背中 さんじゅうろく
庭は相変わらず鬱蒼とした木々のせいで太陽の光が遮られ薄暗い。
「で? どこを探すんだ?」
投げやりに尋ねる刑事に、斗真がシャベルを手渡す。
「おいおいおいおい、まさか、庭中をこれでほじくれって言うつもりじゃないだろうな」
「まさか」
さゆみは準備してきていた軍手をはめる。
「怪しいところだけです」
「怪しいところってどこだよ、具体的に」
斗真が自分用のシャベルを振りながら答える。
「刑事さんの方が、そういうことは詳しいんじゃないですか」
「残念ながら、俺は生活安全課の刑事さんなんだよ。行方不明者捜索だとか犯罪予防が任務だ」
「それでも、素人よりは詳しいですよね」
さゆみと斗真は、刑事をじっと見つめる。
「……まさか、俺頼みで探すつもりか?」
さゆみがぺこりと頭を下げる。
「よろしくお願いします」
刑事は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。ぐるりと庭を見渡すが、木々に阻まれて狭い範囲しか見通せない。
「まず、生きていることはないよな、『背中』の男どもは」
ひとり言のように呟く刑事の言葉に、斗真は几帳面に答えていく。
「可能性は限りなく低いと思います」
「木の上に証拠品を引っ張り上げるってのは、実際的じゃないよな」
「そうだと思います」
「そんなことくらい、あんたたちだって考えてるじゃないか。シャベルなんか用意しやがって」
「問題は、どこを掘ればいいか、なんです」
「何かを埋めたところを掘ればいい」
「たとえば、あそことかですか?」
木の陰に、小さな花壇が見えている。枯れ落ちた何かの茎だけが、にゅっと伸びている。
「掘ってみるか」
それから三人で手分けして、庭の地面を観察して回った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます