第105話クジラ

遥か上空では青い水晶が光輝き、昼間の様な明るい光を地に注ぎ、巨大な岩がその広い空間に無数に浮かび、そこから水が滝となって流れ落ちる。

 そこは地下の筈だ、だがその空間の果てが見えない、流れ落ちる滝が巧みに視線を交互に遮り、その果てを覆い隠しているのだ、だがたとえそれが無くてもその空間の広さは度を越している。

 整えられ狩りこまれた芝、剪定された庭木、可憐な花が咲き誇る庭。更に苔むした岩の並ぶ滝壺近くの岩棚にも神秘的な花がそこかしこにひっそりと咲く一角もある。


「植物園か? いやそもそもここは地下だろ? 明るいな……」


タツオが天井を見上げながら呟き、


「お姉さま! 見てください、あの花! あれ霊薬の素材になる幻の花ですよ! 私、実物は初めて見ました!」


興奮したサアヤがノリコの手を引っ張りながら燥ぐ、


「サアヤちゃん、でも一杯生えてるわよ? 幻なの?」


「環境かしらね? 人工的に環境を整えてるんだろうけど、規模が馬鹿げてるわね、迷宮の地下にこんな空間造るとか魔族って凄いわね」


「ねえねえ、おはなのみつすってきていい? あのへんのおはなとってもいいにおいよ!」


「ターニャちゃん、ヴィータを捕まえといて! 勝手にフラフラされると被害額で破産するわ!」


「ん?」


「なにそんなに高いのサアヤ? 只の花でしょ?」


「あれ一輪で5千万円は下らない価値があります、あっちのなんか一億円でも買う人が居ますよ!」


「え?! 宝の山? ザクザク狩り放題?」


「止めんかバカ者! 貸したのはそこの石畳の広場だけじゃ! 庭の方に行くでないわ! ワシが丹精込めて作った庭じゃ、荒らしたらブチ切れる自信があるぞ!」


「ケチ臭いわね、アンタ魔王でしょ? 少し位サービスしなさいよ! どうせその内枯れるし、又生えて来るんだから少し位良いじゃない」


「風情がないのう、花を眺めて楽しむゆとりが欲しいのう、密かに可憐に咲く花を見習ってはどうじゃの?」


「あんた誰よ? あんたみたいなおっさんに知り合いは居ないわよ?」


その声の人物を見たメグミが訝しがり、それにアカリが、


「あら? メグミちゃんの知り合いじゃないんですか? ガッチリした体格で、見ただけで剣の達人風だったので、そうだとばっかり思ってたわ」


 スッと長身な引き締まった体躯、白髪を綺麗に整え、白い髭を整えた年嵩の中年紳士が高そうなチャコールグレイのスーツをパリッと着こなして立っていた、腰には綺麗な細工の施された剣を佩いている。


「ダンディな白髪の中年紳士……背筋も伸びてるし、白い髭も整えられてて、カグヤが年上男性好きだったら思わず吸ってしまいそうな素敵な殿方ですわ、この方どこのチョイ悪オヤジですか?」


 顔も若いころはさぞかし美形でモテたであろう美中年がそこに居た、線の細い感じでなく野趣があり、やんちゃに見える、ニヤリと笑う顔に自信が溢れる、タツオが年を取るとこんな感じだろうか? 足の運びや重心移動、その立ち姿からも相当出来る、その腰の剣が飾りではないことは一目瞭然である。 


「確かに剣の腕が相当立ちそうね、強そうだわ! ねえアンタそこでちょっとそこで一戦手合わせしない? 丁度いい石畳の広場よ?」


「だから嫌じゃと言うとろうがのう、お主と戦っても何の得にもならんのでの」


「チッッ! なんでこう強そうな人に限って戦ってくれないのよ! それよりあんた誰よ!」


「メグミちゃん、見知らぬ人に戦いを申し込むのは控えてね? ね? お願いよ?」


「流石に誰かも分からない相手と戦おうとしないでください! 相手に失礼ですよ! それに相手の実力も分からないでしょ? 怪我したらどうするんですか! 水の魔王様の居城なんですよ、シャレにならない上位魔族とかだったらどうするんですか!」


