第24話 嫌な予感がするぜ……(壮大な宇宙を背景に)


 約束の1週間が過ぎ、俺たちの目の前に帰ってきた純は、何処か自信を感じさせる表情をしていた。


 詳しく聞いても何も話さず、はぐらかすばかりである。



 その後、命の恩人であるエルフのイネスさんのお使いを果たすべく、朝早くにトレダール弟6地区を出た俺たちは、数日の旅を満喫? していた。


 興奮気味にはしゃぐ智久、浩太を暴力で抑止しながら、林道を進んでいた。



 久々に全員揃って道を歩いていると、何処かで起きたような出来事が再び――――――



 とある赤白の最強のカプセルが蔓延る某ゲームのように、颯爽と茂みの中から現れる3つの影は、最後尾を歩いていた智久に襲い掛かった。



「うひょっ! 魔物っ――! 助けてえぇぇぇっ!」



 咄嗟に後ろを振り返ると、緑色の身体をした魔物ゴブリンが2体と、ボロ切れを着込んだ魔物スィーフ1体が智久を襲っていた。



「――――――さてっ。無視して行くかっ」



「そうだな。珍しく意見が合うな隆生」



「うひょおおおおおっ。やめて~帰らないでえぇぇぇ! ――ぁっ。気持ちいっ」



 嬉しそうに叫ぶ変態を見たら、みんなも関わりたくないだろ? 要するにそういうことだ――



「2人ともっ! そんな冗談言っている場合じゃないでしょっ! 助けなきゃっ!!」



「――――ったく。しょうがねぇなぁ……」



 焦る竜二に致し方なく動き出す純。流石に智久もやばくなってきたので、俺も慌ててダガーを抜いた。



 そして、前線を担う俺が当然の如く助けに出向こうとすると、純が声を上げる。



「まてぃ!! 今回は俺1人で戦う」



「――――は? 何言ってんだよお前っ?」



「そうだぞ純。遊びじゃねぇんだ。みんなでやったほうが確実だろう」



 岳がそう言うが、純は笑みを腹立たしいほどの笑みを浮べた。



「まぁ黙って見ておけ。俺がどれくらい強くなったか教えたやるよっ! おらっ!!」



純はブロードソードを抜き放ちながら、智久を追い詰める魔物たちに駆ける。




 俺の見間違いかわからないが、一瞬純の全身から白い靄が迸ったように見える。刹那、物凄い速さで距離を詰める純。



 そのままブロドーソードを水平に振るう。ゴブリンは咄嗟に反応するが、それも叶わ刀身が胴体と頭を分離させた。


 跳ね飛ぶ血飛沫をものともせずに、もう1体のゴブリンに襲い掛かる純。



 また剣を振るうが、今度は防がれてしまう。しかしそれも予想済みだったのか、純は急に身体を屈め、勢いを込めてゴブリンの足を払って態勢を崩した。



 純は態勢を崩したゴブリンに向けて血のついたブロードソードを突き刺した。悲痛な叫び声と共に絶命するゴブリン。



 短時間で2体のゴブリンの命を地に落とし、余裕の表情で剣先を残るスィーフに向ける純。



 その戦闘は明らかに1週間前とは異なっており、この短い期間に何をすれば此処まで強くなれるのかと驚くものであった。



 残るスィーフは純に恐怖を覚えたのか、瞬刻の間に森の奥へと逃亡するのであった。



 純はわざとらしく高笑いをすると、剣の血を払って武器を鞘に仕舞いこむのであった。



「どうだお前ら? 俺の強さはっ!? びびったか? がははは」



「――――――すごいっ。凄いじゃん純っ! いったいどんな修行を行ったのっ!?」



「僕……感動しちゃったよ――――」



「がはははっ。そうだろ、そうだろ? どうだ隆生? もうお前にはまけねぇぞ?」



真剣な瞳で俺を見る純。俺の心には悔しさよりも――何か底の見えぬ黒いものが一瞬渦巻いたが、直ぐに仲間が強くなったことに対する嬉しさが零れる。



「ははっ――――――やるじゃないの」



 純は俺の言葉に珍しいほどの笑みを浮べたのであった。


 


――数時間後。



 目の前に広がるのは、水溜りを何千倍にも大きくした水の溜まり場。以前、俺たちが命を救われた場所であり、エルフである絶世の美女イネスさんに出会った場所でもある。



 しかし、周囲を見渡すが――――――――



「イネスさんいなくね?」



「そう……だね? 何処かに行っているのかな? 智久と浩太そんなに落ち込まなくても――はははっ」



 あからさまに落胆する2人を放置して、俺たちは少しの間その場で待っていたが、一向にイネスさんが姿を現すことはなかった。



 そのため、竜二の提案で周辺を探そうということになり、手分けして行動を開始する。



 すると、何処からか微かに鼓膜に入ってきた声色。その声は1つではなく、さらにイネスさんの声でもない。



 盗賊の勘が働いたのか、勝手に脳が見つかってはいけないとの信号を送る。そのためまずは一度仲間を集め、その声の方向に行って見ることに決めた。



 そのことを仲間に伝えると、純なんかはこそこそすることに違和感を覚えていたが、慎重派の竜二と岳がいたため何も言わずに承諾した。



 俺が先頭を切って森林の中を進んでいくと、次第に声色が大きくなっていく。そして、目的の場所まで行き着いた。


 彼らに居場所がばれないように、注意を払いながら茂みに身を隠す。



 目の前には、黒い外套を着込んだ2人組みが切り株に腰掛けて座っていた。目深く被っているため、表情は窺えない。



 その2人を目を細めて見詰めていた純が言葉を漏らす。



「あの2人。俺を襲った野郎共っ……!」



 飛び出して行こうとする純を必死に俺たちは抑えて、状況を理解させる。



「何者なのあいつらは?」



「俺も詳しくはしらねぇ。だが、悪者だということは確実だ。魔物を召喚していたしな」



 魔物の召喚――――。魔法はそんなことも出来るのか。魔物の召喚が出来るってことは女も――――




「うひょっ。魔物の召喚が出来るってことは女も――――」



「ぐふふふ~。やる価値ありだね~」



「お前らこんな時に何想像してんだよっ――――いいなっそれっ!」



 竜二が呆れた表情でため息をつく。



「はぁ。アホばっかり……ねぇ隆生?」



「ぉ、ぉう――――――――」



 うひゃあああああああああああ。こんなアホ3人組と同じ思考とか…………死にてぇ――



 そんな羞恥心に耐えていると、新たな珍客が現れる。その珍客は、ずんぐりとした身体に髭面の男。


 服は高級感漂う礼服を着込み、森林にそぐわない高価な装飾品を見についていた。



 その男を見て、岳が驚きの声を漏らす。



「あれは…………デズモンドッ」



「なんだ? 岳の知り合いか?」



「知り合いとまではいかないが、ギルドの任務先での依頼者だった奴だ。でも――――なんで此処に?」



「しっ。静かに――――」



 竜二が指を口に当ててそう言った。集中して耳を済ませると、会話が聞こえてきた。




デズモンド『こんな所まで来たのだから、良い武器を持って来てくれたんでしょうな?』



黒外套1『――――金は持ってきたか?』



デズモンド『安心しして下さい。ちゃんと例の場所に置いてありますから。今更私が裏切るわけないでしょう?』



黒外套1『わかった。おい、持ってこい――――』



 黒の外套1に指示されて、黒の外套2が後ろの茂みから木の箱を持ってきた。



黒の外套1『これが品物だ――――魔法陣を展開しろ』



 デズモンドは頷き、一言、二言何かを発する。すると、デズモンドの眼前の地面に妙な光が漏れたかと思えば、円形の魔法陣が展開された。



 黒の外套2はその魔法陣の上に木の箱を置く。そして、デズモンドが再度何かを呟くと、魔法陣から強い光が溢れ、次の瞬間には木の箱が消失していた。



黒の外套1『これで取引は終了だ』



デズモンド『また頼みますよ――――ミリタンの秘密組織カルボナレ殿っ』



 デズモンドがそう言った矢先、黒の外套2が咄嗟に懐から武器を取り出した。それを制止して黒の外套1が言葉を放つ。



黒の外套1『何処でその名を聞いた? ――――答えろ』



デズモンド『そう怒らさんな。簡単なことです。私もトレダールの秘密組織に入会したからですよ』



黒の外套1『――――――プロイセムか』



 デズモンドは頷く。黒の外套2はその名を聞いて武器を収めた。



黒の外套1『軽々しくその名を口にしないことだ――――』



デズモンド『承知致しましたよ。それではまたの機会を――――――』




 そう言うと、デズモンドは含みのある笑みを浮べてその場を去るのであった。暫くして、黒の外套の2人も森林奥底へと消えて行った。




 俺たちは少しの間息を飲んで見守っていたが、岳が重々しく、確認するように言葉を漏らした。



「デズモンドは、武器密売人の役割を担っていたってことでいいんだよな?」



「そう――――みたいだね。それにしてもこの事は絶対に誰にも言っちゃいけないよ? みんな」



 不思議そうに首を傾げる智久と浩太。



「これは国家機密に値することだよ。僕たちが知っていると知られたら…………」



「――――確実に殺されるな」



 そう。内容も内容なだけに、良くて永遠に牢獄の中だろうな。



「うひょっ……」



「わかったよ。僕は絶対に言わない――――――」



「――――わかったね皆?」



『――――――了解』



 その後、俺たちは深追いするのは止めて、湖に帰還した。


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