第108話〈ちょっと息抜き番外〉タカノリ①

 俺の名前は遠藤孝則、7歳、小学二年生だ。ゴールデンウィークの真っ只中、ふと気が付いたら何故か石の床の上に寝ていた。辺りには同じように寝ている年上の兄ちゃんや姉ちゃんが何人かいたが、子供は俺一人だった。

 その場にいた冒険者組合のおっちゃん、えーと名前は……なんだったっけ? 忘れた、もう一人いた(後で聞いたが魔族って種族らしい、魔族って悪い奴だろ? やっつけなくて良いのか?)おっちゃんも驚いていた。


「なっ! 何で子供が? ちょっとこれは?」


「うーーんおかしいですね、術式は完全・完璧に発動してます。子供が召喚される筈は無いんですが……」


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、その召喚術式ってどういった構成の物なんだい? 常々疑問に思ってたんだが、召還対象者ってどうやって選別してるんだ? 選考基準は? 完全にランダムなのかい?」


「これは元々は古代帝国で勇者の召喚に使われていた術式でしてね、我々はそれを丁度良かったのでアレンジして使用しているだけですね、けどまあ術式の構成は理解してますよ、対象はある程度の才能、そうですね勇者になれる可能性のある者を召還するようになってますね」


「その割にはポンポン召喚してるよね?」


「まあアレです、数うちゃ当たるを実践してるのは否定しません、少しオリジナルの術式を弄りましてね、最低ラインは設定してますが召喚しやすくアレンジしてます。しかし、そもそも、魔物を狩れる者を召喚してるわけですから、何でもかんでも召喚してる訳じゃあないんですがね……」


「しかしもう少しハードルを上げて対象を搾った方が良いんじゃないか? いくらなんでもこれはね……そうだ前から聞こうと思ってたんだけど、この召喚術式、僕達でも使えるのかな? 魔族以外でも同じように召喚してる人達を知っているかな?」


「私も他の国の事は良くわかりませんね、そもそも異世界人を召喚しようなんて言い出したのはウチの大魔王様ですから、親しい魔王様方は召喚してる見たいですが、未だに反対意見も多くてね、後、貴方達でもまあ何人か集めて頑張ればこの術式は使える筈です、先ほども言いましたけど、この術式は古代帝国、そう人族の古代帝国が編み出した物ですからね」


「『LL』や『ライヒベルリン』はこちらと同じく、その地域の迷宮の魔王の配下の魔族の方が召喚しているみたいなんだが、ただ、幾人か魔族の方以外に召喚された人達の存在が確認されている。各地に派遣された冒険者の情報だと、魔族が召喚していない地域、そこでも異世界から来た召喚者が冒険者をやっているみたいなんだ。そこでは恐らく魔族以外が召喚してる……何人かいればできる? 具体的にどれ位の人数か分かるかな?」


「ざっと……そうですね、ざっと百名ほどでしょうか? その位の人数が居れば儀式魔法形式にして魔力を寄り集めれば可能な筈ですね」


「そんなにですか、多いですね、だとしたら相当な規模の団体、若しくは国で無ければ召喚は無理なのか……グリューネ殿は一人で行っているでしょう? 人間でもレベルが、魔力が高ければもう少し少人数でも可能では?」


「ふむ、自慢じゃ有りませんが、こう見えても私は高位の魔族なのですよ? この地域の他の街で召喚を行っている者達も皆そうです、魔王配下の高位魔族、魔将と呼ばれる『デーモンロード』です。そんな我ら膨大な魔力を有する者でさえ、月に二度の召喚が限度です、月の作用で魔力のブーストを効かせてやっと発動する、そんな術式です、人の身でこれを再現するならば、その位の人数が妥当でしょう、しかしなぜ突然そんなことを聞くんですか?」


「最近少し各国の動きが慌ただしい、その原因として召喚者の存在が上がっていましてね。後これを見たらね……少し此方でも術式の研究をしてみようかと思いまして」


「ほう、まあ別に秘匿して置く様な術式では無いのでお教えするのは構いませんが、しかし、此方としてはあなた方にはこんな無駄な事に魔力を使うよりは、迷宮の魔物退治に魔力を使って頂きたいのですが」


