3 狼の潜在
「そういえば、先輩達はどんな能力を持ってるんですか?」
二軍の伊織が口を開く。そして、透の頭上にはお仕置きの跡が。
「うーん。話すより見せる方が早いかも」
空は鞄から眼鏡を取り出し、伊織に渡した。
「この眼鏡ケースを何処かに隠して。範囲はこの旅館全体」
受け取った伊織は不思議そうな顔をして、ケースをクルクル回して見ている。空は部屋の端により、目を瞑った。その後、部屋を出る音が聞こえた。
「いいですよ」
伊織が空の肩を叩いた。空は立ち上がると、眼鏡を外し、辺りを見回した。おもむろに足を動かし、迷いなく布団が入っている戸を開けた。布団によじ登り、上を開ける。伊織達は口をあんぐりと開け、見ていた。埃っぽさにしばらく咳き込む。裏に手を突っ込むとケースを引っ張り出した。よっと飛び降り、伊織に見せた。
「凄い」
と声が漏れる。空は踵を返すと透の手を引いた。
「次は君の番だよー」
「はいはい」
空は伊織達に笑いかけると
「なるべく遠くにね」
と言った。伊織は頷くと部屋を出て行った。
「よっしゃー行くかー!」
透は肩を振り回し、そのまま部屋を出て行った。三分ほど経っただろうか。透がケースを持って帰って来た。それも何故か、足音をズカズカと立てて。すると突然伊織を捕まえ、頭を拳でグリグリとし始めた。かなり痛いあれだ。
「お前!とんでもないとこ隠しやがって」
「どこに隠されたの?」
「古い倉庫の奥。全く。暗くて不気味だったぜ」
透は体を震わせた。空はふーんと呟くと後輩達へを体の向きを変えた。
「まっ、というわけで、僕は眼鏡を外すと異変が起きてる場所が分かる。透はとても耳がいいんだ。聞き分けも素晴らしい。Are you OK?」
「OK!」
珍しくノッた空に皆んなが合わせる。その後、お互い顔を見合わせ、笑い合った。
「よしゃぁー!怖い話すんぞお!」
大声を上げて零が男子部屋の戸を乱暴に開けた。男子全員目を丸くする。
「は?零。今から寝んだよ。そんな…」
「いいんじゃない?」
透の言葉を遮るように空が同意した。空はニヤニヤしながら透を見ている。
「透くーん。怖いのー?」
そして、零もまた。
「は?別に怖くねーし」
透は無理矢理笑顔を作った。
「じゃあ、始めるぞぉー!」
大声を上げて電気を消した。部屋はすぐに真っ暗闇になったが、零が事前に持って来たろうそくに火をつける。ろうそくは淡い赤色を放って狭い空間を照らしている。零は声を潜めて語り始めた。
「ある、夜中のこと廃病院で………振り向くとそこには」
「ちょっと痛い痛い痛い」
良いところで空の叫び声が聞こえた。
「どうした?幽霊に髪でも引っ張られたか?」
「違う違う。透が僕の服を皮ごとつねってる」
零は慌てて部屋の電気をつけると、空の歪んだ顔の後ろで透が震えている。零はスキップして、そちらに近付くと透の頭を撫で、
「透君、怖かったんだね」
と哀れみの目を向けた。
「ちげーし。火の粉が目に入ったんだよ」
透は鼻をすすると涙目になっている瞳を隠すように空にしがみついた。空は満足したように目を細めた。その後は、皆透をからかうように怖い話をして、子供のように泣き疲れた透は眠りについた。女性陣が去った後、布団を丁寧に並べ、他の皆も目を閉じた。窓から見える月は、とても静かに美しく輝いている。まるで、嵐の前のように。
「なーなー空」
声を潜めて、透が肩を叩いた。
「何?トイレ?ついて来てってこと?」
「ちげーよ」
と空の目を平手打ちした。
「痛い」
「この旅館俺たち以外客いねぇよな」
「そのはずだよ」
透は唇を一文字に結んだ。空はその横顔を不思議そうな目で眺めていた。
「何かあったの?」
「何か、俺たち以外の声が聞こえる」
空は布団から少し身を乗り出す。
「透…まさか、幽霊の声まで聞こえるように?!」
「ちげーよ」
再度、空の目を叩く。
「何も叩くことないじゃん」
「なんか、変な感じすんだよ」
透は首の後ろをこすった。それを見た空は心配そうな表情を見せると、透の耳を叩いた。
「何すんだよ!」
「ふふ。お返し」
何故、目を叩いたのか。その理由が少し分かった気がして耳を叩いた。
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