【番外編】アカネの独り言
前編
ご主人さま、つまりコムロ・ヒコザさまの未来の第二夫人、アカネです。今回は私の話を聞いて頂けると聞いてとっても喜んでます。だって最近は出番が少ないし、ご主人さまともなかなか逢えないし、ちょっと寂しかったんですよ。もう私のことなんか忘れられちゃったんじゃないかって思って泣きそうでした。
前置きはこのくらいにして、まずは私の生い立ちからお話ししたいと思います。
私はオオクボ王国の北にある村で、剣術道場を営むミヤモト家の娘として生まれました。もちろん私も幼い頃から父にみっちりと鍛えられましたよ。女としてはあまりにも
実は父は
それはある仕合で父の名声を
そんな父ですが、私が十二歳になった年に母と共に
「アカネ、
「はい。でもきっと冬支度で忙しいのだと思います。雪が多い土地ですから」
それまでどんなに間を空けても月に一度は必ず届いていた母からの手紙が、三カ月も前から来なくなっていたのです。私は心配でなりませんでしたし、旦那さまもお気にとめて下さっていました。
「冬支度と言っても手紙が届かなくなったのは随分前のことだろう? 年末にはまだ間があるが、構わんから行ってきなさい」
「いえ、旦那さまのお気遣いには感謝致しますが、私は両親からしっかりとお仕えするように言われております。それなのに手紙がこないから様子を見に来たなどと言ったら叱られてしまいます。きちんと年末まではご奉公させて下さい」
住み込みのご奉公では本来、実家への里帰りは年末年始の間とごく近しい者、例えば親兄弟が亡くなった時だけに限られます。実際この時すでに両親は他界していたのですが、私がそれを知ったのは年末になって里帰りした時だったのでどうすることも出来ませんでした。日頃から旦那さまは何かあればいつでも願い出なさいとおっしゃって下さってます。でも、両親の死を知らない私はおいそれとそれに甘えるわけにはいきませんでした。結局年末までお仕えして里帰りした時にそれを知った私は、旦那さまのご助言をいただき
厳しい貴族様だと年末年始に里帰りのお許しすら出ないところもある中で、旦那さまは階級の低い奉公人にまで心を砕いて下さる素晴らしい方なのです。それに外に出れば
実は女の奉公人は雇い主となる貴族様の
「君はもしやあの高名なミヤモト・ヤマト殿の
お城へのご奉公に上がる前の面接で、私の
「父をご存じなのですか?」
「私も剣術の心得があるのでな。それでミヤモト殿の名を知らぬとあらば不届きにも程があるというものだ」
「光栄に存じます」
「では君も剣術を?」
「はい、多少ですが……」
嘘です。私はどの門下生よりも厳しく父に仕込まれたので、すでに道場では師範代を
「そうか! ではひとつ手合わせをしてくれぬか。ミヤモト殿の剣術、この目で確かめてみたい」
「は……はい?」
こうして私はご奉公の面接で、雇い主となられる旦那さまと剣術で仕合をすることになってしまったのです。
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