第53話甘露

「では次は私が行きますね、『氷菓ひょうか』『赤昂しゃっこう』」


「あら珍しい、『赤昂』生きてたの?」


「あんたね、ちょっと良く呼ばれてるからっていい気になってると溶かすわよ!」


「ごめんね『赤昂』、私が火炎系の魔法が苦手だから、『氷菓』も意地悪言ってるとお仕置きしますよ」


「良いのよサアヤ、あなたのフォローは私がするもの、苦手でも、もっと呼んでくれていいのよ?」


「ねえ、サアヤ、オコなの? ううっだって氷と炎は相性が悪いのよ? ねえサアヤぁ、オコなの? ごめんね」


「反省したなら良いんですよ、では『極冷飛槍』と『炎極狙撃槍』を同時詠唱しますね」


「ねえサアヤ、火炎系と氷雪系は干渉するのよ? 同時に放つと相克を起こして両方消滅するわよ?」


『赤昴』が諭すように指摘する。


「いくら精魔混成魔法でもこの法則は一緒よ? 初歩よ? サアヤどうしちゃったの?」


『氷菓』も少し心配そうに声を掛ける。


「二人とも大丈夫よ時差を付けて放ちますからね、多分平気よ」


「ねえサアヤちゃん自分で言ってること理解してるの? 同時詠唱で更に火炎系と氷雪系と2属性で、放出時間に差を付けるとか……」


「アカリさんは心配症ね、サアヤなら平気よ、魔法操作は師匠が驚くほどだもの、無言詠唱と詠唱破棄しても、同時詠唱は6つまで使えるわ、2つくらいなら余裕でしょ? 私でも3つまで同時に使えるわ?」


「ねえメグミ先輩、この間から魔法使い始めたばかりでしょ? なんでもう既に3つまで同時詠唱できるんですか? ワタクシ達でも2つが限界ですよ?」


「ノリネエだって4つ使えるのよ? あんた達基礎魔力の高さと魔力容量の多さにかまけて、魔法操作をサボってるんじゃない? 少ない魔力をやり繰りしようと思ったら、効果的なポイントで一気に使わないとダメだから魔法操作は頑張って修行したのよ私達は」


「まあカグヤちゃん、私達はサアヤちゃんが身近にいて教えてくれたので、他の人達よりは成長が速いかもしれないわね。サアヤちゃんもおばあさまに大分修行させられたみたいだしね」


「あれよ、コントロールのイメージがし易いってのも有るのよ日本人はね、こう攻撃出来る分身見たいなのを操る、ロボットアニメが有るのよ。同時詠唱の魔力操作はあのイメージに近いわ、いけファン○○!! って感じで」


「魔法の拡大で攻個数増やすより、同時詠唱で攻撃回数増やした方が魔力効率が良いのよね。礫系や矢系はまだ攻撃個数増やしても大したことないけど槍系になるとどうしてもね。それに同時詠唱だと目標や軌道を個別に指示できるので便利よ? なんだか自分が戦闘機になった気分で同時ロックオンって感じで私は修行したわ」