「皆、結構酷いの、先ほど会ったばかりであろうの? もう忘れたのかの?」


「ん? ん~ん? あっ! あんたもしかしてヘイロンなの?」


「そうじゃがの? 水の魔王が人型になれと言うでの、人型に成ったんじゃがの? 放射魔力と気力の色で見分けが付こうの?」


「知らないわよそんなの!! にしても……やり直しね、ダメね、ダメダメだわ! なにその姿は! ヘイロンがなんでゴツイおっさんなのよ! ほらやり直しよ、もう一遍化けなさい! 腰の曲がった、長い総髪に長い髭を垂らした白髪の老人、竜の人間化ってのはそんな感じよ、杖でもついてるとベストね! 眉毛は長くて目を覆い隠している位で丁度良いのよ! 分かった? 後服装もそれに合わせた感じで、そうね仙人風でお願いするわ」


「なんじゃそれは? ワシは人型の時は何時もこの格好じゃのう、良かろうの? この格好で酒場に行くと若い娘さん達がチヤホヤしてくれるでの、止める気はないのう」


「相変わらずの狒々ジジイよな、何のかんの言って未だそんな事しとったのか?」


水の魔王が呆れたように肩を竦めて溜息を吐きながら呟くと、


「なんじゃの? うまい酒と綺麗な娘、それに料理、セットじゃろうの」


ふふんっ、っと自信満々に宣言する。


「五月蠅いわねジジイ、やり直しだって言ってるでしょ! その喋り方とその恰好が合ってないのよ! 違和感あり過ぎよ! 大体あんたドラゴンでしょうが! 人間姿でカッコつけたってメスドラゴンなんて釣れないでしょ? なにアンタまさか人間の酒場に出入りしてるの?」


「そうじゃがの? ドラゴンは余り料理はせんでな、その辺は人間の酒場の方が良いでの、ちゃんとお金は払っておるでの、問題なかろうの」


「ドラゴンが人間の娘にチヤホヤされて嬉しいの? あんた達の美的感覚ってどうなってるのよ?」


「人でも動物を見て綺麗じゃと思ったり、可愛いと思ったりするでの、同じじゃの。中には人と番いになったドラゴンも居るでのう、綺麗な者は綺麗に見えるものじゃのう。主もその性格と雰囲気さえなければのう……おしいのう」


「メグミちゃん、素材は良いのよね」


「お姉さま、それだとメグミちゃんは素材だけに……その性格に最大の難が有るのは同意ですが」


「なっ! フレンドリーファイア、後ろから撃たれてる?! 素材、素材ってうるさいわね、私は今の私も結構好きよ! それに素材ってドラゴンって料理するの? 生きたまま丸齧りが基本じゃないの? それこそ素材のまま」


「偏見じゃのう、生きたまま食ったりせんわ、踊り食いとかはそれこそお主ら日本人位じゃろ? ちゃんと仕留めてから食うの、それに味はわかるでな、料理してある方が美味しいのう。そんな理由で、最近は狩ってから人の街に持って行って料理してもらうのがマイブームじゃのう」


「ふざけんじゃないわよ、野生どこに行った糞ドラゴン!!」


「じゃから偏見じゃのう、ドラゴン、特に古代種のドラゴンは知能が高いんじゃ、人よりよっぼどグルメじゃの! 文明人じゃ!」


「何言ってんの? ねえ何言っちゃてんの? ドラゴンってアレよ、口の周り血だらけにして食べた獲物の血を垂れ流して、口から手とか足とか食み出させながら、クッサイ息吐いて吠えるのよ! これが野生よ! 弱肉強食よ! なによ焼肉定食みたいなこと言っちゃって、ドラゴンの誇りは何処に言ったのよ!」


「なんの誇りじゃ意味が分からんのう! それでは只の猛獣ではないか! 古代種のドラゴンと下等なトカゲモドキを一緒にするではないのう、お主らもこの娘に何か言わんか? 何を涙浮かべて喜んどんのかの?」


