おくびょうなぼく

月乃

おくびょうなぼく

「あなた、とってもなのね」


 お母さんによく言われていた言葉です。ぼくはとってもおくびょうでした。

 ぼくには兄弟がたくさんいたけれど、おくびょうなのはぼくだけでした。


 一番上のアルファ姉さんは、とっても強くて、ぼくの自慢でした。凛々しくて、かっこよくて、勇ましくて。いつも先頭にいました。


 その分、ベータ兄さんは慎重だったなあ。いつどんなときでも冷静で。物事を客観的に分析して、僕たちを導いてくれました。何も考えずにつっぱしるアルファ姉さんとは真逆の性格で、よく喧嘩していました。


 ガンマとデルタは双子みたいに仲がよくて。いつもじゃれあっていました。すごく息が合ってて。おいかけっこであそんでる時には、いつも気がつかないうちにはさみうちをしていて、とっても強かったなあ。


 ぼくたち兄弟は24人。みんなと仲が良かったわけでもないけど、いつもわいわいしていて楽しかったです。


 ぼくは兄弟の一番下、末っ子で「オメガ」と呼ばれていました。おくびょうオメガ。そう言って罵ってくる兄弟もいたけど、アルファ姉さんやガンマ兄さんは一番下のぼくのことをいつも気にかけてくれました。それに、お母さんはいつもぼくにやさしくしてくれました。


 みんななかよく、まいにちまいにち、おいかけっこをして遊びました。


 ある日、お母さんが言いました。


 「明日はお外であそびましょう」って。


 お外であそんだことなんてなかったから、ぼくたちはとってもたのしみにしていました。


 そして、次の日の朝。ぼくたちはお外にでかけました。いつものおいかけっこであそびました。


 だけど、その日はいつもと違って鬼さんがたくさんいたのです。数え切れないくらいに。ぼくたちは、その鬼さんにつかまらないように、ひっしににげました。ルールはいつもと同じで、鬼さんを倒したらぼくたちの勝ち。


 いつもおいかけっこはすぐにぼくたちが勝っていました。でも、あの日は違いました。アルファ姉さんが次々と鬼さんにミサイルを浴びせても。ベータ兄さんがみんなに的確な指示を出しても。ガンマとデルタが鬼さんをはさみうちにして爆弾を投げても。鬼さんはなかなか減りません。


 鬼さんは、とっても強かった。アルファ姉さんは自分が放ったミサイルとは比べ物にならないくらいにたくさんのミサイルを浴びて。ベータ兄さんは隠れていたのが見つかって。ガンマとデルタはさらに鬼さんにはさみうちにされて。他の兄弟もつぎつぎと負けていきました。


 でも、ぼくはおくびょうでした。


 あまりにおくびょうだったので、お外からおうちに逃げ帰ってしまいました。



 他の兄弟が帰ってくることはありませんでした。


 お母さんは、お父さんと「作戦は失敗だった、実戦投入が早すぎたか」「敵から逃げやすいように恐怖心を大きくさせすぎるとかえって戦闘に参加しなくなるのか」「さらに改良しなければ」「お国からの命令だ、開発を急がなければ」とか、なにやら難しそうなはなしばかりしていました。


 ぼくは、お母さんに怒られると思って、おうちのすみっこにいました。すると、お母さんが僕のほうに来て、こう言いました。


「あなた、とってもなのね。戦闘用自律型飛行ロボット24号機Ω」


 カチッ、と背中のスイッチが押された瞬間、ぼくの意識はなくなりました。


 最後にみたお母さんは、なぜか、少し、悲しそうな顔をしていました。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おくびょうなぼく 月乃 @tsuki__

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