源三郎江戸日記4 女子とはわからんもんだなあと茶を飲むと、こんど孫太夫様のお宅にお尋ねになればと言うので、なにもなくて行くのはおかしいだろうと言うと、孫太夫様はお酒が好き


源三郎江戸日記4


女子とはわからんもんだなあと茶を飲むと、こんど孫太夫様のお宅にお尋ねになればと言うので、なにもなくて行くのはおかしいだろうと言うと、孫太夫様はお酒が好きだそうなので、

何か美味しい酒の肴をお持ちになり、珍しい物が手に入ったのでと言えばいいのですと言うので、何をもって行くのだと聞くと、この前お爺様に料理屋に連れていって貰った時上方か、

ら来た板前の作った、


鯉こくソーメンと言うものを食べました、とても美味しくて酒の肴にぴったりですよと言うので、どんな料理だと聞くと、こいの皮を火であぶり細かくきざんで、ソーメンに鰹節の出し、

汁をかけて振り掛けるのです、鯉の皮の香ばしいかおりがして一品ですよ、鯉は一週間真水で泥抜きをして鯉こくをつくり、酢味噌に酒を少々加えると臭みが消えて、これも一品です、


上方でふぐのヒレ酒と言うのがあるそうですが、お酒にいれると、これも香ばしいかおりがしてお酒が美味しくなるのだそうですといって、明日作って差し上げますというので、そうか、

宜しく頼むよと言うと、それではおやすみなされませとお膳をもって部屋を出て行ったのです、翌日律が朝餉の用意が出来ていますと呼びに着たので、顔をあらい母上の元に行くと、

若狭屋の番頭から聞きましたが、


浪人者を痛めつけたそうですが、源三郎殿は秋月藩の藩士です、怪我でもするとお父上に迷惑がかかりますというので、町方も手が出せないのでは大勢の町人が困ります、しかたなかっ、

たのですと言い訳すると、律がお母上深川では町衆の方が兄様に感謝しているそうです、自慢の息子ではないですかと言うと、それはそうですがお信様がお聞きになったらさぞかし小言、

を言われますよと言ったのです、


朝餉が終ると番頭がお店に顔を出して欲しいと言うていました、吉衛門殿にお叱りをうけますよと言うと、そうですか、それではご機嫌伺いに顔を出してきましょうと言うと、律もお供、

しますというので、律をともなって若狭屋に顔を出すと、番頭が旦那様がお待ちですと奥に案内したので、畳に座ろうとすると、源三郎殿こちらにと上座をすすめるので、お爺様ここで、

いいですよと言うと、


それはなりません、貴方は私の孫であってもれっきとしたお武家様です、町人が武家の上座に座ることはできませんと言うので、上座に座ると、越後屋が大変喜んでいましたよ、良い事、

をなさりましたというので、あれ、小言ではと言うと、町衆を助けたのに小言など言うはずがありません、あの浪人者達はいずれも意識は回復したそうですが、キズがなおれば厳しい、

詮議があるでしょう、


何人か人を殺めているそうで、悪くすれば折角命が助かったのに打ち首になるやも知れませんと言ったのです、越後屋が探索にと渡した金寸が20両程残っています、お爺さまから返して、

おいてくださいと風呂敷につつんだ小判を渡すと、それは今回の手間賃に貰っておきなさいというので、いいんですかと言うと、又何かの役にたつでしょう、金寸が足りなければ遠慮な、

く言って下さいと笑ったのです、


源三郎殿私の事をお爺様等と呼んではいけません、吉衛門と呼び捨てで結構ですと言うので、それはと躊躇すると、何回も言いますが、源三郎殿はお武家様私は商人でございます、武家、

が町人に丁寧語を使う等は許されません、呼びにくいなら、若狭屋で結構ですよと言ったので、わかったこれからは若狭屋と呼ぶよと言うと、それで結構です、お律殿もそうしなさいと、

言ったのです、


律がお台所をお借りしますというので、ほう何をお作りでと聞くので、若狭屋殿に連れて行って貰った時に、食した鯉こくソーメンを兄上に伝授するのですというと、源三郎殿はそれを、

どうするのですと聞くと、律が奥田孫太夫様への手土産ですというと、しかし男子厨房にはいらずですよと言うので、武家の賄い方ははいるでしょうと言うと、源三郎殿は賄い方になり、

たいのですかと若狭屋が聞くと、


律がお峰様に会いに行く口実ですよと言うと、成る程奥田様のお嬢様は美形で才女ですね、それは良縁ですねと笑ったのです、律が台所に源三郎を連れて行き、女中のお梅に鯉は手に入、

りましたかと聞くと、泥抜きをしてある鯉を買い求めてありますと見せるので、律はたすきをして鯉はまな板に載せると覚悟をするのか、おとなしくなるのですよと言て桶から布巾で鯉、

をつかむと、


激しく暴れていますがまな板に横たえると、ピタリと動きを止めたのです、かわいそうですから、こうやって布巾で目を隠して、出刃包丁で一気に頭をおとします、つぎにうろこを落と、

しますといって、兄上やってみてというので、源三郎が出刃をもち布巾で目を隠して一気に頭を落とし、うろこを落すと、尻尾の方から包丁を入れて鯉の皮をはぐと綺麗にはがれます、


身は三枚におろして鯉こくにしますというと、源三郎が器用に裁くので律がとても上手ですよと褒めたのです、後は皮を炭火であぶり焦げ目をつくります、鰹節で出汁を取りつゆを作り、

そうめんをゆでて冷たい井戸水で冷やして、小皿に入れて、つゆをかけ、きざみネギと鯉のあぶった皮を振りかれば出来上がりです、鯉こくは味噌に酢と酒を少々いれてかき混ぜます、

と言うので、


源三郎が作り終わると、律が味をみて中々美味しい味ですよ、兄上は手先が器用だから賄い方にもなれますよと笑ったのです、それでは膳に盛り付けてお爺様と一緒に頂ましょうと、

律と女中が奥座敷に運びいれて座ると、若狭屋がこれは見事なものですねと言うと、律が兄上がおつくりになったのですよと言うので、何と器用なと若狭屋が驚いていたのです、律、

が酌をするので一口飲み、


鯉こくソーメンに箸をつけると香ばしい香りがして美味しいので、成る程これは酒の肴にぴったりだ、又この鯉こくも臭みが取れて美味いというと、若狭屋もこれは料理屋で出すのと、

同じですよと感心したのです、昼間から飲む酒は利くよと言うと、酔いを醒まして本宅に帰るのですよと言うので、それではブラブラ歩いて酔いが覚めたら本宅にもどろうと若狭屋を、

出たのです、


秋月藩の上屋敷は麻布にあり深川から2里の道のりで、およそ二時間かかります、つく頃には酔いも覚めているなと、歩いていると後ろから源三郎の旦那何処に行きなさるんでと声を、

かけるので、おう、佐吉か本宅に帰るところだと言うと、ああ麻布にお帰りになるんでと言うので、お前はと聞くと、ヘイ今越後屋が新橋の烏丸神社のうら棚に長屋を建てていなさる、

のでその現場にと言うので、


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