少女がくれたクリスマス

T_K

少女がくれたクリスマス

「死ぬって一瞬なんだろうな。ここから飛び降りれば、全てから解放されるんだ」

「ねぇ。おじさん。何してるの?」

「えっ!?」

「ねぇ、おじさん、何してるの?」

「いや、俺は今から・・・。君こそ何してるんだよ」

「私はここに住んでるから」

「あぁ、このマンションに住んでるのか」

「おじさん、今ここから飛び降りようとしてたでしょ」

「・・・。いつから見てたんだ?」

「ん。最初から見てた」

「あー。マジかよ」

「ねぇ、おじさん」

「あ、あのさ。おじさんはやめようよ。まだおじさんって年じゃないし」

「じゃぁ何て呼べばいいの?」

「せめて、お兄さんとかさ」

「じゃぁ、お兄さん、何で飛び降りようとしたの?」

「なんでって。子供に話すような事じゃない」

「いいじゃん。どうせ死ぬんだから」

「そう言われると死に辛いわ」

「ね、なんで?」

「会社で色々あってさ、彼女にも振られたし、もうどうでもいいかなってさ」

「ふーん。大人って大変だね」

「そうだよ。大人は大変なんだよ」

「でも、もう少しでクリスマスだよ」

「あー、そうだな。後5日でクリスマスだ」

「クリスマス楽しんでから死んでも遅くないでしょ」

「そのクリスマスが余計憂鬱なんだよ。彼女に振られたばっかりで一人だぞ。

ロンリークリスマスなんだよ。あー、子供にこんな事言っても仕方ないか」

「一人でもクリスマスはクリスマスじゃん」

「子供にはわからないんだよ!一人で過ごすクリスマスの辛さが」

「ふーん。じゃ、私一緒にクリスマスしてあげるよ」

「は!?」

「やっぱおじさんじゃん、耳遠いんじゃん」

「聞き返したんだよ!」

「だから、クリスマス一緒にお祝いしてあげるって言ってるの」

「なんで、君みたいな子供とクリスマス一緒にいなきゃいけないんだよ」

「そんなだから彼女に振られるんじゃない?」

「なに!?」

「で、どうするの?私はクリスマスもここに居るけど」

「わ、分かったよ。ここ以外死ねそうな所知らないし。

クリスマス終わったら死なせろよ!」

「うん。約束する。クリスマス終わったらね」


「あーもう、死ねないどころか変な約束までしちゃったよ。

ま、明日死ねば良いか。明日は平日だし、昼間に行けばあの子もいないだろう」


「よし、いないっと」

「よし、いるよっと」

「わ!?」

「何約束破ろうとしてるの?」

「お前、学校行ってねぇのかよ!」

「お兄さんも学校行ってなかったの?もう冬休みだよ」

「あ、あぁ。そうだった!」

「ね、お兄さん。約束破る気だったでしょ」

「あ、あぁ。その通りですよ。約束破って死ぬ気でしたよ!」

「子供との約束破るなんて大人じゃないなぁ」

「ぐ、本当に何も言い返せない」

「後たった4日じゃん。クリスマスまで。今までの辛い人生と比べたら、

たった4日くらい余裕でしょ?」

「お前、時々大人びた事言うよな。一体何歳なんだよ」

「さて、何歳に見える?」

「合コンみたいな質問するなよ」

「一回で当てないと教えてあげないからね」

「ガキっぽいけど無駄に大人びてるから9歳!」

「ぶー!残念でした。正解はその内教えてあげる。

あ、でもクリスマス終わったらお兄さん死んじゃうから判らないままだね」

「なんだよ!教えろよ!」

「はずれたんだから今日は絶対に教えない」




「お、今日もいるのか。お前、いつもここに来てるのか?」

「うん、大体毎日ここにいる」

「家で遊べばいいじゃん」

「家に居ても一人だしつまんない」

「友達とかと遊べばいいじゃねぇか」

「お兄さんに言われたくない。お兄さんこそ友達に相談すればいいじゃん」

「いやー、なんていうか、こういう死ぬとかの重い悩みって相談し辛くないか?」

「それと一緒、子供だから友達と一緒に居れば良いって程簡単じゃないの」

「お前、達観してんなー」

「たっかんって何?」

「おとなだって事だよ」

「じゃぁ、お兄さんよりも大人ってことだね」

「はいはい。そうだねー。君は俺なんかよりずっと大人だねー」

「む、今子供扱いしたでしょ」

「ははは、バレたか」

「そんなだから彼女に振られるんだよ」

「それは関係ないだろ!」

「関係あるもーん」


「おー、やっぱりいたいた」

