第104話ヘイロン

≪何やってんだお前は!! 馬鹿なのか? もしかしなくても馬鹿なのか?≫


タツオが念話でメグミを罵倒する。


「五月蠅いわねタツオの分際でいきなりなによ! 失礼しちゃうわ! アンタ何処から見てるの?」


≪なんだとこの野郎! 分際とはなんだ! 年上だって言ってるだろうが! もう少し口の利き方ってのがあるだろうが!≫


「ハッ! 野郎じゃないわよ、見ればわかるでしょ女よ、女郎……いやこの場合『このアマ』が正しいのかしら?」


≪どっちもダメよ言葉使いが汚いわよ二人とも! それにタツオお兄ちゃん話がズレてる! 屋上よ! 私達は屋上にいるわ! メグミちゃんソコで何してるの! 直ぐに戻りなさい!≫


ノリコの叫びに、


「ノリネエみてよ、おっきいわよ、バカげた大きさだわ、ねえコレ生き物なんでしょ? 凄いわね! クジラとか丸のみに出来そうよ」


≪そうですよ! 大きいんです! だからそんな所に居たら危ないでしょ? なんでメグミちゃんはそのバカげた冗談みたいな生物の正面に立ってるんですか!! 自殺したく成ったんですか?」


「何言ってるのサアヤ? こんな生き物、真直で見なくてどうするのよ? 凄いわね、全身から魔力が溢れてるのかしら? 鱗が発光してるわ凄く綺麗よ、これ魔法で強化されてる感じね、どうなのかしら? 武技も使ってるのかな? 凄いわね。常にコレだけ魔力が流れてるなら良い材料が取れそうだわ、それにこの大きさよ? 一体何人分の鎧や盾が出来るんだろ?」


≪いやお前何言ってんだ? そんな場合じゃねえだろ? って何剣構えてんだ! アホか? 早く逃げろや! 人間が戦艦に生身で勝てるわきゃねえだろ! それは弩級戦艦より大きだろうが!≫


≪剣なんて振っても鱗と表皮に傷がついて終わりですわよ! なに切り掛かろうとしてんですか! メグミちゃん、真面に成ったんじゃなかったんですか?≫


≪アハハッ、めぐみちゃんそのどらごんとくらべたらゴマツブみたいだよ、ねっ!! ヴィータがいったとおりでしょ? めぐみちゃんはいつもどおり、こんなのにきりかかるきなんだよーありえない、アハハッ≫


≪笑い事じゃねえ、ヴィータは少し黙ってろ! んっ? あれ? お前メグミがこいつに向かって行ったの知ってたな? そうだろ?≫


≪ん? そうだよ、ヴィータちゃんといったよ、めぐみちゃんうみのうえあるいておさんぽにいったって≫


≪お散歩だろ? 襲いに行ってるじゃねえか!≫


≪めぐみちゃんのおさんぽはいつもそうだよ? タツオはばかなの? おさんぽにいったらきれるものはぜんぶきるのがめぐみちゃんだよ? だめだなタツオ!≫


「ホント、ダメダメねタツオ! 何よ! ただ大きいだけの蛇よ、こう言うのはアレよ」


≪あれ? アレって何?≫


≪お姉さま、聞いてはダメです!≫


「表面が硬いなら、中から攻撃すればいいのよ、表面が硬い奴って案外中はやらかそうじゃない? ドラゴンのステーキとか美味しそうよ!」


≪ダメだな話にならねえ! こいつ元に戻ってるじゃねえか! 何でだ?≫


≪何でかしら? 『ママ』何かしたの?≫


≪私は何も……メグミ何をしているの! 今すぐ戻りなさい、貴方はそこで何をしているの!!≫


「何ってそれは見たらわかるでしょ? 切るのよ! って、あれ? こいつ手があるわ? 蛇じゃないの? 東洋風の竜なのかしら? じゃあアレよ! 竜珠って宝玉を持ってるのよね? 良いわね! 益々大儲けの予感よ! にしてもそもそもこいつの巣穴は何処よ? ドラゴンって巣穴にお宝貯めこんでんでしょ? 探索系の魔法でこいつの巣穴捜索できるの? どうなのターニャ?」


