第35話『裁きの鉄槌』
目の前で行われている虐殺、悪辣な私刑、まあ何でもいい、この胸糞の悪い光景を確認して、メグミはノリコの方を見る。
(あぁ、ダメだ、これは完全に切れてる)
ノリコは指示すら出さずに、ポールハンマーを握りしめ、目の前の光景を凝視し、
後はそれを実行に移すだけ、そしてノリコはそれを実行に移すのに躊躇いはない。一方的な主張と、一方的な暴力を無関係の人々に向ける、この状況はノリコの最愛の母を奪った銃の乱射事件と酷似している。
(止まらないだろうな、止まるわけがない……ならば!)
「サアヤ、蹴散らしてっ! ノリネエの援護には私が回る! タツオは遊撃! サアヤも先制が終わったら遊撃に回って、後方への連絡は任せたアカリさん!」
『人間狩り』数人が、こちらに気が付いた、まあ元から開けた地形、この明るさ、奇襲は望めない。
「司教ゥ! 獲物がっ! 異教徒の追加が御到着だぜっ!」
「こっちは虫の息だ、放置で構わん! 迎撃準備! 一人も逃すなよぉ! 異教徒共は、皆殺しだぁ!」
「馬鹿じゃねえかあいつら、あの人数で向かってくるぜっ!」
「麗しの仲間意識かよぉ! ご苦労だな異教徒のゴミが!」
「中級以上で構成された我らに、あんなゴミ装備の初級が勝てるわけねえだろが、バカは死んどけよぉ! ギャハハハハッ!」
男たちは口々に口汚くこちらを挑発しながらも、動きに遅滞はない、言ってるだけあって中級冒険者に間違いはないのだろう。前方で6人ほどの集団が防衛姿勢で盾を構え陣を組む、左右にも各4人ほどの集団が展開し、後方の9人が遠距離魔法攻撃陣形、防御陣形の後方の一人はこの集団の指令役か? たしか『司教』と言われていた。少人数の敵に対しても油断はない、可成り訓練されている。
「バカな異教徒諸君! よく来た、そして死ね、許しを請うて跪くのなら、少しは楽に殺してやろう、この異端審問官……」
司教とやらのセリフが終わる前に、サアヤの魔法が炸裂する。
ギャイィン!
『対魔法結界』に阻まれ、その場でサアヤの『風刃』が消滅する。
「クハハハハッ! 人の話を聞かない馬鹿どもが、こちらのセリフの途中だろうが! そのような魔法が効くわけなかろうがっ! 愚か者め……えぇ?!」
ギャイィン! ギャイィン! ピギャン! グバッァ!
ズシャァ! ズバババゥ!
サアヤの魔法は止むことなく連続する……3回目で『対魔法結界』で結界にヒビが入り、4回目で砕け散り、そのまま防御陣を形成していた集団の盾と装甲を切り裂き、5回目で切り飛ばし6回目で更に細切れに切り裂き更に続く攻撃が人を肉片に変えていく。一瞬で肉片と化した防御陣の6名を見て、司教が叫ぶ!!
「フォーメーションC! 『光の聖域』発動、遊撃は聖域維持! 後衛は4人残して、他は私の前で迎撃に回れ! 急げ!」
6人が一瞬で倒されても、その連携に乱れはない、良く訓練されている。こんな集団を相手に『見習い』や『初級』では話になるまい。同数でも勝てない、ましてやこの人数差だ、一方的な虐殺だろう。
魔法攻撃で止まったサアヤの横をノリコが追い越して突っ走る。メグミも遅れずに追走する。一瞬辺りに光の波動が走る、
(『光の聖域』か? やはり『光と太陽の神』の神官か、なんだかピリピリする)
「クハハァ! 『光の聖域』の味は如何かな? 異教徒諸君! んん? 二人り程、人外が混じっていたか? 苦しかろう? この聖域内では異教徒は
メグミが振り返って後方を確認すると、カグヤとアカリは片膝を付いて苦しそうに蹲っている、魔族にはこの『光の聖域』はキツイのだろう。しかしメグミの視線に気が付くと親指を二人とも立てる、手には通信魔法球を持っている。後方との連絡は付いたようだ。
タツオは左右に分かれて聖域を発動している集団の右に突っ込んでいっている。手には先ほどまで魔物に使っていた大剣ではなく、メグミが造って渡した太刀を装備している。サアヤは魔法の発動の為静止していたが、次の行動を起こし足元の影に半分体が沈んでいる、こちらも任せて大丈夫そうだ。
先頭を走るノリコとメグミの前に白い靄の様な物が現れる。
(何かの魔法? 『睡眠』か『麻痺』か?)