「しかし術式を改良出来れば、より効率よく、又、召喚される人を厳選できるのでしょ?」


「……私は結構良い人材を召喚してる筈ですよ? 最近も例のあの子は私が召喚した筈です、勇者の召喚数も一番多いと自負しているのですがね」


「まあメグミちゃんやタツオ君、それにノリコちゃんも貴方でしたね召喚者は、しかし……今回はどう見ても子供でしょ? 見た目が幼いだけの中学生と言っても大分無理がある……小学生、しかも低学年か? 下手したら幼稚園生じゃないのかな?」


延々とこっちを置いてけ堀にして話していた背の高いおっちゃんが失礼な事を言ってる、こう見えても小学二年生! 背は低いけどこれから伸びる予定だから良いんだ! 父ちゃんでっかいしな!


「ふむ、本当に不思議だ、案外潜在能力の高さ故に、幼くても召喚されたパターンなのかもしれませんよ?」


金髪のおっちゃん良いこと言うな! 外人さんか? 日本語上手だな! そうだよ俺はやればできる子なんだ! 母ちゃんも良く言ってる!


「例えそうでも幾らなんでも幼過ぎるよ、困ったな、ちょっと待ってくれ応援を呼ぶよ」


失礼なおっちゃんの方が耳に何か当てる様な仕草で誰かと話してる、あれか? ハンズフリーって奴だろ? 父ちゃんが前にやってた、俺知ってるぞ!


「私はもう帰っても良いですかね? 大魔王様にお夜食を作らないといけないんですよ」


大魔王? 何だそれ? 悪の親玉だろ? 何だ? ここどこだ?


「夜食? この時間からかい? 何をやってるんだ大魔王は?」


「秘密だそうです。全く困ったものです。復活してからこっち、何だか以前より可成り趣味に全開でしてね。恐らく漫画でも描いているんじゃないかと……」


なんで大魔王が漫画書いてるんだ? ああ、あれだ、なんだっけペンダント、ん? 微妙に違う……徒名だな! そう言う徒名なんだろ! 見たか俺の名推理! 見た目も中身も子供だけどな!


「バレてるじゃないか? バレバレだよねそれ」


「まあアレだけ道具を用意されてればね、言われなくても何してるかは分かりますよ」


ヤレヤレと首振ってる金髪のおっちゃん、アレだな外人さんはジャスチャーが大げさだな! けどいい加減こっちを無視すんなよ! 父ちゃん母ちゃんは何処だ? そもそもここは何処だ? あっ……アニメで見たことあるぞこんな場面! 誘拐だ! 誘拐されたんだ!


「おい! おっさん、お前ら誘拐犯? うちは金持ちじゃねえぞ!」


父ちゃんは安月給のサラリーマンだって母ちゃん言ってた。


「それともまさか、男の癖に男が好きな……えーーとなんだっけ? ロボ、じゃない、あれ? オカマ? オネエ? あれなんか違う?」


「あ~それってホモかい?」


「そう! そうだ! それだ! お前らホモ?」


「いや違うけど、ねえ君幾つ? お名前は?」


「個人情報だぞ! 教えちゃいけないんだぞ! 知らない人に言っちゃダメなんだぞ、先生が言ってた!」


先生結構可愛いんだ! 胸おっきいしな! 揉んだら怒られた……でも柔らかかった、うちの母ちゃんの胸は小さいんだ……


「……最近の子供はしっかりしてるなあ、ねえけど君の事が分からないと、って君今の状況分かってる? ここ異世界なんだけど異世界ってわかるかな?」


おおっ異世界、アレだな、『魔物狩人』だな! やったことある! 父ちゃんと二人で狩りまくってた! 俺父ちゃんよりランク高いんだ! ビバ小学生! 時間が有るのは良いことだな! ゲームやり過ぎて宿題やってなくて母ちゃんに怒られて、ゲーム取り上げられそうになったけどな!