≪ん??≫


「なに? やって見ないと分らないの? まあ水の中だし匂いも辿れないのか……」


≪誰だ? 誰がメグミを元に戻した?≫


≪そうか! 分かったわ、そう、さっき感じた違和感の原因はこれだったのね、そうよ、そうなのよね≫


≪なに? サアヤちゃん、何が分かったの?≫


≪別に色欲である必要は無いんですよお姉さま、そうメグミちゃんの性欲が強すぎるのと、あの時のリビドーってメグミちゃんの言葉に惑わされてましたが、神々は欲望を呼び起こさせろって言ってるだけで、色欲とは限定してません≫


≪ん? まあ確かにそうね、けどメグミちゃんに色欲以外に強い欲望なんて……戦闘意欲? そうか! 強い相手と戦いたいって渇望……それね!≫


≪そうです、言ってみればこのドラゴン、『海王竜』こそがメグミちゃんの欲望に火をつけた犯人、そうでしょ、そうなのねメグミちゃん≫


「そうよ見なさいサアヤ! ノリネエ! このドラゴンを! 絶望的な強さよ! 圧倒的だわ! どう? 心が震えて来るでしょ、心の底から喜びが湧き上がってくるわ! 良いわ! 凄く良い! これは私の獲物よ! これよ! こんなのと戦いたいのよ! 雑魚じゃダメなのよ!」


≪この間『真祖』を譲ってやっただろうが! あれで満足しとけ! それはダメだ、相手が悪すぎる、早く戻って来い!≫


「『真祖』? ああこの間のヘタレか、あれはダメよ、最初からダメダメだったじゃない、私はこれが良い! これを切りたい! これと戦いたいのよ!」


≪なんで? 勝てないわよ! 絶対に勝ってっこないわよ? なんでそうなの? 昔TVCMで『俺より強い奴に会いに行く』なんて言ってたけど、これはダメよメグミちゃん、強いとかの次元じゃないわ? そもそも相手が人間じゃないわ≫


「ばかねノリネエ、相手が人間だろうと魔物だろうと竜種だろうと神だろうと関係ないのよ! 自分より強い敵に挑むことに価値が有るのよ! しかも相手から向かってきてるのよ? チャンスよ! 限界を超えるほど力いっぱい戦っても倒せない圧倒的な壁、絶望的な強者が襲ってきたのよ? 逃げる? あり得ない!」


≪なんであり得ないんだよ! 普通逃げるだろ! 必ず負けるのに戦う馬鹿が何処にいる!≫


「はぁ? 此処に居るじゃない! そもそもどこに逃げるの? 街の市民を見捨ててヘルイチに戻るの? 私達は冒険者よ! たとえ僅かでも時間を稼いで見せるわ!」


≪メグミちゃん、今、水の魔王様とアルネイラ伯に連絡を取ってる、メグミちゃんが時間を稼ぐ必要はない、戻れ! これは命令だよ!≫


「ナツオ先輩、アルネイラはダメでしょ? 今は昼よ、夜ならまだ時間稼ぎ位出来るかもだけど、この日差しの中で役に立つのかしら? それに水の魔王様だってそうよ、背はあっちが若干高い位よ、目の前のドラゴンの大きさと比べたら誤差よ、なら私がやっても大差ないわ」


≪違うだろ……なんでそうなるんだ! 最悪アルネイラ伯は確かに日中は能力が若干下がるかもしれないが、水の魔王様なら大丈夫だ! 君が単身切り掛かるより百倍マシだよ≫


「なによ! 私が水の魔王に劣るって言いたいの? 嘗めんじゃないわよ! 水の魔王だって切って見せるわ! いいナツオ先輩! 私はね、どっちでも良いのよ! 私は強い敵と戦いたいの! 雑魚なんか興味が無いのよ! こいつと戦えないなら水の魔王だろうがアルネイラだろうが試合って名目で切り掛かるわよ!」


≪なっ! メグミちゃん彼女達はVIPだ、この地域の要人だよ? バカな事を言うんじゃない! …………冗談だよね?≫


≪ナツオ先輩、多分本気です、メグミちゃんならやります、普段のメグミちゃんに戻ってるなら絶対にやります≫


≪ねえサアヤちゃんどっちの味方だい? いいから逃げるんだ、切り掛かることは許可しない! お、脅しなんかに僕は屈しないよ、ハルミちゃん、黙ってないで君からも何か言ってやってくれ!≫


