第9話 王女が魔法学園にやってきた
ある日の教室はざわめきに包まれた。その原因は担任がまた新しく連れてきた転校生。
「おい、あの娘ステラ様じゃないか?」
「んな訳無いだろ。なんでこんな学校にステラ様が転校してくんだよ」
「でも、あの顔……どう見てもステラ様だろ」
その転校生はステラ王女に瓜二つだったのだ。しかし、普通に考えると王女が魔法学園、一般庶民の学校に転校して来るわけが無い。
「それに不自然じゃないか?短期間に転校生が二人も同じクラスに来るなんてよ」
「そうだな。三クラスあるんだから、バラけるのが普通だよな」
冷静に分析する者もいた。彼の言う通り短期間で転校生が二人来たら、後から来た転校生は別のクラスに編入させられるだろう。それが同じクラスになったという事は、何か大きな力が働いたと思うのも当然である。例えば王様の力とか……
「……って事は、マジでステラ様?」
「もしかしてドッキリとか?」
「バカかお前は」
様々な憶測が飛び交う中、転校生の少女が口を開いた。
「メィティ・エサールです。よろしくお願いします」
その名前にまたクラスがざわつく。
「ステラ様がこんな学園に来る訳無いよな」
「でも、マジでクリソツだな」
「ま、かわいいから良いんじゃね」
彼女がステラ王女なら、それは凄い事だが所詮は高嶺の花。しかし、王女では無い一般の女子なら手が届く可能性はゼロでは無い。静まる気配の無い男子生徒達。
「あー、お前等うるさい! 席は空いている一番後ろだ。ルーク、転校生同志仲良くやってくれ」
ウォレフは静かにしていたルークを名指しする。もっともルークは優等生的に静かにしていたのでは無く、突然現れたステラの姿に言葉を失い、そして彼女がステラで無かった事に対してがっかりしていただけだったのが。
「え~、マジでか」
「ルーク、良いな~」
「一回他のトコ行って、転校すっかな。そうすりゃ俺も後ろの席に……」
好き勝手な事を言い出す男子生徒達の席の間を通ってルークの隣の席に着く間際、彼女はルークの耳元で囁いた。
「えへっ 来ちゃいました」
「えっ やっぱりステラ様!?」
思わず大声を出しそうになるが、なんとか声を押さえるルーク。
「はい。でも、みんなには内緒ですよ。学園でも学園長しか知らない秘密ですから」
どうやら彼女は無理を言って転入してきたらしい。
「ですからルークも学校ではメイティって呼んで下さいね」
悪戯っぽく笑うステラにルークは引きつった笑顔を返すしか無かった。
その夜、ルークはソルドが仕事を終えて家に帰ってくるなり報告、いや、泣きついた。
「兄さん、大変だよ。ステラ様がウチのクラスに転校してきちゃったよ!」
「マジか!?」
「うん。どうしよう?」
「どうしようったって、どうしようもないだろう」
「まあそうなんだけどね。でも、いったいどうしてステラ様がウチの学園なんかに……?」
「どういうことだ?」
「だって、ステラ様は上のレベルのとこに行ってたんだよね。それをレベル落としてウチに来るなんて……」
「……実はな、ルーク」
ソルドが言いにくそうな顔で言う。
「お前はステラ様の初恋の人だったりするんだ」
「えっ ボクが?」
「ああ。俺がアルテナに行く時がいっつもお前が着いて来てな。で、俺がドルフと飲んでる間ずっとお前とステラ様は一緒に遊んでたんだよ」
「そういえば、ステラ王女様はボクと一緒に遊んだ事もあるって言ってたっけ」
もちろんソルドが即興で考えた設定なのだが、うまい具合に以前ステラがルークについた嘘と繋がった。
「良いな~、お前。ステラ様とうまく行ったら逆タマだぜ逆タマ!」
なんとか状況を乗り切ったソルドは調子付いて茶化す。
「そんな……ボクみたいな一般庶民が王女様とうまく行く訳ないじゃないか」
「なら、王女様に見合う男になれば良いじゃないか。騎士と王女様の愛ってのは昔話の定番だぞ」
真顔のソルドにルークはやはり引きつった笑顔で応えるしかなかった。
「ははは……頑張るよ」
次の日、ルークが登校すると、既にステラは席に着いていた。
「おはようございます、ルークさん」
朝の挨拶をしてきたステラの笑顔を真っ直ぐ見る事が出来ないルーク。
「あ、おはようございます、ステ…メイティ」
ステラ様と言いかけて、慌ててメイティと言い直すルーク。しかし、ステラが喰い付いたのはそこでは無かった。
「ルーク、私達はクラスメイトなんですよ。『おはようございます』なんて堅苦しい。『おはよう』って言ってくださいな」
「わかりました」
ニコニコしながら言うステラにどうしても丁寧な言葉で返してしまうルーク。
「だ・か・ら・そういう丁寧な言い方はやめてくださいね」
笑顔で言ってはいるが、その中に何とも言えない凄味を感じさせるステラ。
「でも……」
「でないと不自然じゃないですか。私が王女だってバレちゃいます」
「わかりま……わかったよ」
「お願いしますね。あっ、学園だけで無く、お城でもそんな風に喋っていただいても良いんですよ」
もちろんステラの本音は『良いんですよ』では無く『欲しい』である。
「さすがにそれはちょっと……」
ソルドから自分がステラの初恋相手だと聞かされた事を妙に意識してしまうルーク。だが、相手は王女様である。
「そうですか。それは残念……」
本気で寂しそうなステラだったがルークはどぎまぎして俯いてしまい、それに気付かなかった。そこにミレアが登校して来た。
「あら、おはよう ルーク。メイティも」
「ああ、おはよう ミレア」
「ルーク、今日は早いじゃない。かわいい女の子が転入してきて良かったわね」
「な、何言ってるんだよミレア。そんなんじゃないよ」
「おはよー。あれ、ルーク今日は早いね」
「エディまで……」
実際、ルークが登校したのはいつもより少し早い時間だったのだが、口に出して言われると気恥ずかしいものがあった。暫く経ってデイブがいつもの通りギリギリで教室に駆け込んで来た。
「おっはよー おっ、ルーク、今日は早いな」
「デイブまで……って、もうすぐホームルーム始まるよ。デイブが遅いだけじゃないか!」
「はっはっはっ 冗談だよ。そうムキになるな」
デイブが言い終わるのとほぼ同時にホームルームの時間を知らせるチャイムが鳴った。
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