5 狼の道

「人が多い!」

またしても叫ぶものだから他二人は咄嗟に零の口を塞いだ。だが、驚くのも無理ない。予想していた人数の二・三倍ははるかに超えていた。

「誰だよ。数十人って言ったやつ」

「だって。電話で二十人連れてこいって言ってたもん」

「それ、元の人数入れてないだろ」

「あっ」

空が今更気付いたようで間抜けな声を出した。他二人は深い溜息をついた。薄暗いビルの隙間。そこを抜けると広場に出る。そこが拠点だ。三人は隙間に身を寄せ、息を潜めている。

「よし、作戦を…」

言いかけた空を遮るように零が雄叫びを発しながら。飛び出していった。

「え…」

咄嗟のことに二人とも声が出ず、ただ茫然とその背中を見送っていた。

「いや、ちょっと待てぇぇぇ!」

後に続いて、透までも。空は溜息交じりの笑いを含んで定位置へと足を向けた。

「天誅!」

突っ込んでいった零はそう叫んでいった。不穏な空気が渦巻いている。

「フォースなめんじゃねぇ!」

続けて透も叫ぶ。その活力に押され、数人が後ずさりをした。

「まったく。静かにっていつも言ってるのに」

ライフルを構えながらポツリと呟く。けれどまあいいかと再度呟くと引き金を引いた。

銃声と刀の交わる甲高い音で情景を作り、赤い絵の具で色を塗る。様々な感情が入り交じり、混沌としている廃ビルの内。平和な日常とはかけ離れているかのように行われているその行為は人道は外道か。それは誰にも分らない。

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