八、クランチ文体にて[紹介]

 クランチ文体をご存知でしょうか?


 かの冲方丁さんがスプライト・シュピーゲルにて用いた文体です。

 今回はそのクランチ文体のことを紹介というかたちで少し書いていこうと思います。


 お断りしておきますが、私は冲方さんのファンではありませんので冲方作品について同意や解釈の共有などは、すみません、できるほど読み込んでおりません。そのほどご了承いただければ幸いです。


 では、クランチ文体とは?

 まず、クランチとは元々は砕いたキャンディーやナッツを混ぜたお菓子を意味する言葉です。そこから転じて冲方さんはスラッシュとかダッシュ、+×などを文章の中で頻繁に用いる文章をそう命名したそうです。


 /は意味の切れ目。漫画のコマ割りやショットの終わり的な意味。

 ダッシュは状況の説明や場面を切らずに継続して展開を示す意。

 そして=は同時に、間髪を入れずといった立て続けに物事が起こる場面に使われているそうです。


 つまり、これらを駆使することによって一文と一文を繋ぐ接続詞や句読点なんかを極限まで排除することが可能となり、文章の加速を実現する文体なのです。


 とは言いましても、最初にこれを見たとき、私は何が起こっているのか理解できませんでした。

 理解し始めたのは三度目を読んだ時です。

 その時にようやくクランチ文体の加速感を心地よく感じることができました。

 従来の表現方法よりも漫画的で、より映像的で、何よりそうやって激化した動きの描写を極限まで短縮して表現することによって他に書きたいことを決められたページ数の中にまとめ上げる余地を作り出していることに私は驚きました。

 スプライト・シュピーゲルは現代社会で闇、限界を抱える社会保障や優遇制度の内容を盛り込んだ作品です。分類としてライトノベルに属してはいますが、ライトノベルで扱う題材として重いのは間違いないです。ただそれでも冲方さんがライトノベルとして書きたかったのは、これからの世界を担っていく若い世代の読者に警鐘を鳴らしたかったからなのでは。と私は勝手に思っています。

 伝えたいことがあるからそれを伝えるために書き方を考える。しびれます。


 でも、この文体。真似ようと思っても使いこなせるかどうかは別問題です。

 激化する動作を極限まで短縮して描写することで変化の機微をコマ送り的に加速させることはアクションを書く上で画期的な技法になると思います。しかしながらかっこいいからという理由で運用しようとすると痛い目をみます。(私がそうでした)


 もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、心情描写を含ませることが難しいのです。加えて、通常の描写で事足りてしまう場面が多いのでそもそもこれを用いる理由自体が薄い。

 冲方さんのように書きたいことを決められたページに収めることを強いられる状況もありませんし。

 それに私は三人称よりも一人称視点での展開が得意だったのでそことシナジーしなかったというのもあります。


 ですので、もし使うとしたらその使用目的を自分の中で明確にしておく必要があります。

 または勉強がてら使ってみるのも見識を広めるという目的があれば有意義なものになり得るのではないでしょうか。

 まずは触ってみるという挑戦も大事ですし。

 ともあれ、文体としてかなりニッチで面白いものでしたので今回紹介してみました。


 今後も何か面白いものを思い出したり見つけたりしたら、私なりの解釈で紹介していこうと思います。

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