「分かるぞ! ゲームだな! おれゲームの中に入ったのか?」


アニメでそんなの見たぞ! 父ちゃんはなんだっけ? えっとオクニ? いや違う、アナタ? は母ちゃんが父ちゃん呼ぶときだし……アニメ好きな人だ、うん面倒だしそれでいい。だから詳しいんだぞ!


「いや違う、ここはゲームの中じゃあない、現実だよ、ほっぺをつねってごらん、痛いだろ?」


ほっぺをつねって確認するのは夢か現実かじゃないのかな? まあいいや、いてえ、あれ? えっと夢じゃないのか? えっ? ゲームでもない?


「いてえぇ! なんだこれ? 分かった異世界だな、異世界召喚! おおすげぇ、おっさんたち見た目しょぼいけど実は神様? チート能力くれるんだよね! 何にしよっかな」


父ちゃんの読んでくれる絵本のは大体この手の話が多いんだ、英才教育? って言うんだぜ! 母ちゃんに話したら父ちゃん正座で説教されてたけどなんでだ?


「ごめん僕は神様じゃないんだ、それに既に召喚されてるからね、チート能力はあげられないなあ」


はぁ? 使えねえなこのおっちゃん、大体こういった場合は女神様だろ? それで女神をお持ち帰りするまでがテンプレだって父ちゃん言ってたぞ! 何でおっさんなんだよ、児童に厳しすぎだろ! せめて美人のお姉さんを要求する!


「何だそれ? ケチ癖えぇ! ……じゃあもしかして既に持ってるのかな? なんの能力?」


「いや僕に聞かれてても困るんだけど、後で調べてあげるよ、ステータスの確認しようね」


「なあ、おっちゃん! おれ子供! この春から小学二年生になったばかりなの? チートも無しで何も出来るわけないじゃん、いいよもう、送り返してよ!」


「あーーーー、うん、そうだよね、お家に帰りたいよね」


そうだよ一寸お腹減ったし……今何時だろ? 暗いってことは夜かな? 夜だろうな、夜だ!


「腹減ったよおっちゃん!」


「うーん困ったな……」


「どうしたんですかアツヒトさん? あれ? グリューネ様がまだいる? 珍しい、何時も直ぐに帰っちゃうのに、ねえアッちゃん」


「ちょっとイレギュラーが発生してね、ナツコ君やアミ君が来たなら後は任せて大丈夫かな? 僕はソロソロお暇するよ」


金髪のおっちゃんはそう言って部屋を出て行った、なんでだろ? 日本語が通じても外人さんが居ると緊張するよな……


「何ですか急に? あら? 可愛い、アツヒトさんの隠し子かしら? ねえナッちゃん」


何だか美人なねーちゃん二人組が部屋に入って来た、可愛い? 照れちゃうな、よく言われる!


「アッちゃん、流石に面影が無さ過ぎだよ? このおっさんから生まれたにしては女顔すぎない? 男の子だよね?」


ついてますが何か? 偶に女の子に間違えられるけどね、女顔は良いんだぞ? モテるんだ! 皆可愛いって誉めてくれるんだ! 母ちゃんも褒めてくれてた! 『タカ君は折角顔は私に似て可愛いのに、中身がお父さんに似ちゃって……』 褒めてるよね?


「ナッちゃん、お母さんが凄い美人でそっちの影響が強いのかもよ? 男の子は母親に似るって言うじゃない?」


確かに母ちゃんは美人だな! なんでわかった? エスパーか? 父ちゃんは……普通? 真面目そうな良いお父さんねってよく言われるけど、顔はイケメンじゃないな多分。本人は『特徴が無いのが特徴なんだよ! けど量産型じゃねえぜ?』って訳の分からないことを言ってたな。 


「二人とも冗談を言ってる場合じゃないんだよ、子供が召喚されちゃったんだ、取り合えず……どうしようか?」


「このおっさん何も考えてねえよ! どうしようアッちゃん!」


「取り合えずアイ様やヤヨイ様の所に、この子を連れて相談に行きましょう。あそこは子供も多いし、子供の扱いに慣れてるわ、ナッちゃん」


「そうだね、それが良いだろうね、アカネ君やトウコ君にサキちゃんを呼んだから他の召喚者の人達の対応はこっちでやっておくよ、君達にはこの子の面倒をお願いして良いかな?」


「サキだけ『ちゃん』付だよアッちゃん!」


「ロリコンかしら? ロリコンだわ、ナッちゃん!」


「二人だって『ちゃん』付で呼んでるじゃないか! 二人ともロリって年じゃあ無いだろ?」


「おっさんに親し気に『ちゃん』付で呼ばれてもねえ、アッちゃん!」


「その『ちゃん』付けの境界は何処なのかしら? まあ如何でも良いけどね、ナッちゃん」


漫才か? このお姉さん達漫才のコンビなんだな? テレビのお笑いタレントなのかな? 美人なのにお笑いなの? なんて残念な……


「ごめん二人とも、他の召喚された人たちが唖然とし始めたから、ソロソロ良いかな? 召喚しておいて放置とか不味いだろう?」


 周りの兄ちゃんや姉ちゃん達は石の床の上に座ってポカーンッとしてる。まあそうだよな、俺と一緒で召喚されたみたいだしな。いきなり目の前で漫才始められても困るよね。


「まあいっか、そっちは任せましたよアツヒトさん、うーんと、じゃあ僕、お名前は?」


「遠藤孝則、7歳、小学二年生です!」


「あれ? 個人情報は教えちゃダメなんだろう?」


「馬鹿だなおっちゃん! 不審者には教えちゃダメなんだぞ! 綺麗なお姉さんには積極的にアピールしなさいって父ちゃんが言ってた!」


「そうね、引っ込め不審者! こんなおじさんに近寄ってはダメよ、ここは美人のお姉さんに任せなさい! こんな不審者退治してあげるわ!」


大人の女性って感じで大人しそうなお姉さんなのに、俺を背に庇うようにして、その知り合いらしいおっちゃんに向かって拳を構えている、コントの続きなのだろうか? パンチを繰り出す真似をしておっちゃんを威嚇している。


「おおっ見どころが有るな君! えーとタカ君ね、じゃあお姉ちゃんと一緒に良い所へ行こっか」


元気な感じのお姉さんは頭を撫でながらしゃがんで笑いかけてくれる、うん、このお姉さん好きだ! 優しいし美人さんだ。


「良い所ってどこだ? お腹減ったんだけど……」


「大丈夫! あの二人なら色々隠し持ってる! 筈よ多分、オヤツが一杯あるよ!」


あの二人? 誰? ああ、さっき言ってたアイ様やヤヨイ様って人の事かな?


「えっ! 夜なのにオヤツ食べて良いの! マジで!」


「ふふん! なにせ異世界だからね! ねえアッちゃん!」


「そうよ、異世界は凄いのよ! 結構何でもありなのよ! はぁーー、ほんと何でもありなのよね、もう一寸自重してくれると助かるんだけど、ねえナッちゃん」


「子供の前で愚痴るのは控えようよ、今度一晩飲みながら聞いてあげるよ、アッちゃん」


そんな事を言いながらお姉ちゃん達は俺の手を引きながら部屋を出ていく、するとそこには見たことも無い満天の星空が広がっていた、


「何だこれ? え? 星空ってこんなに星が一杯あるの? スゲーキレー」


「驚くのはまだ早いよ、タカ君こっち見てごらん」


ナッちゃんと呼ばれる姉ちゃんが指さす方を見ると、圧倒的な大きさの月が……


「え? あれが月? 近くない? え? 落ちてくるのあの月! ヤバい逃げないと!」


「あれ? タカ君、日本で月の大きさ教えて貰わなかったの? あの大きさの月が落ちてきたらどこに逃げても無駄だよ?」


「ナッちゃん本気で怯えるから揶揄からかわないの! この異世界の月はね、日本で見ている、あっちの世界の月より大きいのよ、それにほらこっち見てごらんもう一個碧い月まであるのよ」


アッちゃんが指さした方を見ると先に見た白い月よりは小さいが、俺が日本で見た月よりも遥かに大きな月が蒼蒼と輝いていた、


「碧い! 本当に碧いよ! なんで? 日本でも薄っすら赤い時は有るけど碧い月は見たことが無いよ! それにこっちも大きい!」


「凄いでしょ? 異世界に来たって感じがしてきた? 異世界に召喚された人は大体この月と星空を見て、異世界に来たって実感してるんだよ」


「月による魔力の増幅を利用してるみたいだからね、異世界からの召喚は満月の夜にしか行えないのよ、だから召喚された人は大体この星空と月を最初に見ることになるのよ」


「ん? けど曇りの日とか雨の日はどうなるの? 月見えないよ?」


「そんな時は召喚自体が取り止めになるんだよ、月が見えてることが重要なんだって、だから雲が月に掛かっててもダメなの」


「一番良いのは白い月と青い月が両方夜空に見えてる事、次に良いのは白い月が夜空に見えてる事、次に良いのは碧い月が夜空に見えてる事、両方見えない時は取り止めね、魔力の増幅効果が足らなくて、術式が失敗する可能性があるからね」


「今日は両方見えてるね、両方満月だよ!」


「そうね、綺麗ね!」


「そう、だから失敗とかはあり得ないのよ……だからタカ君は何か特別なのかもしれないわね」


「そうなの? 俺特別?」


「そう特別よね、今まで100年以上、子供の召喚例は無かった筈だもの」


「確か今までは若くても中学生位までね、最年少記録で12歳だったかしら?」


「そうなんだ、なら分からないだけで何かチートスキル貰ってるのかな俺!」


「チートスキル? 何それ? ……まあアレよ、この街で勉強や訓練すれば、ほぼチートスキル持ちになれるから」


「そうね、この街自体がチートの塊の様な街だから、心配しなくても大丈夫よ」


お姉ちゃん達は良く分からない事を言う、そんな話をしながら街に出る、見ると至る所に日本語の看板がある、街の通りを歩いているが色々なポスターや店名が殆ど日本語、偶にオシャレなお店は英語の看板を掲げてたりするけど、そこら中に日本語が溢れている。


「あれ? えーとこう言うのなんて言うんだっけ? うーーんと、テーピング? じゃないや何とかパーク、そう公園? 何かのイベントやってる施設! そうイベントの施設! 遊園地とかで見たことある奴だ!」


「ん? ああ、テーマパークね! そうよね洋風の石造りの街並みに日本語の看板だしね、そんな感じよね、私達には見慣れた風景だけど、初めて見たらそんな感じかもね」


「異世界? なんだよね? この星空とか偽物には見えないし……」


最近遊園地の造り物の街並みが子供だましに見えてきたんだよね、俺も成長したってことだよね? ヒーローショウのヒーローも只の劇に見えてきたし、そうだよねもう小学二年生! 子供っぽい事は卒業したんだ。

 そんな俺が見てもこの街並みは本物っぽかった。何だろまだそこかしこでお店が開いてるから? そこを行きかう見慣れない格好の人達が居るから? それともあそこに見える兎耳の人や猫耳の人の耳が、秋葉原のメイドさん達と違ってちゃんと本物っぽく、ピコピコ動いているからだろうか?


「ねえお姉ちゃん、あそこの人達ってコスプレ? レイヤーさんなの?」


「へえ、タカ君はそっち方面詳しいの?」


「秋葉原に父ちゃんと良く行ってたんだ、メイド喫茶にもよく一緒に行ったよ! だからレイヤーさんも一杯見たんだ! こっちの人達の衣装は凄いよね、本物みたいだ! お金かかってるよね! 凄い出来が良い!」


「それはね、本物だもの、お金も凄い掛かってるわよ、あっちの人の来ている鎧なんて何百万するんだろ? あの人中級ね! ほらミスリル使ってる、夜で辺りが暗いから良くわかるよ、仄かに光ってるでしょ?」


