言葉では表せられない
カゲトモ
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「っ」
ざぁっと冷たい風が頬を通り過ぎた。それすらも今は気持ちがいいくらいで。
はぁ、と吐いた息は白い雲と同化したように、光の満ちる空へ吸い込まれていった。
ただただ、綺麗。
それだけの言葉しか浮かばない。
どこまでも続く透明な空を、太陽が透き通った光で雲と山を彩っている。黄色と赤と青と緑と、もっともっと沢山の色。今まで見たことのないような壮大な美しさ。言葉では表現できないような素晴らしい景色。
そんな普遍的な言葉しか浮かばない自分が情けない。この美しさを表現できる言葉を知っていたら良かったのに。
あ。
ふと、自分が涙を流していることに気付いた。なぜ流れたのか、感動なのか、寒いからなのか、それは自分でも分からないけど隣にばれない様に、そっと袖で拭った。
「綺麗ね」
どれだけか振りにミケの声を聞いた気がする。山頂に登ってから言葉を交わしていなかったように思う。
「あぁ、綺麗だな」
大の大人二人が揃って『綺麗だ』なんて言葉を言い合うことなんてそうそうない。普段では恥ずかしくて言えない言葉でも、この景色の前ではちっぽけな事だ。
美しいものを美しいと言って何が悪い。
「ね、来てよかったでしょ」
「あぁ」
ふふ、と楽しそうなミケの声が聞こえる。つい、俺も笑みが零れる訳で。
「さんきゅ」
「お安い御用よ」
顔を見なくても、穏やかな表情をしていることだけは分かった。
文句ばっか言ってたけど、来てよかった。
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