≪無茶言わないでよ! こっちだって必死で水の魔王様やアルネイラ伯に連絡とってるのよ! アルネイラ伯は寝てるし、水の魔王様は自室に籠って何かしてるらしくて、『絶対に入ってくるなよ! 絶対じゃからな? 前振りなどではないぞ!』って言ってたらしくて側近の人達も中に入れないのよ……≫


≪プリムラ様が許可して『マジカルブローチ』はそのまま預けてるんだろ? そっちから連絡は付かないのかな? 早く呼び出してくれ!!≫


≪けど、ナツオ先輩≫


≪なんだいノリ子ちゃん、君ももっと必死に呼びかけて! このままじゃあメグミちゃんが……≫


≪それなんですけど、あのドラゴン、止まってます。先程から全く動いてません、それに何だか困ってるみたいなのですが……≫


≪へっ? あれっ? そう言えばメグミちゃんが前に立ってから少しも動いてないね? なんでだろ?≫


鎌首をもたげていたドラゴンはその首をゆっくりと降ろし、メグミの前にその巨大なビルの様な顔を近寄せると、


《のう、そこの娘さん、そこに居られると前に進めんのじゃがの? 退いてはくれんかのう?》


そう話しかけてきた、


≪ドラゴンが話しかけてきてますよ、それになんだか普通に穏やかそうな声ですけど……≫


「五月蠅いわね! ここを通りたかったら首を置いていきなさい! いいから私と戦うのよ! なによ人の良さそうな声出して! その兇悪な図体で何をジジイみたいな声出してんのよ!」


≪メグミちゃん? なんでドラゴンさんを刺激してるんですか! 普通に会話が出来そうなのよ、ココは話し合いで解決するところよ!≫


「ダメよノリネエ、それじゃあ戦えないじゃない! このヤル気をどうしてくれるのよ!!」


≪メグミちゃん、そこで本気でそのドラゴンに暴れられると街の被害がヤバい! メグミちゃん戦うにしてももっと街から離れて!≫


≪おいっ、ナツオ先輩! なんでメグミが戦うの前提になってんだ! さっきまで必死で止めてたじゃねえか!≫


≪タツオ君大丈夫だ、あのドラゴンは会話が出来る、話が出来るドラゴンだ。なら間違いなく古代種だよ、それに声を聞けばわかるだろ? 知性的だ、なら何も問題ない、あのままあの場でメグミちゃんに暴れられるより、ちょっと遠くでメグミちゃんのストレス発散に付き合ってもらおう、それなりに報酬を払えばその位引き受けてくれるさ、古代種で知性的なドラゴンってのはそう言うものだよ≫


≪なんだそりゃ? 話が出来て知性的なドラゴンなら大丈夫って、おかしくねえか? 余計ヤバいんじゃねえのか?≫


≪強さで言えば、会話も出来ない巨体だけのドラゴンの数百倍は強い! 圧倒的な強さだよ、なにせそれだけの知性だ、魔法だって武技だって使いこなす、加護は信仰心が無いから使えないみたいだけど、逆に竜種には独自の竜種魔法と呼ばれる物がある≫


≪ヤバいだろ? 余計にやばいだろうが! 何で嗾けてるんだ!≫


≪だからだよ、圧倒的だからこそ生き残ってる? 違う! それだけじゃあ何千年も何万年も生き残れない、立ち回り、生き残り方、他者とコミュニケーションを取り、会話することで無用な危険を冒すことを排除できる、話が通じる人格者が多いんだ。ちゃんと礼を尽くして頼めばメグミちゃんの相手位遊び気分で引き受けてくれるよ≫


《のう? 勝手に話を進めないでもらえるかのう? まあワシも普段なら人族の小娘相手、『ワシの鱗に少しでも傷が付けれたら褒美をやろう』と挑発して必死の様を見て楽しむじゃがの、この娘、ヤバいじゃろう? 傷とか本気で付けるじゃろ? 相手の力量位分かる程度にはワシも強いからの、嵩がお遊びで怪我をしては堪らんの?》


「だーーーーー!! 黙って! あんたドラゴンでしょうが! 黙って狩られなさいよ! 良いわね! 行くわよ!」


《待たんか娘、短気じゃのう? ワシが何かしたかの? ただちょっと前を通りかかっただけじゃろうの? なんで切り掛かってくるんじゃ? それになお主の剣は危険じゃのう、本気で戦えば確かにワシが勝つじゃろう、しかしケガもする、そうじゃろうの? その剣はそういう剣じゃ、昔勇者とやらと戦った時と同じ予感がするのじゃがのう、間違いなかろうて》


