第97話月夜の作戦会議

 その突然の大音量にメグミ達は戸惑い、何事だろうとノリコ達に連絡を取ろうとすると、それよりも早く、彼方此方から連絡がメグミに届く、


「何かしら? 何事? ハルミさんにナツオさんそれにエミさんまで? エミさん、確か今こっちに手伝いに来てるんだっけ? あっ、アキさんからも来た……面倒ね、まとめて繋げちゃうか、ルーム作成っと、ほいっ全部応答」


≪メグミちゃん今どこだい?≫

≪メグミちゃんそれ何処で見つけたんだ?≫

≪距離はどのくらい? どの位その天空要塞『リーガル』と距離が有るの? 目算で良いわ教えて!≫


ナツオ、ハルミ、エミから立て続けに質問され、


≪方角は? どこから来るの? 見えないわ、街からは確認できないんだけどどの方角?≫


アキが方向を聞いてくる。


「皆さん何慌ててるの? この騒ぎにこの天空城が関係あるのね? えーと? 『リーガル』っていうの? コレ。方角は北東ね、街からだと丁度死角になるのかな? 東の端からなら確認できると思いますよ。距離はどのくらいだろ? 結構上空高くに浮かんでいるから、『カナ』凡そどの位の距離があるか分かる?」


《目算による凡その距離ですが、窓らしき物の大きさから比較検討を付けると約100キロ程でしょうか? 走る位の速さで此方に向かってきてます、此方の上空に達するまで後4時間と言ったところでしょうか》


『カナ』が上空の天空要塞を見ながら答える、


≪まだ距離は有るし、時間もあるね、大急ぎで戦闘態勢を整えるよ!≫


≪ハルミちゃん、先ずは非難誘導が先だよ、安全の確保だ。ヘルイチ地上街への連絡は?≫


≪ダメよナツオ、魔法通信が通じない! 転移魔法も阻害されているみたい、転移できないってアズサが言ってる≫


≪くっ、斥候が既にこの街周辺に来てるわね、ヘルイチとの定時報告は一時間毎、前回が約30分前だから、30分で向こうでも異常を察知する筈よ≫


≪ハルミちゃん、この街の避難設備はどうなってるのかな?≫


≪主だった施設の地下に水路とそこに通じる部屋が有る、そこを避難場所としているんだ。各家にも同じ設備がある、今全世帯に避難指示を出しているから、30分も有れば一般市民の避難は完了するだろう≫


≪流石だねえ、ハルミちゃん、抜かりはないね。にしても派遣部隊から『リーガル』の所在が掴めないって報告は有ったけど、まさか侵攻してくるとはね、逃げ回ってると思ってたのに……≫


≪ねえ、応援部隊の到着は何時頃になるのハルミちゃん≫


≪エミ、それは転移阻害がどの位の範囲で行われているかに寄るわね、周辺の島への転移魔方陣で通じているものが有れば、そこから浮遊艇や飛行魔法で応援が駆け付けるでしょうけど……≫


≪まあ奴らが間抜けであることを祈ろう、こっちの戦力はどの位だろう? ハルミちゃん≫


≪迷宮内にも結構冒険者が残ってるね、夜の空いた時間に稼ごうとする夜行性の人が多いのんだ、日本人には。それに宿泊施設が今埋まってるって言っても、無理やりテントで迷宮周辺に寝泊まりしている冒険者も結構いるよ、シホルとカオリに今動員の要請に行かせたから、200名くらいは直ぐに集まりそうだね、後は淫魔の部隊がカウンセラーとして常駐してる、此方は50名くらいかな、けど人数以上に彼等の戦闘力は高いよ、それとマーメイド、スキュラ、マーマンの人達が合計1000名位だね戦闘職以外の人達を入れればその4倍は居るけど、戦い慣れた人達だけ動員した方がまとまりが良い、今受付嬢に動員の要請に行かせている≫


≪後は常駐している中級冒険者が……90名位だっけ? 他の街と比べると半分以下だよね、あと今回の応援で来ている僕達か、一応初期訓練組と現在訓練中の者たちも居るけど、この子達は自衛が主だね、戦力に数えるのは無しだ≫


