第52話お酒は二十歳になってから
「ノリネエ何言ってんの? 『ゴールデンアップルラビット』の林檎果肉だよ? 超お高いんだよ? 近所のケーキ屋で見たけど普通のアップルパイの10倍の値段するんだよ? ちょっと想像してみてよ『ママ』のあのアップルパイが更に美味しくなるんだよ?」
「なっ……うっ……それは確かに、確かに魅力的ね……」
「でしょ? ここに魔物が溜まってたのがあの『ゴールデンアップルラビット』の所為なら、この先こいつらばっかり延々倒さないと『ゴールデンアップルツリー』に辿り着けないんだよ? 例えそうじゃなくても『ゴールデンアップルラビット』は6体で一組、最低6体は居るんだよ。なのに折角の黄金林檎果肉が食べられないなんてあんまりじゃない! これは最優先項目よ、この結果次第で今後の戦闘のモチベーションが全く違うわ」
「それもそうだわ、ごめんねメグミちゃん、私が間違ってたわ!」
「いいえ! ノリコお姉さま、血迷わないでください。最優先項目は異常の調査です、ドロップアイテムが最優先なわけないじゃないですか!! メグミちゃんに釣られないで」
「でもサアヤちゃん、『ママ』のアップルパイは最高よ、今でも最高なのよ! それが更に美味しくなるなんて夢のようよ」
「ノリコちゃんお願いだから落ち着いて、ほら深呼吸よ」
「確かに『ママ』さんのアップルパイは美味かったが、それよりは先ず目の前のこいつ如何にかしようぜ? な?」
「突っ込んできてますよ、どうするんですかメグミ先輩ぃ」
『ゴールデンアップルラビット』がドスドスッと地響きを立てながら突っ込んでくる。黒い染みがその巨体をより禍々しいい物の様に見せる。鳴き声ではないのだろうがプクプクと唸っているような声も聞こえる。
「如何するもこうするも、切れば良いじゃない? なに一寸大きいだけよ、狂った魔物だっけ? 普通の魔物が追われて此処に溜まってたってことは、あの数の魔物を殺し尽くせるだけの力がアイツは無かったって事よ。大したことは無いわ、凄かったらここに魔物なんて溜まらずに最初からアイツらが群れで
「今日も忙しいわね、また保険?」
「私の活躍がさっきは無かったじゃない! メグミ、しっかり使いこなしてよね」
『紫焔』が腕を振り上げてプリプリ怒っている。
「さっきの戦闘で面白いスキル手に入れたのよ、試したいからお願いね二人とも」
「私達に関係あるスキルなの? メグミ」
「ふふん、自慢じゃないけど剣になる以外、何もできないわよ私は!」
『紫焔』が小さな体の小さな胸を張り、ドヤ顔で宣言する、
「良いから任せなさい、きっと面白いわよ」
「「???」」
訝し気な顔を見合わせ2体の精霊が光の粒子となって短刀に新たな刀身を生み、2対の刀となる。
「メグミちゃん何をするつもりですの? 一応私達も魔法を準備しますよ? いいですね?」
「ん、仕留めきれなかったらフォローお願いねサアヤ」
「なんだ? 何覚えやがった? さっきの戦闘って『剣陣乱舞』使っただけだろ? それに武技系のスキル?」
「まあ見てなさい、射線開けてね」
メグミがその手の刀を構える、そして、左手の絶対零度の刃を振りぬく、『ゴールデンアップルラビット』との距離はまだ30メートルは有る、
ギャインッ
空気を切り裂いて白い三日月状の斬撃が飛んでいく、
「ん? 『真空刃』? じゃねえな何だ?」
その斬撃を躱そうともせず突っ込んでくる『ゴールデンアップルラビット』、その巨体に斬撃が当たる、すると頭部付近が30センチ位切り裂かれるが、この巨体でその傷は余りに小さい……瞬間、
ピキキッ
音を立ててその傷付近の周囲3メートル、頭部から前足にかけてが凍り付く、その状態でも後ろ足付近が僅かに動いているが、続けてメグミが右の灼熱の刀を振りぬく、
ブゥインッ!