「そんな昔話聞きたくないわ! いいから戦いなさい! じゃないとそのウザい角切り落とすわよ!」


《何を言う娘、カッコいいじゃろう? ウザい? そんな筈はないの、百年ほど前に整えたから未だそんなに変になって居らん筈じゃが? ウザいのか?》


巨大な頭を傾けて首を捻るドラゴンは、目の前に巨大な鏡を召喚しその姿を映して確認し始めた。首元に無数に生えた棘の様な角や頭上に生えた立派な角を確認しながら、


《ふむ? 少し伸びたかの?》


そうドラゴンが呟いた瞬間、メグミの姿が消え、鏡を眺めるドラゴンの眼前に雷鳴を響かせ、プラズマの尾を引いて出現する。


「なら切ってあげるわ!!」


《こら待たんか娘! 勝手に切るでない! 虎刈りは嫌じゃぞ!》


 その巨体に似合わぬ素早さでヒョイと首を後ろに引くが、メグミの踏み込みの方が早い、


パシュンッ!!


その手の灼熱の太刀の刀身が伸び、直径5メートルを超える小さな角が切り裂かれる。


《なんとこの娘、本当にワシの角を切り飛ばしおったの、一体どんな切れ味をしとるんじゃ、ワシの角の強度は鱗どころではないぞ?》


「へえそうなの? 良いわねソレ、素材ゲットよ! ほらサッパリさせてあげるわ、じゃんじゃん切るわよ!」


《だから止めろと言っとるじゃろう! 娘! 温厚なワシでもいい加減怒るの? ちょっと待て、今どう整えるか決めるからの、指示通りに切らんかバカ者が! くぅ、ざっくりいきおったな、ココにバランスを合わせると結構坊主になるではないか! ほんに困ったのう……ふむ、左右でバランスを取るかのう?》


≪ん? なんじゃ? ハルミが慌てて呼ぶから何かと思ってきてみれば、海竜王のジジイではないか、久しいのヘイロン! 80年振りか?≫


《なんじゃ? ん? お主、水の魔王か? どうした可愛くなったの? 今度は女か? 勇者に倒されたと噂で聞いとったが、女に転生したのかの?》


≪そうじゃ、色々事情があっての、今回は女性体に転生したのじゃ、如何じゃ? 可愛かろう! うわっはっはっ!!≫


「よし! 水の魔王! 勝負よ! 試合をするわよ! ルールは簡単、どっちかが死んだら終了よ!」


≪それは試合とは言わんじゃろ? こらハルミ、あの狂犬娘を押さえんか!≫


《待て娘、わしの角を整えるのが先だろうの? 最後まで面倒を見て行かんかの! 切った角は褒美じゃ、くれてやるからちゃんと整えてからいかんか》


「角切り飛ばしたら海中に落ちちゃったわ、拾いに行くのが面倒よ! それにあんた戦う気が全く無いじゃない! つまらないわ、私は真剣勝負がしたいのよ!」


《そうは言うてものう、娘、なんでお主はそんなに生き急いでおるんじゃ? 直ぐに死ぬ人族でもお主若い方じゃろ? その年でその腕ならば焦らずとも良かろうに?》


「ほっといてよ! 良いでしょ、最近暴れ足りないのよ、ストレスが溜まってるのよ」


≪お前さっきまでノンビリ寛いでたじゃねえか、なんでストレスが溜まってんだよ≫


タツオがメグミの言葉に思わず突っ込みを入れるが、


「だからよ! 抑え込まれていたストレスが爆発してるのよ! そうよ反動よ! きっと反動だわ! 雑魚『真祖』伯爵フルボッコし損ねて、その後ずっとノンビリしてたのよ? ダメよ、誰か強い奴と戦いたいわ! こうギリギリの戦いをしたいのよ! 神経が磨り減る様な、ギリギリで戦いたいのよ!」


≪流石にこの状態はおかしいですわ……ねえメグミちゃん、性欲は? あの留まることを知らない性欲は戻ってますの? リビドーは感じてますか?≫


「何言ってるのサアヤ? こんなドラゴン相手に発情とか止めてよね」


《なんじゃ? ワシに発情とか……まだまだワシも捨てたもんじゃないのう》


「黙れジジイ! ツルッパゲにするわよ!」


《なんじゃと! 止めんか! ダンディなワシの角を如何する気じゃ! ほれ切る位置にマーカーを付けてやったぞこれでカットしてくれ! くれぐれも変な気は起こす出ないぞ? 切り過ぎてもいかん! よいかの?》


「結構器用ね、デカい図体の割に器用に魔力操作するわね、けど私は髭剃り……この場合は角剃り? じゃないわよ! ああもうっイライラする、こんな物でも切らないよりはマシね、ほらっサクサク行くわよ! ハルミさんマーメイドやスキュラの子に角の回収を要請してね」


≪まあ良いけど、所でヘイロン卿で良いのかしら? 今回の来訪理由を伺ってもよろしいでしょうか?≫


≪そうじゃなヘイロン、お主何しにここに来たのじゃ? まさか角を切りに来たのか?≫


《ふむ、まあもう目的は果たしたような物じゃがの、ホレそこに空に浮かんどる島があるじゃろ? 住んどる奴も中々の力を感じる、何よりもその島自体がの、あれは人の帝国の空中要塞じゃろ? 何事かと思って様子を見に来ただけじゃの。あれが暴れ取った当時は随分と海の連中も狩られたでな、またぞろ馬鹿が海を荒らしに来たのかと思ったのじゃがの》


「なによジジイ、水の魔王が心配で様子を見に来たの?」


飛び回りながら正確に魔法で黒く印をつけられた角を切り飛ばしながらメグミが尋ねると、


《なに昔からの顔なじみは随分と減ったでの、この間勇者に狩られたばかりで力も戻っておらんのだろ? 手を貸してやろうと思ったまでだの》


≪うそこけ! そんな理由を付けて酒をたかりに来たんだろ? 毎月届けさせている筈じゃが? 足らんのか?≫


《のう水の魔王、ワシとて配下に色々酒を集めさせておるでの、お主の所に態々酒をたかりに来るほど困ってはおらんでの》


「あんたその巨体で酒飲むの? 何トンのお酒飲んでるのよ? プールに満タンにする程のお酒が居るんじゃないの?」


≪そうじゃヘイロン、前にも言ったじゃろ? ワシの所に来るときは本来の姿で来るでないわ! 人型に化けんか! お主が起こした波で砂浜付近の植物は全滅じゃ、ココは水深が浅いんじゃ、その巨体じゃあ迷惑じゃろうが!≫


《ん? あっ…………忘れておったの、そうじゃったの、うっかりじゃ赦せ、先ほどまでクジラの群れ追いかけて狩って居ったでの、そのまま来てしもうたわ》


「反捕鯨団体が激怒しそうな食性のジジイね、ねえ、こっちの世界のクジラってどの位の大きさのが居るの? 半端な大きさだと絶滅しそうだけど……」


《娘、クジラに興味があるのかの? 確かに旨いからのう……そうじゃなお主らの単位じゃと普通は100メートル程かの? たしかそれであっておろう、お主ら最近こっちに来とる『日本人』じゃったか? 色々珍しい酒を造っておるの、ワシも色々仕入れておるの》


「百メートルねえ、凄いわね、シロナガスクジラが30メートル程だったっけ? 軽く3倍ね、まあその巨体のエサならその位ないと足らないわよね」


《何を言うとる? 別にワシは何も食べんでも100年位は平気じゃがの、食べているのは単なる趣味じゃの、クジラは旨いからのう》


「なにそれ? どうやって体を維持するのよ?」


《龍脈、地脈、他にも色々との、力を補充できるのだの、栄養素等もの別に他の生物から吸収せんでもどうとでも成るのう》


「地脈は兎も角、龍脈? 地脈の別称? じゃないの?」


《違うのう、別じゃ、竜種はその龍脈の力にて竜種と成っておる、これは竜種以外には使えん、そうじゃなお主なら地脈、天蓋、後は運が良ければ星道かの?》


「知らない言葉ね、天蓋? 天の蓋? 何それ? それに星道?」


《ふむ、最近の若い者はそんなこともしらんのか? 天蓋は天を覆う空の地脈の様な魔力の道じゃな……魔法を使うのじゃろう? 加護も使っておろう? その力は何処から補充して居る? 生物本来の筋力以外の力をどこから取り出しておる? 良いかの? 生物が自ら生じさせられる力など武技に使う気力位じゃろうのう、他は多少は生み出しておるかもしれんが、その殆どは地脈や天蓋から導いておる魔力や加護の力じゃの、術者はその力の触媒、端末じゃのう》


「ふぅん、まあ自分一人の力じゃないって訳ね、天、空にもそんな力の道が有るのね、で、ついでに教えて星道ってなに?」


《星々を繋ぐ宇宙の道じゃな、その昔星々を飛び回っていた時はそこから力を導いていたのう……懐かしい話じゃ》


「なに? 宇宙ってあんた達宇宙まで知ってるの? 星々を飛び回っていたって何それ? 燃える話ね! そうよねココも惑星の上ってことは他にも惑星が有るのよね……古代に栄えていた文明が有るわけだし、そうか、宇宙に進出した文明も有ったのね! そうでしょ?」


《やはり日本人は面白いのう、理解が早いわい。そうじゃな神と称する者達や邪神と呼ばれる者達は別の星からこの星に渡って来た者達じゃな、奴らは未だ星間宇宙船を隠し持っておるだろうて、竜種も嘗ては宇宙を飛び回って居ったが形あるものは何時かは崩れる、最近は誰も他の星には行かんなぁ、まあ面倒な割に得るものが少ないからのう、魔族や吸血種の連中も宙に上がっていたはずじゃ、そうじゃな水の魔王》


≪ぬう、このジジイ気軽に禁忌を話おって、そうじゃなこの星は他の星から渡って来た種族の寄り合い所帯じゃ、今でも他の星には其々の文明が残って居ろう、我ら魔族も嘗て他の星から渡って来たのじゃ≫


《禁忌? なんじゃそれは? それにそこにエルフが居るではないかの? あ奴らの管理しとる世界樹は未だに世界各地に有るのじゃろ? あれは樹とは言っても宇宙港じゃぞ? 他の星との経路は途絶えて居らんじゃろ?》


≪なんだヘイロンお主知らんのか? 人種の帝国、ほれそこに浮いとる空中要塞になっておる、元恒星間宇宙船があろう? あれで暴れ回った悪評の所為で、この星は危険視されて、最近は他の星との交流は途絶えて居るわ、500年ほど前じゃったか?≫


《そうなのか? なるほどのう、どうりで最近他の星の連中が来ぬわけじゃな》


≪まあ、神だったか? あの連中が色々影で動いているからのう、お主の所には情報が伝わらんかったのも無理からんことじゃな≫


《しかしなんで禁忌なのかの? この程度の事が禁忌などと変じゃろう? 主は魔族だの? 神が裏で動こうが関係なかろうの?》


≪それはこっちの事情もあるんじゃ、今、日本人を含めてこの星の連中は一部を除いて発展途上じゃ、独自に文化を築いておる、下手な情報を与えて、正常な発展を妨げるものではないわ≫


「長生きな先達は本当に迷惑ね、勿体ぶってんじゃないわよ、知ってることは全部キリキリ吐きなさい! そう、あのアルネイラの城、あれ恒星間宇宙船なのね? ってことは空に浮かんでいる仕組みは重力制御、反重力装置か何かね? 良いわねソレ、少し仕組みを解き明かせば私達も星々を飛び回れるのね!」


≪話がぶっ飛んでますよメグミちゃん! いきなり飛び過ぎです! それにあの空中要塞は壊れているので宇宙には行けませんよ≫


「なに? そうなの? けど何でそれをサアヤが知ってるのよ? ん? そうかエルフの王族! ハイエルフ! 世界樹の管理はエルフがしてるって事は、サアヤ! あんた何か知ってるわね!」


≪…………お婆様に聞いてください、私からは話せません≫


≪ねえ、クジラって美味しいの? 実は私食べたこと無いのよ≫


≪なんだノリコいきなり? ん? 話題を逸らすのか? そうだな俺もまだ食ったことねえな、日本でもごく一部で流通してたみたいだが色々環境が厳しかったからな、親父の若い頃には給食で出たらしいぜ?≫