「私はお二人がガンガン後ろから迫ってくるので負けないように必死で修行してますけどね……」


「同時詠唱か、面白そうだな、今度教えてくれサアヤ」


「良いわよタツオお兄ちゃん、けどその前に目の前のを始末するわね」


 通路の先から『ゴールデンアップルラビット』が迫ってくる。しかも、良く見れば背後にもう一体いる。


「あれ? 2体同時だわ、どうするサアヤ、2体目はこっちで倒そうか?」


「なあ、何だったら2体目は俺にやらせてくれないか? 殴って倒す時の難易度も知りたいんだが」


「では一応準備はお願いしますね、タツオお兄ちゃん、でも行けそうなら4つ同時詠唱しますからそれで片がつく筈です」


 サアヤの左右に2本ずつ左に青白い冷気をまき散らす槍と、右に白熱したほんのり赤い槍が浮かぶ。『氷菓』『赤昂』は必死の表情で、


「ウウウウッ」


「ムウウウウウクッ」


唸り声を上げながら力をコントロールしている、流石に2本同時に来るとは思ってなかったようだ。


「ねえサアヤ、『氷菓』『赤昂』が苦しそうよ?」


「良い修行ですね、ほら二人とも、もうちょっとです頑張って」


「サアヤちゃんは4本同時でもまだ喋る余裕が有るのね……ちょっと私達も帰ったら修行のやり直しね、確かに魔力操作、魔力制御には余り力を注いでこなかったわ。基礎魔力を上げる方に集中してたけど、これを見るとやっぱりコントロールは重要ね」


「ワタクシは細かいコントロールは苦手ですわ、はあぁ、でもやらないとダメでしょうね、これを見ちゃうと……」


「良いじゃねえか、一緒に頑張ろうぜ!」


「ねえみんな、もうちょっと緊張しましょう、万が一ってことが有るのよ? 油断は大敵よ」


ドスッドスッ

ドスッドスッ


迫ってくる『ゴールデンアップルラビット』の巨体には先の一匹目と同じように黒い染みがある。40メートル位に迫ったところで。


「放ちます!」


サアヤが叫び、左の青白い氷槍を一本放つ、


シュバッ     バキンッ!


氷槍は先頭の『ゴールデンアップルラビット』頭部に当たり穴を穿ちそのまま凍り付く、メグミの時より凍結範囲が少し広い。直ぐ様、右の赤白い炎槍が飛んでいき、その氷結部分に当たると、


パリーーンッ


灼熱の炎槍が当たると同時に澄んだ音を響かせて砕け散る。


「いけますねコレ、これは良い感じです」


サアヤが喜色満面で報告する。


「後ろのが来るぞ!」


「放ちます」


 後の3匹目の『ゴールデンアップルラビット』は先頭の2匹目の死体を飛び越えるように迫ってくる。同じく青白い氷槍が飛んでいくが今度の3匹目はその氷槍を避けようとする。


「逃がしません!」


サアヤがそう叫ぶと、氷槍が軌道を変え、避ける獲物を追いかける。3匹目は避けきれずにその横腹に氷槍が命中、命中した横腹を中心に瞬時に凍り付き、その『ゴールデンアップルラビット』が横に倒れ伏す、まだピクピクとその足が動いているが、そこに続けて赤白い炎槍が命中し澄んだ音と共に砕け散る。


