キャバ嬢カオリの高貴な性癖

ねこじろう

ナンバーワン嬢でーす

「え~、カオリ、もう別れたの!?タカシくん、まだ1カ月くらいじゃなかったっけ?

まあまあかわいかったじゃん、ギターもまあまあ上手だったし………」


「うん、初めはそう思って、服とかも買い揃えてやったりしてたんだけど。あいつ、だんだん調子乗ってきてね……」


背中が触れ合うくらいの狭いロッカールームの蛍光灯の下で、二人の若い女が着替えながら、しゃべっている。


「だいたい、カオリは飽きっぽいのよね。その前のちょい悪ドクターも1カ月もったっけ?アンタ今年入って、いったい何人と付き合ったの?」

 薄いピンクのドレスにショートボブの茶髪の方が、手鏡で付け睫毛を直しながら、もう一人に言った。


「うるさい!あんたには言われたくないわ。そんなことより、もっと指名増やすこと考えたら?あんた今月、ヤバイんじゃないの?」

ベージュ色のシルクのドレスを着たカオリが、長いストレートの黒髪をブラッシングしながら、返す。


「はいはい さて、今日もあほヅラのハゲオヤジにヨイショして来ましょうかね!」

そう言って茶髪の女は、そそくさとロッカールームから出て行った。


 カオリはキャバクラ「華」のナンバーワンの嬢だ。今年24歳の彼女は、ストレートの長い黒髪に、子供っぽい顔立ちなのだが、顔とはアンバランスな肉感的な肢体をしている。小気味よい会話のキャッチボールも上手く、若い者から年配まで、幅広い層に人気があった。月の収入は常に軽く100万を越えていて、都内の5LDKの高級マンションで暮らしている。


─お疲れさまでしたー

深夜1時……。今日も仕事を終えた嬢たちが、思い思いの場所を求めて夜のとばりの中に消えていく。


 カオリも私服に着替え、「華」を出ると、店の入口前に横付けしている黒塗りのアウディに乗り込んだ。


「カオリさん、これから、もう1杯、俺に付き合わないっすか?」

ボウズ頭にピアスをした運転手がバックミラーに映るカオリに言う。


「今日は疲れてるの。また今度ね」

ウインドウに流れていく煌びやかなネオンを眺めながら、カオリは静かに呟いた。


 10階建ての瀟洒なマンションの

エントランスで降りたカオリは、10階までエレベーターで一気に上がり、少しよろめきながら1005号室の玄関ドアを開ける。


「クラブ『華』一番人気の嬢、カオリ、ただいま到着しました~」

ピンヒールのパンプスを脱ぎ捨て、廊下の電気を点けると、倒れ込むように上がり込む。

広めの玄関口には、いくつかの女ものの華やかな靴に混ざり、黒の男もののエンジニアブーツがある。


「お~い、タカシ~!いるか~」

現代的な抽象画が壁に飾ってあるフローリングの廊下を進み、一番奥のドアを開ける。

同時にルームライトが点灯して、

部屋の中がパッと明るくなった。

10畳はある広いリビングの中央には、西欧風の大きめのウッドテーブル。少し離れたところには、巨大なプラズマテレビがある。


「もう!タカシ、いるじゃないの!だったら、返事くらいしろよな~」


 星形の鋲がいくつも刺してある

ヘビメタ調の黒の革ジャンに、穴あきGパンの男が長い足を投げ出して右手の壁にもたれかかり、座っていた。男の横には、黒のエレキギターが無造作に置かれ、傍らには、飲みかけの缶ビールがあった。


「た、だ、い、ま!」

カオリは男の前に座り込むと、そのまま胸に顔を埋めた


「タカシのバーカ、、タカシがいけないんだぞ!あんたが、あの部屋を勝手に開けるから……」

カオリは男の胸を愛おしげにさすりながら呟いた。

しかし、男は返事をしなかった。というか、できなかった。

なぜなら、男の首から上には何もなかったから。

……

 カオリはシャワーを浴び、ガウンを着ると缶ビール片手にバスルーム横手の洗面所にある姿見の前に立つ。そして端に手を掛け手前に引くと、姿見はドアのように手前に開いた。

中は8畳くらいの縦長の部屋で

一番奥には縦横3メートルくらいの巨大な水槽があった。

赤や緑の鮮やかな鱗をした、15センチくらいのたくさんの魚たちが

水中を素早く動き回っている。

水槽の前には、二人掛け用の白いソファと小さなテーブルが置かれていた。

右手の壁には、高さ2メートルくらいの縦型の業務用冷蔵庫が2台、並んで置かれている。

左手の壁には、腰の高さくらいの

ステンレスの台があり、その上には白い布が敷かれ、外科手術用の大小のメス、ハンディな電動ノコ、チェーンソーなどが、きちんと並べられている。

カオリは右側手前の冷蔵庫を開けた。白い冷気が上気した顔をくすぐり、同時に生臭い獣臭が漂う。

奥行き50センチくらいの棚が何段かあり、上から2段めまで、あるモノが並べられていた。

それはビニールに入ったパイナップルのようにも見える。


それは、ビニール袋に入れられた人の「首」であった。

全て男性で、年齢も容姿もバラバラである。

スキンヘッドにピアスの若い男、

オールバックで口ひげの紳士風の男性、

ロングヘアにあごひげのちょい悪風オヤジ……

カオリはその中の一つを無造作に取り、鼻歌を歌いながら、奥の水槽まで持って行き、ビニールから出す。それから、床の昇降台に上がると、

「いってらっしゃ~い!」と言って、水槽の上の方から手を離した。


「ありがとう、タカシ。また、いつかどこかで会おうね」

 金髪のロン毛にピアスをした男の首は大きく両目を開いたままゆっくりと沈んでいき、やがて、静かに底まで落ちていった。

 鮮やかな色をした魚たちが一斉に男の首をついばみだし、ものの5分程で、それは骨と皮だけの肉塊になった。

 その一部始終をカオリは水槽の前のソファに座り缶ビールを片手に、少女のようなわくわくした目で見ていた。

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