第6話 王女様に弁当を作ってもらおうと言い出す兄ってどうなんだ?

「ルーク、調子はどうだ?」

「うーん だいぶ精霊を身近に感じられる様になってきた気がするんだけど……デイブは?」

「気配みたいなのは感じる気がするんだが……」

「難しいよね」

「難しいな」

 ルークとデイブがあーだこーだと話しているところに、いつもの様にミレアが割り込んでくる。

「あんたたち、まだそんな事言ってるの?」

「なんだミレア、優等生気取りかよ」

 しかめっ面で言うデイブにミレアは勝ち誇った様に答える。

「『優等生気取り』じゃなくて実際『優等生』だから」

 魔法学園と言っても、学ぶのは魔法だけで無く語学や数学等いわゆる普通の勉強の授業も有る。その口ぶりからしてミレアはそっちの成績も良いのだろう。

「ミレア、そんな事言ってたら精霊に嫌われちゃうよ」

「大丈夫よ。私がこんな事言うのデイブぐらいだって精霊もわかってくれてるわよ」

 ルークが窘める様に言うがミレアは涼しい顔。デイブが不貞腐れ気味に言う。

「確かにそうだが、お前、俺の扱い酷過ぎないか?」

「仕方無いじゃない。だってデイブだもん」

 ミレアにとってデイブって……ルークは苦笑いしながらつい言ってしまった。

「仲良いんだね」

 間髪を入れず二人がほぼ同時に声を上げる。

「腐れ縁だ!」

「腐れ縁よ!」

 睨み合うデイブとミレア。いつしか定着したこのパターンをルークはちょっと気に入っていたりした。

 始業のベルが鳴り、教師のウォレフが教室にやって来て、ホームルームが始まる。

「みんなもだいぶ精霊を感じられる様になった筈だから、来週野外授業に出るからそのつもりで」

 ウォレフの言葉にデイブが質問する。

「先生、野外授業ってのは何をするんですか?」

「教室じゃ無く、野外つまりお外での授業だ」

 当たり前に事を当たり前に応えるウォルフ。しかしデイブの言いたいのはそう言う事では無い。憮然とした顔でデイブは言い返した。

「先生、それぐらいはわかりますよ。俺だってそこまでアホじゃ無いんですから。具体的にどういう事をするんですかと聞いてるんですよ」

「おお、すまんすまん。君の顔をみていると、どうしてもな。ま、小粋なジョークだ」

 けたけたと笑いながら一応謝る様な事を言うウォルフの顔は、教師の顔では無く、悪戯好きの子供の様な顔になっている。すまんとは言いながらも悪いとは毛程も思っていないだろう。

「全然小粋じゃないっすよ。むしろ殺意が芽生えましたが」

 呆れながら言うデイブにウォレフは楽しそうに答える。

「おお、私に殺意とは頼もしい。だが、今の君では返り討ちに遭うのがオチだな」

「んな事は自分が一番よくわかってますって」

 溜息を吐いてうなだれるデイブにウォレフは拍手しながら称賛の言葉を贈った。

「素晴らしい!己の弱さを認める事は難しいものだ。君はまだまだ伸びるよ。早く私を倒せるぐらい成長してくれたまえ」

 こういう時のウォレフには何を言ってもスカされるだけだ。デイブは諦めて本題に戻った。

「はいはいありがとうございます。で、何するんですか?」

「おっとそうだったな。この教室にもたくさんの精霊が来てくれているが、場所によっては君達がまだ出会った事の無い精霊も居る。湖の畔で新たな精霊との出会いを体験してもらう。朝から行くから各自弁当を用意する様に」

 ウォレフは教師の顔に戻り説明を終えた。すると理解した様な顔でデイブが言った。

「なるほど。つまり要するにピクニックですね」

 どこをどう聞いたらそんな結論に至るのだろう? ウォレフはすっかり呆れてしまった。

「やはり君はアホだな。今の話しからどうやったらピクニックという結論に結び付くんだ?」

「いや、湖の畔で弁当ったらピクニックでしょ」

 平然と答えるデイブにかける言葉はウォレフにはもはやこれ以外に無かった。

「……君は本当にアホだな」


 ソルドが仕事から帰るとルークが待ちかねた様に尋ねてきた。

「兄さん、ウチに弁当箱なんて無いよね」

 何事かと思って説明を求めるソルドにルークは来週野外授業があり、弁当を用意する必要があることを説明した。するとソルドはとんでもない事を言い出した。

「そうか。じゃあステラ様に作ってもらうとするか」

 ルークは信じられないといった顔で聞き返した。

「兄さん……今何て?」

「だから、ステラ様に弁当を作ってもらおうかと」

 何か変な事を言ったか?という顔のソルド。ルークは一瞬頭が真っ白になったが、すぐに気を取り直して恐る恐る問いかける。

「……兄さん……とんでもない事言ってるのわかってる?」

「ダメか?」

 あっさり言うソルドにさすがのルークも声を上げてしまう。

「ダメって言うか、無理に決まってるでしょ」

「そうかねぇ、頼めば作ってくれそうな気がするんだけどな」

「そんな訳無いでしょ!」

「……作ってくれたらどうする?」

「びっくりするよ!」

「んじゃ、びっくりさせてやるよ」

 不敵に笑うソルド。しかし王女様に『弁当を作ってくれ』などと失礼千万。ここは頼んででも止めてもらうしか無い。

「やめて、兄さん。お願いだから」

「なんだ、遠慮する事無いのに」

「するよ! 兄さんにじゃ無く、ステラ様にね!」

「わかったわかった。俺が作っといてやるよ」

 ルークの剣幕に考え直したのか素直に言うソルド。

「いや、兄さん 弁当箱さえ有れば自分で作るよ」

 ルークは慌てて言うが、ソルドは聞く耳を持たない。

「バカ野郎! お前はまだ学生なんだぞ。弁当作る時間があったら勉強しとけ。あと、剣の稽古もな」

「うん、わかったよ。ありがとう兄さん」

 頭を下げるルークにソルドはムッとして言った。

「だ・か・ら・礼なんて言うなって言ってんだろうが。いつになったら覚えんだよ?」

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