≪常駐の中級冒険者が少ないのが悔やまれるね、まあこれは今後の課題だね、それに今後増えそうだし今は良か……けど結構な戦力が居るよね、相手の規模はどの位なんだろう? この戦力相手に仕掛けられるほどの戦力なのかな? 『リーガル』の情報誰か持ってる?≫


≪では私から知っている限りの情報を提示するわ≫


≪ん、では任せたよエミ≫


「ねえみなさん、勝手に話を進めないでよ? なに? あれ敵なのね? 私達も街に戻った方が良いのね?」


≪その通りだよ、メグミちゃん、今回は大金星だよ! 良く見つけてくれた!≫


≪早めに見つけてくれたお陰で早く対応できてる、このままだと定時連絡や転移魔法が使えない原因の調査なんかで1時間以上対応が遅れただろうからね≫


ナツオとハルミがメグミを褒めるが、


「最初に見つけたのはターニャよ、私は報告しただけ、それも珍しいモノ見つけた位の軽い気持ちだったんだけどね、まあ良いわ。ターニャ、『カナ』、街に戻るわよ!」


メグミは二人に声を掛けると、街に、施設に戻るために駆け出す。


≪飛空艇だけ警戒してレーダーの検知高度が低すぎた、まさかあの高さで侵攻してくるなんて、しかも虎の子の天空要塞で直接とは、油断だねすまない≫


≪まあ、ハルミちゃん、それは今後の課題だ、先に現状の把握をしよう、おっ、ノリコちゃん達も来たね、『マジカルブローチ』が通じる全員に公開しよう、どうせこの街の『マジカルブローチ』所有者は全員関係者だ、構わないだろう?≫


≪メグミちゃん、何事なの? また何をしたの?≫


「失礼ね、ノリネエ! 私は何もしてないわよ! 敵が攻めてきたそうよ、全員戦闘準備、完全武装よ! 『ママ』やアリアさん達は避難しなさい」


≪あらメグミ、今はこの施設が私の守るべき『家』で私の城よ? 逃げるなんて出来るわけないでしょ?≫


≪メグミちゃん、私達も大丈夫よ、自分の身位守れるだけの装備を造って貰えたもの、早速活用するわよ、それに『魔水膜』を改良して『魔空膜』を開発したのよ、これで大気中でも泳げるのよ凄いでしょ!≫


「えっ! 大気中で泳げるの? それ凄いわね、今度教えてねアリアさん」


≪コラッ、先ずは情報共有だよ、個別の話は後から頼むよ、エミ報告を!≫


ハルミの叱責にメグミ達が少し気不味気きまずげに黙る、メグミはこっそりと、


「ノリネエ、『ママ』の装備を出してあげて、けど無茶しない様にね」


≪分かったわメグミちゃん≫


≪メグミに心配されるのは、何だか新鮮な気分ね≫


「本当に無茶しないでよね、相手の人が可哀そうよ?」


≪メグミちゃん! ソロソロ報告しますよ、それに今回は貴方達は後詰めよ! 前線に立ったらダメですからね? 本当になんでもう前線で戦う気でいるの? 貴方達は戦っちゃだめだからね?≫


エミがメグミ達に注意するが、


「相手が襲ってきたら切り殺すだけよ? けどあれよね、サクッと天空要塞に出向いて沈めた方が早くない?」


≪本当にヤリそうで怖いから、思ってても口に出さないで貰えないかな? あれは失われた技術の塊だから、破壊して沈めるのは勘弁してほしいな、出来れば可能な限り無傷で、接収したいな≫


「欲張りますね、ナツオさん、壊した後からでも残骸から解析できるでしょうに?」


≪そこ! また話が逸れてます! 良いわね? 報告するわよ!≫


エミが切れかけているので、再び押し黙ると、


≪では報告します、天空要塞『リーガル』は古代帝国の遺産です、古代帝国時代から天空要塞として各地に赴き反乱を鎮めてきた軍事施設としての用途が強い浮遊島です、古代帝国が滅んだ後も、聖シャネオル帝国の所有の軍事施設として彼の帝国の隆盛を支えています。ただし、ここ数十年は聖シャネオル帝国の伯爵、アルネイラ・フォン・グリフィス伯爵が実質的に支配、所有していると報告されてます≫


