」
「とにかく、無事で何よりですね。状況も情況ですし、当面はここで預かりましょう」
「貴方達は何者?と言うか、どこの国の人?未開人?」
「失礼な!日本人に決まってるじゃないですか。私達は、クレーターのど真ん中で気絶してたあなたを、助けてあげたんですよ?」
「『日本』…懐かしい響きね。貴方達は復古主義者かしら?」
先刻まで昏睡状態にあったとは思えない
「復古も何も、ここは日本帝国ですから」
「これは失敬。どうやら皆さん、本格的に亡命政権の人みたいね。滅んだ国の人民を称するなんて」
「あ…あの、今…日本がどうなったと言いましたか?」
「今更何を言っているの?『日本』なんて国は、とうの昔に滅んだわ。ここは『敷島共和国』よ」
「…なんですって?」
禍津日原総督の
総督臨席の上、基地司令官の
「結論から言おう。どうやら我々は『神の悪戯』に遭ったか、さもなくば『宇宙人』にでも侵略されているようだ」
「信じたくありませんが、渡良瀬の一件だけでも頷かざるを得ないと言うのは、甚だ恐ろしいわね」
「全くだ。ここ関東は元より、確認されているだけでも北陸・伊勢、それに山城平安京など、各地で『敷島共和国軍』などと称する、新興の武装勢力が目撃されている。それも一斉に、だ」
「まさかとは思いますが、かつて日共政権が、極秘に研究していたとされる『クローン軍』では?」
「俺も本気でその可能性を考えた。だが、断片的な情報を聴く限り、そういうわけでもなさそうだ」
「彼等が何者であるか等、彼等に直接尋ぬれば良き事であ
閉眼して唱題に勤めていた総督が、口を開いた。
「誰が
「御意」
「了解」
その時、普段は総督府の職員に扮している側近が、慌ただしく駆け付けた。
「総督、敵襲ですよ!」
「何と、早速『
「ええ。『
「『敵ならば即、皆殺しにする』とでも言いたげね」
「回答の機を与
「なりません、危険です!」
「案ずるでない。
総督は
信じ難い異変の情報は、星川軍にも届いていた。武蔵に撤退した星川結らは、軍閥指導者である
「…マジかよ?だからあんなに強かったのかよ!」
「ええ…現段階で分かっている事は、今話した通りよ。偵察の
「まあ、無敵の岩月さんと航空支援のお蔭で助かりましたんで、大丈夫です」
「いえいえ。私は御家人として、当然の任務を果たした次第です」
「それにしても、なんだか戦国時代みたいな苗字の人ばっかりだねw」
「全くだ。あいつら本当に『未来人』なのか?」
「星川家には、母上様とお嬢、更には私達を含め、
「未来ってゆ~より、全く別の世界がくっ付いて、『パラレルワールド』的な何かが出来上がったとか、そんな感じじゃねえの?」
「ともかく、あなた達をこれ以上危険に晒したくないわ。結、あなたはお友達と一緒に、浦和に戻りなさい。県庁はもちろん、教会の使用許可も取ってあるわ」
「母上様、我ら
「忘れたの?愛ちゃん達の任務はいつだって、結を守る事よ。あなたも一緒に行ってあげなさい。どうしても戦力が必要になったら、その時に呼ぶわ」
「畏まりました!」
「でも、愛ちゃん達を苦戦させるなんて、敵さんも相当な手馴れね」
「はい。あれ程までに高き士気の方々と戦火を交えるのは、かつて岩付城にて母上様とお手合わせ頂いて以来、久しいのではないかと思います」
騎士道精神の塊である岩月愛にとって、強敵との勝負ほど名誉な事はない。
「うふふ、一体どんな子達なのか、会って見るのが楽しみね」
城内には、中華ソビエト共和国駐日大使である
「鳳龍公よ、賢明なる貴殿は既にお考えかと思うが、
「言って御覧なさい、徐ちゃん」
こうした中で、この異変をも自らの野望に利用し、「日本人」と「敷島人」との軍事的提携を、真っ先に成し遂げてしまった謀略家が関西に居た。畿内摂津は石山大坂城、彼女の名は「
「さて、敷島之国より
方広院こと近衛和泉は、表向きは比叡山の尼僧だが、「言ノ葉学園」にて文学(と呪術)を究めた後、
「江戸の者達は、血統の怪しき偽の帝を祭り上げ、欧化主義に執着して神佛を穢し、覇道を以て私達を従え
「御厚意、感謝致します。速やかに立法院で発議し、あわよくば共和国政府への建白にも尽力致します」
