第18話 強さと苛立ち
遥か彼方の水平線上からは気だるげな太陽が顔を覗かせ、色彩に溢れた島国――トレダールへ暖かな光を送っていた。
そんな穏和な雰囲気の街とは裏腹に、ここ1週間の酒盛りに全身を落としてしまった隆生は、徐にアルコールに犯された身体を起こす。
それと同時に1週間分の怒りや興奮が蘇ってくるようである。まぁ、その話は後にするとして――――――――
「――お前ら、何してんの?」
俺が横たわるベットを囲むように立つ、むさ苦しい5人の男。勿論――純、岳、竜二、浩太、智久である。
「うひょひょ。この際だから寝顔を見ておこうと思ってぇ~」
「ぐふふふ。可愛かったよ……」
「……………………」
非常に気持ち悪い。さらに、彼らの言葉に奇妙な真実味があるようで背筋が寒くなる。あぁ――――吐き気が……
すぐさま仲間たちを散らせる。冷水を一気に喉に流し込んで、ぼやけた脳内を覚醒させる。
その後、馬鹿共と一緒に簡単な食事を済ませ、恒例の報告会が始まった。1週間に及ぶ訓練を終えての報告会である。
当然のようにメガネ竜二が仕切り始めた。
「それじゃ、簡単な報告会でもしようか? 意見の共有とかもしたいし。何か新しく得た情報とかもあったら教えて――純からお願いできる?」
「おいおいっ……わっつ? この俺様が一番最初なんていやだぜ? 俺はとりだっ。トリを貰おう」
腹の立つ表情で断るカス(アホ純)
「ははは……はぁ。それなら――浩太からお願い」
「わかった。僕のここ1週間の訓練は、あまり前回と変わらなかったなぁ。でも――他の隊員たちと模擬戦闘は行ったよ~。情報は別になかったなぁ~ぐふっ」
ほぉ。浩太も模擬戦闘を行ったのか。
「なるほど……ありがとう。それなら次は智久お願い」
「任されたっ。わっちは、主に回復する術の質上げをやってたねぇ」
ん? ド変態智久にしては至って普通の訓練だな? こいつも流石に前回の事を反省しているというわけか。よろしい。よろしい――
「新しい情報といえば……あの麗しきおねぇさんたちのプレイスキルが上がっていたことかなぁ。ふふふふふふふふ。さらにわっちのM体質が……うひょひょひょひょひょ」
――――――――少しは信頼した俺が馬鹿だったよ。死に晒せカスがっ
「あ、ありがとう、それじゃ次は…………岳お願い」
「俺は主に拳を振り続ける訓練だな。体力面なども鍛えた。情報は……後から竜二からある通りのことくらいだ」
「了解。ありがとう。それじゃ隆生お願い」
やっと俺の出番か。うしっ~
「俺の訓練は他の人よりは少し特殊かな。運よくSランクギルドの夕闇の侵略者のシェルっていう人が来てて、色々教えてもらったぜ」
「あんっ? 夕闇の侵略者だと? それは本当だろうな?」
純が急に身体を乗り出して聞いて来た。
「そうだけど、何かあんの? 純」
「まぁな。てめぇらにはまだ話していなかったな――――」
そう言って純から夕闇の侵略者に出会っていたことを聞いた。
「まさか、純がそのギルドの隊長に救われていたとは……」
「救われてなんかいぇねよっ! 俺が救ってやったんだよっ! だまれっ。それじゃ、お前はダイナスっていう奴が何処にいるかはわかんねぇんだな――――っち。使えねぇ」
「まぁまぁ。それで何か新たに手に入れた情報はある?」
純には心底腹立つが……此処は我慢しておこう。俺は大人だしなっ――――――
「そうだな……あぁ、その訓練の最中リチャードっていう人に出会ったな。たしか、トレダール代表のパートナーだとか……」
俺の言葉に次は竜二が目を見開く。
「リチャードって、ディマシュキー・ロイセンさんの右腕って呼ばれてる?」
「あぁ。そんな感じなのかね? ――知り合いなのか竜二?」
竜二も同様にこの前起きたことを話し始める。
「――――なるほど。それなら竜二に聞けばよかったわぁ……俺の情報はこのくらいかな」
案外、世界って狭いのねww
「リチャードさんが……そっか――」
「おいメガネっ! 何時まで考えこんでんだよっ! 次はお前だろ? 早くしろっ」
純の叱責でやっと、思惑の世界から帰還した竜二は口を開く
「ごめんごめん。僕の訓練は相変わらず勉強ばっかりだったよ。新たな情報と言えば、初日の訓練の終わりに隆生と岳とレストランに行った時に聞いたんだけど、どうやらこの街に奴隷オークションが行われている場所があるみたいなんだ」
竜二の言葉で他のみんなの目つきが一気に変わる
「本当か? 嘘じゃねぇだろうな?」
