第7話 みんなでお弁当。ソルドって実は有名人? ~野外授業1~

 野外授業の日、校庭にルーク達は集められた。

「みんな居るな。ちゃんと弁当は持ってきたかい? では湖へ向かうとしようか」

「湖まで歩くんですか?」

 デイブの素朴な質問。それにウォレフが質問で返した。

「ココから湖までは結構遠いぞ。君は歩いて行きたいのかね?」

「いえ、そういう訳では……」

 言葉に詰まるデイブ。無理も無い。湖まで歩くとなるとかなりの時間がかかってしまう。何か楽な移動手段があるのなら、そっちを利用したいというのが本音である。

「そうだろう? あんなところまで歩いたら疲れてしまう。君達は若いから大丈夫かもしれんがな」

 見透かした様にウォレフはニヤニヤしながら言う。デイブはクラス全員約三十名もの大人数が一斉に移動出来る手段など想像出来ない。

「じゃあどうやって?」

 降参して質問するデイブにウォレフはしれっと言った。

「風の精霊にお願いして運んでもらうとしよう」

 風の精霊に運んでもらう?呆気に取られるデイブを尻目にウォレフは何事かを呟くと、デイブは浮遊感を感じた。

「えっ……浮いてる?」

 浮いているのはデイブだけではなかった。驚いた事にクラス全員の身体が宙に浮き、あちこちで驚嘆の声が上がっている。

「さて、それでは行くとしようか」

 ウォレフを先頭にクラスの約三十名が列を成し、湖を目指して空を駆けた。


 空を飛ぶ事ものの数分、あっという間に湖に着いた一行。

「どうだ、早かっただろう」

 すました顔のウォレフ。

「先生、凄ぇや! 一人二人ならともかくこれだけの人数を一度に飛ばすなんて!」

 興奮気味のデイブが叫ぶ。

「これぐらい出来なきゃ教師は務まらんよ。君たちも風の精霊にお礼を言うんだよ」

「はい! ありがとう、風の精霊!」

 珍しいことにデイブは素直に風の精霊に礼を述べた。もちろんこの時はまだ風の精霊を感じる事は出来ていなかったのだが、礼を言い終わると耳元にくすぐったい様な感じの声が聞こえた気がした。

「あれ? なんか聞こえた様な」

「それが精霊の声だよ。君も素直になって少しは精霊を感じられる様になったかな」

 デイブは今までウォレフの事を単なるロートルの魔法使いとしか見ていなかったのだが、その実力を垣間見て、初めて素直な心となり、精霊の声を聞く事が出来たのだった。

「デイブは精霊を感じられたみたいだよ。みんなも素直な心で精霊と向き合うんだ。そうすれば精霊はきっと応えてくれる。では今から自由行動だ。五時間後、またここに集合する様に」


 各自が散らばって精霊に呼びかけ、精霊の声に耳を傾ける。上手くいく者、そうでない者それぞれだが、皆デイブと同じく教師の実力を目の当たりにして素直な心で精霊と対話しようとしていた。


「う~っ 疲れた。腹減ったな、もう昼じゃねぇか?」

 精霊との対話を始めて一時間ほど経った頃、集中力を切らしたデイブがお腹に手をやりながら言うと、ミレアも賛同した。

「そうね、そろそろお弁当にしましょうか」

 ルーク・デイブ・エディ・ミレアのいつもの四人が輪になって座り、それぞれが弁当を取り出す。そういえばソルドは遅番だとかでルークが出かける寸前に家に帰ってきて弁当を渡すとまたすぐに仕事に戻って行った。この弁当箱はお城の物を借りてきたのだろうか? などと思いながらルークが弁当箱を開けると中には彩良く飾られた大量のサンドイッチが詰められていた。

「あら、綺麗なお弁当ね」

 ミレアが目ざとくチェックを入れる。

「う、うん。兄さんが作ってくれたんだ」

「お兄さんが!? 凄いわね。お店出せるんじゃない?」

「本当だ。お兄さん器用だねぇ。それに芸が細かいや」

「俺の弁当とは大違いだぜ」

 店を出せそうだというのは言い過ぎだとしても、ルークの兄さんが作ったとは思えない手の込んだサンドイッチに三人から称賛の嵐が。ソルドにこんな才能があったとはとルークも驚きを隠せない。

