解決編 第10話-3
僕と水出善良子は恋人同士だった。
間抜けにも六鎗杏の策略に嵌まって奪われた彼氏というのが自分で言うのもなんだけれど、僕のことだ。
僕は六鎗杏を好きではなかった。それでもずるずると関係を引きずり、いつの間にか、周囲がそう認識していた。
そういうふうになるように六鎗が他の仲間を使って誘導していった。
その恨みもあって僕は六鎗杏をひどく残酷な方法で殺す予定だ。僕が直接手を下すわけでもはないけれど爽快だろうね。
もちろん、僕は水出善良子と別れたことで彼女をひどく傷つけた。そういう意味では僕も裁かれる罪人たちと一緒だ。
善良子が八月朔日と付き合いだして僕の後悔も一入。けれど僕が六鎗と別れた直後、八月朔日も善良子と別れて全てを悟った。全てが仕組まれたことだったと。
その日、僕は善良子に謝った。善良子が自殺する前日だ。
全てを打ち明けて許してくれと懺悔した。
何も知らなくてごめんなさい、それが善良子の返事だった。
善良子は僕が六鎗と付き合ったことで裏切られたと激しく傷心したらしい。だから八月朔日とも付き合ったのだと。
けれど僕の懺悔で善良子は真相を知り、自分もまた僕を傷つけていたということを知った。
善良子は自分の名前を恨んでいた。善良な子。善くあれ、良くあれ、と良いことを強要されているような名前。
悪さなんて当然できない、常に善良子は自分を律してきた。良くあろうとしていた。
自分が傷つくことは許容できても、自分をよく思っている人を傷つけるのは耐えられない。
だからこそ、好いていた僕の裏切りに傷ついて、好いていた僕を裏切ったことに傷ついて……
限界が来たのだろう。
何も知らなくてごめんなさい。
それが僕と善良子の最後のやりとりだった。
きっと僕が真実を打ち明けていなければ、善良子は僕に裏切られただけだと思い、僕を裏切ってしまったと思わなかったのかもしれない。
自殺に踏み切らなかったのかもしれない。
その選択を、決断を、なんとも愚かな英断を、せざるを得なくさせてしまった僕は罪を償わなければならない。
それが僕が魔女狩りを乗っ取った理由だ。
善良子を傷つけて平気な顔をしていたやつらを皆殺しにして、僕自身も死ななければならない。
乗っ取ることは簡単だった。
実行犯のどちらかに成り代われば楽だからだ。
峰内十三氏が計画を練っていてその計画自体は盗み見ることができた。詳細は省くけれど。
考えるまでもなく成り代わるのは八月朔日に決めた。
偽彼氏が偽者に成り代わられて死ぬだなんて彼らが計画する見立て殺人を真似できる。
峰内十三氏を脅して計画に少し手を加えてもらった。六鎗杏だけは残酷に殺そうと細工をしておいた。
計画を修正させたあと彼には死んでもらった。彼の施設を発見させるには彼の死が必要だからね。
八月朔日も殺したからあとは八月朔日に成り代わってゲームに参加するだけだ。
ゲームが始まっても九石が僕を見つけられないように彼女のVRゴーグルにも細工しておく。
最先端のVRゴーグルは没入感を高めるために装着していると、装着していることを忘れるようにできている。
気絶している九石にあのゴーグルを装着すればその感覚には気づかない。だから九石は装着していることすら忘れたVRゴーグル越しに八月朔日にしか見えない僕を見ることになる。
六鎗杏が殺された時点で当初の計画と違うと気づき、さらには僕が八月朔日ではないことに気づくかもしれない。
だからそこで九石には死んでもらうことにする。
それで全員を殺したあと、最後は僕が爆発して死ぬ。
別段死ぬことに後悔はないよ。だって善良子がきっとあの世で待っていてくれるから。
じゃあね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます