コンシュルジュAIが繋ぐ友情

@junkyo

 



 「工藤様からコンタクトの要請です」

 コンシュルジュAIが聞き取りやすいささやき声で伝えた。

 「OK、シュリ。繋げていいよ、って工藤って誰だっけ?」

 「工藤まつみ様・男性である確率80%・推定24歳・職業は自称デザイナーですがアルバイトである可能性が75%・所在地は東京赤羽近辺と推測される・あなたのご友人です」

 「友人ランクは?」

 「92位です・繋げますか?」

 「繋げて」

 ベッドの上で手にした携帯から目を離さず、青年は部屋にいる見えない執事に命じた。

 狭いアパートの薄暗闇の中、携帯の明かりのみだった室内に、新たにモニターの光が加わる。モニターには交信相手の推定情報が列挙されているが、ベッドの青年はそれにまったく興味をもっていない。コンシュルジュAIがコンタクトを開始したことを伝える。

 「工藤様とコンタクト開始・挨拶を開始・挨拶終了・時節の話題・寒さの話題・発売されたゲームの話題・」

 「好意度は?」

 「設定された会話の好意度50です・向こうの目的は好意度の上昇のようです・いかがいたしましょうか?」

 「こちらも好意度上げといて…誰だっけ?」

 「工藤様・男性・推定24歳…」

 「なにか特典は?」

 「美大を出ております・それ以外は社会的にさほどといった感じです」

 「じゃあ普通で、よろしく」

 「了解しました・”普通のご友人”として設定・・・ゲーム攻略の話題・ゲーム攻略の話題・ゲーム攻略の話題・・・・・次のゲームも共闘しようという提案・良い返答をしました・良い返答が返りました・時節の話題・・・コンタクト終了」

 「ポイントは?」

 「工藤様のポイントが12上がりました。友人ランク90位に上方修正・向こうのポイント上昇は6ポイントと推定」

 「あ、っそ」

 青年は手元の携帯を見続け、友人との交流には関心を持たなかった。ただAIが告げるポイントのみが交流の結果として残った。


 時を置かずして再びコールが入った。部屋に鳴り響くような無粋な音量ではなく、ご主人様に静かにお知らせする、へりくだったコール音が部屋の主人に再び社会交流を迫った。

 「コールが二件・どちらもリアルタイムでのコンタクト要請・サカキ様とCUITO様・着信は0.4秒ほどサカキ様が先でした」

 「どっちがランク上?」

 「CUITO様が56位・サカキ様は305位です」

 「比較、重要度」

 「サカキ様・推定40代・」

 「40?おっさんじゃねーか。なんでそっちが重要なんだよ?有名人?」

 「いえ・知名度はありません・知名度で言えば国内で500万位レベルですが・アップされている情報から推察される年収が2000万を超えています」

 青年は初めて携帯から目を離して、初めてモニターに映る人物情報を見た。

 「2000万、シュリ、すぐ繋いで。好感度アップさせろ。もう一人のなんとかってやつも繋いでアップさせとけ」

 「了解しました・両者コンタクトを開始しました・サカキ様を重点的に・・・・」

 コンシュルジュAIの音声のトーンが急に明るくなった。

 「同時に二人以上のご友人の好感度が上げたい?もっと多くの友人の好感度を上げたい?そんなお客様のためのバージョンアップ情報のお知らせです!

 現在無料バージョンをお使いのあなた、有料バージョンにすれば”より広範囲の情報収集。クラウド上の友人の情報にアクセスが可能になり、より親密な話題を選択できます!さらに弊社のAIがあなたの交友をサポートいたいしますので友人を作りたい放題です!ぜひご検討ください!」

 コンシュルジュAIは再び音声を下げ通常のモードに移り、コンタクトの状況を読み上げているが、画面にはアップデートを促進する画面が移り続けていた。

 青年は携帯をベッドの上に投げ捨て、机の前に這いずっていく。

 「アップデート!」

 「アップデートいたしますか・有料プランをご選択ください」

 青年は一番安いと思われる、定額分割プランを設定。アップデートはすぐさま完了し、再起動の必要もなかった。その間も通話は行われていた。

 画面は無料版とは比べ物にならない豪華さ。AIの音声も変更可能だった。

 青年はすぐさま音声を若いアニメ声に変更し

 「今までの友達順位をソート、金持ち順。上からコンタクト開始」

 「ヒイロ様・オリビエ様・@OMEGA様・サカキ様・コンタクト開始・・・」

 「有料にしたんだからな、きっちり俺の友達順位を上げてくれよな、シュリ」

 「本製品はコンタクトの便利さを向上させるものであって・友人ランク向上を確約するものではございません」

 AIがコンプライアンスな文章を読み上げるが、そんな言葉を聞く使用者はこの世にいない。コンシュルジュAIを使う人間が期待することは友人の関係の向上であり、それにともなう使用者の社会的地位の向上である。

 「ヒイロ様・コンタクト待ちが現在2042人待ちです」

 「繋がるまで待て、繋がってもまたかけてつなぎ続けろ。一週間は繋げ続けて親友になるまでやれ」

 「ヒイロ様・スケジュール確認・・サカキ様とのコンタクト終了・15ポイント上昇・今度はこちらからコンタクト要請・・・繋がりました」

 「アップデートしたんだからな、ちゃんとやれよ」

 「了解・時節の挨拶・サカキ様の好みの話題を選択・会話中・会話中・会話は盛り上がっています・・・@OMEGA様と繋がりました・コンタクト開始・時節の挨拶・@OMEGA様の好みの会話を選択・会話中・会話中・向こうが好意的であることを検知・」

 「よし、いいぞ・もっと俺の好感度を上げろ」

 「会話中・・サカキ様との会話盛り上がっています・・・ヒサヨシ様からコンタクト要請が入りました・いかがいたしますか?」

 「ランクは?今の重要度ランキングでのランクは?」

 「301位ですが・大学時代のご友人です」

 「・・・繋げ、リソースはさくな」

 「了解、コンタクト開始・現在サカキ様、@OMEGA様とこちらからコンタクト中・ヒサヨシ様とのコンタクトを受け開始・時節の挨拶・最近のヒサヨシ様の状態・宜しくないようです・経済的問題・直接のコンタクトを求めているようです・時間指定・場所指定・スケジュール確認・会談可能です」

 「やんわり断れ」

 「了解・会話の方向性修正開始・サカキ様とのコンタクト終了・サカキ様のこちらへの有効ポイント上昇は・推定で25ポイント獲得」

 「25!やった!さすが有料版!もう一回かけろ!もっと上げろ!」

 「了解・サカキ様にコンタクト要請・・繋がりました・コンタクト開始・時節の挨拶・サカキ様の好みの話題を選択・会話中・会話は弾んでいます・サカキ様のAI内でのこちらのランクが上がっているのを確認・ヒサヨシ様がコンシュルジュ抜きでのコンタクトを希望しております」

 「はぁ?馬鹿か?嫌だね。切れ。アク禁しろ」

 「ご主人様・大学時代のご友人というのは大切なものです・直接コンタクトの要請は無作法であるにしても・ご友人との縁を切るというのは弊社のポリシーとしては推奨いたしかねます・ここは”友人未満”フォルダーへの移行を提案いたします」

 コンスルジュAIは会社に設定された綺麗事を述べたまでである。しかし、AIの推奨を断れる使用者は少ない。

 「そうしろ。大学時代の友人も重要度でソートして、別フォルダーに収納。高いやつからコンタクトしてくれ。

 「了解しました・ソート完了・クルマツ様が現在ゲーム会社所属・先月雑誌取材を受けております・彼にコンタクトを開始します・・・会話開始・・・・

 時刻は深夜3時になりました・

 現在会話中は・サカキ様・@OMEGA様・クルマツ様・CUITO様・・・ヒイロ様へのコンタクト待ちは現在1504人番目です・・・・会話中・会話中・会話中・・・・好感度が上がっています・・・@OMEGA様との好感度が上がり”友人”になりました・・・・会話中・会話中・興味のある話題を選択・・会話中・・会話中・・・・

 ・・・会話中・・・」

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