「人を雨上がりのかたつむりみたいな言い方しないで」

「はは、悪い」

「明日はクリスマスイブだね」

「な、お前んとこは、その、サンタクロースさんは何かプレゼントくれるのか?」

「おばあちゃんがくれるよ。プレゼント」

「あー、そういう家庭ね、オーケー」

「今年はサンタさんも来てくれそうだけどね」

「お、おぉそうなのか」

「ね。お兄さん」

「お、おぉぉぉぉ!?俺がサンタさんなのか!?」

「約束したじゃん、クリスマス一緒にお祝いしようって。

じゃぁ、お兄さんがサンタさんになるに決まってるじゃん!」

「あはは、お前、初めからそういうつもりだったんだろ!」

「えへへ。バレちゃった」

「まぁ、いいよ。ここ数日、何だかんだで楽しかったし。で、何が欲しいんだ?」

「お花がいいな。白とか黄色とかピンクの可愛いヤツ」

「花?そんなのでいいのか?もっと何かこうおもちゃとかさ」

「いくつだと思ってるの?」

「だから9歳」

「お兄さんには多分一生当てられないだろうね。年齢」

「うっせえ!」


「いよいよ明日はクリスマスだね」

「そして今日はクリスマスイブだな」

「明日の朝、サンタさんが来るんだよ」

「そうそう。でも、ケーキは今日来るんだよっと」

「え。何これ」

「クリスマスケーキ。ま、ちょっと小ぶりだけど」

「私、頼んでない」

「ん、頼まれた覚えもないけどな。一人で食べるより、良いだろ。

ほら、お前の分。半分こな」

「あ、有難う」

「んー。クリスマスケーキってどれも同じ味がするよなー。

代り映えしないショートケーキって感じ。ま、それが良いんだけど」

「うん。そうだね」

「ん、どうした?食べないのか?」

「ううん。何か勿体なくて。後で食べる」

「そっか。ま、温くなると美味しくないから、家で冷蔵庫に冷やしてから食べな。

今、無理して食べろとは言わないから」

「うん。有難う」

「もう、本当にクリスマスって感じだなー。どこもかしこも」

「いいよね。クリスマス。どこを見てもキラキラしてて」

「そのキラキラは一人身だと結構辛いんだぞ」

「ふーん。そういうものかな。独りはいつでも辛いと思うけど」

「クリスマスとかは特別辛いんだよ」

「じゃぁ、今年は辛くないね」

「ん、あはは。そうだな。辛くないな」

「明日、絶対来てね。サンタさん」

「分かってるよ。サンタさんは良い子にしてる子へは、

プレゼントを届けに来るんだからさ」



「おーい。サンタさんが来ましたよー。あれ、あいつまだ来てないのか」


「暫く待ってみるか」


「なんだよ、あいつが来いって言ったのに」


「ん、手紙?なんだこれ」


「お兄さんへ、ずっと嘘をついていてごめんなさい。

私は、もうここにはいません。私はお兄さんより先にあっちの世界へ行っています。

お兄さんがここに来るまで、私はずっと一人でした。

誰もお見舞いに来ないし、誰の記憶の中にも残っていませんでした。

でも、お兄さんがここで私の声に気付いてくれて、私は一人じゃなくなりました。

私は、クリスマスイブの夜に亡くなったそうです。あっちの世界でそう聞きました。

お兄さんが私と話してくれたお陰で、私は無事天国に行けるそうです。

この手紙も、最後のお願いで特別に残してもらえたものです。

お兄さん、本当にありがとう。

もう来なくても良いけど、

最後のクリスマスプレゼントだけは、もらっちゃおうかな。

この手紙の側に置いといてください。

あっちの人の話では、後で受け取れるそうです。

お花、楽しみにしてるね。

ねぇ、お兄さん、何してるの?お兄さんはこんな所で死んじゃダメだよ。

お兄さんは、私が遊べなかった分、いっぱい遊んで。

私が出来なかった事、いっぱいいっぱいしてから、こっちに来てね

こっちに来たら、

今度は私がお兄さんにクリスマスプレゼントを用意して待ってるから」


「ははは、そんな事だろうと思ったよ。

なんだよ、結局一人ぼっちのロンリークリスマスじゃねぇか」


「ねぇ、お兄さん、何してるの?お兄さんの居場所はここじゃないでしょ」


「あぁ、分かってる。有難う。これ、サンタさんからのプレゼント。

あっちでちゃんと受け取ってくれよな。ケーキも食べろよ!

また、来年来るからさ」

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