「だってメグミちゃんすっかり元通り、何時もの無茶苦茶ぶりが戻って……うっ」


手で顔を覆って泣き始めるノリコに、


「お姉さま未だです、性欲はまだ戻ってませんわ、そっちも何とかしないと、性欲分が戦闘本能に回って以前より酷いです」


「お主どれだけ……」


「変な目で見るんじゃないわよ! 良いのよこれで、ノリネエ達も何泣いてんのよ! そんなに酷くはないわよ! ちょっとよ、ちょっとだけ今までの鬱憤が溜まってるだけよ……多分」


最後は少し自信がなくなるメグミ、


「そんな漫才は良いわ、クジラを解体するのじゃろ? だから場所を貸したんじゃぞ? 庭を案内する為でも、お主らの漫才を楽しむ為でもないぞ」


「そうだったクジラよ、ジジイの格好とかドラゴンの野生とか如何でも良いわ、サクサク解体して食べるわよ!」


「さり気無く自分の事は棚に上げましたよメグミちゃん」


「さっくり自分の事は横に置くメグミ先輩も素敵ですわ!」


「五月蠅いわよ外野! ほらヘイロン爺さんサクサク、クジラ出しなさいよ」


「なんじゃかのう? まあワシも美味いクジラ料理が食べたいから提供するんじゃがの、もう少し感謝しても良いと思うがの?」


「はいはい有難うございます! ほらこれで良いでしょ? ささっと解体して食べるわよ!」


「納得いかんのう、何だかスッキリせんがのう」


「喧しい! 男でしょ、ケチ臭い事言ってんじゃないわよ、出すって言った物なんだからサクサク出しなさい!」


納得がいかないのか、尚もブツブツ口の中で呟きながらも一辺が200メートルはある大きな石畳の広場に向かう。


「ねえ水の魔王、ココ本来は何する場所なの? 矢鱈広い石畳の広場よね」


「多目的ホールじゃが? そうじゃな以前は武闘大会やら、音楽鑑賞会やら……演劇等もやったかな? まあ色々じゃな、そこの階段状の花壇が有ろう? あそこに以前は椅子等も設置して居った。今はこの城の連中の運動場じゃな」


「なんだろう、釈然としないわね、雰囲気もそうだけどあんた達魔族なんでしょ? 魔族なのよね?」


「なんじゃ? 何が気に入らん? 綺麗じゃろうが?」


「あんた達人間の負の感情を食べてるんでしょ? もっと負の側面を見せなさいよ! 何だか綺麗すぎるでしょ? もっと魔族の住処はオドロオドロしい物じゃない? こう触ると粘着く様な、気持ちの悪い汚い壁や床で、そこかしこに正体不明の小動物が這い回ってるのよ、そしてそいつらが弱肉強食で血みどろの戦いを繰り広げてるの!」


「知らんわ、そんなの物語の中だけじゃ! ワシらだって綺麗なところに住みたいわ、なんじゃそれは、そんな所で気持ちよく住めるのか? 魔素が漏れるからな、地下に住むのは仕方がない諦めよう、しかしじゃ、住環境を整えるのは文明人として当然の事じゃろう? 部下だって居るんじゃ、ブラックな職場にしたら部下が止めていくじゃろ! 売り手市場なんじゃぞ?」


「なんで魔族が快適さを求めてるのよ? それじゃあ負の感情が湧かないでしょ?」


「人の負の感情だけで十分じゃぞ? なんで魔族同士で負の感情喰い合わねばならん!」


「それよ、なんで魔族同士で負の感情食べ合わないの? 自分達で補給しあえば人の負の感情なんて要らないでしょ?」


「魔族は物質的な生物でなく、精神体に近いんじゃ、感情を喰い合ったら死んでしまうじゃろ?」


「そうなの? でもなんで負の感情が欲しいのに人に味方? してるの?」


「別に味方しとるわけではないな、単に放置すると簡単に滅んでしまうから、そうならんように見守っとるだけじゃ、それにな、別に態々負の感情を呼び起こす様に仕向けんでも、人が集まって発展すれば勝手に量産してくれるからな?」