「これは、十分通用しますね」


「魔法は途中で軌道を変えられるから良いよね……何だか威力も高いし、畜生!! なんだろうこの敗北感!」


「魔法と武技で張り合うなよ……武技ってのは咄嗟での反応、その早さに利点があるだろ、威力は魔法に分があるんだ、それぞれの利点を生かせばいいだろ?」


「でも……やっぱり悔しい物は悔しいのよ!」


「ほらメグミちゃん、次が来る前に調査しますよ、今度のは食べれると良いですね」


「ハッ! 忘れてたわ! 行くわよみんな!」


「ねえノリコちゃん、瘴気が含まれてるから食べない方が良いのよ?」


「大丈夫よアカリちゃん、私が『浄化』を掛けますから、発酵や傷んでいたんでなければ食べれます、それにあのメグミちゃんは止めれないでしょ?」


見るとメグミはカツガツとその死骸に取り付いてドロップアイテムを探してる。


「くっ。これは魔結晶ね要らないわ、アカリさん御願い、何処よ薄皮袋は!!」


「メグミちゃん放り投げるのは止めて、落ちて割れたらどうするのよ!」


「あれ? 魔結晶って結構硬いんだろ? 落としたくらいで割れるのか?」


「これ狂化されてるし、濁ってるから脆いかもしれないじゃない? 余り雑に扱う者じゃないわ」


「そうか、それもそうだな、ってあったぞメグミ薄皮袋だ」


「どうタツオ見た目は?」


「おれは今まで必要なかったから『鑑定』取ってねえよ、アカリさん、カグヤ頼む」


「うーーん、と、お! おお! これは品質が『普通』って出てますよ」


「良し行けるわ、これで希望が湧いてきた! ノリネエお願い」


「もうせっかちさんですね、はい『浄化』したわよ」


「ちょっと冷やした方が良いかな? ねえサアヤ、『氷菓』ちゃん借りて良い?」


「良いですよ、『氷菓』お願い、少し冷やしてあげて」


「はーーい、メグミ様これでOKかしら?」


「ばっちりよ、ありがとう『氷菓』、私の『紫焔』だと手加減が出来ないのよ」


「『紫焔』ちゃんはね、絶対零度、極冷の精霊ですもの、氷の精霊の私とは格が違いますからね、それに剣化出来る特殊精霊、応用を求めたら可哀そうです」


「そうね、でもこうもうちょっとコントロールが出来ると良いんだけどね、今後色々試してみるわ」


「中々難しいかもしれませんが、まあ先ほどの『絶零飛刃』もありますしね、頑張ってみてくださいね」


メグミはほんのりと冷えた薄皮袋を短剣で切り開く、フワッと広がる芳醇な甘い香り、


「あらメグミちゃん良い香りね、さっきの発酵している物よりも更に良い香りだわ」


「そうね、ちょっと待ってね確かナイフがここに、あった、流石に食べ物を短剣ではね……っと切れたわ、さて御味は……んっ……くっこれは!」


「なに? どうしたのやっぱり何か傷んでるの?」


「すっごい美味しいわ、蕩ける様な甘さよ、それなのに果肉はシャキシャキとしてとても歯ごたえが良いの、最高よ! 最高の林檎だわ!」


「そんなにか? どれ俺にも一口くれ」


「ねえ私も一口良い?」


タツオとノリコも一口食べると、


「これは……なあコレこの件が済んだら定期的に狩りに来ないか? 高いのもわかる、これは『アップルラビット』とは別物だな。あっちも普通に美味い林檎だったが、これは別格だ」


「ねえカグヤちゃん、これで品質は『普通』なの? ねえこれで『上質』『最上質』とかに成ったらどうなるの? 素晴らしい、素晴らしいわ!!」


「階層主は普段は魔物の護衛の群れの奥にいますからね、ここらに屯したむろしてた魔物がそうなんでしょ、そうなると辿り着くのにも結構苦労するのよタツオ君。そう度々は来れないかもよ? ねえ私も一口良い? 滅多に食べれないのよね」


「あっ! アカリ先輩ズルい、私も一口食べます!」


「ねえ皆さん、私だけ真面目に調査して……もう! 私のも残しておいてくださいね。ってあったわよメグミちゃんもう一匹の方の薄皮袋」


サアヤがそれを手にこちらに来る。


「まあ確かに後3匹はこの辺に居るはずですものね、メグミちゃん周辺の警戒どうするの?」


「はひひょうぶよ、んくっ、大丈夫よ、あいつら大きいから振動で近くに来れば分るわ、それまでは休憩よ、増援がくるまでは前にも出れないでしょ?」


「メグミ先輩、これも品質は『普通』ってなってますよ、何でしょうね? 品質が落ちる原因って何でしょう?」


「アレかな? 最初の奴は他の魔物食べてたじゃん? あれで品質が落ちたとかかな?」


「うーん謎ね? ねえサアヤちゃんこっちも食べちゃう? 『氷菓』ちゃんに頼めるかしら?」


「そうね食べちゃいましょう、丁度いい糖分補給と休憩になりますし」


「御代わりが来たわよ! でも流石に巨体だけあって結構量も有るし、良いわね、テンション上がってきたわ!」


「ああ……まだよメグミちゃん、『浄化』が済んでないわ、ちょっと待ちなさい」


「あっ……食べちゃった」

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