「ほんとだ、凄い、キレー、あれなんで光ってるの? LED?」


「アレはね、魔法よタカ君、魔力を帯びて光っているのよ、タカ君も勉強すれば魔法が、そうよ、この世界にはね魔法が有るのよ、日本から召喚された人には珍しいけど、こっちでは当たり前に魔法が有るのよ、だからタカ君も魔法が使えるようになるわよ」


「魔法? 魔法!! スゲー魔法だ! 俺魔法使いに成れるの?」


「成れるよー! 少年! 喜びたまえ! 今日から君も魔法学園の生徒だ!」


 ナッちゃんがふふんと胸を逸らしてビシッと指をさして告げて来る、おっ、意外と胸大きいなナッちゃん、アッちゃんの方が少し大きいけどね!


 そうか魔法か!うん先ずは火炎系だな! 雷撃系も捨てがたい、勇者って言ったら雷撃系! これは外せないよね、そうやっぱり魔法は見た目が派手じゃないとな!


 その時の俺は、まさか元の世界に帰る手段がないなんて思ってなかったんだ。変なところに突然連れてこられて、だから混乱してたし、美人のお姉さん達に両手を引かれて舞い上がってたし、魔法って言葉に浮かれてた。もう父ちゃんにも母ちゃんにも会えないなんて思ってなかったからね……


 その後、数か月で俺が覚えたのは風系の魔法だった、何故かって? 火炎系は危険だからダメって止められたんだ、誰も教えてくれなかった、同じ理由で雷撃系も禁止された! 仕方が無いので教えてくれる『明かり』や『送風』なんかの大人の言う安全な魔法(子供だましの魔法だと俺は思う)を練習してそれを覚えた。まあそれだけでも嬉しかった、だって魔法が使えるんだぜ? 先生もこれらの魔法を使って練習していれば、そのうち攻撃魔法を使う時、その練習成果が生きて来るって言ってたしな!


 ならばと練習がてら、『送風』を使ってクラスメイトの女の子のスカートを捲ってたらすっげーシスターに怒られた、練習するにしても目標が欲しいじゃん? ダメなの? けど俺はそのお陰でこっちで友達が一杯出来た! サクッと魔法をマスターしてそれを活用した俺は同じ学校に通う同級生の男子のヒーローになったのだ!


「タカ! お前スゲエな! 『送風』魔法にこんな使い方があるなんて思いもしなかったぜ!」

「けど実際やると結構難しいね、風の向きをちゃんとやらないと上手く捲れないよ」

「けどパンツだな、うんパンツは偉大だな! クラスメイトの女子のパンツはショボいな、先輩のを狙うか?」

「バッカお前、狙うならお姉さんだろ! シスターの……あれは無理だな、スカートに見えてあれズボンなんだぜ、オレ知ってる」


「街でこっそり隠れて、お姉さんのスカートを捲ろう!」


俺が宣言すると、


「なっマジかよ! 学校の外でやるのか」

「俺達に出来ないことやってのける、流石だよタカ!」

「そこに痺れる憧れる!」

「一緒に! 一緒について行っていいよね! ね! ね!」


 スカート捲りは男のロマンだって父ちゃんも言ってたからな! 『子供の頃にしかできない事だ! シッカリ子供の頃に楽しめタカ!』って言ってた。大人になってやるとお巡りさんに捕まっちゃうんだって、ビバ子供!


 そうそう俺はこっちで学校、寄宿舎学校に入った、同年代の子供たちが寮に入って併設された学校で勉強するところだ。授業は俺が通ってた小学校と殆ど変わらない、『国語』『算数』『理科』『社会』『体育』、あと違うのは『魔法』の授業が有る位、寮の部屋は個室、親友になったベン達に聞いたら、幼稚舎までは共同部屋で小学校から個室になるんだそうだ。ベン達は幼稚舎から居るらしくこの学校に詳しい、あと小学校から男子と女子の寮も別々に分かれてるんだそうだ。


 寮では学校の先生もしているシスター達が食事や洗濯なんかの世話をしてくれる。けど各自の部屋の掃除は自分達でやる、結構散らかしている奴が多いが、週に一回シスター達の見回りが入るのでその時散らかしている大変だ、罰としてトイレとか共同使用の場所の罰掃除が待ってるので、その前に皆大慌てで片付ける。

 

 この寄宿学校、設備が豪華! 日本で通ってた学校がショボク感じっるほどに色々綺麗だ、その分掃除が大変だけど、掃除の時間は結構長くとられていて真面目にやってないと罰が待ってるから皆真剣にやってる。綺麗なだけにあんまり嫌じゃないしな、トイレとか全部温水シャワートイレ、プールは室内温水プール、各教室に冷暖房完備、それに黒板はガラスに光で文字が書かれている変わった黒板を使ってる。あと施設のデザイン凝ってる。机や椅子も何だかオシャレ、制服もカーキ色のブレザーって言うやつにこげ茶色のズボンだ。街に遊びに行くことも有ったから色々見て回ったけど、異世界が全部こんなに豪華なわけじゃないみたいだ。この学校は異世界でも格段に豪華らしい。


 あと兎に角、食事が美味しい! 見慣れた日本の料理っぽいのも出て来るけど肉料理が多いかな? 魚はあんまり見ない、オヤツも豪華で果物のケーキなんかが頻繁に出てくる。スナック菓子は余り出てこないのが残念だけど、食べきれなくて残すのはNGだけど、御代わりは『自由』! スゲエだろ! 食べ放題だぜ! びっくりだ! なんて言ったけ? ビヘ形式? ビュッヘ形式? なんか違う……そうだビュッフェ形式、発音が難しいな!

 好きな料理を好きなだけ食べても良いけど、人気の料理は直ぐになくなる、競争だ。あと必ず野菜も一皿食べないといけない、肉だけは無し、ズルすると直ぐにバレて罰当番が待ってる、けど異世界の野菜は苦くないから俺でも結構食べれる、だから平気だ。

 こんなに沢山あって食事が余ったりしないのか心配なんだけどシスター達は、


「余らせたりはしませんよ、勿体ない! 貴方達が食べ終わったら、私達が残り物を食べますからね、足りない分は作り足す位なのよ?」


結構な数のシスター達が居るから平気なのだそうだ。


 ナッちゃんとアッちゃんに一緒にこの学校に初めてきた時、校長先生と教頭先生のアイ様とヤヨイ様に会った、アイおばちゃん、ヤヨイおばちゃんと最初呼んだらスッゲー睨まれた。


「あら? おばちゃん? おばちゃんなんてどこに居るのかしら?」


「まあアイ様、タカノリ君は私達以外の誰かが見えてるのかしら? 大変ですわ」


二人ともニコニコとした笑顔だったが、目が笑ってなかった。スッゲー怖かったので、今は『様』を付けて呼んでいる。本人たちは、


「私はアイ『お姉さん』よ、タカノリ君よろしくね! 今後、貴方の此方での保護者になります、何かあれば気軽に相談に来なさいね」


「同じくヤヨイ『お姉さん』よ、私も役職で呼ばれるのは好きじゃないの、名前で呼んでね、困ったことが無くても話に来なさいね」


 『お姉さん』を強調して自己紹介されたが、二人は確かに美人だ、確かに美人だったんだろう、しかし子供の俺から見たら二人とも流石に『お姉さん』って年じゃないのは明らかだ、ウチの母ちゃんより年上だと思う。無理、絶対に無理! 流石に空気の読める俺でも『お姉さん』とは呼べねえよ! 父ちゃんも言ってた、『タカ、自分に正直に生きるんだ! 誰に非難されようと、自分に嘘はつくな!』って、だから俺は『様』を付けることにした。ナッちゃんとアッちゃんもそう呼んでたからな。


