灰狼達の宴 ~国家特別防衛機関 活動記録~
石松 鳰
第一章 灰狼達の理
1 狼の日常
「だーかーらー。昨日徹夜だったって言ってんでしょうがぁぁ!!」
相変わらず零の部屋から怒鳴り声が響く。それが、いつもの平和な日常だ。ここが再開してから早八年。あの事件も人々の中で時効になりつつある。ただ、今は普通に仕事をしていたい。
「ちょっと零先輩怒鳴らないで!あっ空先輩!」
空を見つけて七軍の祐希が青ざめた顔をして走っていった。
「今日は何事?」
「零先輩が外行かないって言うんですよ」
外へ行くというのは聞き込みのことをいう。
この国には精神判定というのが義務付けられている。それを違反した者や、異常が見つかった者のところを訪問する。
「零?」
部屋を覗くと、もうすでにベッドインしていた。空はふっと笑う。
「まあ、寝かしときな。徹夜みたいだったし。透呼んできて」
戸を閉めながら促すと、祐希は大きな返事をして去っていった。廊下の窓から外を眺めていると、道を行き交う人や騒がしく走っていく車の姿が見えた。ソラは子供がペンキを塗ったように青い。空は大きな伸びをした。
しばらく、その季節を味わっていると、祐希がまたしても血相を変えて角から飛び出してきた。
「次は何」
「透先輩めちゃめちゃ怖いんですけど!」
「あーー。寝起きの彼、すごく機嫌悪いよ」
と言うと、えーっと溜息交じりに呟いた。角から現れた透の身だしなみはしっかりしているのに明らかに負のオーラを放っていた。庭の植物が枯れそうだ。
「だーかーらー。昨日は徹夜だったって言ってんだろうがーーー!!!!!」
そんなことを言うものだから、空は思わず大声で笑ってしまった。
「君達ほんと似てるよね」
「は?似てねーよ。あんな女と一緒にすんじゃねぇ」
「いやいやだってその台詞ついさっき零がそのまま言ってたよ」
「あ!?」
透が零の部屋に入ろうとしたので
「はいはい行くよー」
首根っこを掴んで駐車場まで引きずって行った。
もうすでに皆揃っていて、顔を出すと、遅いです。と怒られた。五人乗りの普通車に乗り込み
「さあ行くよ」
声を掛け、車を走らせた。車は騒がしい音を立て、人の道へ出た。
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