≪アルネイラ? 女性かな?≫


≪ええ、女性ね、いえ、女性だったと言った方が良いのかしら? 且つて聖シャネオル帝国の貴族令嬢で有ったアルネイラはその卓越した頭脳と自らの魔力で『真祖』となったそうよ、当時17歳、本物の天才ね、政略結婚でスケベ貴族に嫁がされるのを嫌って、『真祖』になったと噂になってるわね。『真祖』となった後は天空要塞『リーガル』を奪って、自らの居城とし、地位と生贄を帝国に求めていたみたい、世俗を嫌って殆ど地上の事に関心を示さずに、天空要塞に籠って自分の興味のままに研究をしていたみたいなのだけど、何故ここに侵攻してきたのか不思議だわ≫


≪一部の貴族が逃げ込んでいたんだろう? そいつらに扇動された可能性は?≫


≪彼女の報告書にある人物像で、貴族のジジイ共を受け入れる事はないでしょうね、逃げ込んでいるのも没落予定の貴族の令嬢ばかりね。たとえ国がどうなろうと我関せずで傍観を決め込むと思われていたのだけど……≫


≪目的が不明だね、通信を試みて相手の真意を探りたいね、いけるかな、ハルミちゃん≫


≪仕掛けてきてる以上、何らかの害意があるのは確かでしょうけどね、やって見るよ≫


≪『吸血種』になっているのに人間の帝国に所属してたの? 不思議な人ね、『吸血種』の帝国に移りそうな物なのに≫


≪アキ、『吸血種』は人間以上に血統に拘るからね、彼らの貴族主義は筋金入りだよ、たとえ『真祖』でもポッと出の元人間を受け入れるかな? あり得ないね、だから彼女も人間の帝国に留まったんだと思うよ≫


≪なら益々その目的が不明だわ、何故人間相手に事を構えるような真似をするのかしら?≫


「ん? 単純に生贄が得られなくな成るからじゃないんですか? 今この地域は性奴隷を保護して回ってるんでしょ? その吸血鬼の好みの処女の生き血が飲めなくなるから、その腹いせか回収にここに来てるんじゃないですか?」


≪ふむ、それもそうか、確かにそれが一番考えられる理由だね、この地域に喧嘩を売るだけの価値があるかは疑問だけど、世間知らずの貴族の令嬢ならそんな考えに至るのかもしれないね≫


「吸血鬼にとっては一番重要な事じゃないんですか? だってご飯が食べられなくなるわけでしょ?」


≪メグミちゃん、吸血鬼の事どこまで知ってるのかな? ああ、向こうの世界の吸血鬼じゃなくてこっちの世界の吸血鬼ね≫


「えっ? 違うんですか? 前に見た文献だと殆ど一緒だったような……血を吸って、相手が処女や童貞だと配下の吸血鬼にして、それ以外は『グール』みたいなアンデットに成るんですよね? 日の光や聖なるものに弱い、心臓を白木の杭で刺されると滅ぶんでしょ? それに本体が精神体でそっちを攻撃する攻撃も効くし、案外弱点の多い化け物ですよね。一応魔物とは別種ですよね」


≪それは一般の吸血鬼だね、『真祖』は違う、陽光は嫌うけど、それだけ、聖なる攻撃も効きはするけど弱点て程じゃない、心臓を白木で刺しても滅びないし、精神攻撃にも強い≫


「どうやって倒すんですか?」


≪あまり倒したって記録が無いんだよね……個体数が少ないし、勇者のおじいちゃんや他の勇者が倒したって記録はあるんだけど、どうやってってのが無い、多分力尽くで無理やり滅ぼしたんだろね、それにメグミちゃんの場合も問答無用で切り裂きそうだけど、それで本当に切り裂けちゃいそうだけど、けど今までに弱点らしい弱点を攻撃されて滅んだ『真祖』は居ないね≫


「『真祖』って結構凄いんですか?」


≪他の吸血鬼と『真祖』は別種だと思った方が良いね、なんでまた『真祖』が態々ここに乗り込んでくるのかが不思議なくらいの大物だよ、この世界でも『真祖』は数えるほどしかいない、今こっちに来る彼女を入れても10数人位かな?≫