「私はイルカだったかな? 旅行先で食べたことが有るわ、結構おいしかったわよ!」


≪なっ! メグミちゃんイルカを食べたの? あんなに可愛いのに?≫


「私の前に並んだのはただの唐揚げよ、元の可愛さなんて知らないわよ」


≪まあ牛だって豚だって飼えば可愛いだろ? 人間なんて元々残酷なものだぜ? ってか他者の命を頂くってことはそう言うもんだ、人任せにしてるから罪悪感が薄れてるだけだろ、イルカもそうだろ、俺だって目の前に料理されて並んでたら食うと思うぜ?≫


「ノリネエ、豚だって犬並に賢いのよ? そもそも人間同士でも殺し合ってるんだし、他の生物だってそりゃあね、自然界は弱肉強食、それを避けるのが知恵で交流よ、イルカだって人間とイルカ双方にもっと知恵が有ればコミュニケーション取れるようになるわよ、そうしたら食べられないで済むんじゃない?」


≪そうね、自然は厳しいのよね、ホエールウオッチングしたこともあるからクジラを食べるのには抵抗があるのだけど、人間の何倍もの大きさの脳よ? きっと伝える術がない、読み取る術がないだけで賢いと思うわ、目がとても優しそうだったのよ、何時かお話してみたいわね≫


≪お姉さま、鯨人族や海豚人族って亜人種もこの世界には居ますよ? 普通に話せますわ、因みに彼らもクジラやイルカを狩って食べてますけどね、美味しいらしいですよ? ヘルイチには余り出回りませんけど確か『カンサイ』では普通に食べられている筈です。あの近くの港で鯨人族や海豚人の方達と取引してるみたいですわ≫


≪…………ファンタジー嘗めてたわね、へえぇ……≫


「今更何言ってるのノリネエ、牝牛人族のアリアさん達だって牛肉食べてるわよ? そもそもオーク肉が出回る世界よ?」


≪クジラか一度カンサイに行って仕入れて来るか? どの位の値段か知らねえけど、海の幸は豊富だろ? べらぼうに高いってことはねえだろ?≫


《なんじゃの? お主らクジラが食べたいのかの? 先程狩ったクジラを収納しておるでの、分けてやろうかの?》


「ん!! 100メートルのクジラを収納? あんた凄いわね! ……ねえ? なんでその場で丸かじりしないの? 態々収納する理由は何?」


《この姿で食べては少々では物足りんのう、ならば人型に化けて調理して食べれば長く楽しめよう? その方が味も食感も良いしのう、先ほどお主が酒をプールに等と言っておったがの、良い酒はそんなに大量には出来んものじゃのう、なら人型となって、少量をゆっくり楽しめば良かろうの》


「……その人型に化けた時のあんたの本体は何処に行くのよ? 元にも戻るってことは消えてなくなるわけじゃないんでしょ?」


《ん? ふむ、そんなことも知らんのかの? 収納と一緒じゃの、亜空間に本体を収納して、端末となる人型をこの空間に構成するだけじゃの、本体と端末は繋がっておるでの、肉体的な強度や筋力、そもそも重量は下がるがの、その他の力は元のままじゃ、便利じゃの》


「出鱈目な体の造りをしてるわね、けどそれも魔法の一種なのかしら? ねえクジラをくれるの? 1っ匹丸々? 何処で解体しようか? 100メートルでしょ? そんなの捌ける広場有るの?」


≪ぬくくっ、仕方ない、ワシの宮殿前の広間を提供してやるわ、感謝するのじゃぞ? 切り掛かってくるのは禁止じゃからな?≫


「っちっ! 仕方ないわね今度だけは見逃してあげるわ! クソッ何で誰も戦ってくれないのよ! あんた達の方が強いでしょうが!」


《それはのう、勝っても得るものが何もないのに、怪我は確実にする、損だけするからじゃのう、中途半端に強すぎなんじゃよお主は。まああれだの迷宮で魔物相手に暴れるがよかろうて、あ奴らは損とか得とかなしに襲い掛かってくるじゃろうからのう》


「……下層ね、今度はもっと下層に潜るべきね! そして歯ごたえのある強い敵を切るのよ!」


≪そうねメグミちゃん、今度はもっと下の階に行きましょうね、きっと美味しい食材や、良い素材がドロップするわ≫


「そうね、けどその前に100メートルのクジラよ! クジラ祭の開催ね!!」

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