がその靄は一瞬にして猛烈な風に吹き飛ばされる。見るとノリコの隣にサアヤの『風の精霊』の『風香』がいつの間にか一緒について飛んでいる。続けざまに敵後衛から弓なりに針のような物が無数に飛んでくるが、此方も『風香』が防いだのかノリコやメグミに触れる前に吹き散らされる。
「糞虫が!! ゴミの分際で生意気な『聖光鎖陣』で止めるぞ! 今だ!!」
光の鎖が空中から突如として沸き出し、ノリコとメグミの走っている前方を塞ぐ、ノリコにその鎖が蛇のように鎌首をもたげ迫る……しかし鎖はノリコに触れる前に光の粒子となって消えてしまう。
「なんだとっ?! なんだ? 怪しげな術を使う、こいつら何者だ? 中級か? しかしこの人数差で……いったい何だ?……ええい! 近接戦闘用意、動きを止めて袋叩きだ!!」
(後衛の連中の魔法がウザいわね、先に仕留めるか)
ミグミは走りながら『着火』と『冷却』を左右のショートソードに使う。右手の刃の先に小さな炎が灯り、左手の刃に霜が付く、
「『紅緒』『紫焔』来なさい」
右手の炎と、左手の霜から精霊が現れる、
「なあにメグミ、いつものやつ? あら、なあに『紫焔』もきてる、役に立つのかしら?」
「何よ! 文句があるの? 『紅緒』ちょっと先輩だからっていい気にならないでよね、直ぐに追い抜くわよ!」
「喧嘩は後でしてね、其れよりもお願い」
「「フンッ!!」」
と互いにそっぽを向きながら二人の精霊は白と青の粒子と化して左右の剣の先に新たな刀身を生む。
◇
コボルトロード戦の後、メグミは師匠と共に、もう一度『精霊王』と接見し、新たな精霊と契約した。
《おう、お主か、どうした? なに、また剣だと? お主……最近は剣が流行りなのか? どうなっておる? 先程も剣を望んだ者が居ったが、フム、まあ良いか、いや良くないのか? むぅ》
と『精霊王』には散々渋られたが、ようやく与えられたその精霊は、メグミの前で仄かに紫に光り周囲の空気を凍らせ白く煙ぶり立ち上る、その姿に、その紫色の炎の様な姿を名前にて与え、新たに契約した精霊『紫焔』は『極冷の精霊』、その『氷結の剣』は全てを凍らせる絶対零度の剣。
◇
右手に『灼熱剣』左手に『氷結剣』を握ったメグミは更にスキルを発動させる。
ピキッゴッロロオォ!!
雷鳴を伴いプラズマの尾を引いて、メグミが一瞬で敵後衛の眼前に現れる。『疾風迅雷』その字の如く瞬間移動を可能とするスキルである。
呆けたように目の前に現れたメグミを見る敵に対して、その剣を振るう。右手の『灼熱剣』を横凪にするが、流石は中級、咄嗟に敵もその手のメイスで『灼熱剣』を受ける。
ジャキンッ!