 そして今、その二人が目の前で静かに微笑んで椅子に座って、床に正座させられた俺達の前に居る。 

 あれから怒られても懲りずに街に出て、こっそり隠れて綺麗なお姉さん達のスカート捲りをしていたら、バレて今この状況だ。顔は微笑んでいるけど二人の目が笑って居ない。


「さて貴方達、なんでこの場に居るのか分かってますか?」


「スカート捲りをしたから?」


「そうです、タカノリ君、貴方はこの異世界の法律を知りません、それは未だ教えて居なかった私達の責任でしょう、だから今回の事については、その法律を適用することは免除して頂きました」


アイ様が静かに言ってくる、怖い、この人怒ると本当に怖い。


「因みにタカノリ君、この世界での法律ではスカート捲りの罰は鞭打ち百回です、少年法は有りませんから、子供にも同じ罰が課せられます」


そうヤヨイ様が言う、鞭打ちってなに? ムチ?


「これがその鞭です、回復魔法で回復させながらなので死ぬことは有りません」


バシッ!!


 床に抜かって振られた鞭が石畳の床の上でビックリするほど大きな音を鳴らしている。いや死ぬ、確実に死ぬ! 百回? 無理、2回も耐えられない!


「体罰反対! 愛の鞭ってソレ本物の鞭じゃん!」


俺が叫ぶと、


「タカノリ君、罪を犯すと、犯罪を犯すと裁かれるのよ? わかるでしょ? 今回は子供の悪戯で被害者の方達も大目に見てくれたから良かったんだけど、学校外ではこの国の法律が優先されます。私達も庇えないのよ。

 学校外での罰は、教育上の体罰とかじゃないの、刑罰、お巡りさんに捕まって下される罰なのよ、悪戯するにしても校内だけにしておきなさい」


ヤヨイ様は静かに言い聞かせるように俺達に話す。この異世界では性犯罪は重罪なのだとその後説明された、最初に言って欲しい!

 そうか学校の外はダメだな、やるなら中でって事だなと思っていると、


「そうそう、今後魔法でのスカート捲りは禁止です、破ると魔法を使えなくしますよ! これは脅しではありません」


アイ様に釘を刺されてしまった。


 そんな事件から数日、俺と同じく今度は女の子が召喚されたと一時騒ぎになったがどうでも良い、子供には興味ないからな! それにソラは生意気でタカビーな女子で好きじゃない! 可愛いのは可愛いんだけどな、10年後に来な!


 そんな事より、魔法を使えなくする、それは困る、折角覚えた魔法、今後攻撃魔法も覚えてカッコよく活躍する予定なんだ、今使えなくなるのは困る。

 そこで俺は今覚えることのできる危険の無い魔法で何かないかと図書館に通って調べ、そして新たに『静穏』の魔法を覚えた、これはこっそりシスター達に近寄って、さり気無く胸やお尻を触るのに役に立った。

 音を消して近寄って驚かせる振りをして抱き着いたりして胸やお尻を触るのだ。これは子供の悪戯、そう子供の悪戯なのだ! ビバ子供!


 見るよりも触った方が百倍気持ちいい! そのことに俺は気が付いてしまった! もしかして俺は天才だろうか? シスター達は美人のお姉さんが多かったのでその点も非常に良かった。子供で女顔の俺はそんな行為をしても嫌がられるとは無かったことも幸いした。


「スゲエよタカ! 堂々と行ったよ! お前天才じゃねえか?!」

「今度は『静穏』か、流石はタカ!」

「そこに痺れる憧れる!」

「俺だって、俺だって、俺だって! パフパフしたいんじゃー! お尻にダイブしたい!」


「良いだろ! みんなも覚えろ! 校内、しかも子供、そんなに怒られないぞ」


「そうだよな、スキンチョップ、そうだよな!」

「何か違いませんか? あれ? 何か違うよねそれ」

「どうでも良いだろそんな事!」

「俺はヤル、やってやるぞシスターアンジェラにダイブする!!」


「そうだよねシスターアンジェラは良いよね、巨乳だし美人だし、それに優しいし」


 そんな感じで俺達のその悪戯は徐々に大胆にエスカレートしていった、最初は只の抱き着きだったが徐々に胸に手が行き、お尻に手が行き、揉むまでになっていた。


 そう奴がこの学校に来るまでは!!

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