解決編 第1話-2

「九石風香が一人目の魔女だということだ」

「ええーっ!?」

「最初の捜査でもそう言われただろう、何を今更だ。一宮のメモと殺人された順が違う以上、九石はもうひとりの魔女に殺されたと推測するのは妥当だ」

「あれ、そうなるともうひとりの魔女は十塚剣か、もう一人の正体不明の遺体が魔女ということになりませんか?」

「十中八九、正体不明の遺体だろう」

「じゃあ魔女の正体は判明しましたね」

「だが魔女を見つけたところで事件の真相は見えない」

「それはそうなんですが……」

「それに何か突っかかるのだよ」

 鑑識から受け取った被害者がつけていたVRゴーグルの着脱を繰り返して十姉妹は周囲を見渡す。一宮が宿屋と称した部屋はゴーグルを外すと何もない白い部屋に戻っている。

 VRゴーグルを外して観察していると長方形の出っ張りのようなものがあった。

「正体不明の死体の身元に、事件の真相。それが分からない限り、私のなかでは解決とは呼べない」

「最後の死体は八月朔日淳ではないんですよね?」

 重吾が再確認する。

「ああ、確かに一宮のメモに残されたこの魔女狩りの参加者リストには八月朔日淳の名前があった。けれど、八月朔日はこの事件が始まる三日前に確かに殺されている」

「時間的には確か……峰内十三が殺された直後なんですよね」

「その通りだ。遺体が発見されたのは峰内十三氏の遺体が発見され、そこに書き残されたメモによってだけどね」

「結局、どういうことなんですか? 八月朔日淳は魔女狩りの前に殺されていたのに、八月朔日は魔女狩りに参加していたなんて……」

「そこも矛盾点さ。そもそも八月朔日淳は存在していなかった。なのに八月朔日は魔女狩りという脱出ゲームの場に確かに存在していた。ただそう考えると答えは容易い。十人目の正体不明が八月朔日に成り代わっていたのだろう」

「でもほとんどの人が本物の八月朔日を知っていたんでしょう? 全員が気づけないなんておかしくないですか?」

「不用意な発言をしなかった十人目はさぞかし優れた頭脳の持ち主だったということだよ。そして容姿はこれで騙した」

 言って十姉妹は自らが装着したVRゴーグルを叩く。

 VRゴーグルをつけて長方形の出っ張りを見るとそれは寝台に変身していた。

 その周囲は個室のように変形しており、壁を触れると、触れたという感触があるのだが、VRゴーグルを外すとそこには何もなかった。

「自らの足で現場に来て分かることもある」

 現場検証も行われたはずだが、検証結果にはVRゴーグルをつけると景色が変化するというようなことしか書かれていない。

「遺体として発見された全員がこれをつけて死んでいた。ゴーグルを装着したあとにゴーグルを触ってみればわかるが、ゴーグルをつけている感覚が全くない。彼らが気絶している間にこれをつけられていたら気づきもしない」

「でも最初は白い部屋だったのでは? その時点では仮想空間ではないのでは?」

「そこが白い部屋だと思い込まされていたとしたら? 元々ここは白い部屋だが、アナウンスが始まるよりも先にVRゴーグルが起動し白い部屋の仮想空間を見せられていたとしたら?」

 十姉妹は確信をもってそう言った。

「そういうことですか!」

「気づいたようだね。仮想空間が正体不明の人物を八月朔日に見せていたんだろう。宿屋に運ばれたとされる九石の遺体の正体も何かを九石に見せていたのだ」

「でもそれじゃあ重さとかで分かったりしませんか」

「それがこのVR技術が最先端たる証明だろう」

「どういうことです?」

 問いかけよりも先に十姉妹は重吾にVRゴーグルを装着させた。

 映し出されてたのは宿屋の風景だが、近くには棚があり、本や小物がちらほらと置いてある。

「手に取ってみたまえ」

 十姉妹に促されるまま、重吾が本を手に取る。そこには確かに重さがあった。

「えっ?」

 驚いてVRゴーグルを外すと手に持っていた感覚も重さも、本もたちどころに消えた。

「えっ?」

 もう一度取りつけると、本は手に持っていなかったものの、最初にあった場所に本が戻っていた。

 それを手に取るとやはり重さを覚えた。

「どういうことですか?」

「技術の進歩としか言いようがないがこれをうまく利用したんだろう。正体不明が八月朔日に見えていたように九石はVRゴーグル越しでは見えなくなっていたのだろう。これで彼女は簡単に暗躍できた」

「こんなかわいげな子が……どうしてなんでしょう?」

 九石の写真を見つめながら重吾は呟いていた。

 非情な殺人鬼と言われても納得ができない。

「彼女は水出善良子さんの自殺幇助の疑いがあった。もちろん、立証はできなかったけれどね。それでもそこまで彼女を追い詰めた人たちが憎かったのかもしれないね。さて次を見てみよう」

 十姉妹は全ての現場を回ってみるらしかった。

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