「ぐっ、事実だけに反論できないのが悔しいわね……」


「しかし水の魔王様、ココで解体して血の跡とか匂いとか大丈夫なんですか?」


「構わん、洗い流せば済む話じゃ、それに多少の血は良い肥料になるじゃろう」


「石畳の隙間に……入り込みそうにないわね? 凄いわねピッチりよ、剃刀の刃が入らない石組って言うけど正にそれね……水も漏れないんじゃない?」


「まあな! どうじゃ凄いじゃろ? この石は硬くて有名でな、金属では中々切れぬので水で切って加工したんじゃぞ、ふふんっ!」


「そうなの? ねえちょっと切って良い?」


「止めんか馬鹿者! お主が切れぬとは言っておらんじゃろ!」


「メグミちゃんこんな綺麗な石畳を傷つけるのはどうかと思うわよ?」


「分かったわよ、なによちょっと試したかっただけよ……そんなに言わなくても、ねえハルミさん解体人の人は呼んでるの?」


「メグミちゃん、別に魔物の素材の剥ぎ取り、解体は専門家の仕事って訳じゃないのよ?」


「けど全長百メートルのクジラよ? ハルミさん達だけで捌けるの?」


「ん? んん? なんで私達が捌くことになってるの? メグミちゃん達は?」


「私は魚も捌いたことが無いのよ? 無理ね!」


「生憎私も果物とか野菜は切ったことが有るのだけど……魚はないわ」


「同じく私も魚は捌いたことが……けどクジラですよね? 動物と一緒なのかしら?」


「サアヤ動物捌いたことあるの?」


「森で野ウサギとかなら狩ったことが有るので、後は鳥ですね」


「この世界のエルフって逞しいわね、私のイメージだと菜食主義で肉とか食べないイメージだったから違和感があるわ」


「木の実やキノコとかだけ食べて生きろと? 余り農耕はしませんからね、森の恵は豊ですが、流石にそれだけでは足りません、狩りもしますよ。まあ取り過ぎには注意して、生息数を調査したり、環境保護、自然保護の意識は高いですけどね」


「ああ、以前も同じような話聞いたわね、『シーサイド』に来る前だったっけ? シーフードの話した時?」


「忘れましたが……そんな感じですかね?」


「まあ良いわ、ねえハルミさん、そしたら誰が捌くのクジラ?」


「ふぅ……ねえ大丈夫なの貴女たち? 魚も捌いたことが無いってそれで女の子として大丈夫なの?」


「現代っ子舐めないでください、魚は切り身で売ってました!」


メグミが自信満々に宣言し、


「料理は出来るんですよ、ただ捌き方を知らないだけで、『ママ』のお手伝いで皆料理はやってるんですよ」


ノリコが真剣に説明し、


「『ママ』に鍛えられてますからね、ヘルイチに魚があまり売ってなかっただけで、他の料理はちゃんとできます!」


アカリも本気で抗議の声を上げる。


「なんで皆さん必死なんですか、別に料理の腕で女子力が決まるわけじゃないと思いますけど?」


「ターニャ以下は黙ってなさい! カグヤ! あんた料理殆ど出来ないじゃない! ああ見えてターニャは料理上手いわよ? 味付けが若干シンプル過ぎるけど」


 たった一人、山で暮らしていたターニャは、結構料理が出来る。しかし調味料に乏しかった所為か、好みなのか使う調味料が塩のみなのだ、焼く、煮るは普通にできるが、味付けは塩と若干の香草のみ、不味くはないが現代人のメグミ達には若干物足りない。


