淡々と短々

裳下徹和

第1話 理想の子供

「その子供は生かしておけない!」


 襲撃者は、そう叫んで家の扉を破ろうとしている。

 言葉を話し始めたばかりの我が子は怯え、泣き声を上げ始めた。

 長年苦労して、ようやく手に入れた我が子だ。殺されてなるものか。

 襲撃者は、堅牢な玄関の扉は諦め、家の裏手に回った。


「その子供は自然の摂理に反する存在なんだ! 生きていてはいけないんだ!」


 鬼気迫る声をはりあげ、窓の外のシャッターを叩きつけている。そこまで耐久力は高くない。壊されるのは時間の問題だ。

 私は、震える子供を抱き上げ二階へと上がり、一室に身を潜めた。


「ぱぱ。こわい…」


 腕の中の我が子は、強くしがみついてくる。柔らかく温かい。苦労して手に入れた理想の我が子だ。たどたどしく歩く姿など愛おしくて仕方がない。絶対に守ってみせる。

 シャッターと窓が破られた音がした。続けて階段を上る音が聞こえてくる。

 手荒くドアが開き、襲撃者が姿を見せた。

 息を乱し、汗で髪がへばりついている。手には大きなハンマーをぶら下げ、目は狂信的な光で輝いていた。


「その子には未来はない。いや、未来に残してはいけないんだ!」


 襲撃者はハンマーを振り上げた。

 私が反撃するとは思っていなかったのであろう。私が隠していたナイフで腹を突き刺すと、振り上げたハンマーを取り落とし、襲撃者は崩れ落ちた。


「ぱぱー!」


 走り寄ってきた我が子を抱き寄せる。守り切った安堵と愛おしさが込み上げてきた。

 この子は遺伝子操作とクローン技術により生み出された子供だ。知能も身体も二歳児程度までしか発育しない。寿命は短いが、子供の愛らしい時期だけがずっと続くのだ。死んだらまた新しい子供を育て始めれば良い。私が作り上げた人類の叡智だ。

 襲撃者が、口から血を吐きながら何か言っている。

「それをしてはいけないんだ、父さん…」

 こんな反抗的な人間に育つこともないのだ。

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