第七章 灰狼達の宴

1 狼の嘆き

『出動命令。出動命令。殺人事件。×〇地区×△番地。一軍。レベル五』

もう聞き飽きてしまったレベル五の放送。二人は透を置いて、車を走らす。曇り空。冬の寒さが一層増す。白い息をなびかせながら、現場に足を踏み入れた。またしても大量殺人の模様。死体に丁寧に被せてあるビニールを少しめくり、仏を拝む。空の顔が険しくなった。おもむろに眼鏡を外し、胸ポケットにそっとしまう。

「ちょっと、ちょっと。シャレになんないでしょ!これ!」

隣で零が大声を上げ、立ち上がる。その声に野次馬達が一層ざわめいた。

「現場で騒いだら駄目だよ」

静かな声で窘める。

「空!なんであんたそんな冷静に…」

零の言葉が途中で止まる。いつも笑っている空が見せたことの無い怒りの表情。声を荒げるでもなく、歯を食いしばるでもない、静かな「怒り」は辺り一帯を取り込み、零の口を硬直させた。白目にも見えるほど、目を見開いていた。まるで、そこにある全ての情報を取り込むかのように。零にはそれが、完成された彼の殺意に見えた。そして、決して感じることの無かった恐怖が芽生えた。雲がソラを覆い、太陽に蓋をする。光が届かなくなった地にポツリポツリと恵みの雨が降り注ぐ。雨が頬を濡らし、落ちるたびに傷つけていった。雨の音だけが空の耳に届く、自分のむせび泣きが聞こえなくなるくらいに…

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