気高き狼が初めて他者を知った瞬間

《我らは誇り高き一族モノである

我らは勇猛果敢な戦士である

我らは気高き種族チスジである


我らは家族を大事にし

我らは友を家族とする

同胞の嘆きは我らの痛み

同胞の怒りは我らの慟哭

同胞の喜びは我らの歓喜である》



「何それ?」

「は?テメェ知らねぇの?」

「(テメェって…)知らないけれど?」

これだから、余所者はダメなんだ…この言葉はオレ達にとっては大切な事。正に己が人生、決意、道標であり、先人達の教えであり知恵だ。これを聞けば大抵の奴らは『あぁ…誓いの導』だと思うしわざわざ聞かない。

…だが。オレの前にいるこいつはよぉ………

『一体何のことよ?』と首を傾げ、さっきオレが祖父族長から預かって来た、荷物をめんどくさそうに物色している。嫌ならやらなきゃいいじゃねぇか…と思うオレはおかしいのだろうか…

それより、早く終わらてくれよ、この後エルフの森にも行くんだぞ。


「これは『誓いの導』って言ってだな…オレらにとっては命や生き方、そのものなんだよ」

「誓いの導…ねぇ…狼ちゃん一族の掟みたいなものかしら?」

「そんな簡単なもんじゃ…ってオレは犬っころじゃねぇ!誇り高き人狼、ドレ一族だ!次あんなのと一緒にしたら、その細っこい首を跳ねんぞ?クソ尼」

「ハイハイ。すみませんでした………ねぇ。シガーとかないの?シガー。」


こンの…クソ女ぁ………きいちゃいねぇ。

サウレの奴「シスター様は優しいくって良い人なのです!」とか言ってやがったけれどよ..オレが見るには『タダの面倒事が嫌いなメンドくせぇオトナ』って感じだぞ。えぇ?何よりどんな格好してやがる。

仮にも聖職者、しかも国だか教会直属なんだろ?辛うじて被り物…ウィンなんとかって奴被って教会ココにいるから『シスター』だけれどよ…服なんかその辺の餓鬼の方が身形を気にしてやがるぞって位、チグハグしてるしよぅ…前に居た変態牧師の方がまだ身形が良かったぞ?それか、あれなのか?新都市の聖職者はこんな輩ばっかりなのかよ……



「……ねぇ。聞いてた?人狼ちゃん。」

「あ"ぁ?んだよ!エセシスター」

「(エセシスター…)だから、シガー。人狼一族では、そう言ったもの作ってない?」

「あぁ…砂糖なんかは、エルフや人間が加工してんじゃねぇの?」

「あぁ、それは“シュガー”よ“シガー”っていうには…これ」

そう言って修道服の上から羽織っているパーカーのポケットから、何やら小汚ぇシルバーケースを覗かせてその中から1つ取り出すとオレに放った。

……なんだ、これ?性からつい鼻を鳴らしてしまった。仄かにメープル、マロンの様な香りがする…菓子か何か?にしても見てくれは、ハッキリって食いモンとしては不味そうだぜ。

「ふふふ。食べないでね?」

「食わねぇよ。見た目が不味そうだぜ。」

「まぁ…『食べたら』美味しくはないわね。これは、‘嗜むモノ’だから」

「はぁ?」

「煙草やパイプって言ったら分かるかしら?」


…………ハァ?

おいおいおい..ちっとおかしい奴だと思ってたけれどよ…煙草って…喫煙者かよ……

それって聖職者としてどうなんだ?普通、聖職者ってのは『禁欲でこの世の誘惑を断ち切って神の教えを説く者』ってモンじゃねぇのかよ……。

全く訳が分からねぇ、本当にコイツ聖職者なのか?


「…テメェ、聖職者なのに喫煙者かよ…」

「あら、減免でもした?“聖職者である修道士サマが愛煙家だなんて!オレは許さねぇぞ⁉︎”って」

「……………っは!まさか?むしろ、すっげぇ好印象だぜ。シスターサマ?」

「あら、本当?嫌われちゃうかと思ったわ…。オタク、結構お堅そうだし?」


………クスクス。


アイツこっちをワザとらしく小馬鹿にする様に笑ってやがる…けど、也と中身が伴って嫌な感じもしねぇしワザとだと解る分、聞き流せる。確かにイラっとする時もあるが..不思議と心地悪くはない。 何より『絵に描いたような偽善者ぶってる聖職者』よりよっぽど人間らしい聖職者だ。


「…あ。そうだ。人狼ちゃん」

「んあ?なんだよ、エセシスター。それと、オレは“シルバ・ドレ”っっだ!」

「じゃあ私もエセシスターじゃなくって『バニカ』よ。さっきの…えっと人狼一族の誓い?あれって“神の教え”と似てるわね」

「は?テメェらが崇める虚像や空想なんかと一緒にすんじゃ…」「“己の隣人を愛しなさい”」

「…⁉︎」

「“己が隣人を信じなさい

己が隣人を傷つけたら

己は倍に傷をつけなさい

己が隣人が悲しむなら

共に寄り添いなさい”」

「…ぇ…おい」

「ほら、似てるでしょ?シルバ・ドレちゃん」

「ぁ…そうだな…」


驚いた。ただ素直に驚いた。それは、オレの…オレらジレ一族だけにある誓いだった。オレはまだ、こいつにそれを話してない。なんとなくだけどよ…こいつも捻くれて腐っても聖職者だっと思い知らされた…


「だから、私もオタクを愛して、信じるよ。誇り高きジレ一族の子よ。」

「………………応」


まるで迷い子を導く様な微笑む。

その後、照れ臭そうににっこり笑ってから、ガシガシと痛いくらいに頭を撫で‘次回はシガー仕入れておいて。よろしく’と注文までして来た。久方ぶりに頭なんて撫でて貰ったな…何となくくすぐったい。少しだけ、他者を信じるという意味を知った気がした。



《我ら一族は、他者を受け入れる


我ら一族は、他者を信じる


我ら一族は、他者を敬愛する


此れ乃ち 家族の在り方


此れ乃ち 仲間の存在


此れ乃ち 一族の繁栄 也》



オレは、シルバ ・ドレ。

誇り高き人狼、その中で最も気高きドレ一族の者だ。


誓いの導にある“他者”というのが全く持って分からねぇが…こいつを他者1号にするのも悪くねぇと思う。






【気高きモノが初めて他者ヒトを知った瞬間トキ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る