受けたメイスもその身を覆う鎧も一切合切無視して豆腐のように切り裂くメグミの『灼熱剣』大きく胸を割き焼き切れた傷跡からは血すら吹き出さずに一人目がその場に沈む。
『斬鉄剣』これはメグミがコボルトロード戦後に手に入れた『特殊魔法』、恐らくその時手に入れた『職能』『剣豪』若しくは『剣聖』に付いてきた物だと思うのだが、そのどちらかは一緒に取得していたため判別が付かない。効果は『鉄だろうが何だろうが一切合切全てを豆腐の様に易々と切り裂く』防御力を無視した必殺剣である。
そのまま回転しながら腰を沈めて隣の敵の足を『旋風脚』で払いう。足を刈り取られ宙に浮く敵を起き上がりながら左手の『氷結剣』で撫で切りにする。切られた敵は地面に落下する前に凍り付きそのまま硬い音を響かせながら地面に倒れる。
「躱せ!! 打ち合うな!」
残る後衛の2人のうち一方が声を上げる。
(躱せだと? 私の剣を貴様如きが躱せると本気で思っているのか? 嘗めるな!)
駒のように回転しながら敵に踏み込む、敵が引いた瞬間、霞むように体がぶれる。敵の引いた方向に神速の踏み込みが追撃する。
ジャキン! ジャキン!
体を回転させながら左手の剣が敵の腕をメイス毎切り裂き、次いで右手の剣が首を刎ねる。
そのメグミの背中に最後の一人がメイスを振り下ろす、しかしメグミは、その回転を速め、腰を沈めて蹴りで背後の敵の足を刈り取る。前に投げ出される様に宙に浮いた敵の胴体を左手の剣が救い上げるようにして切り裂く。
一方丁度メグミが最後の一人を切り裂くころ、ノリコも敵の前衛に到着していた。ノリコは一切の躊躇いもなく大振りの一撃を敵の前衛に打ち込もうとする。盾を構えた敵前衛の大柄な男が、
「俺が受け止める、そのまま押し包め!!」
と頭の上に両手で盾を構え、ノリコの一撃を受けとめ、静止したそのスキを突く作戦に出る。周囲の敵も作戦を理解し、即座に攻撃移れるようにメイスを構える。その盾を構えた男にノリコは渾身の一撃を叩き込む。
ドガガオゥ!!
構えた盾も、その男の頭部も、鎧も、胸も、その全てを粉砕し、その鉄槌が振り下ろされた後には男であっただろう拉げた肉の塊が転がっている。そしてその一撃は稲妻を纏い、光の十字架を肉塊に打ち立てた。
周囲でメイスを構えていた男たちは、その惨状に攻撃することも忘れ、
「へっ?! えっ?!」
と呆けてその手を止める、鉄槌止まることなく、そのままその隣で呆けてその光景を見ていた敵の前衛の頭上に再び振り下ろされる。
ドガガオゥ!!
状況すら理解しないでその男は潰され、拉げた肉の塊が生産される、そして光の十字架がその塊に立てられる。
「離れろ!! バカげた威力だ、接近戦は不利! 『光の守護天使』、その女を八つ裂きにしろ!!」
『司教』が叫ぶと、光り輝く、翼の生えた鎧が剣を構えてノリコの目の前の空間に召喚される。他の者もノリコ相手に接近戦は不味いと判断したのか同じく『光の守護天使』が召喚され4体の光の鎧がノリコの前に立ちふさがる。しかし……光の鎧は動かない、ノリコの前で微動だにしない。
「何をしている、天使よ眼前の異教徒を殺せ! 何故だ? 何故動かん!!」
『司教』が半狂乱で叫ぶ。
「『光の聖女』相手に『光と太陽の神』の『加護』で攻撃できるわけないでしょ? ノリネエはこれでも『光と太陽の神』の『聖人』よ」
敵の後衛を仕留めたメグミは、両手の刀を構えながらその疑問に答えてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます