8 狼の相応

「透先輩。透先輩!」

窓際で倒れこむ透に声をかける。

「もー先輩。喘息持ちなら言ってくださいよ!」

聞き覚えのある声が透の耳に届く。

「ゆう…き。お前…だいじょう…ぶ…げほっ………」

「ちょっと、はい!しゃきっとして!」

体勢を起こし、ビニール袋を持たせた。しばらくすると、透は楽そうに呼吸を繰り返していた。

「歩けます?」

と聞いておきながら、強引に透の手を引いた。連れていかれた先はさっきとは明らかに違う異常な快適な空間。

「おい…ここ」

「あーはい。閉じ込められている間暇だったんで、掃除したんです。そうしたら、先輩の匂いがしたので、出てきたんです」

と余裕の表情で笑った。透は深い溜息をつくと、祐希をじっと見た。

「お前、鼻大丈夫か?」

「はい。不思議なくらい快適です。ここには嘘なんてない。真実だけです。なのに、皮肉なもんですね…」

「だな…」

透もまた笑顔になる。それが嘘か誠か。祐希はそれを見抜いていたのかもしれない。それは透も例外なく…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る