「そうだね。ボクもびっくりしたよ」

 ルークが言った時、ミレアが弁当箱の蓋に刻まれた紋章に気付いた。

「それにしても凄い量ね……あら、コレって王家の紋章じゃない?」

「あっ 本当だ。兄さん、お城で借りてきたのかな?」

 それほど深く考えずに言ったルークだったが、デイブとミレアそしてエディはその弁当箱がとんでもない代物だとわかった様で騒ぎ出した。

「お城から借りてきた王家の紋章入りの弁当箱って事は……」

「ステラ様かコルト様の弁当箱って事よね!?」

「いくら王の親衛隊だからって……ルークのお兄さんって、何者?」

 驚愕する三人。ルークも事の重大さを理解した様で声を震わせて言った。

「そういえばステラ様は兄さんに助けてもらった事があるって言ってたっけ……」

 まさか王女愛用の弁当箱を借りて来るとは。ルークの兄さんってとんでもない人だなと顔を見合わせる三人。おもむろにデイブが手を挙げてルークに聞いた。

「ちょっと待ってくれ。ルークって、ルーク・フェザールって言ったよな」

「うん、そうだよ」

「それでルークは親衛隊のドルフのおかげでこの学園に入学出来たとも言ってたよな」

「うん」

 この二つの質問は既にデイブが知っている事実の確認。ルークも軽く頷いて肯定した。しかし、三つめの質問はルークを驚かせるものだった。

「もしかして、ルークの兄貴ってソルド・フェザールって言わねぇか?」

「兄さんの事知ってるの?」

 デイブが兄の事を知っている。何故?動揺するルークにデイブは興奮して大声で答えた。

「ルフトの超有名な騎士じゃねぇか! 見た事無いから顔は知らないけどな」

 ソルドはアルテナでも名前が売れていた。もっとも親衛隊長のドルフと互角に剣を交えるのだから当然と言えば当然なのだが。

「どうしてそんな人の弟が魔法学園に?」

「兄さんが魔法を使える様になったら戦い方が広がるって」

「そうか。って事は、俺が考えてる事とソルドさんが考えてる事って同じじゃねぇか!さすがは俺!」

 どうやらデイブも魔法剣士を目指している様だ。手を叩いて自画自賛するデイブに呆れた目のミレアが突っ込む。

「……まあ、誰でも考えつくと思うけどね」

 確かにちょっと考えれば誰でも思いつきそうなものだ。しかし、実際にそれを目指すとなると魔法の勉強に加え,剣技の稽古もこなさなければならない。ヘタすればどっちつかずの中途半端で終わってしまう。だからそれを成そうとする者は現れないのが現実だった。そんな難関にルークとデイブは挑もうとしているのだ。

「考えつくのと実行に移すのは大きな違いがあるぜ!よぉっし、頑張ろうぜルーク!」

「うん!それとね」

 気合を入れるデイブに呼応したルークは、更にまだ何か付け足そうとする。

「まだ十六歳なんだから、学生生活を楽しめって」

「良いお兄さんね。じゃあお兄さんの言う通り、楽しくやりましょう!」

 自分は働いて、弟には学生生活を楽しめと言うソルドに感動すら覚えるミレア。

「そうと決まりゃ……とりあえずメシにしようぜ」

 みんなで弁当を食べるのも楽しみのうちだとばかりに言うデイブ。にっこり微笑んで手を合わせる四人。

「いただきまーす!」

 四人の明るい声が湖畔に響いた。


「よかったらボクのサンドイッチも食べてよ」

 ルークの一声で弁当の交換会が始まった。

「えっ いいの? じゃあ私のおにぎりと交換しましょ」

「じゃあボクはお肉と交換してもらおうかな」

「……うーん」

 ミレアとエディが嬉々として交換をしているというのにデイブは難しい顔で唸っている。不審に思ったミレアがデイブに声をかけると、何ともデイブらしい答えが返ってきた。

「いや、俺は何と交換しようかと。このフライか?いやコレは俺の大好物だし、かといってこのハンバーグは……」

 デイブは交換の品を何にしようかと真剣に悩んでいたのだった。

「いいよ、交換なんかしなくても。こんなにたくさんあるんだから、きっとみんなにも分けてあげろって事なんだよ。兄さん、友達と一緒にご飯食べるのは大事な事だっていつも言ってるもの」

「そ、そうか?なら遠慮無く」

 ルークの言葉に喜んでサンドイッチに手を伸ばすデイブはパク付くなり声を上げる。

「美味ぇ!」

「本当、美味しいわね」

「何か気品のある味がするね。こんなの初めてだよ」

 ミレアとエディも絶賛する。ルークも一つを手に取り、頬張る。エディの言う『気品のある味』というのが理解出来た。怪我が治るまでお城で世話になっていた時に出してくれた食事と似た味付けだったのだ。ルークは思った。


『お城の材料を使ったからかな?でも、こっちの方が美味しい気がするな。兄さんが作ってくれたからかな? 外でみんなと食べてるからかな?』


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