「嘘なんてつかないよ……実際にオークションを利用している2人をつけて、場所も特定しているんだから」
――そう。俺たちはレストランであいつ等が席を立つの見計らい、まずは宿泊している宿を突き止めた。
そして、翌日から訓練の合間を使って監視していたのだ
そして、その日から4日たった頃だろうか、ついに2人の後をつけてオークションの位置を特定した。
その場所はなんと――中心街。それだけならまだしも、そのオークションはなんと、俺もお世話になったトレダール第6支部が入り口となっているらしいのだ。
これは要するにトレダール政府が直接関与しているという証拠であり、この世界の闇の深さが理解できるだろう。
「まさか政府の支部の下に……そんなことわっちは気にもしなかったよ」
「っち。虫唾が走る世界だ。カスばっかりだ。早く強くならねぇと……」
不満げに声を漏らす皆を見詰めながら竜二が声を上げた。
「そこでみんなに提案があるんだけど――これからのことも兼ねてそのオークションに参加してみようと思うんだ」
「――参加?」
「勿論、購入なんて馬鹿なことはしないよ。一応、僕たちの目標の1つにはそんな理不尽なことをなくすことがあるだろう? それなら実際にその場所に言って情報を得ることは必須だと思うんだ」
「それは3人の意見なの? もしそうなら……僕は賛成だよ」
「わっちも、竜二の意見が正しいと思う」
「――俺もだ。どんなクズがいるか見ておきたい。今後そいつらをぶったおすためにな」
どうやら反対意見はないらしく、竜二もほっと息を吐く。
「良かった。それなら行動は早くしたほうがいいね。作戦が出来次第、敵陣に潜入だ」
『――おうっ!』
「よしっ、それじゃ今日の報告会は終わりだね」
あれ? なんか忘れているような……まぁ、いいかぁ~
「飯でも行こうぜっ~なんかお腹すいてしまった」
「わっちもっ!」
「僕もお腹ぺこぺこ~」
「そうだな。バクガでものむかっ」
「いいねぇ~俺も呑みまくるか――――って、まてやこらっ!! 俺の訓練話聞いてねぇじゃねぇかっ!!」
――――ぁっ。そうだった。純のが終わっていないけど……別に聞かなくても――――――
『――――ねぇ』
純を除いて気持ちがシンクロする我ら。対して野獣の如く喚き散らす純。こういう時、必ず飛び火を喰らうのが……
「このやろっ! てめぇらっ……いい度胸だっ! そこまで俺の話を聞きたくないなら、この際いい機会だ。直接、生で実力を見せつけてやろうじゃねぇか――――」
「実力……?」
純は気持ちるいほどの含み笑いを零しながら、高らかに指を差した。その姿はまるでジョ○のようである。そういえばこいつ大ファンだったな――――
「――――っていうか。何で俺が指差されてんの? こういう時はアホ智久だろう?」
「うひょっ」
「このチンカスにようはねぇっ!」
「うひょっうひょっ」
『うるせーっ!!!』
智久の制裁も滞りなく行われ、俺は疑問を投げかける。
「――――んで、何?」
「雑魚隆生っ――――――俺と模擬戦闘をしろっ! これは強制だっ!! 俺の実力を思い知らせてやるぜ」
こやつは突然、何を言っているのだ? 頭おかしいの? やっぱ馬鹿なのっ?
「――――普通にめんどくさいんだけど」
「シャラップッ! お前に拒否権はねぇ!」
「わっつっ? ユーと戦う意味がミーにはありましぇ~んっ!! ノーセンキュウ」
何故仲間同士で戦わなければいかない? しかも、よりよって何故俺となんだよ。
「2人とも落ち着いて。なんで純は突然そんなことを言い出したの? 理由はあるの?」
どうせこいつにはないよっ。どうせ――
「たりめぇだ。この先俺たちは一緒に戦うわけだろ? それなら、お互いの実力を知っておいたほうが絶対にいいだろうが。それで息を合わせて戦かなきゃいけねぇんだからな」
「――――なるほど。予想外にちゃんとした理由だね」
――――まさか、このアホがちゃんと考えていたとは……だがしかし、俺は戦いたくないぞ。わかっているな竜二っ?
「――――――よしわかった。僕が許可しよう」
「――――――はっ!? なんでだよっ!!」
「うっしゃぁぁぁぁ! さっさといくぞっ!! おらっ!!」
別に反対意見も出ずに、移動を開始する薄情な仲間たち。
曇天の空。トレダールの街に降り立った2人の強き戦士。今、2人の戦いが始まる――――――くそがっ……
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