またしても空気を切り裂いて白い三日月状の斬撃が飛んでいく、そのまま凍り付いた頭部に直撃すると、
パリーーンッ!
ガラスが割れるような澄んだ音が響いて『ゴールデンアップルラビット』の上半身が砕け散る。そしてそのまま動かなくなり魔素に分解されていく。メグミは満面の笑みでドヤ顔をしている。
「何だ? 凍って……熱したのか? それで砕けたんだな? それより属性の付いた斬撃が飛んだのか?」
「良いでしょ? さっきこの子達装備したまま『剣陣乱舞』を使った所為なのか、その時倒した魔物が多かった所為なのか分からないけど、『絶零飛刃』『溶断空刃』ってのを覚えたのよ。期待通りの威力だわ、これで私の『紅緒』『紫焔』も応用が出来るわ、どうよ!」
「どうよって、武技系ってことは『真空刃』の様に連射が効くのか? 射程はそれなりだけど……」
「今使った感じだと連射速度は『真空刃』ほど早くないわね、気力の再充填の溜まりが遅いわ。けど交互に使えるから、2種類を混ぜれば連射速度に差は無いわね。気力の消費が若干多いのと、少し精神力も消費してるのがネックかしら? 刀身の維持にも精神力が消費されてるから長時間の戦闘にはあまり向かないかもね。けど属性の付いた斬撃を飛ばせるのは凄く良いわ」
「スキルの取得の前提条件はやっぱり精霊の剣化なのかしら?」
「ノリコお姉さま、武器属性付与魔法でも、もしかしたら使えるようになるのかも? 名前が付いてるってことは誰かが過去に使ったってことですからね、精霊剣は非常に珍しいですから……でももしかしたら過去にメグミちゃん見たいな人がいたのかもしれませんね……非常に便利なスキルだと思います、狂化してたかもしれない『ゴールデンアップルラビット』を2発で倒せてます。実際に切り裂いた時と属性効果が一緒とか少し強すぎですよ。安全な距離を保って一方的に攻撃できるとか……」
「どうよ! 凄いでっしょ! ふふんっ」
「ただあの戦法は魔法でも使えるかもしれませんね、氷系で凍らせて、その後炎系で炙れば同じように砕けるかも、氷系の温度を出来るだけ下げて、炎系の温度を上げてやったら……メグミちゃん次の獲物は私がやりますね」
「そうね、確かにあの戦法は良いかもしれないわ、サアヤちゃん流石ね」
「ねえノリネエ、最初に使ったのは私よ、
「メグミちゃんも凄いわよ! 流石よ! でもメグミちゃんのは真似が出来ないじゃない? サアヤちゃんの方法が上手く行ったら、私達でも出来るかもしれないじゃない?」
「なんだろう……納得できるようで、全く納得できないわ」
「お二人とも化け物過ぎるだけですからね? あのレベルで凍り付く魔法とか、普通に厳しいですからね? ねえアカリ先輩」
「少なくても私には無理だわ、精霊の補助なしで絶対零度近くまで冷やす魔法はもっと基礎魔力が上がらないと使えないわね」
「なあ? 魔法検証も良いけど、ドロップアイテムとか魔結晶調べねえか? 一応調査に来てんだろ?」
「それもそうね、みんなで調べましょうか」
全員で『ゴールデンアップルラビット』の分解中の死体付近に集まり、武器で突いてその死体をどけながら探すと、
「お! ドロップアイテムの薄皮袋だ、見た感じ普通だな? 特に黒い染みはないみたいだが?」
「こっちに魔結晶も有りましたよ、結構大きいですね、植物系は小さいから余計にそう見えるだけかもしれませんが……メグミ先輩、『ゴールデンアップルラビット』の魔結晶見たことありますか?」
「ないわよ、狩りに来たことないもの、色は? 普通かな? あれ? 若干濁ってる?」
「濁ってるわね、『アイテム鑑定』でも『狂化ゴールデンアップルラビットの魔結晶』ってなってるわ」
「便利ね『アイテム鑑定』今度覚えようかしら? ねえアカリさん、こっちのドロップアイテムは?」
「こっちは普通ね、普通に『ゴールデンアップルラビットの林檎果肉』となってるわ」
「でもアカリ先輩、ワタクシの『鑑定』スキルでは品質が『少し悪い』と出てます」
「少し? 少し位なら食べられるって事かしら? 狂化したから品質が落ちた?」
「『食材鑑定』とか『調理』スキルを取った上で『鑑定』スキルを使うともう少し詳しく分かるのだろうけど、私は『鑑定』スキルは持ってないし」
「ワタクシも『調理』スキルは持ってません、ごめんなさい」
「ねえ、タツオ、ちょっと食べてみない?」
「食べねえよ! 品質が少し悪いって言ってんだろうが」
「でも肉とか腐りかけが美味しいとか言うじゃない、案外熟してるだけで美味しいかもしれないでしょ!」
「ぜってえ俺は食わねえからな!」
「良いわよ、私が一人で食べるから、ねえノリネエ、解毒とかあったよね?」
「ねえメグミちゃん、なんでそんなにチャレンジャーなの? もう一体倒してそのドロップアイテム確認してからで良くない? 一応『解毒』の加護は持ってるけど腹痛に効くとは限らないわよ?」
「まあ、少し悪いだけだから多分大丈夫よ、味の保証は出来ないけど、食べれない、腐ってるとかだったら確かそう言った表示の筈よ、ねえカグヤちゃん」
「いや止めましょうよ、メグミ先輩、狂化って魔結晶に出てるじゃないですか? 瘴気に汚染されてるから狂化なんですよ、ドロップアイテムにも狂化の影響が出てる可能性が高いですよ。一度食べる前に本部に連絡とりましょう、ね? 過去の記録とかに絶対その辺載ってるはずですから……それにメグミ先輩のステータスは瘴気の影響で暴走とかしそうで怖いです」
「でもカグヤ、匂いは普通よ?」
メグミは薄皮を短刀で切って匂いを嗅いでいる。
「わ、もう薄皮開いちゃったんですか?」
「甘そうな匂いね、でもやっぱり食べちゃダメよメグミちゃん、今アカリさんが連絡してるからちょっと待ちましょうね」
「あれ? ちょっとアルコールの様な? 匂いがしませんか? メグミちゃんそれ絶対にヤバいです、発酵してるんじゃないですか?」
「発酵なら平気じゃない? 腐敗じゃないんだし」
「お前は未成年だろうが! お酒は二十歳になってからだ!」
「あれ? タツオも二十歳じゃないでしょ?」
「この中に二十歳になってるやつは居ねえんじゃねえか? だからダメだ」
「ノリネエはギリ十九歳だっけ? あれ? 誕生日とかどうなってるの?」
「私はこの夏で二十歳になるわね……多分、日本の続きで良いんでしょ? 年齢って」
「俺はこっちに来てから十八歳になった、と思ってたが……良いんじゃねえか? 続きで」
「おじい様は日本と一年の日数に差が無いって言ってましたわ、此方は一か月が30日で新年に休みの日として五日割り当てられてますから365日で変わらない筈ですわ。私はこの春15歳になりました、まあ一応この世界の成人は15歳ですよ。この地域は日本の方に合わせて二十歳になってますけどね……」
「エルフも15歳なの? エルフって寿命長いんでしょ? 15歳とか赤ん坊と変わらないんじゃないの?」
「普通にエルフだって成長しますよ!! 知能は人族より高い傾向にあるんですから、15歳は15歳の知能を持ってますし、そりゃあ人族に比べたら華奢ですけど、ちゃんとそれなりに大人です!! エルフは25歳位まで成長期でその後は死ぬまで殆ど年を取りません。エルフの古い風習では25歳で成人となってますけど、最近は人族より遅いのが嫌って理由で15歳で成人だったりしてます。うちはおじい様の教えで二十歳が成人になってますけど」
「へえ、そういえばハイエルフって寿命無いんでしょ?」
「そう言われてますね、寿命で死んだ人がまだいないそうですわ。けど実際は病気やら何やらで最高齢でも2万歳とか言ってましたが……良く分かりませんわ、最長老様にはあったこともないですし」
「へえ、エルフも色々あるのね、サキュバスはその辺寿命とかどうなってんの? カグヤは確か15歳だっけ?」
「今年秋16歳になりますわ、サアヤちゃんよりは年上ですわ。サキュバスにも寿命は有りませんわね。ただ魔族として人に狩られてたので余り長生きな方も少ないですわ。人の近くに居ないと生きていけない分、人に狩られる率も高かったみたいで……今はこの地域に居るサキュバスがほぼ種族全体と言っても良い位少ないですし、この地域に居る最高齢は
「私は今年冬に17歳ね……ねえアカリさんそろそろ年教えてくれない?」
「私は……ノリコちゃんと同い年よ今年の冬で二十歳よ」
「カグヤ、アカリさんの言ってることは本当?」
「タツオ先輩と同い年ですよ、お姉さんぶりたいから鯖読んでるだけです」
「カグヤちゃんなんで! もうっ! なんでバラすのよ!」
「同じ小学校で知り合い何ですから、そんなに年が離れてるわけないって直ぐにバレますよ、なんで誤魔化したいのか意味不明です」
「え? アカリさん同級生なのか?」
「違います、この夏で十九歳だから一つ上よ!」
「カグヤこれは本当?」
「ねえメグミちゃんなんで毎回カグヤちゃんに聞くの?」
「今のは本当ですよ、日本と同じ春の入学なので学年はタツオ先輩より一つ上になるのかな?」
「はぁぁ、私が一番年上なのは変わらないのね……」
「大丈夫よノリネエは中身は一番年下だから! 気にしちゃだめよ!」
「え? うん、ありがとう……んっ? んん? ねえそれって誉め言葉なの?」
「ノリコ先輩、聖人だから普通に年取るとは限りませんよ?」
「えっ?? へっ??」
「アイ様にしてもヤヨイ様にしても幾つに見えますか? 既に100歳近い筈ですけど、どちらも30~40歳くらいに見えるでしょ? 勇者のおじいさん達にしても同じですわ、あちらは顔は60歳くらいに見えますけど肉体年齢は20代って言ってましたわ、実際は100歳超えた方も居ますけど。サアヤちゃんのおじい様のクロウ様も既に優に100歳は超えてるはずですわ。最初に召喚されたメンバーの一人ですもの」
「如何いったことなの? 特に女性陣の実年齢と見た目のギャップが凄いんだけど、私アイ様やヤヨイ様は頑張ってアラサーに見せてるアラフォーだと思ってたわ」
「まあ
「後は迷宮産の素材や食材ね、最近は研究も進んで益々若返りの効果が凄いから、人族でも200歳位は平気で生きるんじゃないかって言われてますね。最新の錬金術では若返りの薬も開発されたそうよ、副作用で能力まで若返って弱くなるってことで冒険者の人には人気が無いらしいですけど」
「確かにこっちのスキンケア化粧品とか凄い効果だものね、って話が逸れたわ。ねえアカリさんこれ食べても良いの?」
「普通にダメです、瘴気の悪影響は動物実験では確認済みだそうよ。もしかすると瘴気耐性とかでメグミちゃんなら平気な可能性もあるけど……それでもさっきも言ったけどアルコール発酵してるみたいだから絶対にダメ。この地域ではお酒は二十歳になってからよ。あとメグミちゃんも結構ヤバい職能一杯持ってますからね? 普通に年は取りませんよ? これから先が長いんですから、お酒は数年待ちましょうね」
「メグミ、いい加減そんな得体のしれないもの食おうとするの諦めろよ」
「でもそもそも魔物のドロップアイテム自体が得体のしれない物でしょうが! 少し瘴気が含まれてるくらいならノリネエに浄化してもらってから食べれば平気よ。最初に魔物を食べようとした人に比べたらハードルは遥かに低いわ」
「まあいいけど、ほら振動が近づいて来てる、次のドロップアイテム調べてからにしようぜ? 瘴気だけならまだしも発酵してるのは食べちゃダメだろ」
「タツオ君、瘴気が含まれているのも食べたらだめなのよ? メグミちゃんの考えに染まったらだめよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます