塔の上の

今日も憂鬱な一日が始まる。


一度も出たことのない外の世界。


窓から見える景色とこの塔の中が私の全て。


たまにお婆さんが来てくれるの。


ほら、私を呼んでいる。


「髪を垂らしておくれ」


窓から垂らした髪を使ってお婆さんは塔を登ってくる。


本当は痛いの。


髪を引っ張られると痛いの。


でも他に方法がないの。


我慢しなくちゃいけないの。


今日も本を読んで、絵を描いて。


そんな時、あなたが来た。


「あー、こんにちは?」


驚いた。


それ以上に嬉しかった。


あなたの話はとても面白かった。


私の知らない世界を聞かせてくれた。


何度も来てくれた。


あなたは私の髪を使うことはなかった。


季節が何度か過ぎて、私はあなたを愛した。


あなたも私を愛してくれた。


そして、子どもができた。


少しずつ大きくなるお腹。


お婆さんに気付かれてしまった。


殴られた。


蹴られた。


お婆さんはあなたを殺そうとした。


あなたと私の子どもを殺そうとした。


だから許せなかった。


お婆さんがあなたを殺そうとした日。


私は髪を切った。


お婆さんの命の源である私の髪を切った。


私がお婆さんを殺した。


あなたと初めて見た外の世界は綺麗だった。


あなたと一緒に子どもを育てた。


いつまでも続くと思っていたけれど。


年月には勝てないわね。


子どもは巣立ち、あなたは旅立った。


私もそろそろあなたのところへ行きたいわ。


ああ、私はあなたのところへは行けないわね。


罪を犯しているから。


お婆さんと同じところへ行きそうね。


そう思って眠りについたのに、どうしてあなたがここにいるの?

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