「ん!」


「えっ!? ターニャあんた魚捌けるの? マジ? 川魚なんて串にさして丸焼きじゃないの?」


「ん!!」


「なに? おっきい魚も居たの? そう、それで捌けるのね、凄いわねターニャ」


「ん♪」


「何気に以前から気になってたんですけど、良くターニャの言いたいことが分かりますねメグミちゃん、テレパシーの類ですか?」


「バカねサアヤ、そんなの使えるわけないでしょ、目を見たら大体言いたいことが分かるじゃない、あれよフィーリング? ニュアンス? まあそんな感じよ」


「??なんですかそれ? それがテレパシーじゃないんですか?」


「サアヤちゃん深く考えてはダメよ、メグミちゃんは感性の人でしょ? 同じ感性の人のターニャと何となく通じてるだけよ、深く考えてはダメ、どうせ理解できないわ」


「君達、話が逸れてるよ、まあね、ウチの街の解体出来る子達も呼んでるけど、君達も手伝いなさい、私達も100メートルのクジラは解体したことはないわ」


「小さいのなら捌いたことがあるんですか? クジラを」


「偶にマーマン達が30メートル位のクジラを集団で狩って取ってくる事が有るのよ、その時に捌いたわね」


「なんだ普通サイズのクジラも居るのね」


「違うわよメグミちゃん30メートルは十分過ぎる位大きいわよ」


「この世界に毒され過ぎだぜメグミ、30メートルっていったらシロナガスオオクジラのサイズだ、十分すぎる位の大物だ」


「まあ何でもいいわよ、ターニャが魚捌いたことが有るみたいだし、最悪『ママ』なら何でも捌けるわよ、って『ママ』は何処?」


「さっきのメグミちゃんの姿を見て頭痛と眩暈がするっていうから部屋に戻って休んでるわ」


「何? そうなの? 案外繊細なのね、ヘイロンがそんなにショックだったの? ちょっと大きいだけじゃない? ねえ?」


「違います、そのヘイロンさんに切り掛かったメグミちゃんを見てショックを受けてるんです!」


「髭を切っただけじゃない、いや違った角か? ねえヘイロン、あれ角? 髭? どっち?」


「如何でも良いのう、ホレそろそろクジラを出すぞ!」


「何拗ねてるのよ? ちょっと放置された位で度量が狭いわよ」


「……全く口の減らん娘だのう」


 そう言って腕を振る動作をすると何もない空間に、突如真っ黒な巨大な物体が現れ、地響きを立てて石畳の広場の上に横たわる。


「ヘイロン見た後だと、ちょっと小さく感じるわね」


「何言ってるんですか! 十分大きいですよメグミちゃん! 飛空艇位の大きさが有りますよ! にしてもコレがクジラですか? 初めて見ました、兇悪そうな魔物ですね」


サアヤがクジラを見上げて呟くと、


「おかしいわメグミちゃんコレ、目が6つもあるわ、反対側も同じ数の目が付いてるなら全部で12個よ?」


「いやこれクジラか? 角が生えてるぜ? しかも結構沢山、この世界のクジラってこんなのなのか?」


「牙? 歯でしょうか? 凄いですね大きいわ、こんなのに噛まれた一溜まりもないでしょうね? 私も初めて見るけどこれがクジラなのね」


「カグヤが以前見たクジラと随分違うんですけど……クジラ? なんですかハルミさん?」


「……ねえこれ皇帝クジラよね? これ皇帝クジラだわ! ちょっとヘイロン様、これ何処にいたんですか? 確か群れを狩っていたとか言ってませんでしたか?」


「なんじゃのう? 何を騒いで居るのかの? サクサク捌いて保存せんと腐ってしまうぞ?」


「それどころじゃありませんわ、これが皇帝クジラなら海で作業中の子達に避難指示を出さないと、群れ完全に狩り尽くしたんですか?」


「ん? なんじゃこれが襲ってくるのを心配しとるのかの? 大丈夫じゃろ、ワシがこの島付近に居ることは奴らも理解しとるじゃろ、今頃必死で逃げて居ろうの」


「飛空艇! そうよ飛空艇にも連絡しないと、高度を普段より上げないとダメだわ!」


「なんで飛空艇? ん? このクジラのヒレ? いやこれ羽? ……もしかしてこのクジラ空を飛ぶの? この巨体で?」


「そうよ、皇帝クジラは空も飛ぶのよ! 高度が低いと襲い掛かってくるわ、群れで襲われては、飛空艇も一溜まりもないわ」


「……流石はファンタジー世界ね、聞いたノリネエ? この世界のクジラって空まで飛ぶんですって」


「ねえメグミちゃん、このクジラの目は可愛くないわ、優しそうでもない、兇悪そうだわ……」


「ノリネエ、人は見た目じゃないわ、クジラだってそうよ、食べて美味しければ見た目なんてどうでも良いのよ、お腹が減ってんだからサクサク捌いてクジラステーキを食べましょ」


「お前は全く歪みがねえな? この見た目のクジラをみて普通に食欲が勝つとはな、ほんと尊敬するぜ」


「なによ、褒めたってなにも上げないわよ?」


「うんまあ、褒めてねえ、呆れてんだ」

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