黒幕は龍ではなく、星読み人だと誰が想像するのであろうか?

 雪が溶け洛陽までの時が少しずつ延び続けている中にまだ明けてたまるか…と主張する様に夜風は北から運ばれている。

くるりと後ろに目配せば“絢爛豪華”という言葉を凝縮した様な煌びやかでどこか危なげな雰囲気が室内を満たしていた。


 今宵、各種族の貴族,権力者が一堂に会する日なのである。



 …さて、堅苦しい説明も物語進行者ストーリーテラー気取りの口調もそろそろ、飽いてきた所だから、ここでおしまいにしよう。僕は、リヒト。リヒト・ドラッフェ。龍族の龍人っと呼ばれる分類の生物だ。この国には数多くの種族が住み共生している…俗に言う『合衆国』や『共和国』の分類に入るかな?さっきも言ったけれど多くの種族が共に暮らている国を統べるには、多くの困難、価値観の尊重や共有をしなくては成りったって行かないからね。だから、こうやって定期的に会合や夜会なんかを開いて情報の共有と相互に理解に勤めているんだ。



 ーーなんて言えば、聞こえはいいけれど…まぁ、要するに『権力者同士の腹の探り合い』や『武勇伝や豪遊を自慢する』場所ってこと。まったく..いつの時代もこれだけは変わらない。知性的な生き物っと言うのは不思議だね。

 …ん?なんで僕が、此処にいるかって?言っただろう?此処は『貴族権力者の集まるがっかりな会』なんだって。とても残念な事に僕もその端くれであって、この身体にその血筋ショウメイが流れていてるんでね…でも会の参加自体は、任意ではあるんだけれど。

 僕の目的はアッチで皆が躍起になって腹の探り合いや自慢話をする訳じゃなく、た只々純粋にあるモノとの再会と談笑を……ね。


「…こんな所にいたのか?リヒティ」

「…ほら、きたよ」

「…何と話しているんだ?」

「別に?待ってたよ。子爵…いや次期公爵さま?」

「あぁ、これはこれは痛み入る…次期皇帝閣下殿?」

「「……………………」」


 暫しの沈黙。お互いに真剣な表情で相手の表情を伺うあ、もうダメかも…

「ふふふふふふ…ごめんね。こっちにおいでよ、ガーネット。」

「はっはっはっ…構わないさ、いつものことだろう?」


 さぁ、紹介しよう。僕がこの下らない夜会に参加する理由である親友で悪友のマウント・ガーネット子爵だ。因みに彼は、吸血鬼という種族で、基本貴族階級者が多い種族でもある。吸血鬼の説明は…まぁ追々ね。


 僕らの付き合いは幼少の頃から、ほぼ半世紀っと言っても間違いないんじゃないかな?

 彼(否、種族と言った方が良いかもしれない…)はとても伝統やしきたりを重んじる節があるから、毎度毎度己が住むイチイが生い茂る田舎から、この近未来都市へわざわざ出てきている。しかも魔術の類の空間移動ではなく、これまた仕来りとかだそうだけれど、馬車に乗ってだ。多分、時間にしたら…半日以上掛かるんじゃないかな…僕だったら、絶対に出来ないしやろうとも思わない。

 そんな、律義者の友を揶揄い…おっと失敬。迎え入れて気がれなく話したいっと思う事は普通だと僕は思うんだよね。


「頼むから、突然いなくなるな。取り残された俺の事も考えてくれ」

「え?僕はちゃんと“夜風にでも当たろうよ。先に行ってるよ”って言ったじゃないか」

「お前の『言った』は世間一般では“テレパシー”っと言って伝えた事には入らんぞ…まったく………」

「あはははー」

「笑い事じゃあ、ないんだが…」

「いや随分と婦人方に囲まれて満更でもない感じだったし?邪魔したら僕、空気読めない人じゃないか!」

「……………お前、本当にそう思ってるのか?」

「ふふふ。あぁ、思ってるとも」

 ほらほら!見てよ!この少し呆れてる様な少し疲れている様な表情かおっ。いつも紳士的でスマートな立ち振る舞いをする彼らしからぬ雰囲気!彼は真面目でお人好しな所があるからこうやって冗談を真に受けるし反応も良いから、つい……ね?


「はぁ…それはお前の悪癖だぞ。リヒティ…」

「そうかな?僕は、チャーミングで愛されキャラっぽいなって思ってるんだけれど?」

「そういう所が、だ。思ってもない事を口からハラハラ出すんじゃない。」

「へへへ。まぁ、“愛されキャラ”は思ってないけれど」

「俺にしたら、“チャーミング”っというのも大分違う気がするがな」

「わお。ガーネットそこ言っちゃう?」

「あぁ、言っちゃうぞ?」

「「………………」」

「…ちょ、ガーネット、“言っちゃうぞ”はないよ。ガーネットが“言っちゃうぞ”って…………くっふふふ」

「あぁ…俺も今のは鸚鵡返しとはいえ、己が品性を疑うな」

「今の冗談クダリ、さっき物凄く君にアピールしてた淑女さんの前でやって来たら?」

「その冗談には、乗らんからな」


“なんだ、残念”

 そう呟けば“やれやれ…”という声と一緒に小さな息を吐く音が聞こえてる。溜息を吐くなんて酷いなぁ。

まぁ、彼の事だから僕の冗談に呆れたのではなくって、こちらから振った淑女さんの事を思い出したからだとは思うんだけれど。


 僕が言うのもあれだけれど…彼は友人贔屓を除いたとしてもモテる…あ、僕もモテるけれど…ガーネットと比べるとちょっと劣っちゃうんだよね。

 彼は、この国でも希少な古代種系の吸血鬼という種族。それに加え吸血鬼一族の中でも一二を争う位の歴史ある大貴族の直系長子…つまり次期当主。それで居て、紳士的で如何にも伝統貴族を絵に描いた様な立ち振る舞いと品格。そして、容姿が万民ウケする美丈夫…つまりイケメンでダメ押しとばかりに婚礼最盛期の齢と許嫁がいないときた!そんな超が沢山つくであろう好物件を異性同性問わずに狙ってる輩も多いワケ。

 因みに…僕も種族お家柄、顔も引けを取らないし許嫁も恋人もいない好物件だよ?一応言っておくね。一応。


 …話が逸れてしまったけれど、とりあえず彼はこういった所に来ると自然と人達の注目を集めてしまう。きっとさっきの淑女さんにもひつこく言い寄られたんだろう。可哀想に…


「ガーネット。溜息つくなら、軽くあしらえってしまえば済むことだろうに」

「…何のことだ?リヒティ」

「僕にシラを切るなんていい度胸だね?」

「…なら、言わないでくれないか」

「はいはい。君のその一族の品格を守ろうとする姿は、尊敬するよ」

「…あぁ、感謝する」

「あの淑女さんは種族ドコの方だったんだい?」

「…………同胞だ」

「お、珍しい!何方の娘さん?」

「…大叔父上の」

「ちょっと、売れ残りの年上じゃん。それこそ、あしらうべきだよ」

「…歳上のしかも女性に失礼だろう……」

「…それ言い出したら、キリないよ?」

「……………わかってる」

「顔伏せて悩むくらいなら、早い所腰を落ち着ければ良いのになぁ…僕が言えたクチじゃないけれどさ」



 ーーー例えば…


 ーーーそう、例えば…






「最近、越してきた不良修道士くんとか…」

「…!?」

「ん?どうしたんだいガーネッ」

「何故、お前がそれを知ってる!」

「…はい?」

「貴様、彼程…先読みの類を俺に使うなと言ってるだろう!」

「……あぁ」


 あちゃー…ついポロっと本音が出ちゃったみたいだね…ちょっと。ガーネット、怖い。凄い鬼…というか吸血鬼カイブツの形相なんだけれど。そう言えば、あの事は彼に話してなかったんだ…参ったなぁ。


「リヒティ、質問に答えろ。返答次第では、貴様を咬み殺す」

「わぁ、吸血鬼に咬み殺される龍人とか笑えないよ」

「………………」

「あぁ、ごめん。今の……チョイスは…場違い、だった、かな」

「…答えろ」

「………ッッまず、この、両手、を首から…は、し、て、ほ、しい、な」

「………」

「………げほっ…げほっ………ありが、とう」


 …まさか此処までとは、思わなかった首筋と気道が痛いし苦しい。さて、どうしょうか…


「………リヒト」

「…うん、確かに君のことを視たよ」

「…………っ」

「…ま、て、ーみたー、け、れど……………」

「なんだ、この神落ち仔…」

「きみが、女性…修道士、を、おもってる、って、感情、だけだ。誰かまで…は………」

「嘘偽りは?」

「我が…叡智に、かけて…な、い!」

「………次はない、良いな?人でなし」

「…っは、は、は………」


 とりあえず、本当の意味で首の皮一枚繋がった。

そんな事より血の味を知らない筈の彼が血の味ソレの味を知った怪物の様だった事に僕は驚いてる。これが彼を怪物と言わしめる理由の一つなのかもだけれども。


「…!リヒティ!すまない!大丈夫か!?」

「あーーーー割と駄目かな…」

「…すまない。なんとあぁ、謝罪すれば…」

「良いよ。お互い様さ。それにー親友だろう?僕達」

「あぁ…本当にすまない…」

「いいよ。その代わりと言ってはなんだけれど…」

「あぁ、せめてもの詫びだ。何でもするさ」

「……さっきの“言っちゃうぞ”のクダリ、あっちで一緒にやってよ!」

「なっ………待て……」

「ふふふ、冗談だよ」

「まったく、お前は…」

「へへへ。まぁ、“言っちゃうぞ”が出来ないなら、話して欲しいな?君のお姫様ゲッティンの事」

「……………………はぁ、茶化すなよ」

「勿論!親友の恋路を笑う程、性格悪くないよ」

「どうかな?」

「もしかしたら、僕が君達のエンゲルかもよ?」

「…そうかもな」

「だろ?さぁ、話して!」

「…あぁ。」

「それで、彼女とはどこで会ったの?」

「我が屋敷だ」

「ぇ!まさかガーネット…誘拐?」

「ち、違う!断じて違う!」


 …………ふぅ、良かった。

 何とか彼の表情も雰囲気いつものものになって良かった。只、彼にとってこの話題は禁句タブーな訳だ。心しておこう。

 


 …………そして、ごめんよがマウントガーネット我が親友子爵よ。僕のー叡智ーに掛けたが、ー我が神聖ーには掛けれなかった事は許して欲しい。


 万民は救われるべきだ。それが大罪を侵したモノであろうと怪物であろうとね。それが親友であるな尚更だ。


 どうか…僕が観て詠むこの星々の元にいる間だけは、彼が愛され幸多い事を描いてはいけないだろうか?









【黒幕はカミではなく、星読み人ストーリーテラーだと誰が想像するのであろうか?】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る