「大儀です。狸…ではなく、徳川様に宜しく御伝
「はい?」
「江戸は、
「承知」
「海と言
中近世へのシンパシーが強い敷島の者達にとって、「豊臣再興」を標榜する方広院らは、ある意味では意気投合し、またある意味では相容れない人物であった。何故なら彼女は、史実の豊臣氏や、更に古くは平家がそうであったように、武家的権力と貴族的権威の両儀を纏っていたからである。その姿は、かつてこの城に女帝の如く君臨した、
「丸で『臣下に会いに来てやった』、と言わんばかりの態度であったな。気に食わぬ」
「だが、彼女の言う事もまた一理だ。
「前時代的とは
日本帝国の政治体制はややこしい。建国に際する左派と右派の対立と妥協の結果、英米法なのか律令制なのか、良く分からない憲法が出来上がった。
言うまでもなく、この異変で最も大迷惑を被ったのは東京政府である。ただでさえ国内が分裂状態だと云うのに、この上更に「新勢力」が勃興したのだから。現在の主な政府要人を挙げると、君主たる
「首相、一大事です!畿内軍閥が、敷島勢との同盟を締結した模様!」
「何だと!おのれ豊臣め…
「やはりここは、イザナミ再稼働も辞さない覚悟で当たるしかないのでは?」
「愚者かお前は?そんな事をすれば、吉野が離反する。それに我らは、法を以てこの国を律する自由主義者だ。意味不明な理論に惑うコミュニストや、口先の愛国しか能がない九段坂風情とは、格が違うのだぞ!」
「少しは落ち着け、建。円明も、あまり急進的な事を言うな。大元帥の機嫌を損ねるぞ」
「…建、お疲れのようですね」
「こ…これは女帝陛下、いつの間に?」
「この非常時に、臣からの奏上を呑気に玉座で待っていられる程、予は
「…御無礼を申し上げました、何卒お赦しを!」
「ふっ…相変わらず面白い君臣だ」
「そんな事より、女帝の考えは?」
「我が国と致しましても、敷島の中でも友好的な方々を、積極的に登用して行くべきでしょう。本件では、既に堯彦が動いております。しかし、関東平野の統治すらままならないという現状は、あまりにも不安定です。ゆえに、建」
「何でしょうか?」
「そなたには、どうしても心を許せぬ者が一人おりましたね。かつて共に国を治め、深き信頼があったからこそ、袂を分かった傷も大きい…そんな方が」
「は…」
「予はかつて、帝位をめぐって弟と争い、その
女帝は首相に、一通の書簡を渡した。それは星川初が密使を介して
「どうするのですか、首相?」
「…日本帝国政府は、我らへの協商を条件に、星川武蔵県令の『自治共和国』を暫定的に承認する」
「それは、つまり…」
「我ら『東京』は、宿敵『星川』と同盟する!」
「埼京戦争」と総称される、星川軍との衝突を幾度も指揮して来た日基首相。そんな彼の決断に動揺を隠せない葉山次官の耳元に、自ら撃墜される程の激戦を生き延びた不死鳥、遠野隊長が
「…円明、良く見ておけ。資本主義者達の生き様を、その行く末を。旧共和国の崩壊は、我々の存在意義に激烈な疑問符を突き付けた。それに対する答えが、この戦いの中に、その先にきっとあるはずだ」
「始まるのですね、戦争が」
「ああ。極東アジアの
「…ようやく、十三宮教会に帰還できた。仁さん、心配を掛けて済まない!」
「謝らなくて良いんだよ!私の大好きなあなたが、こうして無事に帰って来てくれた事、それがめぐちゃんにとって、一番の幸せだから…ありがとう^^」
「仁さんは本当に善き人だな…聖姉さんも、伊豆半島までの退路を確保してくれてありがとう!」
「いえいえ、南船北馬に東奔西走させてしまい、申し訳御座いません。あの『光』が顕れた後、電機が故障してしまい、お姉ちゃん達も連絡に四苦八苦致しまして…」
本来ならば教科書に載るはずがなかった、もう一つの日本列島と、それを舞台に始まるもう一つの日本内戦。ある者は武器を手に取り、またある者は筆を以てこの世界と対峙しつつある中、伊豆半島の相模湾教会は平時の静寂に包まれていた。
「はい、どうぞ。採れ立ての海洋深層水ですよ」
「…美味しい」
「わーい、ありがとうございます^^」
この相模湾教会を含む「十三宮教会」は、日本国教会の中でもやや異端的な「蛇遣い派」に属し、その司教は十三宮家のシャーマンが世襲している。現在の棟梁は
「
「悪魔の所業だったら?」
「さあ、どうでしょうね?」
あの小惑星・隕石が、神や悪魔の意志だったとしても不思議ではない、と信ずる彼女らにとって、この程度の「奇跡」は、格別取り乱すほど驚くには値しないようだ。
「私は、大牧さん達との連絡を試みる。情況次第では、禍津日原に向かうかも知れない」
「畏まりました。何があるか分かりませんので、くれぐれもお気を付け下さい」
「ありがとう」
なお、この二人は初恋の相手だったらしい。
「聖様、これは絶好の機会です!敷島の方々に伝道し、ついでに海洋深層水をマルチマーケティングすれば、一生遊んで暮らせますよ!」
「もう…あなた様はいつも、お金の事ばかりですね…」
「確かに」
「ところで、あっくんはいつまでおねんねしているのかな?」
「あら、そうでした。すっかり忘れていましたね」
「富田様、海洋深層水は如何ですか?」
「あ、どうも。ありがとうございます」
奥の目立たない長椅子に、瞑想しているのか、居眠りなのかも分からない様子で眼を閉じている青年、十三宮顕(
「何かお考えで?」
「いや、面白いなと思って」
富田寿能は、海洋深層水を飲みながら笑った。
「と、言いますと?」
「私は学生時代に朋友達と、『もし2次元と3次元の世界が融合したら』、みたいな小説を企画した事がある。まあ良くある設定に過ぎないのだが、まさか本当にこんな事になってしまうとは…」
「うふふ、そうですね」
「過去と未来との
「その結果、未来の日本列島から来てくれたのが、あの『敷島共和国』とか言う武装集団なのか…全く以て、迷惑極まりない『異世界転生』だ…」
「確かにその通りなのですが、私はそれだけではない気が致します」
「具体的には?」
「これは過去と未来との衝突であると同時に、国家論…『日本』を如何なる国にせんと望むのか、その葛藤の結果なのかも知れません。この日本帝国を生きる私達が、ある日は誰がこの国を治めるべきかを争い、またある日はどの思想が
「歴史が我々現代人だけのものでないならば、他の時代の者達と同じ天の下に生きて見よ…と?」
「なるほどー」
禍津日原では、西宮総督が「敷島人」上野正斉らと会談し、この地域の守備隊として、友軍へと取り込む事に成功していた。
その日の深夜、総督府の特務機関「AB団」から、関東で目撃されたという航空機事故の情報が届いた。機体は異世界の物と推測され、墜落場所もほぼ特定できた。搭乗者が「敷島」の要人ならば、これを逃す手はない。西宮総督は落合司令官に命じ、直ちに十三宮勇(青鳥)達から成る捜索部隊を編成した。同時に青鳥は、禍津日原総督府基地駐屯軍から、東京旅団本隊への転属を命じられた。これから始まるであろう戦争において、彼女とその愛機は、クレーターに置き放すには惜しい存在なのである。
果たして青鳥は、墜落機を発見した。遺体は見当たらない。ベイルアウト脱出に成功したのであろう。そう考えながら振り向くと、奥に女性らしき「人影」の姿が見える。ただ人が居るというのではない。人の形をした、漆黒の「影」だ。
青鳥は十三宮聖の双子の妹であり、十三宮の血を宿す「特殊能力者」である。そんな彼女は当然、戦場において比類なき活躍を示し、それこそが軍に召された理由である。
青鳥の「眼」には、確かに見えた。「人影」を彩る、深い闇を。まるで…太古に滅んだ一族の怨霊を彷彿とさせる、情念の塊を。
「『魔女』と遭遇するなんて、『前世』以来久しいわね…」
愛用の銃剣で警戒しながら、「人影」に一歩ずつ近付いて行く。そして、銃剣の刃が届く距離まで至った所で、一応信用の証に武器を地に突き刺し、同時に精神の集中を極限にまで高め、それを問われた者は絶対に回答しなければならない、縛り付きの言霊を発した。
「…称しなさい。あなたは、誰?」
その刹那、周囲に雷光が
「サト アオバ」
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