「だから血を吸う為なんじゃないんですか?」


≪そこだけどね『真祖』は血を必要としていない、血を吸わなくても平気なんだ、戯れに吸うことは有っても、必要じゃない、殆ど精神体だからね、物質的な血なんて必要としていないんだ≫


「たしか『真祖』の上に『神祖』ってのが居ましたよね? そっちじゃなくて『真祖』でもそんな感じなんですか?」


≪そうだよ、それに『神祖』ねこれはもうその名の通り『神』に近い存在だね、何かの生物がそれに成るのでなく、自然に発生する超常の存在だ、現在この世界には5体『神祖』が居るがほぼ外界との接触を断って自分の領土に引きこもっている、迷宮を作ってる存在も居るね、吸血も出来るから吸血鬼の最上級の存在としている説もあるけど、これらは完全に吸血鬼とは別種だよ、魔王となっている存在もいる、魔族の一種、超常の精神体ってところだろうね≫


「へえ、そんな感じなんだ、いつか切ってみたいわね、どんな感じなんだろ? 『神殺し』とか職能が得られるのかしら?」


≪やめて! メグミちゃん、貴方が言うとシャレにならないわよ? 下手に『神祖』に興味を持たれると困るから! 相手がこの地域にでも来たら大騒ぎよ! 下手したら滅ぶわよこの地域が!≫


「アキさん大げさよ、私だって馬鹿じゃないわよ! 切るなら相手の所に出向いて切るわ、この地域でそんなに暴れないわよ、分別位付くわ」


≪そう言ったことじゃないのよ? ねえ分かってるわよね? 冗談なのよね?≫


「その『神祖』が美人じゃない限り興味はないわね! それよりも今は『真祖』よ、そのアルネイラは美人なのかしら? 美人だったら容赦しないわ、その『真祖』は私の獲物よ! 絶対に胸を吸って、唇を奪って、色々悪戯するのよ! そう人に言えないようなことまでたっぷりとねっとりとね!!」


≪メグミちゃん、万が一『真祖』が出てきても、一応『真祖』の相手は『水の魔王』様がしてくれるから、メグミちゃんは手を出さないで欲しいな、こんな時の為に『契約』を結んでるんだ、この迷宮の地下の魔族達との関係は良好だからね、人間の争いには関わらないけど、相手が『真祖』なら彼らも黙っていないよ、だから『真祖』の相手は彼らに任せよう、まあ多分相手もその辺は分かってるだろうから、直接『真祖』が出てくることはないと思うよ、配下の人間や吸血鬼、魔物の撃退が僕たちの役目だ≫


「ねえナツオさん、その『水の魔王』様って女性なんでしょ? 勇者のおじいちゃん達に滅ぼされて、魔王の大半は女性になったって聞いたんだけど、ねえ女性よね? 美人なんでしょうね?」


≪僕は話しか知らないな、ハルミちゃん会ったことがあるんだろ? どんな魔王様なのかな?≫


≪話したくありません、メグミちゃんの前では絶対ダメです! メグミちゃん、たとえ『水の魔王』様が出てきても、絶対に手を出したらダメよ? これは絶対よ? 冗談とかじゃないからね?≫


ハルミは普段の男言葉から素の女言葉に戻っている、その動揺ぶりが伺える、


「美人なのね? この反応……しかも結構見た目が若いのね! 私の好みのドストライク? そうなのね?」


≪絶対にダメよ? ここの魔王様は冗談が割と通じる方だけど、流石に襲われてまで冗談で済ませる様な人格者じゃないわ、止めてよね? 折角関係が良好なまま保ってるのよ?≫


「キス位なら挨拶じゃない? 大丈夫でしょ? それに女同士なんだし少し位スキンシップが多くても不自然じゃないわ」


≪私、魔王様もアルネイラって人も今すぐ逃げてと伝えたくなってきましたわ≫


≪サアヤちゃん確かにそうね、メグミちゃんの前に美人さんを出したらダメよね、犠牲者が増える一方よ≫


≪メグミは本当に少し自重しろよ! お前相手が誰であろうが関係ないのか? ってあれが天空要塞か、まだ小さくて良く見えねえな、あんなの良く見つけたなターニャ≫


≪ああ、あれねタツオ君、本当に良く見つけたわね。けどメグミちゃん、大魔王様が絶世の美女だって知ったら、即ナツコさんやアミさんに会わせる様に頼んでましたからね、勇者のおじいさん達以上に危険人物ですよ≫


≪あの時は危なかったですね、カグヤ達がフォローしてないと偶々地上に居た大魔王様に引き合わせるところだったですからね、危機一髪でしたわ≫


≪ナツコさんやアミさんはメグミちゃんの危険具合を理解して無かったですからね……≫


≪ハルミちゃん、『水の魔王』様に伝えてくれ、絶対にメグミちゃんの前に現れない様に、くれぐれもよろしく伝えてくれ≫


≪言われるまでもないです、この街にメグミちゃんが来て直ぐに、魔王様含めて魔族の女性には顔写真付きで手配しましたよ、たとえ興味本位で会いに来て被害に合っても冒険者組合は一切関知しませんと、念書も取ってます、大丈夫よ!≫


≪随分とまあ手回しが良いわね、ハルミもしかして……≫


≪黙りなさいエミ、それ以上はノーコメントよ≫


≪ハルミ、貴方男性と浮いた話を聞かないと思ったら、そっちの趣味なの?≫


≪違うわよアキ! これ以上は何も答えないわよ!≫


≪スイマセン、此方アカネです、メグミちゃん今の話は本当なの? お姉さんこの街に送り出す前にちゃんと注意したわよね? 他の人に手を出したらダメよって!≫


「えっ? そうでしたっけ? うーーん、キスしてくれたら思い出すかも」


≪あっ、そうやって誤魔化すのね! 全くメグミちゃんは見境なしなんだから!≫


≪アカネ、そんな事より観測に出ているのだろ、そっちの報告は!≫


≪はっ、ごめんさないハルミさん、此方観測班、今天空要塞を観測中です、相手もこちらの動きに気が付いたようです、なにやら浮遊体を放出してます。その浮遊体が急速接近中、このスピードですとこの街まで後30分くらいです≫


≪相手も先行部隊を出してきたか、迎撃準備! 迎撃準備だよ! エミ敵の人や魔物の種族なんかは分からないかな?≫


≪あまり詳しくは、けど送られてきた映像を見る限り少数精鋭かしらね? この街にマーメイドやスキュラ、マーマンが多数いるのが分かっているのにこの人数……敵の中に『ワータイガー』が居るのは確実ね、報告書にもその記述があるわ、他にも『ワーウルフ』に『吸血鬼』、他にも魔物が多数居るみたいね≫


「流石は吸血鬼ね、その他のアンデットはこっちに着いてから召喚するのかしら? そういえば『真祖』も人から成るみたいだけど『リッチー』とか『オーバーロード』とかも人から成るのよね? そこら辺はどうなってるのかしらね? 『リッチー』系は骸骨なんでしょ? 吸血鬼と何が違うのかしら?」


≪メグミちゃん、別に『リッチー』、不死者の王系列は骸骨って決まりはないんだよ、『リッチー』になっても普通に食べ物を食べたりして肉体を維持していれば骸骨にはならない、食べる必要がないからって食べるのをやめると骸骨になるんだよ。食べなくても死なないからね食べるのを止めて肉体が滅ぶから骸骨に成ってるんだ、中にはそのまま普通に人間の様に暮らしている『リッチー』も居るんだよ≫


「え? そうなの? もしかして冒険者やってる『リッチー』も居たりするの?」


≪いるよ、この地域の冒険者組合の研究所にも何人か『リッチー』の研究者がいるね、『真祖』との違いは。そうだね、肉体が飾りなのはどちらも一緒、けどその美意識に大分差が有るね、飾りの肉体を綺麗に保つのが『吸血鬼』で頓着が無いのが『リッチー』かな、『吸血鬼』は美の探求と血への渇望がその行動原理の場合が多い、一方『リッチー』は知の探究、研究者タイプが多いね、研究に没頭するあまりその他の事がどうでも良い人が多いね、この地域の冒険者組合に所属してる『リッチー』はソロソロ『オーバーロード』に成りそうな子もいるけど、女の子が多くてね、若い肉体を美しく保ったまま元気に研究に没頭したいって子が多い所為か普通に人間の様に肉体を保ってる、それどころか自分達で肉体改造して非常に綺麗な子が多いよ、多分よその地域の『リッチー』とは大分違う変わり種が多いんだろうね≫


≪この地域の子達は俗世を捨て、人との縁を切って自分の中に引きこもって研究するタイプじゃないのよね、人と関わってその中で自分にない気づきを得て研究を発展させようってタイプの研究者なのよ、時間は有り余っているのだから当然ファッションや美容にも気を使ってるし、そもそも『リッチー』なった理由が、時間を気にすることなくのんびりと研究したいって子達ばっかりですからね、女性が多いってもの骸骨タイプにならない理由なのかもね、男性で引きこもりタイプの研究者は外見など気にしないのかもしれませんが、女性だとね、そもそも研究の目的が若く綺麗なままでの美の追求だったりするのよね≫


メグミの質問にナツオやエミが答えてくれるが、


「なんでそれで『吸血鬼』、『真祖』じゃなくて『リッチー』になったのかしら?」


≪確か血が怖いって答えが一番多かったわ、自分の血を見るのも気分が良くないのに、他人の血なんて怖くて吸えないから『リッチー』になったんですって、どちらもにでも成れるみたいよ、それだけの魔力と知性が有れば≫


≪あとはそうだね、『真祖』になるには条件が厳しいんだよ、処女とか童貞とかあるんだっけ? あと美意識と信念とか精神力の様な物も必要らしい、下手な『吸血鬼』になる位なら『リッチー』の方が良いと考える研究者は多いね、制約が少ないし、弱点もないのに同じくらい強大な魔力と不死が手に入るからね≫


「なんとも現金な話ね、けど『リッチー』になっても誰も凶暴化とかしないのね? 精神がおかしく成るみたいな話も聞くけど」


≪ああ、メグミちゃん、それは違うよ、精神がおかしくなった『リッチー』は滅ぼされて居なくなってて、今残ってる『リッチー』が精神が真面だからそのまま人間と共生しているだけだよ、中には狂った『リッチー』も多い≫


「不死の王っていってもやっぱり滅ぼせるんですね、じゃあ『真祖』も同じ?」


≪『真祖』の場合、他の『真祖』に倒されるケースが一番多いね、弱い惰弱な『真祖』は美しくないって理由で他の『真祖』に食べられるそうだよ、その精神事、力を含めて他の『真祖』に吸われるわしい、『真祖』の一番のご馳走は同じ『真祖』だそうだよ≫


「共食いね、まあその存在が美しいかどうかなんてどうでもいいわ、そのこっちに来てる『真祖』が美人なら私が保護して囲ってあげないとね、そして色々と……うふふふっ」


≪あの皆さん、私の報告聞いてましたか? 敵の先行部隊がこっちに来てるんですけど≫


「聞いてたわよアカネさん、獲物がカモネギでこっちに来てんでしょ? 大丈夫歓迎してあげるわよ、ねえ、ターニャ、『ワータイガー』ですって、どっちが本物の虎か思い知らせないとね」


「ん!!」


「あっ、メグミちゃん戻ってきましたね、どうします? シャワーでも浴びてから着替えますか?」


施設に戻って来たメグミにサアヤが声を掛ける、既にサアヤ達は完全武装済みだ、


「そうねメグミちゃん、先にシャワーを浴びた方が良いわね、どうせ今晩は長丁場になるわよ」


「ノリネエ、それサンドイッチ? 美味しそうね」


「『ママ』が作ってくれたのよ、貴方達の物も有るから先にシャワーを浴びて手洗いうがいをしてきなさい、ターニャだから今摘まんじゃダメよ!」


「ん……」


「ダメなんだからね、……ダメよね?」


「ノリネエは本当に甘いわね、ほらターニャ来なさい、『カナ』も私が洗ってあげるわ」


名残惜しそうなターニャを引きずるようにお風呂に歩いていく、今晩は満月、夜空の月は2つとも綺麗だった。

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