あたしの処女膜に転生した魔王が「ツっ込まれたら死ぬ!」とやかましい件について

相上おかき

第1話


 吾輩わがはいは処女膜である。名前は魔王ディグラム。

 どこで生まれたかを問われたら、吾輩は異世界と答えるであろう。

 異世界の魔導を用いて、地球に転生してきたのだ。


 処女膜の吾輩だが、前世の記憶は鮮明である。

 畏怖と敬意の狭間を生きて、世界を制する魔王軍を率いた栄光は色褪いろあせない。


 戦争は、吾輩の率いる魔王軍が優勢であった。

 破竹はちくの勢いで侵攻を始めた魔王軍は、世界の全域で敵軍を駆逐し続けた。

 開戦当初の目論見もくろみどうり、魔王軍の勝利は近いと思われた。

 だが、想定外の事態が発生する。

 吾輩と敵対する帝国軍に、看過かんかしがたき強敵が出現した。


 ――勇者である。


 勇者は、手強い敵であった。

 タフで、素早く、ヘビー級の拳を持つ。

 最高に忌々しい存在だった。


 侮りがたし勇者だが、無敵のバケモノではない。

 しかし、勇者との戦いで生じる十数万名に及ぶ損害は許容できなかった。


 悩んだ吾輩は、勇者の無力化を選んだ。

 試作の異世界転生魔法を用いて、勇者を別世界に送り込むことにしたのだ。


 術者を中心とした効果範囲内にいる人間を、別世界に転生させる魔法である。 

 当然、吾輩も転生対象になるが仕方ない。

 元々、術者だけを異世界に転生させる魔法だ。

 それに吾輩ごと勇者を巻き込めば、致し方ないであろう。


 こうして吾輩と勇者は、魔法で異世界に転生した。


 転生先の地球で、吾輩と勇者は別々の赤子に生まれ変わるはずだった。

 しかし、想定外の事態が発生した。

 最悪の事態を克服するには、吾輩が勇者の肉体に宿り同化するしかなかった。


 そこで、ひとつ問題が発生した。

 はたして、吾輩は肉体のドコに宿ればよいのか?


 吾輩の御霊みたまが憑依した部位は、本来の機能を失うかもしれないのだ。


 だから、心臓や脳など重要臓器は却下。

 瞳とか皮膚は見た目が変わると可哀想だし、外に露出する部分もアウト。

 ふと思いついた「左乳首」だが、勇者が転生したのは女の子だ。

 女の子なら、将来きっと必要になるであろう。

 完全無欠の左乳首案は、このような経緯で却下された。


 タイムリミットが近づく中、吾輩は候補を絞っていく。


 人体において

→他人に見せることが少なく

→無くなっても生命活動に支障がなくて

→女の子だけに存在する邪魔な器官で

→むしろ無くしたら自慢できるかもしれないパーツ


 それは、


( 処 女 膜 し か な い !)


 こうして吾輩は、持てる魔導の全てを用いて。

 鳴瀬なるせ美海みうと名付けられた、かわいい赤ん坊の処女膜に宿った。


 それが、だいたい十六年前のこと。


 かつて魔王と畏怖されし吾輩が、仇敵きゅうてきの処女膜に憑依する奇妙な共同生活。

 それは、今も続いているが。


 ――おいっ!

 ――二度寝から目覚めろ、寝ぼすけ娘がッ!

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