第一章 Forgotten memory

序章

――

 俺は【少女たち】の一人を殺したことがある。



 拳銃の銃口を自分よりも幾分と幼い少女の額に押し付けて、冷たい引き金に指をかけていた。

 夕焼け色に染まる空の上でカラスどもが煩く泣き喚いていた。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 目の前の。侵略者どもと同じ銀色の髪と緋色の瞳を持つ少女は、薄っすらと朱く染まる頬に涙を流しながら。カラスに負けないくらいの声で懇願する。


「こんなことするつもりじゃなくて! 違うんです! あの人たちが襲ってきたから、それで思わず突き飛ばしてしまって……。こ、殺すつもりじゃ! だから許してください!」

「故意だろうが過失だろうが関係ない。殺してしまった時点でお前らは死罪だ。そんなこと、お前が一番わかっているはずだ。……どうあれ、突き飛ばした時点で罰は必至だが」


 彼女たち【偽物のイミテーション・子どもチルドレン】に人権などないに等しい。

 犯されようが何をされようが抵抗する権利すら与えられていない。

 彼女たちは人間に危害を加えた時点で罪なのだ。


 目の前で震える少女。彼女から少し離れた地面に、頭から血を溢れさせて動かない成人男性が倒れていた。

 少女が突き飛ばした時、頭を強く打ってしまったのだろう。

 偽物の子どもにはそうなるほどに大人を強く突き飛ばすの力があるのだ。


 もしもイミテーション・チルドレンが殺人を犯した時、俺たち軍人はその場で射殺することを義務つけられている。だから俺が目の前の侵略者どもに似た少女を殺すことは罪ではない。

 ごめんなさい。そう繰り返す少女の襟首を掴む手にさらに力を入れて、黙らせるように壁面へと彼女の背中を押し付ける。


「謝罪の言葉はもう無意味だ。……死ぬ前に言い残すことはあるか」

「なんでもしますから! 痛いことだって、えっちなことだってします! だから許してください」

「そんなことは聞いていない」

「お願いです! まだ死にたくない! ……やりたいことがあるんです。なりたいものがあるんです! ……だから。だからお願いします!」

「なりたいもの? なにになりたいんだ?」

「……絵本を。絵本を作る人に、なりたいんです」


 答えれば許されるとでも思ったのか、少女は素直に答えた。

 俺は……。

 俺はその時何を思ったのか。それは憶えていない。

 けれど、口にした言葉は憶えている。


「なれるわけないだろ。お前らは一生、死ぬまで兵器として生きるんだから。やりたいことも将来の夢も、お前ら偽物の子どもには不要だ。……お前の夢はなくなった。これで死ねるだろ? さあ、最期の言葉を吐け」

「い、いやだ……。死にたくない……死にたくないよぉ」


 乾いた音が夕焼け空に響いた。

 頭から血を溢れさせながら、少女はすでに動くことを止めていた。

 彼女の頬を最期の涙が流れていった。

 色を失った少女の瞳が俺を見つめていた。

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